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リチャード・マイニア教授についてのメモ(東京裁判について)

2006-05-25 14:12:27 | 時事問題
5月3日付の朝日新聞にリチャード・マイニア(Richard H. Minear)教授(マサチューセッツ工科大学)の長いインタビューが掲載されていた。マイニア氏は、1938年生まれの米国の歴史学者。1971年『東京裁判-勝者の裁き』(福村出版)を出版した。東京裁判が、国際法、法的手続き、史実のいずれの観点からも間違った裁判であるという結論を出した。

インタビュー冒頭の発言が大変刺激的であった。「米国の左は日本の右に歓迎され、日本の左は米国の右に歓迎される」という発言である。マイニア氏は、ベトナム戦争に対する批判として『東京裁判-勝者の裁き』を書いた。「米国がインドシナで繰り広げていた好意は、道義的に支持できないものでした。東京裁判に表れた偏狭で自己中心的な米国の考えが、後のベトナム介入の過ちに繋がっていると考えたのです。この本は、米国人に向けに書いた米国批判の本なのです。」しかし日本のこの本は、日本の保守派に大歓迎を受けた。

また戦争責任の追及に厳しい態度をとる家永三郎氏の『太平洋戦争』(岩波書店)が、英語に翻訳されたとき、米国の保守派は、「自分たちが正しい、日本が間違っていると日本人の歴史家も言っている」と考えたという。

マイニア氏が挙げる東京裁判の問題点は、被告の選定。つまり、原爆投下をも含め連合国の行為が裁かれなかったこと。昭和天皇は起訴されず、証人としても呼ばれなかったこと。さらに戦勝国だけで構成された判事の問題を挙げる。

さらに根本的には、侵略戦争を理由に訴追することは不可能であるとする。侵略を定義するのは常に勝者であり、それはプロパガンダになるかもしれないからである。もっとも個別の残虐行為を裁くことは可能と考えている。

「日本人の間にも、東条元首相や軍部に対する批判は強かった。もし日本人の手で裁いていたら、日本にとっても米国にとってもより健全なことだったでしょう。米国は東京裁判をやったことで、自分たちだけが正しいと思いこんだ。それは非常に危険な考え方で、ベトナム戦争でも、イラク戦争でも、その独善性が災いしたのだと思う」

もちろんマイニア氏は、日本が被害者意識から抜け出し、「日本の戦争責任を問い直すことが必要なのではないでしょうか。日本の保守派のうち、いったいどのくらいの人たちが、真剣に戦争責任の問題を考えているのでしょうか」と結ぶ。

国内の左派が、外国の右派に支持されるという現象はおもしろい。尖閣諸島問題で、中国の方々が、日本の左派の歴史家井上清氏の著作を頻繁に掲げていたことを思い出した。井上氏は、尖閣を中国領と主張しているとするのだ。

さらに、我々は中韓などの被害者意識を前にすると辟易する。しかし我が身を振り返る必要があろう。日本は被害者意識を克復して、過去を見つめよという提言は説得的であった。マイニア氏の著書は恥ずかしながら、未見であるが、是非読みたいと思う。

ましてや、安藤仁介先生が翻訳されているのだから。先生には25年ほど前に、法学概論を教えてもらった記憶がある。大教室の講義であったが、先生は、学生を指して質問をしていた。私も一度尋ねられたが、「国連人権宣言」と答えることができたように記憶している。


東京裁判―勝者の裁き

福村出版

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