南アフリカの民話/アーダム:編・再話 ディロン夫妻・絵 掛川恭子・訳/偕成社/1982年
ゾウは、ワニを木のてっぺんにほうりあげて、からからの干し肉になりまで ほおっておくというのですが・・。
ある年の乾季に川がほとんど干上がり、ワニもカワウソも困っていました。水にすむ動物たちの女王であるワニの命令で、カワウソが深い川を見つけてきました。そこにひっこそうとすると、カワウソが心配していいました。「ここと川の間にはライオンやゾウがうろうろしている森があり、草原には人間がいて、通りかかるものがいれば犬がかたっぱしからほえる、ライオンなら農場をぬける方法を知っているかもしれないので、ライオンに頼んでみましょう。」
ワニにいわれ、「このさきにある大きなヤナギの下で、陸に住む動物、水にすむ動物の両方の生死にかかわる問題について話し合いたい」ということづてをとどけるために、カメが出かけました。
ヤナギの木の下で落ち合うことになったワニは、魚とカニをたくさん用意し、ライオンとジャッカルに、ひっこしするとき、水にすむ動物たちを、ぜひまもってもらいたいともちかけました。すばらしいごちそうのもてなしをうけて、ライオンだけだったら、すぐにでも、うんといっていたでしょうが、用心深いジャッカルは、陸にすむ動物のほうに、どんないいことがあるか、問いただします。
ワニは、陸にすむ動物たちが水をのみにきても、水のなかにひっぱりこもうとするのはやめるといいます。陸にすむ動物たちは、水を飲もうと思っても、ねらわれているのではないかと心配しており、いっぽうワニは、ゾウに狙われて、木のてっぺんにほうりなげられるのを心配していたのです。
水の動物たちを守ることにしたライオンは、陸にすむ動物たちをあつめにいき、ワニのほうも何百というワニ、カワウソ、カメ、カエル、カニを集めました。
月が木立の上にかかるころ、ジャッカルを先頭に、ヒヒの一隊が列の左側、ライオンが右側、最後にワニの希望通りにゾウがうしろに、そして水にすむ動物たちが行進をはじめました。
ワニの女王は、ゾウがワニに手出ししなくなるように、水にすむ動物たちが、ぶじ深い川に着いたら、農場の犬をおこすように、ヘビにいいつけました。ひそかにはかりごとめぐらしたのです。風下から近づいた動物たちは、犬に気づかれないで農場をとおりすぎ、夜が明けたころ一行は、深い川につきました。
ワニは、陸にすむ動物たちに感謝の気持ちを伝えようと、大きな口ですごい声でさけびました(ワニのわるだくみでしょう)。そのとき、農場主やその雇人の毒矢がとんできました。ワニは水の中にもぐり、ジャッカル、ヒヒ、ライオンは茂みのなかにかくれ、殺されたのはゾウだけでした。
なかなおりも、これでおしまいでした。
こういうわけで、いまでも、ゾウはチャンスがあれば、木のまたがけて、ワニを木の上にほうりあげるのです。そしてワニのほうも、やっぱり水を飲みにきた動物にそっとしのびよって、鼻ずらにくらいつき、ふかい水のなかにひきづりこんで、おぼれさせてしまうのです。
ゾウとワニには深い因縁があったという話。