鹿児島のむかし話/鹿児島のむかし話研究会編/日本標準/1975年
「きつね」ではなく「きっね」。発言の違いでしょうか。
五郎作どんが、崖にしがみついている親子のきっねを助けると、あくる日、馬小屋の前におかれていたのが、ぴかぴかの真鍮ででできた「くら」。
恩返しで「くら」というのも あまり例がないのでは?
五郎作どんの馬はたいへんりこうな馬。五郎作どんは、いつもいっしょ。山道をくだっていると、馬が急に動かなくなりました。急がないと暗くなるので、たづなを 引っ張るが馬が歩こうとせんし、首をたてにふって、前足をつっぱったまま。
五郎作どんが、「何かの知らせかもしれん」と思い直し、あたりをよくよく注意してみたが、マムシもおらん。どうにもならんと、たばこをいっぷくしようとしたとき、馬が左手に見える崖のほうを見て「ヒヒーン」「ヒヒーン」と、もう、ふとか声でなく。
五郎作どんが、「こーらなんかあっど」と、崖に近づくと、親子のきっねが、目の上の前の崖にしがみついて、いまにも谷川に落ちそう。五郎作どんが、なんとか助けると、きっねはうれしそうに、しっぽをふりながらやぶの中へ。
きっねの恩返し、五郎作どんではなく、馬への恩返しでした。