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【今週のウチシネマ】女が奏でる復讐のワルツ-『霧の旗』

2010-02-02 | movie/【今週のウチシネマ】

海老蔵、現代劇初主演…日テレ系で松本清張「霧の旗」
http://hochi.yomiuri.co.jp/entertainment/news/20100119-OHT1T00042.htm


ということで、婚約が話題になったばかりの海老様が
初めて現代劇に主演するらしいですぜ。

わざわざこの話題を取り上げたのは、
つい最近、この「霧の旗」の映像化作品を見たからなのですが、
何故この作品を見たのかといえば、
海老様がらみでもなんでもなく、
“露様”…つまり露口茂さんが見たかったから。

そう、目下わたくしは露口さんの現役バリバリ時代の演技に惚れて
夜も眠れないくらいなのであります。
わけはのちのちじっくり語ることにして…
今日は「霧の旗」について。



「霧の旗」には1977年に山口百恵主演で制作された映画がありますが、
ここで触れるのは1965年、山田洋次監督、倍賞千恵子主演の「霧の旗」です。



熊本から上京してきた20才の娘、桐子が
日本でも有数の敏腕弁護士、大塚の事務所を訪れるところから話は始まります。

 金貸しの老婆殺しの罪で捕まった、唯一の肉親である兄の冤罪を晴らすために
 大塚に弁護してほしいとやってきた桐子。
 だが、高額な弁護料と多忙を理由にすげなく断られてしまう。

 1年後、死刑判決を受けた桐子の兄が獄死。
 大塚は、自分が弁護すれば彼女の兄を救えたのかを確認するため、
 熊本の弁護士に事件資料を送るように手配する。
 そして同じころ、桐子は東京のバーでホステスとして働いていた…



山田洋次倍賞千恵子の組み合わせというだけで、
人情話を想像してしまいますが、
山田監督には珍しいミステリー作品

後に寅さんの妹さくらとして親しまれる倍賞千恵子は、
静かに憎しみをつのらせるしたたかな女性であり、
偶然に遭遇した殺人事件を利用し、
自分の願いを聞き入れなかった大塚を罠にはめようとします。



前半は兄が死に至るまでのいきさつと回想、
後半は妹がいかにして弁護士の大塚を陥れるのかが描かれます。



で、露口さんが演じておられるのが
小学校の教員である桐子の兄。

修学旅行のために生徒から集めた金を紛失し、その分を借金。
返済を待ってほしいと金貸しの老婆を訪れた際に、死体を発見したため、
容疑者にされてしまいます。

すっかり衰弱しきった兄が
取調室で刑事たちに自白を強要させられている場面では、
「あぁ、落としの山さんにも、落とされる時代があったのか…」
と感慨深いものが。



気弱そうに九州弁で喋る姿がたまらないですが、
この融通効かなそうなまじめ人間なら、
ついうるさい取り立てに我慢出来ずに老婆を殺したのかも?と
思えなくもありません。



回想場面では、兄妹肩寄せ合って暮らしている姿が映しだされ、
2人が親子のような関係でもあったことを分からせます。


妹をひとりに出来ないためか、縁談を断ってしまう正夫兄さん。
桐子も近所のおばちゃんに、あんたが早く嫁に行けば…とお小言をもらいますが、
その支えあっている姿に、結局最後には
「あんたたち兄弟は特別」とまとめられてしまったりして。


たとえば自分が兄とそんな固い絆で結ばれていたとしても、
(そしてその兄が露口さんであるとしてもw)
彼女ほど執念深く、仇を討つことができるかというと、
そんな決心はなかなか持てない気がしますね。
それだけ、桐子のしぶとさ、異色さが実感できます。





この話のなにが怖いって、兄が本当に無実なのか、
明らかにされていない点。

大塚が、真犯人は左利きであるという特徴に気付き、
桐子に兄が左利きであったか確認しようとするのに、
彼女はそれに答えない。

もはや、彼女にとっては兄が犯人であろうが
真犯人が他にいようが関係なく、
弁護士が死んだ肉親を救おうとしなかったことだけが真実なのです。

(…上のキャプチャ見たらわかりますが、
 正夫兄さん、お茶碗を左手で持っているから、
 普通に考えると右利きでしょうね。)



おそらく、桐子は大塚先生に兄並みの生真面目さや
自分を犠牲にしてまでも仕事に尽くす姿勢を要求していたのでしょうが、
世渡りのうまい、遊びも仕事も器用にこなす大塚先生は
彼女の願いに応えられるはずもなかったわけです。

桐子は、その思想の格差を叩きつけようとしたのかもしれませんね。

(ちなみに、海老蔵さんはこの大塚先生を演じるらしい。)




霧がかった銀座周辺の薄暗い街並みと、
エンディングで流れる、ワルツ調ののんびりした曲が、
さらにこのミステリーの恐ろしさを引き立てます。

桐子にとっては、ワルツを奏でるような
おだやかで冷静な作戦だったのかもしれません。
かわいいけれど、こわいこわい。
こわいけれど、不思議とすがすがしい。
観終わったあともワクワクさせられる、傑作でした。


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