長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ボーダー 二つの世界』

2023-03-01 | 映画レビュー(ほ)

 カルト的支持を集めたスウェーデン産ホラー『僕のエリ 200歳の少女』(後にハリウッドでマット・リーヴス監督によってリメイク)の作者ヨン・アイビデ・リンドクビストの小説を原作とする本作は、北欧の薄曇りの下に棲む人ならざる者達へ想いを馳せずにはいられないダークファンタジーだ。税関職員のティーナは人間の抱える後ろ暗さや羞恥心という負の感情を嗅ぎ取る特殊能力を持ち、今日も常人では見分けられない犯罪者達を見つけ出していた。ある日、昆虫の孵化器を持った奇妙な男ヴォーレが税関に引っかかり、ティーナの尋問を受ける。2人の間にはまるで動物が同じ種族を嗅ぎ分けるための野生の何かが漂い、彼女らは体躯、そして醜さという意味でも顔つきがそっくりだった。やがてティーナは謎の男ヴォーレに激しく惹きつけられていく。

 『モールス』(ここでは原作小説に合わせて表記する)同様、『ボーダー』には社会と相容れない者達の孤独と狂おしいまでの愛が強烈な臭気を放っており、ティーナとヴォーレは性差すらも超えて結びついていく。日本の愚かな映倫は不適切なものにモザイクをかけているつもりのようだが、『僕のエリ』同様、ここでもモザイクが物語の重要な核をボカしてしまっている。奇をてらうことのないアリ・アッバシ監督の演出は現実社会にティーナとヴォーレを存在させ、彼らの獰猛なまでの愛と野生に僕は気圧されてしまった。本作はアカデミー賞でメイクアップ賞にノミネートされ、アッバシはさっそくHBOの超大作ドラマ『THE LAST OF  US』のエピソード監督に抜擢。望まぬ力を得た異能の哀しみは『ボーダー』と『THE LAST OF US』に共通するモチーフであり、スウェーデンの曇天をパンデミック後のアメリカに如何に見出すのか非常に楽しみだ。


『ボーダ 二つの世界』18・スウェーデン、デンマーク
監督 アリ・アッバシ
出演 エバ・メランデル、エーロ・ミロノフ

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