長内那由多のMovie Note

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『ペーパーボーイ 真夏の引力』

2020-04-04 | 映画レビュー(へ)

 80年代ハーレムで肥満なばかりに地獄の青春時代を送るヒロインを描いた『プレシャス』。この映画で脚光を浴びたリー・ダニエルズは地場の空気を捉える事に長けた監督だ。ピート・デクスターによる同名小説を基にした本作で1969年真夏のフロリダのうだるような暑さと熱気、そして“臭気”を画面に持ち込む事に成功しており、それが映画の魅力へとつながっている。ザック・エフロン演じる主人公にとって生涯忘れられない夏となったように、強烈な思い出とは常に強烈な匂いを伴うものなのだ。

 未だ差別意識の根強いフロリダでジャックは新聞記者である兄ウォードの手掛ける冤罪事件の取材を手伝う事になる。憧れの兄は眩いばかりの社会正義で事件に挑むが、やがて闇は真夏の湿気のごとく彼らにまとわりつき、均衡を崩していく。

 『ペーパーボーイ』の欠点は具材と温度の割には一向に煮込みが足りない事だ。マシュー・マコノヒーは情念深くウォードを演じているが、主役は弟のジャックであり、彼のカミングエイジストーリーが主題だ。マコノヒーの演技は無視できないほど粘っこく、狂気を帯びており、実はホモでマゾというジェイムズ・エルロイも真っ青の強烈なキャラクター設定で映画のバランスを破壊している。これでは彼にさらなる転落のドラマを期待してしまうではないか。この情念でドロドロに融けたマコノヒーを僕たちは2014年のTVドラマ『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』まで待つ事となる。

 残念なことにキーとなる殺人犯役ジョン・キューザックがかつての輝きを失っている事も大きな誤算だったかもしれない。どう考えても冤罪を晴らしてあげたいとは思えない異様なオーバーアクトはその生え際も手伝ってほとんどニコラス・ケイジのようであり、マコノヒーの狂気の前ではマンガ的だ。近年、作品に恵まれていない印象だったが、ついにここまでB級落ちしてしまったか。
 大人の俳優へのステップを上がるエフロン、『誘う女』を彷彿とさせるビッチ役でノリノリなニコール・キッドマンら強力キャストが揃ったが、マコノヒー1人のお陰で何とも食べ合わせが悪くなってしまった。


『ペーパーボーイ 真夏の引力』12・米
監督 リー・ダニエルズ
出演 ザック・エフロン、マシュー・マコノヒー、ニコール・キッドマン、ジョン・キューザック、スコット・グレン
 

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