長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ハリウッド』

2020-07-26 | 海外ドラマ(は)

※このレビューは物語の結末に触れています※

 1947年、兵役を終えたジャックはスターダムを夢見てハリウッドへ上京する。しかし顔は良くても演技センスはゼロ。ろくろく端役も得られず、たまたま知り合った紳士アーニー(洒脱なディラン・マクダーモット)の紹介でガソリンスタンドに働き口を得る。ところがそこは顧客に“夢”を売る男娼の斡旋所で…。

 Netflixと大型契約を結んだライアン・マーフィーの最新作は戦後間もないハリウッドが舞台だ。胸躍るオープニングタイトルに映画を愛する若者達のサクセスストーリーかと思いきや、当時のハリウッドにおけるアンダーグラウンド・ゲイカルチャーを描いている所にらしさがある。エイズに侵され、晩年になってゲイをカミングアウトした俳優ロック・ハドソンも主要人物として登場し、ハリウッドによる搾取構造の実態が暴かれる様はさながら『ジュディ』ならぬ『ロック・ハドソン』だ。他にもハリウッドにおける最初のアジア系女優といわれながら、パール・バック作『大地』の主演を白人に奪われたアンナ・メイ・ウォンや、『風と共に去りぬ』で黒人として初のオスカーに輝きながらその後、役に恵まれなかったハティ・マクダニエルなど、時代に翻弄されたマイノリティ達が登場する。

 ジャックは新人脚本家のアーチーや映画監督レイモンドらと出会い、新作映画の製作に参加する。題材は夢破れ、ハリウッドサインから身投げした黒人女優メグの物語だ。しかし当時のハリウッドでは黒人主演の映画なんて問題外。彼らは何とか資金を得ようとスタジオ幹部達の説得を試みる。

 全7話のリミテッドシリーズに詰め込み過ぎな感はある。前述のハリウッド・アンダーグラウンドと若者達のサクセスストーリーはトーンが異なるし、ダレン・クリスやローラ・ハリアー、サマラ・ウィービングら新進気鋭の若手俳優達よりも、人生の黄昏時に再び夢と情熱をかけるシニア組パティ・ルポーン、ジョー・マンテロ、ホランド・テイラーらの名演に泣かされっぱなしだった。

 それでも本作を支持したい理由が“ハリウッド・エンディング”と名付けられた最終話にある。彼らの作った映画『メグ』は興行収入記録を塗り替え、何とアカデミー賞を席巻する。アジア系、黒人、ゲイがオスカーを獲得し、73年も早くアメリカの歴史を変える。そう、これはクエンティン・タランティーノ映画のような“歴史改変モノ”であり、“映画は社会を変えることができる”というあまりにポジティブでストレートな映画賛歌なのだ。そしてこの純真さはBlack Lives Matter運動に端を発し、あらゆる負の歴史が見直される現在、俄然眩いのである。

 
『ハリウッド』20・米
製作 ライアン・マーフィー
出演 デヴィッド・コレンスウェット、ダレン・クリス、ローラ・ハリアー、サマラ・ウィービング、ジョー・マンテロ、ディラン・マクダーモット、パティ・ルポーン、ホランド・テイラー、ジェレミー・ポープ、ジェイク・ピッキング、ジム・パーソンズ、ミラ・ソルヴィノ、ミシェル・クルージ、ロブ・ライナー、クイーン・ラティファ、モード・アパトウ

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