加地尚武の佐倉新町電気街

「福音の少年 Good News Boy」シリーズ(徳間書店 徳間デュアル文庫)著者による電脳生活と意見。

【ぶんがく】ジャズと恋より大切なものはない。「うたかたの日々」

2005年11月30日 00時30分00秒 | 本のこと。
若い頃にしか読めない本がある。

わたしは再読が大好きだが、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」と並んで、このボリス・ヴィアンの「うたかたの日々」は、どうにも読み返す事ができない。

だから、この「うたかたの日々」に関することはみんなうろ覚えである。
二十年以上も前に読んで以来だから。

「デューク・エリントンの音楽と、女の子と恋に落ちること以上に大事なことはない」などとうそぶく青年が、少女に恋をする。ふたりは一緒に暮らし始めるが、その少女は胸に蓮の花が咲くという難病にかかってしまう。

舞台はパリだったはずだが、どこか不思議なパリである。蛇口をひねると生きた鰻が出てくるし、人間のように考える猫とネズミが重要な脇役で登場する。

「ファンタジー」といえば「ファンタジー」なのだが、「ファンタジー」特有の「お約束」めいたものがいっさい無い。なんだか「そのまんま書いた」っていう感じの小説である。馬鹿馬鹿しいと笑うのは簡単だろう。だが、その馬鹿馬鹿しさも含めて、青春小説の楽しさだろうと思う。

うたかたの日々

早川書房

このアイテムの詳細を見る


読み手を選ぶ小説だろう。
アマゾンで検索したら、なんと漫画化されていた。なんとなく怖くて読む気になれないが、たしかにマンガに向いているといえばむいている。

いや、読み返してみるとこの記事は小説の紹介の役にはまったく立っていないな。
でも、いつか、こんな感じの小説が書けたらいいな。
次の次、つまり「福音の少年」の四冊目と平行して書いているもう一冊が終わったら、考えてみよう。

夜はまだ明けない。

2005年11月29日 06時03分23秒 | 公園のつぶやき。
ベトナム戦争という戦争があった。いまにして思うと、イラク戦争以上に愚かしく、意味の無い、残酷な戦いだった。

アメリカが、ベトナムの森や水田を破壊するために枯葉剤をまき散らしているころ、わたしは、テレビのドキュメンタリーで、あるベトナム人の農民の女性の言葉を耳にした。

「明けない夜はない。わたしたちはここで戦いつづける」

それから何年も経っているのに、わたしはこの言葉を忘れることができない。
明けない夜はない。地球が自転している限り、朝はやってくる。地球が公転している限り、季節はめぐる。

おおげさなたとえですまない。いま午前六時。わたしは、出版するあてのない小説を書いている。
外は真っ暗だ。

だが、明けない夜はない。

【ゲーム】ぼくの森にご招待 「おいでよ どうぶつの森」

2005年11月24日 06時57分01秒 | ゲームのこと
勤労感謝の日に、任天堂の「おいでよ どうぶつの森」を三本買った。

なぜ三本かというと、ぼくと娘と息子のぶんである。三人でそれぞれの森に招待しあおうと思ったのだ。
息子は第1作目からのファンである。ぼくと娘は息子に借りてたまにプレイするぐらいだったのが、今度、ニンテンドウDSをそれぞれ買ったので、みんなでいっしょにすることにしたのだ。

どんなゲームなのかはこの公式サイトを見ていただくとして、ちょこっとプレイした感想。
DSという携帯機はこのゲームにとってベストのプラットフォームであること。
ひとりで遊ぶのも楽しいが、だれかを招待するとむちゃくちゃたのしいってこと。

ぼくは息子をぼくの森に招待し、いっしょに川に釣りに行った。夜の森のなかをきゃはははと笑いながら走って、そこらじゅうに釣り糸を垂れる。最高に楽しい。
いや、現実には釣りどころか、息子とろくに出かけないのだが。ゲームの中だけである。ああ、ヴァーチャルな親子関係かも(笑)。

おいでよ どうぶつの森

任天堂

このアイテムの詳細を見る


おまけに今度は無線LANを通して日本中のひとを招待できるという。
これはほんとーに、すごいことだと思う。ネットワークゲームが、ついにそこらへんの小学生でも出来るようになったのだ。
まだまだしょぼいぼくの森にご招待するのは恥ずかしいが。

昨日の晩、寝る前に、ぼくは真夜中の森を散歩した。空には、といってもDSの上のスクリーンには、現実の月齢に合わせた欠けた月がかかっていて、ぼくの作った星座が高く昇っている。


月並みな表現でもうしわけない。
とても癒された。

【ぶんがく】生きるって、地下鉄に乗るより難しい? 「地下鉄のザジ」

2005年11月23日 01時18分03秒 | 本のこと。
生きるってことは、むずかしいな、と思う。

長いこと生きているけれど、生きることに慣れない。
よその星からやってきて、ぶかぶかの宇宙服を着て船外活動をしているような気がする。
メールや電話は、まるで小惑星への着陸確認のようだ。
町を歩く。「豊饒の海」と皮肉な名前で呼ばれる月面の砂ぼこりが舞う。
ぼくは、なにしにここにいるんだろう?

そうだ、この感じを長編小説にしようと思っていたんだっけ。とにかく今書いている小説を書き上げたら、考えてみよう。

地下鉄のザジ

中央公論新社

このアイテムの詳細を見る


ふと、上の小説の事を思い出した。ずいぶん前に読んだのだが、ひどく記憶に残っている。マンガチックな表紙に騙されてはいけない。これは、ひとくせもふたくせもある小説なのだ。ザジという少女が、あこがれの地下鉄に乗るために田舎から出てくるが、肝心の地下鉄はストで動かない。あれこれするうちに、いろんなユニークな大人たちと出会う、というストーリー。

薄っぺらく(厚みが、である。けっして内容がではない)、すぐ読めてしまう。「小品」といった感のある作品なのだが、作者は書き上げるのになんと5年もかかったという。
主人公のザジという少女のガキっぷりも楽しいが、ひとくせもふたくせもあるような大人たちの生態がおもしろい。

大げさに悩みまくった大長編より、こんな小説の方が人生について考えさせられる。

【おんがく】サックスは最高 「変な音楽」編

2005年11月21日 00時11分08秒 | 音楽・映画のこと
変な音楽が好きだ。

いがらしみきおの名作「ぼのぼの」に出てくる「しまっちゃうおじさん」のように、うっかりしているとどこかに連れて行かれるような音楽が好きだ。

真っ先に浮かぶのは、アルト・サックス/バス・クラリネット/フルート奏者のエリック・ドルフィーのアルバム。

アウト・トゥ・ランチ
エリック・ドルフィー, フレディ・ハバード, リチャード・デイヴィス, ボビー・ハッチャーソン, トニー・ウイリアムス
東芝EMI

このアイテムの詳細を見る


アウト・トゥ・ランチ。「昼食に出かけます」といった事務所の扉に張られた張り紙のような文句。ところが、ジャケットを目を凝らしてよくごらんいただきたい。
「WILL BE BACK」
という文字の下の時計の針。いったい何時なのだ?いつ帰るつもりなのか?それとも帰ってこないのか?じっと見ているとなんとも不安になるジャケットである。
中身の音楽もすごい。共演者がよくドルフィーに合っている。トランペットのフレディ・ハバートとハッチャーソンのバイブという異質な組み合わせが、じつにいいのだ。よく聞いていると「だんだん怖い考えになっていく」。
糖尿病で若死にしたドルフィー最後のスタジオ録音。「ちょっと昼食に出てくるよ」と言って、帰ってこなかったのだ。


ダンシング・イン・ユア・ヘッド
オーネット・コールマン
ユニバーサルクラシック

このアイテムの詳細を見る


オーネット・コールマンは、フリージャズの始祖。白いプラスチックのアルトサックスを抱えたチャーリー・パーカー以来最高の即興演奏家。
だが、このアルバムは異色作である。ベース、ドラムス、ギターを二重化し、オーケストラと共演した組曲からのテーマを延々と繰り返す。人間くさくてファンキーだ。そしてすごく変。いい意味でヘンな音楽。
来年三月、日本に来るんだよな~。これを逃すと、きっともう生で見られないよな~。前座の山下洋輔はまったくいらないから、プライム・タイムでこれを再現してくれるんだったら行こうかな?



ジャズに興味のないひとにはなんのことやら、いや興味があっても、ちょっと変わったアルバムたちですが、ふと書いてみました。

【ゲーム】明け方に、戦火の王国。

2005年11月17日 04時16分20秒 | ゲームのこと
キングダムアンダーファイア ~ザ・クルセイダーズ

ジャレコ

このアイテムの詳細を見る


いま二本の長編を同時に書いている。その一方で別の仕事があり、だらだらとやっていると午前3時になってしまった。

興奮して眠れないので、一時間だけゲームをした。
Xboxの「キングダムアンダーファイア ザ・クルセイダーズ」である。
最近、息抜きといえばこればっかりである。

日本のXboxの市場が崩壊したあとにリリースされたので、あまり売れていないのだろうが、このゲームは傑作だ。いわゆるファンタジー世界(とにっても日本のアニメ調のものではない)のリアルタイムストラテジーなのだが、めっぽう面白い。韓国のゲームスタジオの作らしいが、ジャレコの丁寧なローカライズがすばらしい。とくにフルボイスの声優陣が熱演である。

なんということか、Xbox360の互換リスト第一弾にはない。しかし初代Xbox本体を買ってまでやる価値は十分にある。いまならゲームも本体もどっちも安い。

RTSといっても、アクション性とパズル性が高度な次元で融合したゲームである。「オウガ」や「ファイヤーエムブレム」が好き、「三国無双2」が好き、といったひとにも薦められるのではないかと思う。

「コレクターズアイテム」にならないために。

2005年11月14日 18時56分46秒 | 本のこと。
びっくりした。
去年出した本、「図書館のキス~福音の少年」が、アマゾンのユーズド商品で、5000円もの値が付いてるのだ。

前の記事で自嘲ぎみに「出版社が倒産したから稀覯本になる」なんてことを書いたのがいけなかったのだろうか。

ぼくの「福音の少年」シリーズは、「ヤングアダルト」向けとして分類されていることが多いし、ぼく自身、中高生の読者を想定して書いているつもりだ。
だから、最初に本を出すときに、「定価千円以下になりませんか」と出版社に言った。だって、それ以上だと、なかなか小遣いで買えないじゃないですか。

ベストなのは文庫なんだけど、ぺんぎん書房の規模じゃコスト的に不可能だと言われた。結局、最初の本は1575円で発売された。
次の本、つまり「図書館のキス」は最初の本の半分の厚さで税抜き1350円もした。これはほんとに申し訳なかった。

古本をいくらで売ろうがひとの勝手なのだが、なぜ5000円なのかがわからない。ぼくが将来有名な作家になるとでも? いや、それは買いかぶりというものだ。
このまますべての本が絶版になって忘れ去られる可能性もじゅうぶんに高いのだから。

はやく「福音の少年」シリーズの引き受け先が決まって欲しい。バッティングしてはいけないので、と関係者に言われたので、自分で活動するのは控えているが、まるで焼けたトタン屋根の上の猫のような心境である。

出版関係のひとがこのブログを読んでいる可能性は皆無かもしれない。だけど、このまま自分の本が「コレクターズアイテム」なるのは耐えられない。読みたいひとに楽しんで読んでもらいたい!

どうですか? おたくで「福音の少年」シリーズ出しませんか? いまなら4冊目とセットでどうですか?

【おんがく】恋人になろうよ、アメリカを探しに行こう。

2005年11月09日 03時04分21秒 | 音楽・映画のこと
英語はからっきしだめだ。
外国人に話しかけられそうになったら、あわてて逃げる。

でもなぜか、極端な洋楽党なのだ。で、世の中の「歌詞」というものの中で、いちばん好きなのは、ポリス時代のスティングに並んで、サイモン&ガーファンクルの、ポール・サイモンの傑作「アメリカ」の歌詞なのだ。

"let us be lovers we’ll marry our fortunes together"
"i’ve got some real estate here in my bag"

と、歌い出しを聞いたとたんに、胸がしめつけられるような気がする。
でも、ここだけ書き出したらふつうのラブソングのようだけど、読んでいくと、ひと味違う。孤独なふたつの魂がさまよううちにめぐりあって、さらにおおくの孤独なひとびとと出会うといった感じの詩に思える。

全文はここにある。

"kathy, I’m lost," I said, though I knew she was sleeping
I’m empty and aching and I don’t know why

バスや電車に乗って、窓の外をぼんやりと眺めていると、この部分を思い出すことがある。

漫画家の柴門ふみ氏はペンネームに「柴門(サイモン)」と付けるほどポール・サイモンのファンなのだが、あるマンガで、この「アメリカ」を引用していた。

ぼくも大ファンだ。おまけに誕生日も一日ちがいだし、体型も似ている(笑)。

べつに深い意味は無いのだが、真夜中に執筆をしているとふと思い出したので書いてみた。

じゃ。

サイモン&ガーファンクルのすべて
サイモン&ガーファンクル, ポール・サイモン
ソニーミュージックエンタテインメント

このアイテムの詳細を見る

とにかく、4作目を書いているということ。「福音の少年」シリーズ

2005年11月07日 01時42分51秒 | 本のこと。
福音の少年 Good News Boy ~錬金術師の息子~

ぺんぎん書房

このアイテムの詳細を見る


いま、午前1時半。相変わらずマイクロソフト製の、ハの字になったどでかいキーボードにかじりついている。
「福音の少年」シリーズ四作目にあたる「黄道傾斜の女神~福音の少年」を書いているのだ。どれくらい書けたかはまだ言えないが、とにかく、出版社がつぶれたからといって、書くのをやめたりしていない。

出せるあてがあるか?と問われたら、無い、と答えるしかない。いまのところは。
でも、ぼくは希望を持っている。というか、もともとぼくは絶望できない体質なのかもしれない。

きっと、なんとかなる。と、思ってます。

今度の本はねー、ちょっと違いますよー。意外な場所で予想外の展開が・・・。
ああ、煽ってはいけませんね。とにかく、信じていてください。

なにせ、Good News Boyなのだから。ぼくにも、みなさんにも「よき知らせ」を運んでくれるでしょう。

ぺんぎん書房の倒産と「福音の少年」シリーズについて

2005年11月05日 12時40分49秒 | 本のこと。
もうこのブログを訪れている方はほとんどご存じだろうと思うが、「福音の少年」シリーズを出版していたぺんぎん書房が倒産した。
わたしは兼業作家なので、明日から食うに困ると言うことはない。しかし無料WEBコミック「コミックシード」で活躍されていた漫画家のみなさんは大変なようだ。「コミックシード」としては黒字だったのに、本体のぺんぎん書房の倒産によって消滅してしまうというのは、さぞくやしかったろうと思う。

わたしは、10月末に唐突にメール一本で知らされただけだった。
それから、なかなか気持ちの整理がつかず、ブログには書く気になれなかった。
あれから、この非常時にもかかわらずコンサートに行ったり、飲みに行ったりして、ようやく冷静に今回の件を考えるようになってきた。

マンガ事業で黒字だったのなら、一般書の出版事業の、たとえばわたしの本がもっと売れていれば、こんなことにはならなかったのに、などと自分を責めたりしたこともある。よく考えれば、いや、よく考えなくてもそれは一種の思いあがりなのだが。

7月に出した新作の「歌う錬金術師~福音の少年」、じつは一円も印税をもらっていない。管財人から連絡があるというが、おそらく今後も無理だろう。
しかし、今日もこうやってわたしはデスクに向かって執筆を続けている。それは単純に言って、「書きたい」からだ。
シリーズ4作目、「黄道傾斜の女神~福音の少年」を完成させたいし、世に出したい。このままで終わらせたくない。

「ぺんぎん書房版福音の少年シリーズ」というのは、いわば在庫限りである。興味のある方、稀覯本収集癖のある方は、もしよければ、いまのうちに保護してやってください。


歌う錬金術師―福音の少年

ぺんぎん書房

このアイテムの詳細を見る

【おんがく】さよなら、ソニー・ロリンズ

2005年11月02日 23時42分20秒 | 音楽・映画のこと
Easy Living
Sonny Rollins
Milestone/OJC

このアイテムの詳細を見る


「…コンサートを聞きに来て、生きる勇気を感じ取ってもらえたら、それはすばらしいことなんだ」 ソニー・ロリンズ

実は、いま大阪にいる。
ソニー・ロリンズの「ラストコンサート」ツアー、大阪公演を見に来たのだ。大阪厚生年金会館のすぐ前ににあるホテルで、このブログを書いている。

すばらしいコンサートだった。ロリンズは黒っぽいシャツに真っ赤なズボン。真っ白な頭髪と白い髭で、半分だけのサンタクロースに見えなくもない。「ジャズ界の生きた伝説」と称される75才の偉大な音楽家は、テナーを抱えて舞台の端から端へとヨッコラショと歩き回って、エネルギッシュな演奏を聴かせてくれた。

全盛期と比べるとさすがにやや衰えを感じるが、それでも、明るく豪快で、イマジネーションあふれる演奏と音色は、ソニー・ロリンズのものだ。

恥ずかしながら、感動のあまり何度も泣いてしまった。
ロリンズの言葉のとおり、ぼくは彼の演奏から勇気をもらったような気がする。
たしかにぼくは、版元がつぶれてしまったマイナーな小説家かもしれないが、ぼくの悩みなんぞ、この孤高のジャズマンがたどってきた道に比べると、なにほどのこともない。

リンクは、そのロリンズの77年の作品、「イージー・リビング」。世はフュージョン全盛時代。このアルバムのロリンズも多分にフュージョンを意識しており、結果、評論家には不評だった作品なのだが、ぼくは大好きなのだ。
もちろんジャズとしてしっかり聞くには以前このブログで取り上げた「サキソフォン・コロッサス」や「ウェイアウト・ウエスト」が最適だけど、はじめてロリンズを聴くひとにはぜひすすめたい。ロリンズの音楽の明るさがストレートに出た良作である。


とにかく、ありがとう。ソニー・ロリンズ。
このツアーが終わると、もう日本では生演奏を聴ける機会は無くなるかもしれません。でも、あなたの暖かい音楽は永遠にひとびとに勇気を与え続けるでしょう。

さようなら。