加地尚武の佐倉新町電気街

「福音の少年 Good News Boy」シリーズ(徳間書店 徳間デュアル文庫)著者による電脳生活と意見。

「シェイクスピア」をめぐる二本の映画。

2013年08月17日 01時19分56秒 | 音楽・映画のこと
田舎のシネコンでかからない映画を観たくなって、「もうひとりのシェイクピア」を借りてきた。
じつは公開されたのも知らない。というか作られていることも知らなかった(^_^;)

監督はなんと「インデペンスデイ」や「一万年」のSF・パニック大作映画の巨匠ローランド・エメリッヒである。

で、早速観たのだが・・・。


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いやー、おもしろかった!
「歴史ミステリ」というジャンルになるのだろうか。
「シェイクピアは実在しなかった」とういうのがテーマである。いや、ウイリアム・シェイクピアという役者が存在していたのは歴史上の事実なのだけど、37編の戯曲とたくさんの詩を書いたのはこの男ではなく真の作者はべつにいるという説に基づく映画である。この仮説は実に古くからあり、様々な当時の知識人や貴族の名前が挙げられている。

だが、映画は「ではだれが真実の作者なのか?」という謎を解いていくのではなく、この仮説が真実のものだったとしたうえで、虚構の物語を構築してゆくのだ。

主人公はこの「真の作者」ではなく、シェイクスピアと同時代に生きた劇作家ベン・ジョンソンだろう。三~四層構造になったこの映画の複雑な物語はこのベン・ジョンソンを狂言回しとして動いていく。
非常に人気のあった劇作家・詩人だったそうだが、いまベン・ジョンソンと聞いて、たいていのひとは陸上選手を思い浮かべるんじゃないだろうか。

じつは若いころ、シェイクスピアの戯曲にはまっていて、同時代の劇作家の作品を読もうと思い、大学の図書館で翻訳を見つけて手に取ってみたことがある。題名すら思い出せないのだが、平凡な作品だったと思う。

「わたしとあなたとでは『文体』がちがう」
「きみに『文体』などない! だから選んだのだ!」
戯曲を上演させるために「名義貸し」を頼んだ「真のシェイクピア」がベン・ジョンソンにそう言い放つシーンがあって、思わずうなずいてしまった。

この映画は凡人ベン・ジョンソンから見た天才「真のシェイクピア」の、同じ作家としての嫉妬と羨望と畏怖の物語であり、エリザベス一世の王位継承を巡るドロドロした宮廷劇でもある。そしてラスト付近には、さらにもう一ひねり、どんでん返しと言ってもいいような驚愕の真実が明かされる。

なんども書くけど、いやー、おもしろかった!興味のある人はぜひ。
ところで下は同じ時代を舞台にした「シェイクスピア」についての映画。
実は「もうひとりのシェイクスピア」の脚本家は脚本を完成させていたのだが、この映画の公開によって映画化を断念したという。

いや、どっちも良作だけど、内容からして同じ年に公開できるわけがない(笑)

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麻生氏の発言と映画『ニュールンベルグ裁判』

2013年08月03日 08時52分29秒 | 社会時評なんちって
麻生氏、ナチス発言を撤回 「改憲の悪しき例あげた」

撤回しようが、弁明しようが、この麻生氏の発言はどうしようもないものだと思う。
「ナチス政権はワイマール憲法を停止しただけで、ナチス憲法なるものがあるわけではない。つまり改憲の例としてはふさわしくない」というあたりまえの話はさておき(さておけないが)、いちばんいけないのは「ジョークにしたってセンスが悪すぎる」ということなのだ。

わたしは麻生氏はきらいではない。政権交代がなければ主に経済政策ですばらしい成果を挙げ、名宰相と言われた可能性のあった方だと思う。
だが、この発言も、いやその認識もよろしくない、と思う。

元の発言の根底にあるのは、「ナチス」が狂騒の中ではなく静かに政権を取ったという印象なのだろう。
はたして、そうなのだろうか。
もちろんわたしはナチスが台頭してきた1920年代から政権を奪取した33年まで、ドイツにいたわけではないし、麻生氏もそうだろう。

だが、この国家社会主義政党が、それこそ当時もっとも民主的だと言われたワイマール憲法のもとで行われた公正な選挙によって勢力を拡大したのは事実だ。それでも得票率は40パーセントを超えなかったというから「狂騒的」という感じではなかったのかもしれない。
いわゆるナチスの熱狂的な党大会の様子や90パーセントを超える票を得るようになるのは33年以降、国会議事堂放火事件を経て政権を掌握してからの光景である。麻生氏を批判しているとうの「朝日新聞」が、たしか「世界のチャンピオンに聞く」というシリーズものでアドルフ・ヒトラーに嬉々としてインタビューしていたのも、ヒトラーが総統になってからである。

ナチスは徐々に議会制民主主義を通して勢力を拡大し、ドイツ国民がある日気がつくとナチスの世の中になっていた。のかもしれない。
そこまで考えて思い出したのが、下の映画、「ニュールンベルグ裁判」である。今にしてみると信じられないような「オールスター映画」なのだが、内容は白黒の重厚な法廷ドラマである。とてもおもしろい映画だし、ぜひ観て感動していただきたいので詳しくは書かないが、ある重要なドイツ人の登場人物のうめくような誠実な告白が、もっとも「真実」に近いような気がした。

麻生氏はこの映画を100回観るべきだ(笑)

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