加地尚武の佐倉新町電気街

「福音の少年 Good News Boy」シリーズ(徳間書店 徳間デュアル文庫)著者による電脳生活と意見。

いつか、こんな作品をものにできれば。吉村昭 「破船」

2010年07月27日 18時50分15秒 | 本のこと。
破船 (新潮文庫)
吉村 昭
新潮社


故吉村昭氏の代表的な長編小説は、ほとんどが「記録文学」「ドキュメンタリー小説」という呼ばれ方をする。
これがどうも違和感があるのだ。

いや、作品はどれも文句なくすばらしい。作家の端くれの端くれとしては、このような小説を書けるのだったら悪魔に魂を売り渡してもいいと思えることが多いのだが、「記録文学」とひとくくりにされているようで、どうも変な感じがする。

ご本人も記録文学としての自負を持っておられただろうし、それの自負があるからこそ、当時の商人の日記から事件のあった日の天気を調べるといった徹底したこだわりをもって作品に取り組んでおられたのだろう。

だが、私は、吉村氏の本質、作家の根っこにあるものは、「少女架刑」だと思うのだ。
貧しいが故に病院に売られた少女の肉体が、解剖され、最期には骨になるという課程をとうの死体である少女の視点から描いた小説、である。

私は吉村氏には過去に起きた出来事そのものが「解体されていく少女の肉体」のように見えていたのではないか、と思う。
戦艦武蔵もヒグマに襲われた村も、零式戦闘機も、長英も、みな、吉村氏のメスで淡々と解体されていく、そんな感じを抱いてしまう。

だから、吉村氏の作品のどのような主題でも、なにがしか強いロマンチシズムを感じていた。

上に挙げたのは吉村氏が「記録文学」の書き手として著名になってから発表された「異色」の小説である。
内容を全く知らずに読んでいただいた方がおもしろいので、詳しくは触れないが、これもまたすばらしく昇華された「少女架刑」だな、と思った。普段の長編とくらべて異色ではあるが、紅茶と緑茶のように、単にちょっとした課程が違うだけなのだ。

ちょっと斜めに構えた感じの紹介文だろうか。
そうとれたら、この偉大な作品に謝らなければならない。
この小説はまぎれもなく「傑作」だ。

読み終えた後、しばらく動くことができなかった。


夏休みを利用して、気力と体力を整えてから、この小説に挑んでみてほしい。

【訃報】ジェイムズ・P・ホーガン氏死去。

2010年07月13日 20時44分38秒 | 本のこと。
まだまだ死ぬようなお年ではないと思っていたら訃報に接した。ジェイムズ・P・ホーガン氏。
直球勝負というか、とにかく発想がストレートなハードSFを書く人だったように思う。

ホーガン氏といえば多くの作品があるけど、なんといってもこれ。
ハードSFにして、本格推理小説。

どのくらい「本格」かというと、全盛期のエラリー・クイーンの作品ほど本格。

冷静になって考えると、主に天文学的な、物理学的なアラもあるんだけど、読後感のさわやかさが細かなケチを洗い流してしまう。
十年に一度くらいの傑作。

とにかくご冥福をお祈りします。


星を継ぐもの (創元SF文庫)
ジェイムズ・P・ホーガン
東京創元社

「トイ・ストーリー3」を観てきたぞ。

2010年07月11日 07時24分14秒 | 音楽・映画のこと
スティーブ・ジョブズの数ある業績の中で私がイチバンだと思うのは「ピクサー・スタジオに投資したこと」だと思うのだ。

もちろんApple][やMacやiPod・iTunesも偉大なことだとは思うが、それらで得た莫大な資金を、この3Dアニメーションの会社に投資してくれたこと、これこそ並の金持ちにはできない、本当にすごいことだと思う。

そのあたりの事情は、下のリンクにある「ウォーリー」の特典映像が詳しいが、簡単に言うと「トイ・ストーリー」の一作目が大ヒットするまではこの事業自体非常に厳しいものだったようだ。

ジョブズがいなければ、ピクサーの一連の名作が生まれなかったかもしれないと思うと、感謝したいような気がする。

そのピクサーの映画の「最高傑作を一つ挙げよ」と言われれば、単体の映画ならば「ウォーリー」だが、シリーズとしてみると「トイ・ストーリー」を挙げたい。
続編が尻上がりに良くなっていくなんて、映画の世界ではほとんどあり得ないことなのだが、このシリーズは、希有な例外だろうと思う。

よく練られた脚本、小道具の使い方、伏線と収束、気の利いたカット割り。「トイ・ストーリー」の三本は、どこをとっても一流の娯楽映画だ。とくにこの「3」は「完結編とはかくあるべし」といった見本のように、完璧に終わってくれる。

「3」のラスト5分。わたしは、ほとんど、声を上げて泣きそうになった。

子どもにはもちろん、かつては子どもだった人、つまり万人に勧めたい。


ところで今回初登場、というか人形としてはおなじみのバービーとボーイフレンドのケン。この二人、とくにケンがものすごくいい味を出している。「ボーフレンド役の人形」という、どことなくアレな存在であることを逆手に取って、とびっきりの見せ場が用意されていた。
ちょこっと「トトロ」も出演している。

ブルーレイが出たら1,2,3とそろえたい。


ウォーリー [Blu-ray]
クリエーター情報なし
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