加地尚武の佐倉新町電気街

「福音の少年 Good News Boy」シリーズ(徳間書店 徳間デュアル文庫)著者による電脳生活と意見。

「ヘレン・メリルの夢は夜ひらく」歌謡曲とジャズのあいだ。

2018年09月05日 07時00分39秒 | 音楽・映画のこと

台風21号、愛媛は特に大きな被害はなかったんだけど、関空、大変だったんですね。一刻も早い復旧を祈りたいです。

ところで、台風一過、家でまったりと音楽を聴きながら思ったことを。

ボサ・ノヴァ・イン・トーキョー
ビクターエンタテインメント

ビクターエンタテインメント 

先日、アマゾンミュージックアンリミテッドという聴き放題サービスの利用を始めて、「買うほどもないけど聴きたかったアルバム」を集中的に聴いている。上のアルバムもそう。

あの超名盤の「ウィズ・クリフォード・ブラウン」のヘレン・メリルさんが60年代に日本で吹き込んだもの。ヘレン・メリルの声とボサ・ノヴァのリズムが心地よい(バックは渡辺貞夫カルテットとストリングス)。

ボサ・ノヴァの定番が並んでいる中に、なんと藤圭子の「夢は夜ひらく」が入っている! それも軽快なボサ・ノヴァのアレンジで。

最初は強烈な違和感があるけれど、元は昭和歌謡を代表する名曲、聴いていると、とてもいい。

魅惑のワルツ
日本コロムビア
日本コロムビア

歌謡曲とジャズというと、美空ひばりの「魅惑のワルツ」は愛聴盤。CDでも持っている。

昭和歌謡の有名な方は、ほとんど「ジャズ・シンガー」としてデビューしていると言っていいんじゃないか、と思う。

美空ひばりもそうだ。この方がずっとジャズ一筋に歌っていれば、「日本のエラ・フィッツジェラルド」になってたんじゃないかと思う。その代わり「りんご追分」や「王将」や「悲しい酒」は無かったことになるのも惜しいが。美空ひばりが二人いればなあ。こういう惜しみ方をしてしまうのも不世出の天才といわれるゆえんなのかも。

SEIKO JAZZ(通常盤)
Universal Music =music=
Universal Music =music=

最後にこのアルバム。これは、ひどい(個人的な意見です)。

松田聖子は嫌いではない。むしろ好きです。ファンだったと公言してもいい。全盛期の「キャナリー」(「スィートメモリーズ」の入っているやつ)は名盤だと思う。

でも、このアルバムはない。買わなくてよかった。

いわゆるひとつの「松田聖子」がジャズっぽい曲を歌っている、それだけのアルバムだ。いやそれはそのまんまなのだが、なんか、こう、もっとジャズとしてサムシンエルスが欲しい。

成熟とか老成とは無縁な歌手なのだなあ、と改めて思う。それは悪いことではないのだが。

いまこのブログを書いている最中にも、このアルバムからバカラックの名曲「遙かなる影」がかかっているけども、それこそ「スィートメモリーズ」からなにも変わっていないような。

気を取り直して、では、また。


【映画】「インクレディブル・ファミリー」のなにがどうすごいのか。

2018年08月04日 08時29分43秒 | 音楽・映画のこと

インクレディブル・ファミリー」がすごい。

なにがすごいって、全世界での興行収入がとんでもないことになっているのだ。

Boxoffice Mojo 1978年からのスーパーヒーロー映画興収ランキング

書いている間も伸びているので、みなさんが読むときは違っているかもしれないが、あの「ダークナイト」を越えて「アヴェンジャーズ」に迫る勢い。128本ある歴代スーパーヒーロー映画の興収ベスト4位、という成績。

もっとすごいのは、20本ある「ピクサー映画」ブランドで、なんとトップ!

Boxoffice Mojo ピクサー映画興収ランキング

そう、あの「トイ・ストーリー3」より、「ニモ」より「モンスターズインク」よりはるかに上なのだ。

おそらく現在制作中の「トイ・ストーリー4」が公開されるまではずっと一位をキープするだろう。

なんで、これほどまでにヒットしたのか。

それを確かめるために、昨晩レイトショーで吹き替え版を観てきた。

正直、よくわかんない。

いや、すごく面白い映画なのは間違いない。前作の大ファンだった自分としては前作公開から14年後に作られた映画なのに、物語内の時間は前作のラスト数分後から始まるってのが、ものすごくうれしかったし、ヘレン(イラスティガール)はさらに色っぽいし、Mr.インクレディブル が父親として懸命に頑張る姿もよかった。

だけど、個人的にはピクサー映画ベスト3に入る前作には、ちょっと及ばない、と思った。前作の「ウォッチメン」を彷彿とさせるダークさや皮肉が好きだったが、それはちょっと薄れている。

上のスーパーヒーロー映画のランキングでもあるように、社会現象にもなった「ブラックパンサー」特大ヒットと共通点があるのかな、と思った。つまり、スーパーヒーロー映画ではヒーローに助けられてばかりいる女性が、今度は活躍する映画、というところ(「ブラックパンサー」じたいは男性だが、周りの女性キャラクターがかっこいい)。

とにかく、これほどヒットしたのだから当然「3」は作られるだろう。

でも、今度は14年も待たせないでほしい。

あ、恒例の同時上映の短編「BAO」。これは好き好きはあると思うけど、ぼくは素晴らしいと思った。佳作。

肉まんの息子を母親が○○ちゃうところは、実に中国的というか、アジア的な感性だと思った。地母神的というか。この短編を観るだけのために劇場に足を運んでもいいと思えるくらい。

 

大傑作だった前作。

Mr.インクレディブル (吹替版)

ジョン・ウォーカー
メーカー情報なし

 

拙作長編伝奇小説「ロレンソの物語」無料キャンペーン実施中。

7日までと書いてましたがさすがAmazon、「太平洋夏時間」でしたので、おそらく8日の午後4時まで無料です(笑)


【映画】『リメンバー・ミー』は日本語吹き替え版がおすすめ!

2018年04月02日 23時12分39秒 | 音楽・映画のこと
リメンバー・ミー オリジナル・サウンドトラック
WALT DISNEY RECORDS
WALT DISNEY RECORDS


映画を観たその日にサウンドトラックアルバムを買うのは、2018年になって二度目だ。
一度目は『グレイテスト・ショーマン』、二度目が『リメンバー・ミー』である。

アルバムはほとんどAmazon Musicで買っているんだけど、今回はCDで買った。
それが上のリンクにあるアルバムだ。日本語吹き替え版と英語版の両方が入っているという、お得なアルバムである。

で、気が付いたんだけど、「(CDで聴く限り)歌は日本語版のほうがいい!」

田舎のシネコンじゃ、日本語吹き替え版しかレイトショーでやってなかったので、「しょーがーないなー」と思って観たんだけが。

これは吹き替え版で主人公の少年ミゲルの声をあてている石橋陽彩くん(13歳だという)の歌唱力のせいだと思う。
とくに圧巻なのはトラック10「音楽はいつまでも」だろうと思う。この伸びやかな歌声は、完全に英語版の少年のそれを圧倒している。

スカパラ節になったエンディングの日本語版「リメンバー・ミー」も悪くない。

歌のことばかり書いてるけど、映画はすばらしい。

ディズニー/ピクサー映画のベスト3に入る、と書いている人がいたけど、その通りだと思う。

「傑作ぞろい」と言えなくなってきたピクサー映画だが、これはほんとうに、ほんとうにいい映画だと思う。

個人的なことだが、昨年、父と母を相次いで亡くして、先日友人を喪ったばかりだったぼくは、ラストのほう、映画館で思わず嗚咽を漏らしてしまった。しかし、それを引いても傑作だと断言できる。


観てないひとは、ぜひ日本語吹き替え版をおすすめしたい。

「ゴジラ」は進化する!そして「ニッポン」も進化する。~『シン・ゴジラ』を観て。

2016年08月02日 19時12分57秒 | 音楽・映画のこと
映画『シン・ゴジラ』公式サイト

日曜日に『シン・ゴジラ』を観た。
すぐにブログに感想を書こうと思ったのだが、二日間寝かせてみた。
観た直後はテレビ版の『エヴァンゲリオン』の第14話を観たときのように異常に興奮していて、マトモな文章にならないと思ったからだ。
あ、いまもマトモじゃないね(笑)

いや~よかった~(しみじみ)

二日寝かせてこれしか出てこない。

ぼくは『エヴァンゲリオン』の二次創作がきっかけで小説家としてデビューした人間です。
最初の本はいまは潰れてしまった「ぺんぎん書房」という出版社から「福音の少年」という題名で出した。
元は「ニフティサーブ」というパソコン通信サービスのアニメ掲示板の中で連載していた「錬金術師ゲンドウ」という二次創作小説で、それをオリジナル小説として加筆修正したものだった。

出版社の方と本の宣伝について打ち合わせするときに、「PRのために庵野秀明さんと対談しますか?」と言われて「と、とんでもないです」とあわててお断りしたことを憶えている。ひょっとすると冗談だったかもしれないけど、本気だったら、それこそとんでもないことだと思った。
ぼくはアニメ史に燦然と輝く『新世紀エヴァンゲリオン』のいちファンが高じて小説らしきものを書いたにすぎない。そんな人間が庵野氏と対等に話していいわけがない、そこまでヒクツじゃないけど、それに近い感情を抱いていた。

その庵野氏がまたまたすごい作品を世に送り出した。「総監督」というのはたいてい「名義貸し」のようなもの、という先入観があるのだが、『シン・ゴジラ』はあきらかに映像作家としての庵野秀明の刻印がある作品だと思う。
それは進化を続けるゴジラの各形態のモーションであるとか、台詞であるとか、カット割りであるとか、構図であるとか、指摘すればきりがないほどだけど、これは「庵野秀明の映画です」といって差し支えないのではないか、と思う。

脚本も言うことはない。見事な脚本だと思う。
一級のエンターテイメントでありながら、優れた日本人論になっている。

「現場力」「個人よりも組織」「根回しによる合意形成」、巷間に溢れる日本人論を表層的になぞっただけじゃないか、と批判するのは簡単かもしれない。しかし、この映画に描かれた政治家たちや自衛隊員たちには、抗いがたいリアリティがある。

劇中、この新しいゴジラは急激に進化していく。だが、ニッポンもまた「ゴジラ」という最強最悪の外圧により急激に進化を遂げるのだ。それも「明治維新」や「太平洋戦争の敗戦」といった過去の歴史を上回るスピードで。

ネタばれは避けたいが、あえて「共存」という言葉を浮かびあがらせたラストもいい。
火山だらけのちっぽけな島国で日本人は「荒ぶる神」の「神威」とともに生きてきたのだ。とてもすっきりとした結論だと思う。

この文章をここまで読むような人はとうに観ていると思うが、もしまだなら、ぜひ映画館で観ることをすすめたい。

「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」のこと

2015年12月19日 20時42分53秒 | 音楽・映画のこと
「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」を観てきた。
例によって息子と一緒に。彼はこの日のためにエピソード4〜6のブルーレイを観て予習している。
(エピソード1〜3はテレビと映画館で観ていた)

スター・ウォーズ オリジナル・トリロジー ブルーレイコレクション(3枚組) [Blu-ray]
ジョージ・ルーカス,ジョン・ウィリアムズ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


なにか、感想を書こうと思うのだけど、なにも思いつかない。
というのは、

この映画、「スターウォーズ」という映画世界に、なにも足していない、と思うのだ。
この映画があろうとなかろうと、映画の一本目(エピソード4にあたる)は映画史に残るだろうし、4本目から6本目(エピソード1〜3)の新三部作が「がっかり映画」という事実に変わりはない、と思う。
いや、むしろ喪失感があるかな。「失った感じ」。ネタバレになるのでこれ以上書けないが、なにか思い出に近いものを失ったような気もした。

つまらないか、と言われればそうではないんだけど、面白いか、と言われれば、「まあ熱心なファンならばニヤニヤしたりホロリとする瞬間はあるんじゃないかな」と答える程度の映画だと思う。

「スターウォーズ」の最初の一本としてはまったくおすすめしない。

親子三代007(ゼロゼロセブン)

2015年11月29日 11時47分23秒 | 音楽・映画のこと
もうすぐ九十歳になろうかというぼくの父は「007シリーズ」が大好きで、街に一つあった小さな洋画専門の映画館にぼくを連れて観に行っていたものだ。
それこそ第一作目の「ドクターノオ」(公開時007は殺しの番号)から第六作目の「女王陛下の007」まで一緒に観た記憶がある。

ドクター・ノオ [Blu-ray]
ショーン・コネリー,ジョセフ・ワイズマン,ウルスラ・アンドレス
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


女王陛下の007 [Blu-ray]
ジョージ・レーゼンビー,テリー・サヴァラス,ダイアナ・リグ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


大人になって観返すと、そんなに難しいストーリーの作品はない007シリーズだが小学生低学年の自分にはわかるはずもなく、「ドクターノオ」の「ドラゴン」を模した火を噴く装甲車や「ゴールドフィンガー」のアストンマーチンや、「二度死ぬ」の忍者部隊なんかをただ面白がっていた。
それに、きれいな女優さんとエッチなことをするシーンが多いので、なんだかドキドキして観ていたことを憶えている。

死ぬのは奴らだ [Blu-ray]
ロジャー・ムーア,ヤフェット・コットー,ジェーン・シーモア
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


007役がロジャー・ムーアに代わってからの一作目「死ぬのは奴らだ」は一人で観に行った。
中学生になっていたからだった。

昨日の夜、ぼくは地元で働いている息子と一緒にダニエル・クレイグの007最新作「スペクター」をレイトショーで観てきた。ぼくの書斎に並んでいる007のブルーレイのコレクションを観て、息子はいっぱしの007通になっていたのだ。
最新作「スペクター」は、そんな50年以上にわたるシリーズのファンに向けた、「オマージュの塊」みたいな映画だと思う。アクションとかロケ地のそこかしこに「女王陛下~」であるとか「二度死ぬ」とか「ロシアより~」を思わせるシーンの連続である。
ぼくたちはとても楽しんだ。父と初めてみた「ドクターノオ」に負けない面白さだった。

親子三代に引き継がれる映画シリーズ、なんて、007以外にはない。
「ジェームズ・ボンドは帰ってくるでしょう」と「スペクター」のエンドクレジットにもあったように、今後もずっと続いていってほしい。

【えいが】ハリウッド映画「GODZILLA」(2014)を観て思ったこと。

2014年07月26日 21時12分21秒 | 音楽・映画のこと
久しぶりに映画化されたゴジラを観てきた。
「ダークナイト」や「パシフィックリム」のリジェンダリー・ピクチャーズ製作の「GODZILLA」である。

この映画の日本側(東宝側)の代表というべきエグセクティブ・プロデューサーの坂野 義光さんが愛媛県出身ということで、新居浜のシネコンのあるイオンモールでトークショーをはじめとするイベントも行われたので行ってきた。



写真の真ん中に座っておられるのが坂野さんである。黒澤明のいくつかの作品の助監督を経て、あの怪作「ゴジラ対ヘドラ」の監督もなさった方。今回のハリウッド版というかリジェンダリー版「GODZILLA」はもともとこの板野さんがIMAXで40分程度のゴジラの3Dムービーを作ろうと出資者を求めていたことがきっかけだそうな。
それがあるハリウッドのプロデューサーにより、超大作の長編映画として作られることになったとか。

トークショーではこの新作GODZILLAの裏話や、カルト的な人気を誇る「ゴジラ対ヘドラ」制作の裏話など聞けて、とてもおもしろかった。

さて、このトークショーの前に、ぼくはこの新作映画を日本語吹き替えで観ていた。

で。ここからが感想。

「ゴジラ映画」としては1998年の「GODZILLA」とは比べようも無い。ほんとうにお金をかけて作られた「きちんとしたゴジラ」が観られるのは保証できる。これは予告編通り。1998年版に失望した大多数のゴジラファンはこれだけでも劇場に足を運ぶ価値はあると断言できます。ホントですよ。

ただ、映画としては、100点満点中60点だと思う。

映画評論家みたいにいろいろと欠点をあげつらうことは避けたいのだけど、「暇つぶしにポップコーンでもほおばりながら観る映画」としては、つまり一種の見世物としては、評判の悪い1998年版の方が、むしろ楽しかったな。

100メートルの怪獣が暴れ回るんですよ、というバカな設定なのに、みょうに生真面目に映画撮っちゃったって感じ。
かといって深いものがあるわけでもなく、渡辺謙さんの扮する博士も、主人公の父と子の関係も、家族との関係も、さらっとテンプレートをなぞった感じだし、初期のスピルバーグを思わせる、なかなか本体を映さない「じらし」手法もちょっとくどい。

いろいろ書きましたがしかし、ハリウッドでゴジラがこんなふうに復活した意義はとても大きい。

先行して公開されている北米や中国では大ヒットなので、当然続編が作られるだろうけど※、大いに期待できる、と思います。

※息子などは「同じ映画会社だから『ゴジラ対イエーガー(パシフィック・リム)』ができるんじゃない」などと言っていますが(笑)

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坂野義光
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マシュー・ブロデリック,ジャン・レノ
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美術館で怪獣映画を観る日。「フランケンシュタイン対地底怪獣」「サンダ対ガイラ」

2014年07月21日 22時33分27秒 | 音楽・映画のこと

三連休の最終日、高知県立美術館に行った。
芸術作品を鑑賞するためではない。ホールで行われる「怪獣映画特集」を観にいったのだ。

午前の部が「空の大怪獣ラドン」「大怪獣バラン」、午後の部が「フランケンシュタイン対地底怪獣」「サンダ対ガイラ」という、「渋い」プログラムである。

大の怪獣映画好き少年だったぼくは、「バラン」以外の映画を全部劇場で観ていたし、テレビでも何度か観ていたんだけど、特撮フリークの息子に誘われて、「久しぶりに大スクリーンで観ようか」という気になったのだ。

とくに「フランケンシュタイン対地底怪獣」「サンダ対ガイラ」は、あまりテレビ放映されない(※)。よく考えると前者は四十五年ぶりかもしれない。迷わず午後の部を選んだ。
※前者は原爆投下から十五年目の広島が舞台で、いろいろと当時の社会事情や放送禁止用語が連発される。後者は悪い人造人間のガイラがむしゃむしゃ人間を食っちゃうシーンがある。それもかじった上に服をペッと吐き出すという。ま、放送されないわな(笑)


高速道路から高知県立美術館へ。お濠に囲まれた土蔵を思わせる趣のある建物。マルク・シャガールのコレクションで有名らしいけど、今日はそれどころではない。

で、立派なホールに座って、最初の「フランケンシュタイン対地底怪獣」を鑑賞。
小学生のとき以来である。ちょっとワクワクした。


・・・で、ラスト、ぼくは腰を抜かさんばかりに驚いていた。

「四十五年前に観た映画と結末が違う!」

思わず叫びそうになった。
自慢じゃないけど映画や小説に関しては記憶力のいいほうだ。「フランケンシュタイン対地底怪獣」は子どもごころにとても怖くてよく憶えていた。ネタバレになるが、四十五年前に観た結末は、地底怪獣バラゴンを持ち上げたフランケンシュタインが、地面に空いた大きな穴に吸い込まれるように落ちるというものだった。
しかし、今日観た映画の結末は、違ったのだ。
フランケンシュタインは地底怪獣の首の骨を折って殺す。
次の瞬間、登場人物(若き日の高島忠夫さん)がべつの方向を指さす。
「蛸だ!」

はあ?

数十メートルもありそうな巨大な蛸が唐突に画面に現れる。いっとくがここは海中でも海岸でも無い。山の中である。
フランケンシュタインはその巨大蛸と格闘!
なかなか決着は付かない。
やがて二体は近くにあった湖に転落。

ぶくぶくぶくぶく。泡。どっちも浮かびあがってこない。

はあ?

唖然とするぼくの目の前に「終」の文字が。

はあ?

息子に聴き、ウィキペディアで調べると、どういうわけなのか、日本で劇場公開後、蛸との格闘シーンが急遽追加されたらしい。わざわざ俳優さんを集めて台詞も取り直したとか。で、ビデオ版には「蛸エンド」が納められていたので、逆に劇場公開版が珍しいのだとか。

なるほど。

・・・わけわからん。

しかし、山の中に唐突に大蛸が登場して格闘を始めるというシュールなシーンは、いいようによってはおもしろい。

総じていえるのは怪獣映画に過度の期待をしてはいかん、ということだな。
両方の映画に出演している水野久美さんの美しさに免じて、さらっと流そう。


フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)【期間限定プライス版】 [DVD]
高島忠夫,ニック・アダムス,水野久美
東宝


フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ【期間限定プライス版】 [DVD]
ラス・タンブリン,佐原健二,水野久美,田崎 潤
東宝


【えいが】「裏切りのサーカス」をCSで観た! 大好きな映画になった!

2014年07月06日 18時17分42秒 | 音楽・映画のこと
裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [Blu-ray]
ゲイリー・オールドマン,コリン・ファース,トム・ハーディ,ジョン・ハート,トビ―・ジョーンズ
Happinet(SB)(D)


あー、なんで映画館で観なかったんだろう?
と思ったんだけど、シネコンではやってなかったと思う。
雨が降っていてどこにも行けないので、録画してあった「裏切りのサーカス」を観ました。
正直、あんまり期待していなかった。
「難解」とか「未消化」とかいった批評の方が多かったので。

で、居間でだらだら観てたんだけど、ラストは思わず正座していました。

いやあ、よかったですね~!

大雑把にいうとソ連と西側諸国がいがみあっていた時代、イギリス情報部幹部(通称「サーカス」)にもぐりこんだ「もぐら」=二重スパイを、いろいろあって諜報部を追われた元中年スパイが緻密な捜査で炙り出していくという感じのストーリー。
こう書くと単純そうだけど、原作は非常に多くの登場人物が入り組んでいて、複雑な展開を見せる。

原作は元MI6に勤めていたというジョン・ル・カレ。
翻訳された長編はほとんど読んでいるくせに、この映画を遠出してまで観に行かなかったのは、痛恨であります。

この映画のどこがいいって、そのまま映画化してもややこしい話を、過去を唐突に交錯させながら描いていて、さらにややこしくなっているという(笑)。

難解といわれりゃそうかもしれない。原作を読んでいたも戸惑いそうになったくらいだし。

しかし、ね。
ラスト、以外な名曲で登場人物たちの「その後」をさらっと描いてくシーン、しびれました。

もともと原作をはじめ、ル・カレの長編は渋いスパイ小説なんですが、その渋い中にも「国家・体制に押しつぶされていく人間性」というはっきりとしたテーマを持っています。
で、この映画も、そのあたりを非常にしっかりと、エモーショナルに描いていると思いました。
だから少々ややこしい感じがしても、観た後はすばらしい余韻が残るんですね~。

いやー、この監督さん(スウェーデンのひと)、いいわあ。
あと、現在のイギリスを代表するような俳優陣の演技と70年代ファッションのかっこよさも見所です。

今となっては「時代小説」という趣のある原作小説(三部作)も並べておきますね。
この中では一番長い「スクールボーイ閣下」が一番好きです。衝撃的で切ない結末が忘れられません。

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)
村上 博基
早川書房


スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)
村上 博基
早川書房


スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))
村上 博基
早川書房

雪がやんだので、映画を観に行った。

2014年02月09日 01時46分56秒 | 音楽・映画のこと
前の更新からえらく間が空いてしまった。ツールド東北の参戦記の続きを書こうと思っていたんだけど、どうしてもホームステイ先のご家族の事を書かずにあの感動を表せないと思うと、ご迷惑をかけるような気がして躊躇しているうちにこれだけ時間が経ってしまった。

気を取り直して映画の事を書こう。

実はついさっき、「ラッシュ」という映画のレイトショーから帰ってきたばっかりなのだ。リンク先を見てもらうとわかるように、「ニキ・ラウダ」と「ジェームズ・ハント」という二人の天才F1ドライバーを描いた映画である。

この四国でも、一日じゅう降った雪がようやく止んで、路面もだいぶ乾いていた。もちろんいいオッサンなので、F1レースの映画を観た直後だからといって、ガンガン飛ばしながら帰ってきたわけではない。

公開前からこの映画は楽しみにしていた。かつて少年サンデーに連載されていた村上もとか先生の「赤いペガサス」というマンガの大ファンだったから。ぼくは連載当時から夢中になって読んで、単行本になるとすべて揃えて、何度も何度も読み返した。おかげで装丁がボロボロになったので、泣く泣く分解してスキャンしてPDFにしてあるくらいだ。

このマンガ、時代設定がちょうどこの映画とほぼ同じなのである。だから、「巨人の星」に王や長嶋が出るようにマンガにもラウダやハントもでるし、大勢の当時のレーサーが実名でバンバン出てくるのだ。

赤いペガサス 若き狼・赤馬研 (My First Big SPECIAL)
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小学館

「ラッシュ」という当時のF1シーンを舞台にした映画ができると聞いたときに、まるでこのマンガが映画化されるようにうれしかった。この辺の公開初日の金曜のレイトショーに行きたかったけど、雪が降っていたので今日に延期したのだ。レースマンガやレース映画は大好きだが、自分の運転テクニックは一切信用できない(笑)

ちょっと気になる点、食い足りない点もあったけど、映画は良かった。佳作といっていい。
当時のF1の事を知らなくてもじゅうぶんに楽しめる。と、思う。
スポーツや趣味、どんなものであれ、「ライバル」といえるような存在がいるひとにはもっと楽しめる、感動的な映画だと思う。

「シェイクスピア」をめぐる二本の映画。

2013年08月17日 01時19分56秒 | 音楽・映画のこと
田舎のシネコンでかからない映画を観たくなって、「もうひとりのシェイクピア」を借りてきた。
じつは公開されたのも知らない。というか作られていることも知らなかった(^_^;)

監督はなんと「インデペンスデイ」や「一万年」のSF・パニック大作映画の巨匠ローランド・エメリッヒである。

で、早速観たのだが・・・。


もうひとりのシェイクスピア [Blu-ray]
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いやー、おもしろかった!
「歴史ミステリ」というジャンルになるのだろうか。
「シェイクピアは実在しなかった」とういうのがテーマである。いや、ウイリアム・シェイクピアという役者が存在していたのは歴史上の事実なのだけど、37編の戯曲とたくさんの詩を書いたのはこの男ではなく真の作者はべつにいるという説に基づく映画である。この仮説は実に古くからあり、様々な当時の知識人や貴族の名前が挙げられている。

だが、映画は「ではだれが真実の作者なのか?」という謎を解いていくのではなく、この仮説が真実のものだったとしたうえで、虚構の物語を構築してゆくのだ。

主人公はこの「真の作者」ではなく、シェイクスピアと同時代に生きた劇作家ベン・ジョンソンだろう。三~四層構造になったこの映画の複雑な物語はこのベン・ジョンソンを狂言回しとして動いていく。
非常に人気のあった劇作家・詩人だったそうだが、いまベン・ジョンソンと聞いて、たいていのひとは陸上選手を思い浮かべるんじゃないだろうか。

じつは若いころ、シェイクスピアの戯曲にはまっていて、同時代の劇作家の作品を読もうと思い、大学の図書館で翻訳を見つけて手に取ってみたことがある。題名すら思い出せないのだが、平凡な作品だったと思う。

「わたしとあなたとでは『文体』がちがう」
「きみに『文体』などない! だから選んだのだ!」
戯曲を上演させるために「名義貸し」を頼んだ「真のシェイクピア」がベン・ジョンソンにそう言い放つシーンがあって、思わずうなずいてしまった。

この映画は凡人ベン・ジョンソンから見た天才「真のシェイクピア」の、同じ作家としての嫉妬と羨望と畏怖の物語であり、エリザベス一世の王位継承を巡るドロドロした宮廷劇でもある。そしてラスト付近には、さらにもう一ひねり、どんでん返しと言ってもいいような驚愕の真実が明かされる。

なんども書くけど、いやー、おもしろかった!興味のある人はぜひ。
ところで下は同じ時代を舞台にした「シェイクスピア」についての映画。
実は「もうひとりのシェイクスピア」の脚本家は脚本を完成させていたのだが、この映画の公開によって映画化を断念したという。

いや、どっちも良作だけど、内容からして同じ年に公開できるわけがない(笑)

恋におちたシェイクスピア [Blu-ray]
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ジェネオン・ユニバーサル


【鋼鉄社長漫遊記】アイアンマン3【その参】

2013年04月29日 21時01分22秒 | 音楽・映画のこと
アイアンマン3 ARTFX アイアンマン MARK42 (1/6スケール PVC塗装済み簡易組立てキット)
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とにかく「社長シリーズ」には外れがない。
いや、ポッツに社長職を譲ったので、正確にはちがうけど、わたしと息子の間では映画「アイアンマン」は「社長シリーズ」なのだった。

で、ゴールデンウィーク前半の三連休の最終日、息子と観に行った。
いやあ、面白かったですねえ。
ノーランのバットマンの参作目「ダークナイト・ライジング」に個人的には失望した口なんだけど、マンネリになりがちな参本目、「アイアンマン」は大成功していると思う。

ネタバレは避けるけれども、スチル写真ではかっこいいとは思えなかったマーク42にはかっこいいし、大好きなマーク○○が(ちょこっとだけど)大活躍するのもポイントが高い。

もちろん脳天気娯楽映画なので、そんなにシビアなものではないけど、原作マンガの古くからの悪役である「マンダリン」を「○○のテロリスト」にすることにより、物語に深みが出たと思う。

もう、文句なし。
もちろんエンドクレジット後のお遊びも楽しい。

3から観る人もいないだろうけど、これはとてもおすすめ。

【映画】The Love Letter ~ ジャック・フィニイの「愛の手紙」から

2013年04月25日 04時50分29秒 | 音楽・映画のこと
おととい、アメリカ人(日本語が堪能なので日本語で)と、アンブローズ・ビアスやサキといった海外の掌編小説のことについて話してたら、ふいに「ジャック・フィニィ」の名前を思い出した。
中学生のころから海外作家の短編小説が好きで、チャールズ・ボーモント、フレドリック・ブラウン、レイ・ブラッドベリといった名前に並んでお気に入りだったのがジャック・フィニィだった。

とくに早川書房から海外短編小説全集といったような名前でハードカヴァーで出ていた「ゲイルズバーグの春を愛す」という本は大のお気に入りで、それこそ装丁がボロボロになるまで何度も読み返したものだ。

その短編集の中でも、いちばんのお気に入りが、巻末の「愛の手紙」という小説だった。
ニューヨークのブルックリンに住む現代的な青年(といっても1959年の発表当時の)が、古道具屋で、ある木製のライティングデスクを買う。ある日、そのデスクの隠し抽斗があることを発見。中を覗いてみると一通の手紙が入っていた。読んでみると、この机の初代の所有者である若い女性が、架空の恋人に宛てたラブレターであった。青年はふと戯れに、この手紙に返事を書くことを思いつく。そして、どうせなら投函しようと、古い切手を貼り、ニューヨークでもっとも古い郵便局に行き、投函するのだった。
何日か経って、その机にはあと二つの抽斗があることを思いつき、二番目の隠し抽斗を開けてみると、そこにはやはり手紙が入っていて・・・。


というお話。続きはぜひ読んでいただきたい。気に入るかどうがわからないが、少なくとも私は何度読み直してもラストで泣いてしまう。

ところで、ふとこの小説の題名 The Love Letter でググってみると、原文全文がアップされている(著作権が切れているから)し、おまけにTVムービー化もされているらしいし、さらにおまけにYoutubeで全編見ることができるのだった。

http://www.youtube.com/watch?v=2v1qxZoj0i8

これはさすがに権利的にどうよ、と思うが、日本では放映されてないみたいだし、DVDも出てないので、深夜目が覚めたついでに観てしまった。むろん字幕がないが、原作を読んでいる強みでなんとなくわかったし、なんどがホロリとしてしまった。原作からは大きく脚色されており、一大ラブロマンス大作風(あの風とともに去りぬのような)になっているけど、原作の切ないラストの雰囲気はじゅうぶん味わえて、いい映画だったと思う。コメント欄に同じような(パ○リ?)アイデアの映画よりもいい、なんてあって笑ってしまう。

ああ、未明になんか余韻にひたりつつ、現実逃避終了。


【映画】「バトルシップ」は最高!

2012年04月14日 21時31分54秒 | 音楽・映画のこと
バトルシップ(ピーター・バーグ監督、テイラー・キッチュ、浅野忠信 出演) [DVD]
クリエーター情報なし
メーカー情報なし


単純な、燃える映画が大好きだ。

だから、撮影開始のニュースの聞いてから楽しみにしていた「バトルシップ」を息子と一緒に観に行った。

あえて日本語吹き替え版を選んだのだが、艦内もとい館内の「オッサン率」が異様に高い(笑)
子どもなんて一人しかいなかった。

で、感想。

もしあなたが「戦艦ゲーム」「ブルーラインシリーズ」「ミズーリ」「大艦巨砲主義」「海上自衛隊」「リムパック」「宇宙戦艦ヤマト」のいずれかに反応する人だったら、今すぐ観に行った方がいい。
(もちろんアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主要キャラの氏名がどこから来ているのか知っているひとも)


そりゃ、ツッコミどころは山ほどあるし、冗長な部分もあるが、これほどすかっとして「燃える」映画もない。

ネタバレといっていいのか、伏線はりまくりなので、すぐにわかると思うのだが、あんがいあっささりと敵の船(?)を倒した後に、その「超弩級」(←これも海軍用語だった)のクライマックスはやってくる。これがもう、たまらないカッコ良さである。わたしはその筋の人ではないのだが、思わず映画館で敬礼してしまいそうになった。

ハリウッド大作2作目の浅野忠信もいい。「マイティ・ソー」の256倍は台詞がある、というか、文句なく「準主役」だ。

これがアメリカよりも先に日本で観られるのは幸せ。

でも最後にひとつ。
アメリカで公開するときには、ちょっと編集し直した方がいい。25分は短くできるし、しても問題は無い。


映画「バトルシップ」公式サイト

ジェネラルマネージャーは泣かない。『マネーボール』映画と本

2011年11月13日 13時09分33秒 | 音楽・映画のこと
マネー・ボール (RHブックス・プラス)
クリエーター情報なし
武田ランダムハウスジャパン


映画「マネーボール」公式サイト

「球界の盟主」を自称する某球団のジェネラルマネージャーがぶざまに泣いたという日、私はべつのプロ野球球団のジェネラルマネージャーを主人公にした映画を観に行っていた。

ブラピ主演の「マネーボール」である。

野球をやったこともないし、プロ野球中継もまったく観ない私が、なぜこの映画を観に行ったかというと、ある映画紹介サイトで、なにげなく次のようなあらすじを読んだからだった。


メジャー・リーグ球団、オークランド・アスレチックスのゼネラル・マネージャー、ビリー・ビーンの偉業を描く伝記ドラマ。膨大なデータ分析を駆使して新たな野球理論を提唱し、低予算の弱小球団を最強のチームに作り上げた男の奇跡に、『カポーティ』のベネット・ミラー監督が迫る。実在の人物ビリーに扮する、ブラッド・ピットの演技も見ものだ・・・。

というもの。
私は、知性を武器にたった一人で奮闘する人物を描いたストーリーが好きなのだ。
検索していくと、「原作」というかもとになった実話を題材にしたノンフィクション本があるらしい。
ちょっと悩んだ。つまり、
読んでから観るか、観てから読むか?
だ。

こんなとき、事情が許せば答えは決まっている。観てから読んだ方が、楽しめることが多い、と私は思っているのだ。

で、電車に乗って、映画館に行った。

「よく言えば個性的、悪く言えばポンコツ選手だらけの貧乏な弱小球団が、金満体質の大球団に勝つ」という設定だと、たいていは「メジャーリーグ」や「ベアーズ」のような痛快スポーツコメディになりそうだが、映画「マネーボール」は、主人公のGMビリー・ビーンの人間像を描く、見応えのあるドラマにする道を選んだ。
そしてそれは、とても成功したと思う。

見終わったら夜の8時を回っていたが、シネコンの建物の中にある本屋はまだ開いていた。
私は「原作」にあたる「マネーボール」という本を買った。

「野球」に関する単行本を買うのは生まれて初めてである。
そして、一日かけて読み終えた。
一読して思ったのは、この映画の脚本家は巧妙に事実の並べ替えを行ってドラマチックにしたてている、ということだった。
「脚色」のキモにあたるのは、事実では「ポール・デポデスタ」、映画では「ピーター・ブランド」とされている、ビリー・ビーンの右腕にあたる人物だろう。

この映画は事実に基づいているし、ほとんどの人物が実名で出てくるが、この「ピーター・ブランド」だけが、「架空の人物」なのだ。実在の「ポール・デポデスタ」は痩せたハーバード大学出の人物だが、映画の「ピーター・ブランド」は今時珍しい程のデブで眼鏡をかけたイエール大学でのおたくっぽいインテリ青年なのだ。

そして、映画は主人公ビリー・ビーンが、この「ピーター」と出会って初めて野球界を変える革新的な「マネーボール」理論に出会う、というストーリーになっている(事実はビリー・ビーンはその数年前からその理論を知っており、改革に着手していた)。
それが映画にとってどれほどすばらしい抑揚を与えているか、ご覧いただくのが一番早い。

私は野球の事はわからない。しかしマネーボール理論が言うように「打点」や「セーブポイント」や「失策数」といった運や他の条件に左右されるものをもって、野球選手を語るのは前からおかしいと思っていた。
「盗塁するな」「犠打は無駄」
一昔まえの高校野球の監督なら真っ赤になって怒り出すような野球の常識を覆すような言葉の数々が、本にも映画にも出てくる。

宗教裁判の時代じゃあるまいし、「それでも地球は動いている」といった真理に身を捧げる人物と蒙昧な世界との対立といったテーマでこのような物語が成立することにも驚いている。
それだけ「野球」というものの世界が古くさいのだろう。

そしてビーン率いる貧乏球団アスレチックスは、奇跡のような20連勝を成し遂げる。このシーンは本も映画も感動的だ。引用したいのだが、やめておく。ぜひ読むか、観るかしていただきたい。ほんとうに幸せになる一瞬である。

だが、映画はそれで終わらない。
この映画の、監督の「言いたかった」ことはそれだけじゃない。それはラストの、ラスト。
勝つために選手を商品のようにドライにトレードしたり首を切ったりする「ビリー・ビーン」という人物の、さらに魂の核心に迫る、一瞬。
彼は離婚した妻について行った娘の歌声をCDで聴きながら、涙を浮かべるのだ。

「・・・もっとショーを楽しみましょうよ」

字幕には「ショー」の部分に「試合」という言葉を当てている。
私は、膝を叩いた。
大げさではなく、映画「市民ケーン」のラスト、雪ぞりが暖炉に放り込まれるシーンを連想したくらい、この映画のラストシーンは、ほんの一瞬で、ビリー・ビーンという、大学進学が決まっていながらスカウトの甘言にそそのかされてプロ野球界に入り、結局目が出なかった人物の、ルサンチマンや、闘志、野球に対する愛憎、破綻した結婚生活など、人生のエッセンスを凝縮してみせた。

おすすめ。本も、映画も。