加地尚武の佐倉新町電気街

「福音の少年 Good News Boy」シリーズ(徳間書店 徳間デュアル文庫)著者による電脳生活と意見。

【おんがく】涼しげなジャケットに暑苦しい音楽。「Fly with the Wind」

2007年03月24日 08時46分53秒 | 音楽・映画のこと
Fly with the Wind
McCoy Tyner
Original Jazz Classics

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思えば18のとき、ぼくは背伸びをしていた。
ほんとうは、レッド・ガーランドやウィントン・ケリーのピアノ演奏にこころ惹かれるものがあったのだけど、マッコイ・タイナーをよく聞いていたのだ。

もちろん、ジョン・コルトレーンカルテットの一員だった、というのが理由である(余談だが、このコルトレーンも「背伸び」のせいだった。本当はソニー・ロリンズのほうがずっと好きだった)

マッコイ・タイナーの音楽は、よく言えばダイナミックでスピリチュアル(いや、あのおっさんじゃなくて)なのだけど、疲れているときに聞きたい感じのピアノではない。
ひと言でいえば、「暑苦しい」のだ。

アマゾンで自作AT互換機のラウンドケーブルを購入するついでに、ふと「買い物カゴ」の片隅にあったのを思い出して、注文してみた。

聞いてみる。
暑苦しい。70年代の音楽である。

ピアノカルテットにヒューバート・ロウズのフルートにストリングスとくれば、ふつうはいま流行のスムース・ジャズのような演奏かと思うじゃないですか。
それが全然違うのです。

聞いているウチに、ストリングスがコルトレーンのサックスに聞こえてきます。いや、ホント。

元マハヴィシュヌ・オーケストラのビリー・コブハムのドラムがすごい。ものすごい迫力があるのに、手が八本あるんじゃねーかというほど超絶技法で正確無比。

iTunesで涼しげなジャケット写真を表示させ、大音量で流しながらこのブログを書いていると、若く暑苦しく、暗い18だったころを思い出す。


初心に返ってIT関連の話題。「パソコン単価釣り上げOS」

2007年03月19日 01時27分53秒 | 公園のつぶやき。
もともとこのブログって、IT関連の話題を扱うために作ったんだよな~。
そんなわけで、とってつけたように、Windows Vistaの話題。

久しぶりのOSのメジャーヴァージョンアップだというのに、盛り上がっていないように思える。そのとおり、アップグレード版の売れ行きはあまりよくないと聞く。

うちにも数台のパソコンがあって、macを除く全部がWindows Xpである。そのうち、私が仕事に使っている二台がProで、家族のものが皆Homeである。

もちろん、「新しもの好き」なので、Vistaには興味があって、いろいろ情報を集めたりしてるのだが、どうもピンとこない。

執筆に使おうという気がしない。

山田祥平のRe:config.sys

とくにこのコラムを読んで、そう思った。
ひとのブログを引用するのはきらいだが、ちょっと末尾を引用してみよう。

(引用開始)
XPが4ナンバーのライトバンなら、Vistaは3ナンバーのステーションワゴンだと。あるいは新幹線のグリーン車と普通車の違いのようなものか。たどりつける場所は同じでも快適さが違う。どうせなら優雅にPCを使いたい。少なくともぼくはそう思う。
(引用終了)


いや、この文章はおかしい。いや、文法がどうのではなく、「たどりつける場所」うんぬんが納得できない。
本文中で、筆者はパナソニックのサブノートPCにWindows Vistaを入れているのだが、使い勝手が悪くなったと書いているのだ。筆者がそのサブノートでやっているのがOutlook。

たとえば、私が東京在住のサラリーマンで、明日大阪に出張しようってとき、そりゃ、グリーン車のほうが快適だろうさ。顧客回りや配達にステーションワゴンを使えるってのは楽かもしれないが、「仕事でパソコンを使う」ってのは、そんなもんだろうか?

自由業の人間がOutlookでできることなんざ、たかが知れている。そんな用途に2GBのメモリとデュアルコアのCPUが必要だろうか?そんな重装備の、高価なパソコンで、わざわざ重いOSが必要だろうか。

引用した部分で、筆者は「ハードウェアスペックがあがった(あげざるを得なかった)ことによる処理速度の向上=快適さ」と「OSの機能の向上」をすり替えている。

いや、いろいろ「事情」があるんだろう、とは思う。
が、故意ならば、テクニカルライターとしては不誠実ではないか。少なくとも仕事でパソコンを使わざるを得ないわたしのような人間は、この新OSについて、もっと率直な意見を聞きたい。
「Vistaは重いので従来機では使い物になりません。最新のハードに買い換えましょう」とはっきり書くべきだ。

書けないのは、売れ行き低下に悩むパソコン業界の事情があるからだ。
いわゆるVista効果により、パソコンの平均単価は若干上昇したという。
周知のとおり、Vistaはメモリ食いであるし、高速なGPUを必要とする(用途によっては必要でもなんでもないのだが)ために単価が上がるのだ。

産業にとっては、結構なことかもしれない。
しかし、昔のように、パソコンはマニアのものではない。すでに日用品である。
メールや、ミクシイやブログの更新という用途に関して、VistaとXPにどれほどの違いがあるというのだろう?

わたしはOSの多機能化の時代は終わりつつあると思う。
とくに、このVistaによって、その方向性には限界があるということがはっきりわかった。
ひとはハード環境に高いハードルがあるOSよりも、最低限ブラウザが快適に動く環境を使って、WEBサービスを利用するだろう。
メールやスケジューラーはもちろん、オフィススイーツも、そのうちWEBサービスに飲み込まれるのではないだろうか。


「いいひと」なんかになりたくない。

2007年03月09日 23時32分05秒 | 公園のつぶやき。
「いいひと」なんかになりたくない。

面白いひと、便利なヤツ、優しい人、使える男。
そんなふうに思われるのは、もうまっぴらだ。

いつか「本性」をあらわしてやる。

乱暴で、貪欲で、酷薄で、猜疑心の強い自分を、あらわしてやる。

と、思っていた。

中年になった。
気がつくと、「本性」が無くなっていた。


写真のようなドラゴンの形をしていたはずだった。
夢想の中で、何人も食い殺した、獰悪なドラゴン。

しかし、どこかへ行ってしまった。

慇懃無礼な白金の鎧だけが残った。
毎日、愛想笑いを浮かべている。





・・・某所で「ドラゴン」のデータを1.99$で安売りしていたので買った。
さっそくレンダリングしてみると、上のような詩というより小学生の作文のようなものが浮かんだ。
別に自分のことを言っているわけじゃない、と思う。
実物のわたしを知る人は、わりと奔放に生きてると思っているんじゃないかな。

【おんがく】 The Corrs  「Home」 ~遠くで汽笛を聴きながら~

2007年03月07日 20時53分06秒 | 音楽・映画のこと
ふるさとへ帰りたい。

そう、思うときがある。
灰色のエレベータの扉をぼんやりと見つめているとき。店員に背を向けてうどんをすすっているとき。心の中で嫌悪感を抱いている人物と話しているとき。冷たい風の中、職場に戻るとき。ショッピングカートを押しながら列にならぶとき。

ふるさとに帰りたい。

切符を買わずに電車に飛び乗って、ずっと窓の外を見ていたい。
荷物は、キオスクで買った缶ビールと竹輪だけ。

アクリルガラスの待合いのドアを開けて、ベンチに座りたい。
誰にも会いたくないけれど、見知らぬ人ばかりだとさびしくてたまらない。

ふるさとの駅前は、記憶の風景の偽物のようだ。

だけど、ふるさとに帰りたい。

このアルバムを聴くと、ついこんなへたくそな文章を書いてしまう。
アイリッシュトラッドとポップスを融合させた兄妹グループ、The Corrsのアルバム。

これはトラッドばかりを集めたもの。彼らの、亡くなった母に捧げた作品。

聴いていると、灰色の空の下、果てしなく広がるジャガイモ畑を連想してしまう。
山本周五郎の小説の登場人物の台詞を思い出す。

五十年前、わたしはいなかったし、五十年後も、わたしはいない。

うろ覚えで違うかもしれない。


Home
The Corrs
WEA

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・・・よく考えると、わたしがいまこの音楽を聴きながら抱いている望郷の念て、なんだろう? 大学の4年間以外、四国から離れたことはないのに。

ひょっとして、わたしのほんとうのふるさとは9光年離れたシリウス星系の惑星ニャントロだろうか(笑)

【読書】「逃亡日記」―ひたすら逃げ続ける日々。

2007年03月06日 00時16分15秒 | 本のこと。
だれだって、逃げ出したい。

鉛のような日々、さしせまった受験、口やかましい母親、もつれてしまった恋愛模様、すぎてしまった納期、冷めたピザのような人間関係、雨の日の月曜日。

だが、逃げられない。逃げてどこへゆくのか?
橋の下で雨露をしのぐのか。

コアなファンを持つ漫画家、吾妻ひでおは逃げた。残飯とシケモクを拾って、生活した。公園のトイレで髪を洗った。図書館で一日ごろごろした。自殺もなんどか企てた。

連れ戻されて、また逃げた。なぜかガスの配管工になって、社内報に漫画を描いた。

また連れ戻されてアル中になった。精神病院でアルコール依存症の治療を受けた。

そんな悲惨な体験を、独特の絵柄で描いた「失踪日記」は大変な評判を呼び、ベストセラーになった。
三大漫画賞ももらったし、珍しくSF色は無いのに星雲賞のノンフィクション賞をもらった。みんな、「吾妻ひでお」に賞をあげたかったのだ。気持ちはわかる。

この「逃亡日記」は、その「失踪日記」が当たったので出された便乗本である。
本の冒頭にある漫画で本人がそう言っている。

本人の言うとおり、立ち読みで十分なんだけど、わたしは買った。

そのとおり、立ち読みで十分なんだけど、みなさん、買いなさい。
この貴重な、かけがえのない漫画家がふたたび失踪することのないように。

逃亡日記

日本文芸社

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