加地尚武の佐倉新町電気街

「福音の少年 Good News Boy」シリーズ(徳間書店 徳間デュアル文庫)著者による電脳生活と意見。

【スタン・リー追悼】ぼくとマーベル・コミックス

2018年11月13日 17時50分34秒 | 本のこと。

米コミック界の巨匠、スタン・リー氏が死去 「X−メン」などの生みの親

記事のとおり、スタン・リー氏が亡くなられた。

95才という高齢なので、いつかはこんな日がくると思ってはいたけれど、いざ訃報を目にすると、やはり寂しく、悲しい。

ぼくがアメリカのコミックを読み出したのは高校二年のとき。1973年。ぼくはついこの間六十になったところだから、四十五年前になるのだろうか。

実はスタン・リー氏のもっとも重要な仕事、――つまり「スパイダーマン」や「ハルク」「ソー」「ファンタスティック・フォー」「Xメン」といった、今では誰でも知っているようなヒーローたちを創り出したこと――が一段落した後くらいに、ぼくはマーベルコミックスと出会った。

「スパイダーマン」をはじめとするマーベルの悩めるヒーローたちが大きなブームになったのは、六十年代後半から。

ぼくがマーベルコミックスを読み始めたころは、スタン・リー氏はストーリーライターから一歩引いて編集長といった立場だったように思う。もちろん、よく知られているようにアメリカのコミックはタイトル毎に別の雑誌になっているので、いわゆる「少年ジャンプ」の編集長とは違うのだが、それぞれのヒーローが世界を共有するおおきなマーベルユニバースの総監督という立場だったように思う。

高校生だったぼくは、この人の全盛のころの作品を読みたくて、当時は珍しかったハードカバー版のマーベルヒーローやヴィランのオリジン集を取り寄せたりしていた。

「コミックブック界のシェイクスピア」

複数のコミックのストーリーを書いていたころの氏を評した当時の言葉である。

なんとなく、わかる。グローブ座の座付き作者として観客に喜ばれるような芝居を書くうちにとんでもない高みにのぼりつめてしまった劇作家と、弱小コミック会社で複数の優れたシリーズを書きまくって一大潮流を生み出したコミック脚本家とは、似ているではないか。

登場人物の喜怒哀楽の振幅も似ている。

今はどうか知らないが、マーベルコミックの吹き出しの台詞の文末には「.(ピリオド)」は使わない方針だったそうだ。必ず「!」か「・・・」のどちらかを使うことにしていたとか。それで台詞のやりとりに勢いとリズム感が出るという。ずっと昔、それこそリー編集長の「編集後記」にそう書いてあったような気がする。

ああ、面白かったコミックの思い出が次々にわいてくる。

いまごろ、天国で、先に行っている漫画家のジャック”キング”・カービーさんや、スパイダーマンの初代絵師だったスティーブ・ディッコ氏らとともに、退屈しきった天国の住人向けに、とびきり面白いコミック作りを始められたにちがいない。

Excelsior!


電車の中で読むのにもっとも適した本「大きい活字の故事・ことわざ辞典」

2018年09月19日 19時55分17秒 | 本のこと。

タイトルのまんまである。

先週の三連休に、「ツールド東北2018」に参加するために往復合計18時間電車に乗る機会があった。で、思ったのだが、乗り換えもある電車の旅の友は、あんがい辞典だな、と思うのだ。下のリンクのようなやつ。

大きい活字の故事・ことわざ辞典

国松 昭
新星出版社

学生のころは、京都駅で西村京太郎なんかを買って、家に着くまでに読み終えたりしていたんだけど、小さな活字を追うのがしんどくなってきたし、ある程度集中力が必要な小説を読むのがシンドイときが増えてきた。

そんなわけで、家にあった文庫サイズの上の辞典を持って拾い読みをしていった。

六十年生きてきて、知らないことわざがたくさんある。さらに「いい加減なことわざ」「真に受けてはいけない間違ったことわざ」もけっこうあるのに気がついたのだ。

好物に祟りなし 

「~好きなものならたとえ食べ過ぎても体をこわすことはない」

いや、だめでしょう。カラダこわしますよ。へたするとガンになるかもしれない。こんなことわざを免罪符にしないでほしい。

芸術は長く人生は短し

「人間の命は短いがすぐれた芸術は作者の死後も永久に残るので、よい作品を残すために努力せよ」

意外かもしれんが、このことわざは大間違いだと思う。創作をする人はこんなたわごとを教訓にしたりすべきではない。

このことわざを真に受けて、どれだけたくさんの人が挫折したことか。彼らの未完の作品の多くは引き出しの中にしまいこまれて、作者からも忘れ去られるだろう。つまり、結果として作者の人生よりもはるかに作品の方が短命だったりするのがオチだ。

そもそも、このことわざは、

Art is long,life is short.

というギリシャの「医聖ピポクラテス」の言葉(の英訳)の和訳なのだが、あきらかに誤訳なのである。

ここでいうArtとは、Marshal arts(武芸・武術)などのArt、つまり術とか芸というほうの意味。

つまりピポクラテスは「医術を習得するには人生はあまりにも短い、怠らずに勉強せよ」ということを言いたいのだ。

少年老い易く学成り難し

がもっとも正しい訳文だといってもいい。が、これはピポクラテスの言葉の訳文ではない。

朱子学の創始者、朱熹(しゅき)の言葉である。そして、この言葉には「一寸の光陰軽んずべからず」と続く。

まさにピポクラテスの言葉と同じことを言いたいのだ。

「役に立つ言葉」「こころにしみる」ことわざとしては、誤訳から生まれた「芸術は~」なんかより、どう考えたってピポクラテスや朱熹の方がはるかに上だと思う。

「小説作法」はぼくが生まれる前からあり、変幻自在に変化しながら、ぼくが死んだ後もずっと続いていく。だからぼくは学び続け、書き続けなければならない。

 

ことわざ辞典に載っているからといって、すべてのことわざをありがたがる必要はどこにもない。

なんてことをウグイス色の東北新幹線に揺られながら思った次第。


長編伝奇小説「ロレンソの物語」レビュー投稿のお願い。

2018年09月12日 19時09分59秒 | 本のこと。

二年間放置していたこともあるブログなので、いまさらこんなことを書くのもなんなのだか、しばらく更新していなかったのは、公私ともに忙しかったのです。

とくに今度の連休の、次の自転車イベントに参加するために準備をしていた。

 

ツール・ド・東北2018公式サイト。

ぼくはこのサイクルイベントに四回出場している。今回、五度目の参加。最初はたしか、50キロコースだった。

今年は170キロ。石巻から気仙沼まで往復するコース。そのコースは三度目だけど、なんだかわくわくしている。何度か参加している人にしかわからないと思うけど、毎年のように変わっていくのだ。堤防は高くなっていくし、仮説住宅は減ってきた。印象的だったのは、被災していち早くプレハブの仮店舗開業したコンビニが、次の年には立派な普通のコンビニになっていたり。

女川駅が素晴らしくきれいになっていたり。

ずーっとお世話になっているMさんご一家や、自転車仲間に会えるのが楽しみでたまらない。

そんなわけで、ブログから遠ざかってました。

ひさしぶりに自分の本の話。

発売してから二ヶ月になる下の本、ぼくの初めての長編の時代小説。無料キャンペーンもやったので結構な数の方に購入いただいているるみたい。

しかし、まだアマゾンにレビューがない。ないのです。

ええ、わかってます。レビュー書くほど面白いと思えなかったとか、途中で読むのやめたとか。

でも、小説を書く者として、恥も外聞も投げ捨てて、お願いします。

最後まで読んだひと、レビュー書いてください。どうか、お願いです。

初めて書いたジャンルの長編小説なので、後書きにも書いたようにいろいろ改善点があろうかと思います。が、どのような感想でもいただかないと、今後、欠点を直しようがない。若い作家ならこれからなんとでもなりますが、ぼくのようなジジイには時間はあんまりありません。むしのいいお願いかもしれませんが、どうかお願いします(_ _)。

 


「好評につき~」無料キャンペーンが文字通り「好評につき終了」した件。

2018年08月26日 18時44分32秒 | 本のこと。

ぼくのエッセイ集『「好評につき終了しました」はただしいか』の無料キャンペーンが好評につき終了しました。

無料キャンペーンは太平洋夏標準時(UTC-0700)で21日から25日まで。つまり日本標準時(UTC+0900)とは16時間の時差があります。だから、日本では26日の午後4時に終了したのでした。

いま各方面から批判されている「森元サマータイム案」だと二時間時計を進めるので、日本夏時間(UTC+1100)と太平洋夏時間(UTC-0700)との時差は拡大しますね。

時差の大きな海外旅行はしたことがないので、もし仮に日本に「サマータイム」が導入されたときに、どんぐらい旅行者が困るのか、あんまり想像できません(すみません)。まあ、導入されれば、日本国内の人々の方が迷惑するでしょうが。

それはさておき、無料キャンペーンが終わったのでランキングの表示が消えました。

有料タイトルで一位になる可能性は一ミリもないので、オビの文句をまた考えます(笑)

 


【怪進撃】「好評につき終了しました」が一位にランキング!

2018年08月22日 19時19分02秒 | 本のこと。

この間、kindleで出したぼくの本、『「好評につき終了しました」は正しいか』が、今朝見ると、kindleストアのkindle本の「エンターテインメント部門」でなんと一位になってました!

いまはさすがに下がっていると思いますので、記念にスクショ張っておきます。

いやあ、いろいろな意味でびっくりです。

最初に本を出したときは、小説部門(紙の本ですね)で五十位くらいが最高だったんですが、すごい出世ですね(笑)。

あのときも思ったんですが、アマゾンのランキングは独特なタイミングとカテゴリ分けをしますので、信用してはいけません。本はあくまで「何万部売れた」を目安にしてください。

まあ、アマゾンのシステムのクセでも、うれしいのはうれしいので、こんな帯を着けてみました。

だ、だれですかっ詐欺まがいなんて思った人はっ。小さい字で書いてあるでしょっ。

まあ、気楽に読める本ですので、無料のうちにゲットしてランキング詐欺にご協力ください。


【新刊案内】「好評につき終了しました」は正しいか が本になりました!

2018年08月20日 07時04分50秒 | 本のこと。

このブログの人気記事、「好評につき終了しました」は正しいか がなんと、本になりました!

よくあるブログを書籍化しただけのエッセイ集とは、わけが違います。

もとの記事をちょっぴり引用しただけ、ほぼほぼ書き下ろし

また作者手製のうざったいカラーイラスト数点付き

「好評につき終了しました」は正しいか
「マウンティング」のためのカタカナコトバ
大流行「ほぼほぼ」の正体を突き止めた!
「だいじょうぶ」は日本語、魔法のことば
など。

8月21日(火)午後4時より25日(土)まで無料キャンペーン実施します。

 


「本能寺の変」の真犯人はだれか? 

2018年07月30日 00時04分03秒 | 本のこと。

いや、信長って自害ですやん。「真犯人」って、あーた。

などと書くと一行で終わってしまうし、「本能寺の変 真犯人」でググってきた人がここでUターンするだろうし、ろくなことはありません。だけど、明智勢の誰かに討たれたとしたら記録に残らないはずがないので、囲まれて自害したのはまあ、事実なのかな、と思う。

だから、よくいう「本能寺の変の真犯人は誰か」かというとき、「明智光秀を操って信長を討たせたのは誰か」(つまり「黒幕」はだれか)ということを差していることがあるんだけど、正直に言って「思考ゲーム」以上の意味はないと思う。誰がどんな本で何を主張しようが日本の歴史に何も足さない。

「ゲーム」としてはどの説が面白かったかというと、下の本が最高に面白いというか、「」だった。

信長と十字架―「天下布武」の真実を追う (集英社新書)
立花 京子
集英社

いわゆる「黒幕説」の中で、最もすごい「イエズス会黒幕説」を唱えた本。ある雑誌に「緻密な論証」と紹介されていて、たまげたことがある。この本が緻密なら「地球空洞説」だって「古代宇宙人来訪説」だって十分緻密な論証だと思う。

 この本に比べると、「朝廷黒幕説」や「足利義昭黒幕説」「秀吉黒幕説」はいかにも地味。そもそも(秀吉はべつにして)この人たちに「お手紙」と「官位」以上の報酬が与えられるのか。

 下の本もずいぶん話題になった本。

「本能寺の変」は変だ! 435年目の再審請求 (文芸社文庫)
明智 憲三郎
文芸社

読んでいただくのがいちばんいいけれど、「本能寺の変」が発生した状況の説明はつく。うまくついているような気がする。読んでいる間は説得力もある。なんとマンガ化もされているヒット作。

光秀の「動機」に関する本も何冊か読んだけど、どれも上の二冊ほどの面白さはない、と思った。ぼくが「主君殺しの動機なんてどうでもいい」 と常々思っているからかもしれない。そもそも史料から一武将個人の動機を、それもたった一つだけ類推するなんで、小説を面白くする以上の意味があるのだろうか?

鬱陶しい主君が死んでみたら、スッキリした。それでいいではないか。

「安土城に入りし光秀は近江武士の帰属社寺の礼使に接し逆臣の身を以て俄かに将軍の如く時めきたり」

上の一節を、たまたま「近江蒲生郡志」という本で見つけた。晴れやかな表情を浮かべた明智光秀が目に浮かぶようだ。二週間の便秘がスッキリしたような。「信長公記」なんか読むと、信長って、上司としてはほんとうにシンドイ人物だと思う。パワハラするし、身内びいきするし。

本能寺の変の変
黒鉄 ヒロシ
PHP研究所

動機はどうでもいいと書いたけど、黒鉄先生の上のマンガはとてもよかった。 2014年に発見された新史料に基づいて、四国の覇者であった長宗我部元親と明智光秀の腹心である斎藤利三との関係を分かりやすく解き明かしていく。「本能寺の変」に興味のある方で、マンガに偏見のないひとは、へたな新書を買うよりもためになると思う。

さいごに「本能寺の変の真犯人」を扱ったフィクションでもっとも好きな本を。やっぱりマンガである。

へうげもの(1) (モーニングコミックス)
山田芳裕
講談社

「真犯人」は「秀吉」である。光秀をそそのかして軍を動かさせるのだが、このマンガの秀吉は、実際に自分で手を下すのである。つまり、変装して本能寺に忍び込み、直接、信長を斬るのだ。

あ、推理小説とちがって、真犯人がわかったからといって面白さが削がれたりしない。このマンガの肝は、そこから始まる。このマンガで描かれた「主君を殺した秀吉」像の、なんと素晴らしいことか。秀吉の臨終のシーンは涙なくして読めない。困ったことに、このマンガの秀吉があまりに素晴らしすぎて、他の小説を読んだときに、顔が山田先生の描く秀吉になっちまう(笑)、それくらい、いい。

タイトル詐欺みたいな投稿になってしまったけど、日本史の三大謎のひとつとされる「本能寺の変」は、個人的には謎でもなんでもないと考える。人間は複雑かつ単純な生き物だ。明智光秀という戦国時代では知性的で保守的な武将が、いろいろな要因が重なって、主君を弑逆した、それだけのことだと思うのだ。「できるときに、やりたかったことをやった」

2020年の大河ドラマは「明智光秀」だという。「本能寺の変」前後がクライマックスになるのだろうけど、この辺りをどのように料理するのか楽しみに待ちたい。

こんな私でも戦国時代を舞台にした本を出しています。先日、「加地尚武のThe House of Stories」で公開した短編も、ためしにKDPにしてみました。よければ、どうぞ。

  

 


【祝ノーベル文学賞】ボブ・ディランのアルバムを三枚挙げてみる。

2016年10月13日 20時32分48秒 | 本のこと。
ニュース速報を見たときに、思わす「プッ」と吹きだしてしまった。
何年か前から噂はあったけれど、まさかシンガーソングライターのボブ・ディランがほんとに受賞するとは思わなかった。

今年も期待していたハルキストのみなさんには悪いけど、ディランの受賞はとてもうれしい。
大好きなアーティストだからだ。

もちろん、あのフクザツな英語の歌詞を理解しているわけではない。ボクが惹かれるのは、サウンドと、(ほんのみじかい期間だったけど)すばらしい歌唱力。
「文学賞」だから歌詞に対して贈られたのはわかる。でもボブ・ディランは、すばらしいシンガーだった(過去形かも)。

今日は受賞記念で、ぼくの大好きなディランのアルバムを三枚だけ挙げたいと思う。

オー・マーシー(紙ジャケット仕様)
SMJ
SMJ

80年代のディラン。歌唱力で聞かせる最後のアルバムじゃないかと個人的には思う。一番好きな曲は「シューティング・スター」。ただ、泣けます。


血の轍
SMJ
SMJ

あらゆる意味で最高傑作。「風に吹かれて」しか知らない人は、ぜったいこれを聴こう! 



時代は変る(紙ジャケット仕様)
SMJ
SMJ

初期のディランといえばこれ。歌詞が聞き取りやすいので、「ノーベル文学賞」の重みを味わおう。アルバム名の曲や「ハッティ・キャロルの寂しい死」もいいけど、やっぱり「神が味方」だな。大げさだけど、魂が震えるほど感動した。

いやー、もう一本ビール呑みたい感じだ。よかった。

Kindle Unlimitedで読みかえす「シャーロック・ホームズ」

2016年08月06日 19時21分55秒 | 本のこと。
シャーロック・ホームズの冒険 【新訳版】 シャーロック・ホームズ・シリーズ (創元推理文庫)
深町 眞理子
東京創元社


ぼくはAmazonの奴隷みたいなものだ。
prime会員には3年前からやっているし、音楽を聴くといえば最近はiTunesなんかよりAmazon Musicアプリを使っている。むろん飲み物の定期購入はしてるし、暇なときはprimeビデオで古めの映画を観る。

今回、ようやく日本でも「Kindle Unlimited」のサービスが始まったのですぐに申し込んだ。
これは月額980円を払うと、対象の本やコミックが読み放題になるというもの。
本屋のドリンクバーみたいなものだ。

国内の本では12万冊。いまのラインナップはちょっと「もの足りない」感じがするけど、これから増えていくことを期待したい。

最大10冊ライブラリに入れられるんだけど、上の新約版の「シャーロックホームズの冒険」が対象だったのでダウンロードしてみる。
おお、「ボヘミアの醜聞」からだ。
翻訳が変わったので読みやすいこと読みやすいこと。百年以上前の小説とは思えない。
収録されているほとんどすべての短編は一度読んでいるはずなのだが、一日であっという間に読み終えてしまった。
純粋に面白い。
コナン・ドイルという作家が、こころから読者を楽しませようとしているのが、わかる。
改めて思ったのは、「シャーロック・ホームズ」というシリーズの「冒険小説的側面」だった。
そう、いまでいうヒキコモリのような生活を送っている青白いインテリ探偵がじっとしたまま事件を解決するというよりも、ワトソンという凡人が、うぬぼれが強くどっちかというとメーワクな友人ホームズによって冒険に巻き込まれていく物語なのだ。

そういう意味で「アイアンマン」のロバート・ダウニーJrが主演した映画「シャーロック・ホームズ」は、この「ほんとはハラハラドキドキな冒険小説」としての「シャーロック・ホームズ」をよく再現していると思う。

シャーロック・ホームズ スペシャル・バリューパック (初回限定生産) [Blu-ray]
ロバート・ダウニーJr.,ジュード・ロウ,レイチェル・マクアダムス,マーク・ストロング,ノオミ・ラパス
ワーナー・ホーム・ビデオ


ああ、楽しい。
次はジュール・ヴェルヌを読んでみようかな。

水木しげるとアドルフ・ヒットラー。

2015年11月30日 21時25分23秒 | 本のこと。
水木しげるさんが亡くなられた。
「ゲゲゲの鬼太郎」をはじめ数々の名作を残されたが、ぼくが一番好きなのは、この作品。

劇画ヒットラー (ちくま文庫)
水木 しげる
筑摩書房


二十世紀最大の独裁者の貧乏な画学生だった若者時代からベルリン崩壊までのヒットラーの半生を描いた比較的オーソドックスな伝記漫画である。
おなじみの妖怪は出てこない。普通の意味では。

だが読んでいただくとわかるのだが、この「ヒットラー」と、彼を取り巻く人物たちが、もう「妖怪」なのだ。それはどんな妖怪よりも怖い。
普通の妖怪はヨーロッパを蹂躙し、数千万のユダヤ人を殺したりしない。

93歳。男性の平均年齢よりも長いし、大往生だったろうけど、もっと長生きしていただきたかった。

「英雄か走狗か? それが問題(か)?」 あやつられた龍馬-明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン

2014年06月05日 21時35分03秒 | 本のこと。
あやつられた龍馬―明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン
加治 将一
祥伝社


ずいぶん前に話題になった本だけど、ようやく読む機会があった。
副題がなんだかおどろおどろしいけど、べつに怪しげな本ではない(と思う)。「自由」「平等」「博愛」が絶対君主制、封建制度にとって「危険思想」だった時代、フリーメーソン、あるいはこの本にはさすがに出てきていないがイルミナティといった組織は秘密結社にならざるを得なかっただけである。

そして、爛熟した海洋帝国イギリスにとって、鎖国していた東洋の島国でガラパゴス的な進化を遂げた封建制政権に対して転覆工作をするのは造作もないことだろうと思う。

この手の本にありがちな強引さに目をつぶると、ごくもっともな推論だと思う。

で、本を読み終えて思ったのだ。
いわゆる「坂本龍馬ファン」には悪いけど、結局、ぼくはこの人(龍馬)がなんでこんなにもてはやされるのかがわからない。この本にしたって、書名にもかかわらず、龍馬に書かれた部分は、実に少ない。

「脱藩」した最下級の武士にもかかわらずあれだけの手紙を出せたのはなぜか? 巨額の借金の保証人になれたのはなぜか? そもそも幕府や薩長の人間に一目置かれたのはなぜか、この本は鮮やかにこれらを解き明かしていくのだが、肝心の政権転覆工作、現地の協力者(エージェント)を操って起こした「明治維新」というなの革命において、この龍馬が果たした役割というのが、わざわざ書名にするほど重要に思えないのだ。

本のセールスの問題、つまり坂本龍馬というネームバリューや、「このひとは過大評価されてるんじゃないか」なんてうすうす思ってるぼくのような読者のためにあえてこのような書名にしているのだろうけど。

「幕末」、「明治維新」というものにロマンを感じているひとにとっては、腹立たしいことこの上ないかもしれない。あの銅像にもなってる人物が、外国の諜報機関の走狗だったなどというのは。
もちろん、この本に書かれていることはすべて真実だとは思わない。いや、そもそも完全に中立的な視点などあり得ない過去の歴史に「真実」などを求めること自体間違いだと思うけど、「明治維新」が外国勢力とその国内の協力者によって起こされた革命であってもいいでのではないか、と思うのだ。それでわれわれ日本人としての誇りがいささかも傷つくわけではない、と思う。

外圧によってしか変化することができないことが屈辱的だと日本人の多くが思うなら、今後そうならないようにしてゆけばよい。
それが「歴史に学ぶ」ということなのではないだろうか。


あ、なんか気恥ずかしいこと書いてしまった。

【お知らせ】"House of Stories"、引っ越しました。

2013年02月10日 17時35分27秒 | 本のこと。


なんと、8ヶ月ぶり?
お久しぶりでございました。わたしは元気です。一日5㎞走ってます(ジョギングの方ね)。


ちょっとプロバイダを変えようと思って、"House of Stories"という創作用のサイトを移転させました。
こっちも更新はぜんぜんありませんが、リンクされているかたは張り替えをお願いします。

もうプロバイダのホームページ用サービス使うのもめんどくさいので、FC2にしました。

せっかくなので、近況を。

去年観た映画では「レミゼラブル」、アニメは「アドヴェンチャータイム」(カートゥーンネットワーク)、本は伊東潤さんの「義烈千秋天狗党西へ」でしょうか。あ、ロードバイクはラレーのCRMです。
小説? だいぶ悩んでます。でもなんだか灯りが見えるような気もします。
ガラパゴスとソニーストアで売ってる「福音の少年シリーズ」の印税を僅かながらいただきました。

あと、個人的に、大きな心境の変化が起きてます。迷惑がかかるので詳細には書けません。


えーっと。あとですね……。

世界が滅びなくてよかったですね。ええ。それが一番ですよ。
「ゴーバスターズ」の最終回、良かったなあ。

では。もう少し頻繁に更新したいと思います。ブログもあっちも。

House of Stories をリニューアルしました。

2012年06月16日 12時53分36秒 | 本のこと。
走ってばかりいないで、そろそろ復活しようと思って、作品発表用のサイト、House of Storiesをリニューアルしてみました。

現在見られなくなっている「福音の少年公式サイト」からもコンテンツを一部移植しました。
また、サイトリニューアル記念として、単行本には収録されていないSF短編「冬のアリ」を掲載しました。「ストップ!地球温暖化」「炭酸ガス25%削減!」なんて騒ぎのさなかに書いた、氷河期の到来した近未来の日本の話です。
※我ながらあまのじゃくですね。


この作業を行っていたので、更新が滞っていたのです。

その間いろんなことがありました。
とくに敬愛するレイ・ブラッドベリについては最低でも追悼文は書きたいと思っていたのですが。

せっかくリニューアルしたので、今後、このサイトで、ブラッドベリにちなんだファンタジー短編を書こうかな、なんて思っています。

よかったら訪れてみてください。

最後まで噛み合わない人々「裏返しの男」

2012年04月16日 22時41分45秒 | 本のこと。
裏返しの男 (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社


最近、フレッド・ヴァルガスというミステリ作家に凝っている。
私は海外作家に凝り出すと、翻訳されたものを全部読んでしまうのだが、この作家もやっぱりあっという間にぜんぶそろってしまった。

「フレッド」といっても女性で、フランス語で書かれたミステリなのだが(本人はフランス人ではない)、めっぽう面白い。

ミステリとしての最高作は出世作の「死者を起こせ」、次点は「青いチョークの男」なんだろうけど、この「裏返しの男」も面白い。

こんなほめ方がミステリ作家に対してどうなのかわからないのだが、フレッド・ヴァルガスは殺人事件が起こらなくても面白い作家だと思う。じじつこの本で最初の殺人事件が起こるのはだいぶページが進んでからなのだが、それでも面白くてたまらない。謎があって真犯人がわかっても、たとえそれがミステリ的にたいしたことがなくても、なぜか低く評価することができない。

ヴァルガスのファンならわかってもらえると思うけど、個性的な登場人物の噛み合わない会話が死ぬほど好きだ。
そうだ、人間同士のコミュニケーションなんて、こんなもんだ。彼女の周到に計算されてる(かもしれない)会話を読みながらわたしはそう思う。探偵役と読者の代弁者役のかみ合い過ぎる会話なんて、悪役の説明語り以上につまんねーだろ、と。

そんなわけで、わたしは次に翻訳されるヴァルガスの本も買うだろう。

あ、ちなみに、この本はオオカミが人を噛む話です。


【読書】世界を変えた自己愛性性格異常者「スティーブ・ジョブズ」

2011年10月30日 14時59分41秒 | 本のこと。
スティーブ・ジョブズ I
クリエーター情報なし
講談社


いわゆるベストセラーは、あまり進んで読まないのだけど、この本だけはアマゾンで予約していた。このさい電子書籍で購入しようかと思ったが、正直に言うと、今の日本で新刊本の電子書籍を買う気がおこらない。どうせならiPadで気持ちよく読みたかったのだが・・・

二巻本の一冊目は、ジョブズがアップルを立ち上げ、追われ、「トイ・ストーリー」がヒットするまで。

アップルを追われるまでの経緯は「アップル・コンフィデンシャル」やムックなどでおなじみの物語だが、細かなネタが面白く、一気に読めた。
とくに娘「リサ」のこと。成功しなかったオフィスコンピュータの「リサ」の名前の由来について本人がきっぱりと肯定したのはこれが初めてではないだろうか。

よくできた伝記がみなそうであるように、その人物の偉大さと同時に卑小さ、非情さ、性格的欠陥もまたよく描けている。
タイトルは、ジョブズの恋人の一人の認識である。

たしかに、多くのエピソードが物語るジョブズは、明白な性格の異常性を持っている。しかし、だからどうだというのだろう。
この本は、ジョブズという人物を描く本なのだ。ビジネス書ではない。まちがっても自分の仕事に活かそうなどと思ってはいけない。凡人たるわたしはそう思う。

ここには一人の男がいる。いつまでもハングリーで、いつまでも馬鹿げたことを思いつく男が。

二冊目が楽しみである。アップル追放、ネクストの失敗という苦い良薬を得たジョブズが、もっと世界を変えていくに違いない。