心の底からヤクザを忌み嫌った吉雄とは違い
吉雄の父親の吉一は根っからのヤクザ、と言うよりは渡世人であった
関東一円の祭礼を統括する「関東小梅一家」に居て、若いながら副小頭だった
偶々健一の実家の村の鎮守の縁日もその影響下にあり、その打ち合わせと祭礼日前後に、何年にも渡り、村を訪れていた
そんな中で、集団就職先から戻って来ていた吉雄の母親と出会って結婚をして、東京で住んだ事も有ったし、吉雄をもうけたりした
そうして、組での責任が増すに連れて、不本意ながらも吉一は何度か入出獄を繰り返した
ある時、しばらく振りで出所して、吉雄の母の池田文枝の実家に居た事が有った
散歩に出て、村の鎮守から丘の上の「弁天池」を回った時の事であった
下り道から林の中に入った辺りで一人の少女が坂を転がり落ちて泣いていたのに遭遇した
どこの子供かが分からないままに、とにかく麓まで連れて行こうと思って連れ立って丘を下りた
子供は転がり落ちたショックでなのか、記憶が失われていて
「名前は?」「どこの子供なの?」と聞いても
答えられなかった
丁度自動車道路まで出ると、車に乗った青年が「兄貴ー」と窓を下ろして叫んで来た
「親分が刺されたー」と続けて叫び掛けた
「すわっ」と
無意識に子供の手を引いて車に乗った
隣町に入り、東京への分かれ道まで来て
「そうだ、この子を下ろさなければ」
と気付き、車を停めさせ、そこを歩いていた子供に
訳を話して「交番に連れて行ってくれ」と頼んだ
親分の命が危ないと聞いて、とにかく慌てていた
しばらく走って少し落ち着いてから
「少なくとも大人に預ければ良かったのにー」
と悔やまれて来た
(続く)
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