吉雄の出現が余りのも予期しなかった事だったのが、健一を不安にさせた
よそ者が来れば村人が知らせてくれる事に安心し過ぎていた
吉雄のように元々住んでいた者は「よそ者」とは思われない
それが引っかかったので、ちよに
「少し寒くなりそうなので、早めに食べよう」
と言って支度をさせた
エミは御機嫌な様子で、楽しそうにピクニックの御馳走を食べながら
「健一は兄弟姉妹はいないの?」と聞いた
「うん、いない、昔はいたのだが…」と答えた
「どう言う事?」
「小さいころにいなくなったの」
「どう言う事?」
「僕が十歳の時にその妹を連れて遊びに来た時に行方不明になったんだ」
「どう言う事?」
「この弁天池まで遊びに来たんだ…、 珍しいトンボを見かけたので、そちらに気を取られて追い掛けていたのだ…、五六分して、妹を見ると、さっきまでいた土手の上にいないのだ…、慌ててあちこちを探しまくったが見当たらない…」
家に跳んで帰り、村中大騒ぎになった
池に落ちたのではないかと言う者もいて何艘もの小舟を出して捜索もした、暗くなるまで大勢で探したが見つからなかった、持っていた小さな袋も履いていた下駄も、それこそ何一つ痕跡を残していなかった
「神隠し」だ…、と皆が思った
「あれから十年ちょっと、今日初めてここに来た…」
と言った健一には後の言葉を続ける気力は無かった…
(続く)