拙宅に月参りに来宅いただくお寺様に機会あるごとに、篆刻の魅力について
読経が終わってから雑談で何度もお話してきました。
それから数年経過、あるとき
「私、篆刻をやってみたいのですが、どういう手順で学べば宜しいでしょうか?」
「わかりました。素晴らしい決断ですね。
ここに小生の作成した小冊子がありますので、ざっと目を通してみてください。
ただ、小生はまだ初心者レベルを少し超えた程度ですので、予め了解ください」
「まず、どのようにやればいいのでしょう?」
「そうですね。上達の早道は書道の臨書と同じで、先人の作品をそっくりマネをする
摸刻がお勧めです。
摸刻の良い点は文字のデザイン性とか起筆、終筆などの線質なども学べることですね」
「どんな作品を摸刻すればいいのでしょう」
「それぞれ篆刻家によって摸刻の作家の選択は異なりますが、篆刻の歴史の中で評価の
定まっている河井荃蘆先生の作品の摸刻をまずはお勧めします。
しかし、摸刻っていうのは大変疲れますから急がずゆっくりやってください。
特に白文(文字の部分が白い)は一端刻してしまうと細くしようとしても不可能ですので
慎重にやってください」
それから苦労して摸刻され、その作品を拝見してその出来栄えに驚きました。
「随分と苦労されたことでしょう! 素晴らしいですよ。
次回は朱文(文字部分が朱色)の作品にチャレンジされたら如何ですか?」
本当に素晴らしい出来栄えでした。
印材への字入れも転写方式もありますが、鏡を見ながらやる方が勉強になりますので
その方法をお勧めしました。
摸刻される前に申し上げたことは自己表現を殺し、そっくりマネをすること。
始筆、終筆、線の太さなども細心の注意を払うこと。
摸刻がある程度できれば意臨(自分の味も多少加える)に入ることができます。
写真は河井先生の作品です。
何事もお稽古は年齢が早ければ早いほどいいのは当然です。
定年退職後から篆刻を始めてもその到達点は登山に例えれば精々千メートル級の山に終わりそうです。
そうしたことが分かるのは残念ながら始める前はゴールがどこにあるのか知る由もなしです。
マラソンなどではゴールが明瞭です。
しかし、趣味の世界で篆刻を究めるためには何を学習せねばならないのか、
カルチャースクールではその道筋の詳細について教えられることは稀です。
講師(先生)の立場に立てば、そこで弟子を育てるというよりも受講生の満足度を高める
のに気遣いされることでしょう。
例えば公募展での入選とか入賞とか。
些少ながら様々な経験を教訓にして若いお寺様と一緒に篆刻を楽しんでいければ、と
思っています。