無法者頭と特別な乗騎

バイクとTRPGの記録

顔なきもの -3

2024年06月15日 | 顔なきもの
【ネタばれ注意】本記事はシナリオ「Skarok and a Hard Place」の内容を含んでいます。

ウィズマーは仮事務所にしている市庁舎の一室で町の代表たちと話し合いをしていた。市長と邪教徒の行いは町の住人には知らせず、風車小屋に現れた怪物との戦いで命を落としたとだけ伝えられた。ウィズマーは有力貴族の風格と実力を発揮し、うろたえる町の代表者たちをまとめ上げウィズマーが相応しいと判断した人物を新しい市長に据えた。この決定は町の住人に友好的に受け入れられウィズマーに対する評価もあがった。

町が落ち着いた頃合いを見て一行はハルト市を出発した。ウィズマーの出立を惜しんだ町の人々は街道に列をなして盛大な見送りをした。
「さて次の村が最後の休憩地だ。そのあとは無法者やグリーンスキン、ハーピーなどの怪物が跋扈する山道になる」ウィズマーが仲間に説明する。
「次の村はどんなところだい? 砦のようなところかな」ヤッタランが言う。
「ヴェルゲッセンドルフという寂れた寒村だそうだ。危険な所にあるにしては無防備だな。ときおりライクランド伯-つまり皇帝陛下だな-が思い出したようにグリーンスキンの討伐軍を寄越すことがあるらしい」
「シグマーを恐れよ! 噂ではその村では邪教徒がシグマーを冒涜する儀式を行っているとか。確かめねば」

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ヴェルゲッセンドルフは、崩れかけたレンガ造りの大邸宅の周囲を取り囲む、おんぼろ木造家屋の集合体だ。野生の恐怖からの防御は、背は高いが貧相な木の柵だけ。その柵を補強するかのように、野蛮な獣やグリーンスキンの頭蓋骨を刺した杭が立っている。 この村の門はひとつで、ボロボロの軍服を着た弩弓兵がよそ者を警戒している。いつも寒く湿っていて、足元は泥でぬかるんでいる。空気には湿った麝香のような臭いが重く漂い、町の老朽化した家々の煙突から出る煙は、大気をいつまでも灰色の暗がりに包んでいる。

ここの人々は顔色が悪く、痩せこけ、元気がない。まるで毎日を生き抜くだけで精力を消耗しているかのようだ。興味深い場所は古カラス亭という酒場と黒いメイル・コートを着た獰猛な槍兵に守られている村長の屋敷だけだ。

古ガラス亭は今にも倒れそうなほど傾いている。 狭い窓からは光が差し込み、店内からは騒々しい笑い声と酔っぱらいの歌声が聞こえてくる。入り口の外に倒れている若い兵士は顔を泥の中に突っ込み、右手には空のタンカー(大ジョッキ)を握っている。その脇で別の兵士が膝をつき、血と嘔吐物を吐いている。それぞれ革の鎧の上に、唸るイノシシの頭が刺繍されたタバードを羽織っている。

「無法者が村を占拠しているわけではなさそうだな」泥、ぬかるみ、酔っ払いの吐しゃ物、アルヴィンは巧みな足取りでそれらすべてを避けてゆく。彼にとってはごみ溜めも舞踏会場も、そして決闘の場でも変わらない。常に優雅に達人の歩みだ。ガサツな男には彼がどれほど危険かは分からない。だたの気に食わない伊達男にしか見えない。
一行が酒場に入ると一瞬会話が止まる。一瞬の間にお互いの値踏みが完了し再び喧騒に包まれる。

パイプの煙が立ち込める酒場の中では、同じような服装をした十数人の兵士たちが、いびつなイノシシの紋章を掲げて暴れまわっている。 一角のテーブルの後ろには、地元の人々がうずくまっている。 恐怖におののく店主と使用人たちはバーの下に隠れ、酔っぱらいにビールを飲ませている。 立派な鎧を身に着けた、隻眼で黒髪の男が兵士たちのリーダのようだ。彼は燃え盛る暖炉のそばに立って、火のついた薪で危険なジャグリングをしている。

カウンターに腰を据えたアルヴィンの後ろに体格の良い一人の兵士が近づく。他の兵士はお互いを小突き合い期待を持って成り行きを見ている。
「おいアンタ、ずいぶんとお上品なものをぶら下げているな。途中ですぐに折れちまうんじゃないか?」男はアルヴィンの高価なレイピアを指差し、腰を下品に振りながら手垢のついたジョークで挑発し、悦に入っている。
「私の武器は常にスマート、レディにも評判が良いよ。君の太くて頑丈なモノはグリーンスキン向きかな」男は目を細めて笑みを浮かべる。
「いいだろう、俺と勝負しろ。勝った方が相手の武器を頂く」
「よろしい、軽くひと遊びといこう。先に血を流した方が負けだ」
アルヴィンの勝ちを疑わないウィズマーは遊びが乱闘にならないようにと追加の提案をする。「ではわが友アルヴィンが勝ったら私がここにいる皆に酒を奢ろう」

アルヴィンは決闘者だ。兵士でも殺し屋でもない。流儀としてその戦いは人に見せるものだった。この戦いはゲームであり彼が得意とするものだ。しかし相手の兵士にとってゲームと殺しは地続きだ。挨拶代わりの試し合いなどしないし、アルヴィンに対してそんな余裕はない。ルールはある、しかし戦場ではあらゆることが起こり得る。殺しが好きなわけではない、死はありえる一つの結果に過ぎない。
アルヴィンが繰り出した試しの一撃は自分を傷つけるものではないことは分かる。そして自分より敵の方が強いことも。この苦境を打開する技などなく、作戦を考える頭もない。彼の戦いは気合、力任せの強打、そして幸運が全てだ。
アルヴィンの試しの一撃の引きざまに合わせて剣を目いっぱい振るう。まったく無意味な対応だが、油断しきっていれば敵の武器を弾き飛ばすか、あるいは大きく態勢を崩させることができかもしれない。一方自分にも大きな隙ができるため後先考えない行動だ…と普通は考える。だが彼は考えない、直観と激情で行動する。
アルヴィンは筋力頼りの未熟な反応に苦笑しながら教科書通り敵の反応に逆らわず受け流す。相手の武器に沿って剣を滑らせ小手に軽い、そして回避不能な一撃を繰り出した…はずだったが、兵士の手入れ不足の剣の欠け部分に武器が引っ掛かり勢いで持っていかれそうになる。慌てて武器の軌道を上方に変えたせいでわき腹が無防備になってしまった。兵士はその隙を見逃さず、攻撃のために大振りした武器を力づくで無様な軌道で引き戻した。これがアルヴィンにとって予想外の一撃となった。ただ引き戻すためだけの無勝手な剣の動きはアルヴィンの脇腹を切り裂き血が流れた。
「これは見事な驚、まさに戦場の技。私の負けだ、この武器は君のものだ。私はアルヴィン=ステュッツマンだ、君の名を聞かせてくれ」
「俺はアルテミウス、お前もなかなかだったぜ」

これで傭兵たちは我々の邪魔はしないだろう。むしろドラッケンフェルズ城へ向かうための護衛として雇っても良いかもしれない。次は隅の方で怯え切っている村人たちを何とかしてやらんとな。村人が邪教信仰に染まっていると思い込んだプファイルを前にした彼らは死刑宣告を受けた囚人と同様だ。プファイルの尋問-彼なら説教というかもしれないーは心の弱い人を精神的に殺すことができるからな。
富と権力の霊気をまとったウィズマーが温かい笑みを浮かべながら近づくと、哀れな村人は地獄に仏を得たかのようにすがり付いた。

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「なるほど、つまりお前たちは正直者で敬虔なシグマーの信者だと言うのだな。にもかかわらず余所者の傭兵たちに唯一の憩いの場であるこの酒場を占拠されてしまったと。対処すべき村長は息子が行方不明になったことで職務を放棄し家に籠ってしまったのだな」
「はい、その通りでございます」
「そして神の使いであるジーベン師がお前たちの魂を救うべくもたらされたと」
「いや、それは…」、「シグマーを称えよ!」
村長の息子の捜索を手伝い、あわよくば見つけ出してやればこの村は私に協力的になるだろう。ドラッケンフェルズ城への拠点とするには好都合だ。付近を探索するだけでも十分に意味はある。早速訪ねてみよう。ここよりはマシなベッドがあるかもしれないしな。

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町の中心にある市長の邸宅はレンガ造りの堂々とした3階建て立派なものだが、よく見ると外壁はひび割れ、窓には汚れこびりつき、屋根のスレート瓦の何枚かは欠けている。正面玄関は短い石段を登ったところにあり両脇に黒い胸当てと兜を身に着けた槍兵が立っていた。

館内は薄暗くアンティークの家具が雑然と置かれている。 板張りの壁には色あせた絵画やガラスのような目と虫くいだらけの毛皮を持つ動物の剥製が吊るされている。 年老いた執事に出迎えられ村長の応接室に通される。オーク材の机にそびえたつ乱雑な羊皮紙の山の背後のおんぼろ椅子に村長が腰かけている。背後に飾られている水晶の髑髏と美しい剣だけがこの屋敷で価値ある品物のように思われる。

シュマリングは痩せて気難しい男で悲しげな目をし口ひげを垂らしている。高い地位にふさわしい高価なシルクとサテンのスーツはところどころ糸が切れつぎはぎだらけだ。喉元にはくたびれた付け襟が巻き付いている。ボロボロのウィッグをかぶりその下からは白髪が覗いている。

「私はマキシミリアン・シュマリング、この村の村長だ。君たちが私の苦境を救うために来ることは知っていた。先ずは感謝する」
彼は悲しみに満ちた重い声で穏やかに話しだした。 彼は金枠に入った小さな肖像画を抱いている。その肖像画にはハンサムと呼ぶにはあまりに病弱そうな10代後半の青年が長い金髪に上品な貴族の服装で描かれている。
「これが我が最愛の息子、ガイウスだ。息子は数日前、森林主任のエミール・ハルトマンら当家の使用人たちと狩りに出かけた。 不運にも保護者たちとはぐれてしまいそれ以来見つかっていない。ハルトマンは探索隊を組織し捜索したがガイアスが最後に目撃された場所の近くでグリーンスキンらしい足跡を見つけただけだった。捜索は毎日のように行なわれているがこの村には森の奥深くまで行く勇気のある者がおらず成果が出ていない」
「シグマーを信じよ!信じる者は救われる」
「グリーンスキンの痕跡の近くに血の跡が無いのなら少なくとも今はまだ生きている可能性が高いだろう。だた広い森を我々だけで捜索するには人数が足りない。酒場にいる傭兵を雇ってはどうだろう」
「構わない、金も出せる。傭兵のことは知っていたが、私のオラクルカードが勇者の到着を告げていた。君たちを待っていたのだ」
「おっさん大丈夫か?」ヤッタランが思わず思いを言葉に出す。
「私たちが勇者か否かはともかく、できることをしよう」
ヤッタランは懐から風変りな方位指針盤を取り出し熱心に操作を始めた。これは先天方位指針盤、魔力の風を感知することができる。指針盤は村長の後ろにある水晶の髑髏からダハールの風、魔術師が言うところの暗黒の風が吹いていることを示している。
「村長、後ろにある水晶の髑髏は何だ?」
「これは当家に古くから伝わるものだ。祖父はこの髑髏が発する邪気がグリーンスキンやビーストマンどもを村から遠ざけていると信じていた。隣の剣も古いものだが由来は伝わっていない」
ヤッタランが手にするとそれはわずかに暖かい。そして頭の中に不明瞭な囁きが響く。しばらく意識を集中するとそれが明確な言葉を成す。
「殺せ、あいつを殺せ!」

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結局ウィズマー一行は家宝の水晶髑髏と剣を受け取り、傭兵には前金として金貨25枚、成功報酬として金貨25枚支払うことで話はまとまった。翌朝出発し昼過ぎのこと。
「じゃあ俺たちはここで」嫌な笑みを浮かべながら傭兵隊長のクルツが言った。
申し出は意外ではないようで落ち着いた態度でウィズマーは聞いた。
「理由を教えてくれ」
「そうだな、ここにいるグリーンスキンは数体のはぐれ者というわけじゃない。ここにはグリーンスキンの正真正銘の部族がいるのさ。あんた達は腕が立ちそうだが、十数人の部隊でどうこうできる相手ではない。あんたも分かっているんだろ」
「我々は特殊作戦の専門家だ。規律を保って指示に従えば名誉と金を手に入れることができる」
「そう言う貴族様を何人も見てきた。大抵の場合手に入るのは血と泥だ。半分の金貨は手に入れたから今回はそれで十分だ」
「そうか残念だ」
「クルツ待て、お前に名誉を得る機会を与えてやろう」アルヴィンは鞘を払った武器を顔先に立ててから切っ先をクルツに向けた。
「私が勝ったらお前たちは契約通りリヒテンラーデ公の指揮で戦う」
「いいだろう、今度は遊びではない。生き残ったほうが勝者だ」

「シグマーの金床にかけて、いいのかウィズマー。どちらかが死ぬことになるぞ」
「決闘者に決闘をやめさせることはできないよ」そう言うとにらみ合う二人の間に進み出た。
「アルヴィンとクルツの決闘を宣言する。立会人はウィズマー・フォン・リヒテンラーデ、勝負はどちらかが死亡するか戦闘不能になるまで、あるいは降参を宣言するまで。双方遺恨無く。はじめ」開始を宣言すると同時に、向かい合うアルヴィンとクルツの間に差し出した手を引いた。ウィズマーの引いた手の陰からクルツは必殺の一撃を放った。自分を遮蔽に使われたウィズマーはアルヴィンの死を予測し目をつぶった。
キンッ
クルツの剣を受け流す冴えた金属音が響き渡った。
「このような奇襲攻撃は1875年エスタリアの決闘者スアレスのものが有名だ。彼は立会人の腕ごと相手に一撃を加えた。それに比べれば非常に紳士的な攻撃だ。ちなみにその決闘で相手は死んだがスアレスの負けとされた」アルヴィンが楽しそうに解説する。
「そうかい。昨晩みたいな舐めた戦いをしてくれていれば、今の一撃で終わっていたのに。厄介な奴だ」
遅いが重装甲に守られたクルツは多少の傷は無視して密着戦あるいは組打ちを狙う。一方軽装なアルヴィンは中間距離を維持しながら前後に素早く動き相手の防御の隙間を縫って小さな傷を与えて心理的に追いつめる。だがどちらの目論見も上手くいかない。決闘場の主と戦場の主はそれほど違うのだ。しかし生死を賭けた戦いにおいては数多くの理外を生き抜いたクルツに利があるのではないか。
最初の勝機はやはりクルツが得た。戦いは持久戦の様相を呈していた。速度に勝るアルヴィンの剣がクルツに傷を与えるが、クルツは全く意に介せず体をぶつけるようにして強引に前に出る。昨晩の決闘で受けた傷のせいでわずかに反応が遅れたのを見逃さず、クルツがアルヴィンの右手に深手を負わす。大量の血が流れだすがアルヴィンの笑みはさらに深くなる。
「アルヴィン、その傷じゃもういくらも立ってられないのじゃないか」勝利を確信したクルツはそう言いながらアルヴィンの連続攻撃をかわした…はずだったが最後の一撃が鎧の隙間を縫って肋骨を切り裂いた。今までに受けた小さな傷が積み重なってクルツの動きを鈍らせていたのだ。
「確かにそろそろクライマックスだ、どちらが死ぬにせよ」
胸に深手を負ったクルツはまともに戦えない状態だ。だがアルヴィンの出血も相当だ。クルツがこのまま時間を稼げば先に倒れるのはアルヴィンだ。彼は地面を這うようにしてアルヴィンから離れる。血を流しながらゆっくりとアルヴィンがその後を追う。
「さようならクルツ」アルヴィンの最後の一撃はクルツの胴体を真っ二つに切断し、近くにいた傭兵団員たちに血の雨を降らせた。

==========
「今後この隊の指揮はアルテミウス、君に任せよう。この任務の間は私に従ってもらう。任務が終われば金貨25枚を受け取って後は自由だ」
「任せろ、グリーンスキン退治は得意だ」
「今回は殲滅任務ではなく救出なんでほどほどに頼むよ。少し遅くなったが、エミール現場へ急ごう」

一行は村の森林管理者であるエミール・ハルトマンの案内で木々の間を進んだ。村長の息子のガイアスが姿を消した場所へと続く道は暗い森を縫うように続いている。周囲は不気味に静まり返り、鳥の声すら聞こえない。その場所の地面には争った形跡が残っていた。踏み荒らされ、低く垂れさがった枝が折れている。ここでハルトマンはグリーンスキンの顔が粗雑に彫られた青銅のバックルを見つけた。更に何かを引きずった跡と大きな鋲付きブーツの足跡とゴブリンの足の爪痕も見あった。加えてハルトマンがここで見つけた”G”の文字が刻まれた銀の短剣はガイウスのものであることをシュマリング村長が確認した。
「この引きずった跡をたどろう」
そのまま不穏な気配が漂う森を進むと前方にグリーンスキンが現れた。こちらを監視するだけでじっとしている。退路を断つように後方にもオークとゴブリンの一隊が出現した。アルテミウスは口汚く罵りながら後方のオークに突撃した。
「奴らはなにをしているんだ?」ウィズマーが疑問を言葉にする。
「何かを待っているようだな」ヤッタランの推測を裏付けるように巨大なオークが現れた。

「パーレイ」巨大なオークが現れた茂みの奥から小柄なゴブリンが縄で縛った人間の首元にダガーを突き付けながら現れた。そのゴブリンが着ている州軍のコートは大きすぎて裾を地面に引きずっている。首にはエンパイア軍のドクロのメダルを鎖でぶら下げている。貧相な外見とは反対に彼の種族には珍しい肝の据わったオレンジ色の目は知性に輝いている。そして人間の言葉を話すことができた。
「このオカタはスカロック・ノーロック。テンをつくイダイ。ボーン・クラッカーのゾクチョウ。オレはチュウジツなダイベンシャのフォン・マゴット。スターランド・シュウグン、ダイ3レンタイのマスコットだ。オマエらこのキゾクのコどもをたすけるからアード・フェイスをつれてこい」
「とりあえずアルテミウスを落ち着かせた方がよさそうだな」アルヴィンは後方へ向かった。

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