ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

支線に乗ると

2012-10-25 00:02:59 | 嫌いだ嫌いだ


蒸気機関車
本当は蒸気機関車がいい
複線の北へ向かう本線
だから
銀色ラッコの毛皮を着込んだ
小太りのワル
とか

当然
南へ向かう夜行列車と
すれ違ったりする

いやだから
そういうわけにはいかない
単線の
本線から海岸へ向かう支線の
ディーゼル・カーさ
せいぜい

上り列車とは
どこかの小さな駅で
行き違う
だけ

支線に向う始発駅で
息を切らしてホームに降りて
ボタンを押してドアを開けると
マフラーをしたたくさんの高校生が
座席を占有している
たったの二両編成
ようやく空いた席を見つけて
座り込んで汗をぬぐう
車内は
心地良く暖められている
温かいお茶のキャップを開けて
ひとくち

大きな風呂敷包みの荷物を脇に置いたおばさん
が向かいの席でこっくりこっくりと眠っている
朝に獲れたばかりの魚介類を詰め込んで
内陸の在所を売り歩いたおばさん
売れ残りは
二足三文で売り払ったか
いつも最後に一服する馴染み客の家に
タダで置いてきたか

過酷な労働の終わりのない疲労の束の間の休息
とでもいうように
いやそんなことはない
今日も馴染みの客たちに
美味しい魚を届けて
それがわが身の身入りにもなる幸福に
身をゆだねて
だろうか

おばさん
あなたは五〇歳か
四七歳か

おばさん…
おばちゃん…
おばちゃん!
いやたぶん
六七歳ではないだろう

ぼくはもう五六歳だ
おばちゃん
あなたは
まだたぶん
四七歳だ
娘は二十歳を過ぎて
すでに小さな孫もいるはずだ

ああなんと貧しく
なんと生活に疲れて
年老いている

車掌が巡回して
「切符を拝見」と
検札するが
おばさんは眠っている
車掌は
顔見知りのおばさんの顔をちらと見やって
声をかけず通り過ぎる

終点の手前の駅で
おばさんは
取っ手を回して
ドアを押し開けて
ホームに降りていく
高校生たちはすでに
始発の駅に近いずっと手前の駅で
ボタンを押して自動ドアを開けて
三々五々に列車を降りて
だれも残っていない

終点のまちまで居残った乗客たちは
ボタンを押して自動ドアを開けて
ホームに降り立つ
列車の中には乗務員が残って
忘れ物や何かを点検して
その後に降りてくるのだろう

夜のホームの
風が冷たい
いや
本当の北国の風のようではない
生半可な北の国の
生冷たい風

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