ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

佐藤成基 国家の社会学 青弓社

2015-05-04 21:16:45 | エッセイ

 佐藤成基は、法政大学社会学部教授、東大の大学院からUCLA大学院に学んでいる。奥付に生年の記載はないが、東大文学部社会学科の卒業年次を見るといま、50歳前後らしい。

 社会学というのは、大学の文学部があれば、哲学、歴史地理、日英独仏の文学、心理学と並んで、ほぼ必ず学科とか専攻とかがある学問分野である。しかし、何を学ぶのかいまいち焦点がクリアでないきらいがあって、若い頃は興味の範囲外というイメージだった。哲学ほど原理的でなく、文学ほど文学的でなく、法学や経済学ほど実学的なイメージもない、なにか中途半端なもの。(文学ほど文学的でない、というのは同語反復で意味不明だが、なんとなくイメージで分かってください。)

 文化人類学は、哲学との離れ具合が社会学とほぼ同等だろうか。人間の社会を扱うという意味では、広い意味で社会学の一分野と言ってもいいのかもしれない。(このあたりも意味不明だな。)

 ところが、最近、どうも社会学者の書いたものをよく読んでいる。

 宮台真司、北田暁大、というか、最近は、大澤真幸か。そうだな、いま、継続して読んでいると言えるのは大澤真幸くらいだな。よく読んでいるとまでは言えないか。あ、そうそう、福島の開沼博とか、テレビによく出てくるイタリアンのシェフに良く似た古市憲寿とか。

 大澤真幸は、社会学者でありつつ、思想家、哲学者というほうにはみ出してきている。面白く読み応えあり、そうそうと膝を打ちながら読む、という本が多くなっている。

 彼の本は、ひとりよがりな狭い意味での哲学的世界にとどまらず、現実の社会と関わる限りでの哲学的、原理的思考を扱う、生きた思想を扱う、みたいなイメージもあるのかもしれない。

 そうか、社会学は、哲学から現実の社会の方へウイングを広げた学問というふうにも言えるか。

 私自身は、大学でいちおう哲学思想の専攻だというような話になっていて、職業は市役所の職員で、地方自治論とか行政学とかも学ばなくてはならない、みたいな興味の拡がりの中で、最近、國分功一郎もなかなかに興味深い思索を展開しているということになっている。國分功一郎は、哲学のほうから、地方自治にアプローチしてきた学者。

 哲学、文化人類学、社会学、政治学、行政学、地方自治論、みたいな広がり。

 そんななかで、この「国家の社会学」も引っかかってきたということになる。

 

 「本書は「国家の社会学」と銘打っている。では、「社会学」とはいったいどういう意味なのか。これは、社会学者にとって最も聞かれたくない質問の1つである。社会学者に共有された「社会学」の定義が存在しているわけではないからである。」(はじめに 13ページ)

 あ、やっぱり、そうなのだ。「社会学者に共有された「社会学」の定義が存在しているわけではない」、なるほど。

 ま、それはそれとして、続きを読んでみる。

 

 「だが、ここであえて「社会学」を名乗るのは、次の2つの理由によっている。/第1は、国家を社会集団や組織の1つとしてとらえ、他の社会集団と国家とを質的に(量的にではなく)区別するような、国家に独特な特性がどのようなものなのかを明らかにするというアプローチをとっていることである。」(13ページ)

 

 これは「マックス・ヴェーバーの視点を継承している」のだという。佐藤は、「ヴェーバーが「職業としての政治」という短い論考のなかでおこなった国家の「社会学的定義」」として以下の通り引用する。

 

 「国家とは、ある一定の領域の内部で ―この「領域」という点が特徴的なのだが― 正当な暴力行使の独占を(実効性をもって)要求する人間共同体である。」(14ページ)

 

 もうひとつの理由は以下の通り。

 

 「第2に本書は、国家内部の過程よりも、国家の統治がわれわれの社会生活とどのような関係にあり、われわれの社会生活にどのような作用を及ぼしているのかということを問題にしていく。」(14ページ)

 

 そして、「本書は、これまでの社会学と社会学周辺の領域で論じられてきた国家に関する論考を紹介しながら、近代国家についてさまざまな側面から概観し、国家に関する社会学的な共通了解の輪郭を描き直してみようというものである。」さらに、大学のみでなく、「国家に関心をもっている独学者にとってできるかぎりわかりやすく、国家の多面的な特徴について論述してみるつもりである。」(15ページ)とあるとおり、狭い社会学の内部だけでということでなく、「国家」とは何かを考えよう、学ぼうとする初心者にとって役立つ本であると言える。

 初心者にとってというだけでなく、「国家」を真正面に取り上げた社会学の文献として例がなかったものでもあるという。読みごたえある意欲作である。

 目次から、国家と並べて考察される言葉を拾っておくと、「暴力」、「官僚制」、「戦争」、「正当性」、「社会」、「統計学」、「ナショナリズム」、「資本主義経済」、「民主主義」、「社会福祉」、「グローバル化」、「脱植民地化と「崩壊国家」」、「現在、将来」などである。ゆるやかに16世紀から20世紀と歴史的な流れに沿ってまとめてある。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿