ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

今井美樹がユーミンを歌う

2013-10-26 23:54:27 | エッセイ

  今井美樹は、ユーミンが創った作品である。

 宮崎県の片田舎で生まれた娘、その父親は、オーディオ専門店を経営する、アマチュアジャズ愛好家だったという。そういうバックグラウンドの上で、小学校1年生のとき、ユーミンと出会う。

 はじめて買ったアルバムが「14番目の月」で、ユーミンを聴きこむ。ピアノを弾いて、ユーミンの歌をうたう。ユーミンの世界観のなかで育って行く。

 高校を卒業して、東京に出る。田舎の小さなまちをとにかく出たかったと。モデルとなり、女優となり、そして歌手としてデビューする。

 歌手として、ユーミンの作った歌を歌ったわけではない。ユーミンが作曲したり、プロデュースしたわけではない。

 もっとも、今井美樹の歌のジャンルは、大きく言ってニュー・ミュージックであり、今で言うJポップの源流のひとりといえる。まさしく荒井由美が、松任谷由美が創りだしたジャンルであることは言うまでもない。ユーミンの後継者のひとりであることは、いまさら言い立てるまでのことでもないだろう。

 しかし、何と言うんだろう。今井美樹は、そのなかでも、傑出している。ユーミンの歌を聴いて、メロディも歌詞も大好きで、その世界観の圧倒的な影響の中で育った、ユーミンの次の世代から生まれた作品のなかの傑作。

 歌手としての今井美樹が生まれて、ユーミンの偉大さが改めて証明されたというような。ユーミンが切り開いた世界の豊饒さを明かす傑作。

 「赤いスイートピー」を歌った松田聖子も、ユーミンの、一種の素晴らしい作品であることに間違いはないのだが、むしろ、歌謡曲というそれまでの日本の伝統的な世界、ユーミンとは異種の世界の人種が出会った突然変異というか。松田聖子が成功することによって、ある種、ユーミンのほうがメタモルフォーズしたみたいな。

 今井美樹は、純粋な、ユーミンの切り開いた世界で、種子から発芽して花咲いた作品だと言える。100%ユーミンの子孫。

 もっと若い子でいえば、ジュジュという歌手もそう言えるかもしれない。テレビで、ちょっと見たくらいなので、ひょっとすると、というレベルのことだが。

 まあ、多かれ少なかれ、現在の日本の音楽、特に女の子の音楽は、すべからくユーミン以降であるほかないわけだ。

 もう60歳の松任谷由美の楽曲を、ことし50歳の今井美樹が歌って、はたしてそんなアルバムが売れるのだろうか、と、流行の音楽シーン、というか、芸能界というようなジャンルのなかではたして、と考えてしまったが、実際のところ、そういうことではない。

 ユーミンから今井美樹へ。

これは、現在の日本の社会の成り立ちの根本を表現している音楽なのだ。これが、現在の日本の大人の音楽なのだ。つまり、ぼくらの時代の音楽なのだ。


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