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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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観測開始は2025年! 標高5640メートルの山頂に大型赤外線望遠鏡TAOが完成

2024年05月05日 | 宇宙 space
日米欧で運営される電波望遠鏡群“アルマ望遠鏡”の建設地として知られる南米チリのアタカマ砂漠。
この砂漠にそびえるチャナントール山の山頂(標高5640メートル)に、標高世界一の天文台として建設された“東京大学アタカマ天文台(TAO; The University of Tokyo Atacama Observatory)”があります。

この天文台に、口径6.5メートルの大型赤外線望遠鏡(TAO望遠鏡)のエンクロージャ(望遠鏡など機械設備一式を格納した筐体)を含めた山頂施設が完成したことを、5月1日に東京大学が発表しました。
図1.南米チリのアタカマ砂漠にそびえるチャナントール山。その山頂に建設されたTAO天文台の観測ドーム。(Credit: 東京大学TAOプロジェクト)
図1.南米チリのアタカマ砂漠にそびえるチャナントール山。その山頂に建設されたTAO天文台の観測ドーム。(Credit: 東京大学TAOプロジェクト)


標高5640メートルの山頂に作られた赤外線望遠鏡

東京大学アタカマ天文台は、東京大学大学院 理学系研究科(理学部)の吉井譲名誉教授が代表となり、1998年に立ち上げられた計画です。
当時の吉井名誉教授は、東京大学大学院 理学系研究科/同科付属天文教育研究センター教授でした。

2009年に口径1メートルのminiTAO望遠鏡が設置されて天文台として活動を開始し、標高世界一の天文台としてギネス記録となりました。
ちなみに、すばる望遠鏡などがあるハワイ・マウナケア山山頂は4207メートル、アルマ望遠鏡は約5000メートルになります。

本命となる口径6.5メートルのTAO望遠鏡の本格的な製作が始まったのは2012年のこと。
山頂の天文台施設の建設に向けた道路の本格的な工事(仮設道路は2006年に完成)が2018年にスタート、2020年に山頂の施設の建設が始まりました。
その後、2023年には観測運用棟が完成、2024年にエンクロージャを含めた山頂施設が完成しています。

TAO望遠鏡の最大の武器は、標高5640メートルという高さにあります。
この高さと地理的な条件が相まって、赤外線での観測の妨げとなる水蒸気がほとんどないんですねー
それにより、他の土地の望遠鏡では不可能な、赤外線での鮮明な視界が確保される訳です。

また、気圧が地表の半分ほどしかないという大気の薄さも、大きな武器となります。

天文台スタッフにとっては高山病のリスクがある過酷な環境での観測になります。
でも、この2つの武器により、これまでは軌道上の天文衛星でしか観測が出来なかった0.9~2.5μmの近赤外線波長と、長波長の中間赤外線のうちの40μm弱までがクリアに観測が可能となっています。

これまでの地上望遠鏡でも近赤外線の波長域は観測が可能でしたが、J,H,Kバンドなど、“大気の窓”に分断されてしまっていました。

TAO望遠鏡では、それが連続的に観測可能となるほか、大半の赤外線天文衛星に搭載されている望遠鏡に比べて、口径が6.5メートルと圧倒的に大きく、高解像度の画像が取得されることが期待されます。
図2.TAO天文台山頂施設の全景。(Credit: 東京大学TAOプロジェクト)
図2.TAO天文台山頂施設の全景。(Credit: 東京大学TAOプロジェクト)


初期の銀河を観測する望遠鏡

TAO望遠鏡の観測のメインテーマは“銀河宇宙の起源”と“惑星物質の起源”の2つあります。

銀河がどのように形成されて進化してきたのかを探るには、初期の銀河を探ることが重要となります。
でも、宇宙の膨張により、遠方銀河からの光ほど赤方偏移(※1)するため、発した時は可視光線であっても地球に届くまでに赤外線にまで波長が引き伸ばされてしまいます。
※1.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
そのため、“初期銀河”のようなビッグバンから数億年後に誕生したと予測される銀河を観測するには、赤外線での観測が必須となるんですねー
図3.チャナントール山。TAOは標高5640メートルのチャナントール山の山頂に建設され、大気中の水蒸気が少ないことことや大気の薄さから、他の天文台では観測が難しい波長の赤外線も観測可能なことを特徴としている。(Credit: 東京大学TAOプロジェクト)
図3.チャナントール山。TAOは標高5640メートルのチャナントール山の山頂に建設され、大気中の水蒸気が少ないことことや大気の薄さから、他の天文台では観測が難しい波長の赤外線も観測可能なことを特徴としている。(Credit: 東京大学TAOプロジェクト)
具体的なテーマとしては、初期の銀河が星の材料となるガスをどのようにして獲得したか、ガスから星へと変わる星形成活動と星質量蓄積史、また赤外線銀河やサブミリ波銀河と言った遠方宇宙に見られる銀河種族に対する波長横断的な研究、そしてTAO望遠鏡だからこそ遂行可能な近傍星形成銀河の㎩α輝線観測などが考えられています。

一方、惑星物質の起源については、中間赤外線を用いることで、原始惑星系円盤のダストを直接観測することが可能になります。
TAO望遠鏡は30μm帯の中間赤外線を地上で初めて観測ができるので、円盤の中で惑星たちが生まれる過程を明らかにできると期待されています。

また、TAO望遠鏡では、ダストの直接的な観測以外にも、ダスト供給に重要な役割を果たしている様々な進化段階の星を観測することで、宇宙での物質の輪廻の問題にもアプローチできるとしています。


TAO望遠鏡に搭載される2つの観測装置

さらに、TAO望遠鏡には“SWMS”と“MIMIZUKU”という、2つの観測装置が搭載されています。

“SWMS”は、0.9~2.5μmの近赤外線において切れ目なく観測を行うことができ、9.6分角と視野が広く、2色同時観測が可能。
このことから、サーベイ能力が非常に高いことも特徴としているんですねー
銀河進化や宇宙論観測、あるいは希少天体捜査などで大きな威力を発揮するそうです。

一方、“MIMIZUKU”がカバーしているのは2~38μmという非常に広い波長範囲です。
その中でも26~38μmは、“MIMIZUKU”だけが地上で唯一観測できる新しい波長帯になります。

さらに、“MIMIZUKU”が備えているユニークな機能として2視野同時撮像があります。
この機能は、これまで中間赤外線観測では不可能だった時間変動の検出などにも威力を発揮するそうです。

この天文台に、口径6.5メートルの大型赤外線望遠鏡(TAO望遠鏡)のエンクロージャ(望遠鏡など機械設備一式を格納した筐体)を含めた山頂施設が完成したことを、5月1日に東京大学が発表しました。

今回、山頂の天文台施設が完成したことが発表されましたが、TAOの科学観測開始は2025年の予定。
いろいろと特徴を持った観測装置による成果が届くのは、もう少し先になりますね。


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小惑星リュウグウから回収した試料の表面に太陽系の磁場情報を記録した新しい組織を発見

2024年05月04日 | 太陽系・小惑星
今回の研究では、探査機“はやぶさ2”が小惑星リュウグウから回収した試料の表面を詳細に調査しています。

その結果、“マグネタイト(磁鉄鉱)”(Fe3O4)粒子が還元して非磁性となった、似た構造の木苺状組織を発見し、“疑似マグネタイト”(疑似Fe3O4)と命名しています。

さらに、それを取り囲むように点在する渦状の磁区構造を持った多数の鉄ナノ粒子からなる新しい組織も同時に発見したそうです。

今回の研究は、“はやぶさ2”の初期分析チームである“石の物質分析チーム”にょる初期分析の一環として行われました。
この研究は、北海道大学 低温科学研究所の木村勇気教授、ファインセラミックセンターの加藤丈晴主席研究員、同・穴田智史上級研究員、同・吉田竜視上級技師、同・山本和生主席研究員、日立製作所 研究開発グループの谷垣俊明主任研究員、神戸大学大学院 人間発達環境学研究科の黒澤耕介准教授、東北大学大学院 理学研究科の中村智樹准教授、東京大学 理学系研究科の佐藤雅彦助教(現・東京理科大学 准教授)、同・橘省吾教授、京都大学大学院 理学研究科の野口高明教授、同・松本徹特定助教たちの共同研究チームが進めています。
本研究の成果は、イギリスのオンライン科学誌“Nature Communications”に掲載されました。
図1.宇宙チリが小惑星リュウグウに衝突した痕跡から、リュウグウ試料と、同試料に記録されていた磁場の渦を電子の波で観察したイメージ。(出所: 東大Webサイト)
図1.宇宙チリが小惑星リュウグウに衝突した痕跡から、リュウグウ試料と、同試料に記録されていた磁場の渦を電子の波で観察したイメージ。(出所: 東大Webサイト)


宇宙風化作用の痕跡

宇宙風化作用の痕跡を調べることで、天体表面の年代に関する情報など、惑星間プロセスを理解できると考えられています。

これまでの試料の初期分析からも、その痕跡として、小惑星内部で水質変質により形成される主要鉱物の“層状ケイ酸塩”が、太陽風や宇宙チリの衝突によって部分的に脱水した組織だということが確認されています。

このように、層状ケイ酸塩に対する宇宙風化作用は徐々に解明されつつあります。
でも、もう一つの重要鉱物であるFe3O4の宇宙風化作用に関する研究は限られていました。

そこで、今回の研究では、宇宙風化作用を受けたFe3O4をさらに詳細に分析しています。

まず、収束イオンビーム加工装置を用いて試料の超薄切片を作成。
宇宙風化作用を受けている試料表面のFe3O4粒子の磁束分布が、ナノスケールの磁場を可視化できる電子線ホログラフィ(EBH)専用電子顕微鏡(TEM)により直接観察が行われました。


天然のハードディスク

さらに、通常のTEMによる微細組織観察、結晶構造解析、元素組成分析、電子エネルギー損失分光分析も実施されています。

超薄切片中のFe3O4粒子の通常TEM像と対応する磁束分布像から、同粒子内には渦状の磁区構造を観察。
同構造は非常に安定していたので、46億年以上にわたって磁場を記録し続けることが可能でした。

つまり、同粒子は初期太陽系の星雲磁場という重要な環境情報を記録している天然のハードディスクと言えます。
図2.試料から切り出されたFe3O4粒子(丸い粒子)。(A)EBHにより得られた磁束分布像。粒子内にある同心円状の縞は磁力線に相当。これは渦状磁区構造と呼ばれ、一般的なハードディスクよりも安定で、46億年以上にわたって磁場の記録を保持できる。(出所: 北大プレスリリースPDF)
図2.試料から切り出されたFe3O4粒子(丸い粒子)。(A)EBHにより得られた磁束分布像。粒子内にある同心円状の縞は磁力線に相当。これは渦状磁区構造と呼ばれ、一般的なハードディスクよりも安定で、46億年以上にわたって磁場の記録を保持できる。(出所: 北大プレスリリースPDF)


磁石としての性質が失われた粒子

また、同じ資料の異なる領域から切り出された超薄切片のTEM像と磁束分布像においても、同様の粒子(水質変質を経験した隕石によく見られるFe3O4粒子からなる“木苺状組織”)が確認されています。

でも、同粒子の磁場計測から示されたのは、渦状構造ではなく、のっぺりとした均質のコントラストだったんですねー

つまり、同粒子はFe3O4に似た組織ですが、実際にはFe3O4の特徴である磁石としての性質が失われていたことになります。

詳細な分析で分かったのは、同粒子はFe3O4と、それが還元することで形成される“ウスタイト”(FeO)の両方の特徴を持っていること。
これまでに知られていないタイプの木苺状組織だったので、疑似Fe3O4と命名されました。
図3.試料から切り出された超薄切片に含まれていた疑似Fe3O4(丸い粒子)。(A)TEM像。(B)大きな四角で示された領域をEBHで観察した結果得られた磁束分布像。粒子内に磁力線に相当する縞模様は見られないので、磁区構造がないことが分かる。オレンジの点線の小さな四角の領域は、画像4(C)に示されている。(出所: 北大プレスリリースPDF)
図3.試料から切り出された超薄切片に含まれていた疑似Fe3O4(丸い粒子)。(A)TEM像。(B)大きな四角で示された領域をEBHで観察した結果得られた磁束分布像。粒子内に磁力線に相当する縞模様は見られないので、磁区構造がないことが分かる。オレンジの点線の小さな四角の領域は、画像4(C)に示されている。(出所: 北大プレスリリースPDF)


太陽系の磁場情報を記録した新しい組織

さらに、その周囲には鉄ナノ粒子が多数存在していて、その磁場も観察。
すると、Fe3O4同様の渦状磁区構造が示され、鉄ナノ粒子も長期間にわたって、その形成時の磁場情報を保持できることが示されました。
図4.疑似Fe3O4の周囲に分布している鉄ナノ粒子。(A)画像3の左上の領域を走査型TEMで撮影した暗視野像(画像3とは白黒が反転)。(B)対応する鉄の分布像。矢印は鉄ナノ粒子。(C)(A)と(B)の中央領域(画像3(A)の小さな四角の領域)の磁束分布像。疑似Fe3O4には磁力線が見られない一方、鉄粒子内には同心円状の渦状磁区構造が見られる。(出所: 北大プレスリリースPDF)
図4.疑似Fe3O4の周囲に分布している鉄ナノ粒子。(A)画像3の左上の領域を走査型TEMで撮影した暗視野像(画像3とは白黒が反転)。(B)対応する鉄の分布像。矢印は鉄ナノ粒子。(C)(A)と(B)の中央領域(画像3(A)の小さな四角の領域)の磁束分布像。疑似Fe3O4には磁力線が見られない一方、鉄粒子内には同心円状の渦状磁区構造が見られる。(出所: 北大プレスリリースPDF)
詳細な組織観察と元素分布から、疑似Fe3O4と鉄ナノ粒子は宇宙チリの衝突による過熱で形成されたこと、1回の衝突で残留磁化計測が可能となる~1万個ほどの同粒子が形成されることが分かりました。

さらに、このような組織の形成条件について、把握済みの試料の正確な物性値を用いた詳細なシミュレーションを実施。
その結果、星雲磁場が消滅した後の時代に、小惑星リュウグウの母天体に直径2~20マイクロメートルの非常に小さい宇宙チリが秒速5キロ以上の速度で衝突することで、同組織が形成されることが分かりました。
図5.宇宙チリが小惑星リュウグウ表面へ衝突する様子の一例(時間経過は左→右)。最終的な温度が色で示されている。黄色領域ではFe3O4が熱で分解して還元される。衝突体の半径と同程度の厚みまで加熱されていることが分かる。国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの計算機を使用してシミュレーションが行われた。(出所: 北大プレスリリースPDF)
図5.宇宙チリが小惑星リュウグウ表面へ衝突する様子の一例(時間経過は左→右)。最終的な温度が色で示されている。黄色領域ではFe3O4が熱で分解して還元される。衝突体の半径と同程度の厚みまで加熱されていることが分かる。国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの計算機を使用してシミュレーションが行われた。(出所: 北大プレスリリースPDF)
これにより、同組織は、水質変質が終わった後の時代における太陽系の磁場情報を記録した新しい組織だと結論付けられました。

今回発見された鉄ナノ粒子は、高い磁気安定性を示す渦状磁区構造を有していて、衝突時に形成された当時の磁場情報を記録している可能性があります。
このことから、初期太陽系のより幅広い磁場環境の理解につながることが、今後期待されます。


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NASAの火星小型衛星ミッション“EscaPADE”はブルーオリジンの大型ロケット“ニューグレン”初号機に搭載され打ち上げへ

2024年05月03日 | 宇宙へ!(民間企業の挑戦)
EscaPADE(Ecape and Plasma Acceleration and Dynamics Explorers)は、火星を周回する軌道に2機の探査機を投入し、火星を取り巻く磁気圏などを観測するミッションです。

このミッションにより様々なデータを得ることで、太陽風が火星の磁気圏に与える影響などが理解できる見込み。
簡単に言えば、太陽風が火星の大気をどのように吹き飛ばし、火星の気候を変えてしまったのかが分かってくるはずです。

2機の探査機はRocket Labが開発し、大きさは冷蔵庫ほど、燃料込みの重さは約120キロとなり、打ち上げは9月29日が予定されています。

この2機の探査機を打ち上げるのが、ブルーオリジン社の新型ロケット“ニューグレン(New Glenn)”です。
ニューグレンは、直径7メートルの2段構成で全長82メートル、3段構成で全長95メートルとなる大型ロケット(3段構成はオプション)で、今回が初打ち上げとなります。
軌道投入能力は地球低軌道(LEO)で45トン、製紙以降軌道(GTO)で13トンで、1段目は再使用することを想定しています。

NASAは、スタートアップ企業の育成や大企業の競争力強化を目的に科学技術衛星の打ち上げを民間企業に委託する“VADR(Venture-class Acquisition of Dedicated and Rideshare)”の契約を進めています。

EscaPADEの打ち上げでも“VADR”での契約を活用し、ブルーオリジン社(※1)に2000万ドル(約31億円)を与えています。
ブルー・オリジン社は、インターネット小売り大手のアマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏が設立したアメリカの民間宇宙開発企業。
NASAのNick Benardini氏は、ケープカナベラル宇宙軍基地での探査機の組み立てや、火星の汚染を防ぐ保護要件について言及していますが、ブルーオリジン社による正式な打ち上げ日の発表はなし…

“ニューグレン”の開発は、当初のスケジュールから数年遅れているので、EscaPADEの打ち上げはスケジュール上のリスクも指摘されています。

ただ、ブルーオリジン社は2月に、新型の大型ロケットエンジン“BE-4(Blue Engine 4)”を搭載していない“ニューグレン”を、ケープカナベラルの第36打ち上げ施設に配備。
ブルーオリジンのニューグレン担当シニアバイスプレジデントのJarrett Jones氏によれば、初号機は2024年には打ち上げ予定としています。

“BE-4”エンジンは、アメリカの民間宇宙企業ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)社の新型ロケット“ヴァルカン(Vulcan)”初号機の1段目に採用され、今年の1月に無事打ち上げられています。
なので、ニューグレンロケットより一足先に“BE-4”エンジンには成功事例ができた訳です。

さらに、ヴァルカンロケットは、アメリカの民間宇宙企業シエラ・スペースが開発した有翼の宇宙往還機“ドリーム・チェイサー(Dream Chaser)”の初号機“テナシティ”を搭載し、近々打ち上げられる予定です。

ひょっとすると、ニューグレンロケット向けの“BE-4”エンジンは、ヴァルカンロケットに持っていかれたのかもしれませんね。
ブルーオリジン社の大型ロケット“ニューグレン(New Glenn)”。(Credit: Blue Origin)
ブルーオリジン社の大型ロケット“ニューグレン(New Glenn)”。(Credit: Blue Origin)



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中性子星の自転が突然速くなる現象“グリッチ”の起源を探る! 中性子星内部の量子流体による量子渦に着目

2024年05月02日 | 宇宙 space
今回の研究では、中性子星の内部の量子流体(※1)が導く巨大な量子渦ネットワークの持つ統計性を、世界で初めて発見しています。
※1.量子流体(超流動体ともいう)は、20世紀初めに冷却したヘリウムで発見された量子的な状態。量子流体は揃っている位相を持つので抵抗を持たない(粘性がない)流体という興味深い性質を持つ。類似的な状態として金属の超伝導(電荷もつ量子がつくる量子流体)があり、そちらは電気抵抗がゼロで電流が流れるので、応用上非常に重要。中性子星の量子流体は、Migdal(1960年)や玉垣‐高塚ら(1970年頃)による先駆的な研究を初めとして、現在も世界中でかっぱすに研究されている。
中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体です。

原子から構成される恒星とは異なり、主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっています。
高速な自転に伴う数ミリ秒から数秒程度の特徴的な電磁波パルスを放射し、一般に強い磁場を持つものが多い天体です。

中性子星の自転が突然急激に加速することがあります。
これは“グリッチ”と呼ばれ、中性子星の放射する電磁波のパルス周期が瞬時に短くなる現象です。
でも、なぜ起こるかは謎でした。

今回、研究チームが見つけたのは、中性子星の二つの異なった種類の量子流体による量子渦(※2)が、巨大なネットワークを形成することでした。

この巨大な量子渦ネットワークが形成される規模を数値シミュレーション計算で調べることで、モデルの詳細によらず、天文学で観測されているグリッチの統計性を説明することに成功しました。
※2.量子渦は、量子流体が回転することによって生じる紐状の(1次元的な)結果。渦の中心部は通常の流体だが、そこから遠く離れると量子流体になる、という空間的な構造を持つ。量子渦は高いエネルギーを持つ状態だが、トポロジーの性質を持つので安定に存在することができる。

この研究は、日本大学 文理学部のGiacomo Marmorini ポスドク研究員、広島大学 持続可能性に寄与するキラルノット超物質国際研究所の安井繁宏ポスドク(現・二松学舎大学 国際政治経済学部・準教授)、同・新田宗士特任教授(慶応大学 日吉物理学教室 教授/自然科学研究教育センター所員兼任)たちの共同研究チームが進めています。
本研究の成果は、イギリスのオンライン総合学術誌“Scientific Reports”に、“Pulsar glitches from quantum vortex networks, Giacomo Marmorini, Shigehiro Yasui, Muneto Nitta, Scientific Reports 14, 7857 (2024)”として、2024年4月3日に掲載されました。


自転が突然急激に速くなるという現象

中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体です。
高速な自転に伴う数ミリ秒から数秒程度の特徴的な電磁波パルスを放射していることから、中性子星は1967年にパルサーとして発見されました。

原子から構成される恒星とは異なり、中性子星は主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっています。

そのため、中性子星を理解するためには、中性子の量子(※3)としての性質が重要となります。
※3.ミクロな世界で粒子は点としての性質だけではなく波の性質も併せ持ち、これを量子という。代表的な量子として電子、原子、核子(陽子、中性子)などがある。量子は量子力学という法則に従うことが知られている。
また、回転速度はとても速く、速いものでは1秒間に千回転にも達することに…
さらに、一般に強い磁場を持つものが多く、地球の磁場の一兆倍にもなるんですねー

このため、中性子星は地上には存在しない究極的な物質を研究する対象として、世界中の天文学者や物理学者たちの興味を集めると同時に、この小さな天体には長年に渡って未解決の問題がありました。

それは、中性子星の自転が突然急激に速くなるという現象のメカニズムです。

私たちの地球は一年の間休むことなく規則正しく自転しています。
これに対して、中性子星の場合は自転の速さは徐々に遅くなる中で、ある日突然速くなることがあります。
このような現象は“グリッチ”と呼ばれています。

それでは、なぜ中性子星の自転は突然速くなるのでしょうか?

これまで中性子星のグリッチについては、天文学の多くの観測実験によって報告されています。
でも、グリッチが起こるメカニズムは大きな謎のままでした。

中性子星のグリッチの重要な特徴の一つは、統計性としてスケーリング則解(※4)を持つことです。(図1)
※4.スケーリング則は、フラクタルに代表されるように階層性と構造安定性を兼ね備えた複雑系に広く見られる現象で、平均値のような明確な尺度を持たないことが大きな特徴。スケーリング則の有名な例として、地球上の地震の規模の分布(グーデンベルグ‐リヒターの法則)や、経済における企業の規模や人々の収入の分布(パレートの法則)がある。パレートの法則にしたがうと、社会全体の8割の財産が2割の人々に集中することが知られている(2:8の法則)。
これまで蓄積された研究の結果、エネルギーEを持つグリッチの確率的な分布は、スケーリング則P(E)≈E^(-α)に従うことが分かりました。
さらに、最新の観測データを含めると、今回の再解析によってスケーリング則の指数はα≈0.88±0.03だと分かりました。

これまでも“渦糸の雪崩的ピン止め外れ”説などが提案されていましたが、このスケーリング則を説明することは難しい研究課題でした。
図1.観測された中性子星のグリッチのスケーリング則。(出所: 広島大プレスリリースPDF)
図1.観測された中性子星のグリッチのスケーリング則。(出所: 広島大プレスリリースPDF)


複雑に絡み合う中性子星内部の量子渦

今回の研究では、中性子星のグリッチのスケーリング則を解明するため、中性子星の内部の性質として量子流体による量子渦に着目しています。

量子渦は、水中にできる渦と同じような構造を持ちます。
ただ、水中の渦は通常すぐに消えてしまいますが、量子渦はトポロジー(※5)という性質を持つので壊れずに安定に存在し続けます。
※5.数学で発見された概念で、トポロジーは空間や物体が連続的に変形しても変わらない性質を表す。トポロジーを表す有名な例として、“穴の空いたドーナツ”と“持ち手のついたマグカップ”の形状が、トポロジーとして同じものであることが知られている。飲む・食べるといった機能性を忘れて“形状”だけに着目すると、ドーナツを連続的に変形していってマグカップに変えることができ、逆方向の変形も可能なので、両者は穴がひとつ空いているという意味で同じとなる。
中性子星の内部には、1019本という莫大な数の量子渦が一つの回転方向に揃って並んでいて、隣の渦同士はおよそ1マイクロメートル(1ミリの千分の1)という近距離のため、ぎっしりと詰まっている状態です。(図2)
図2.(a)これまで考えられていた中性子星の内部の量子渦の構造。(b)今回、新たに提案された整数渦(IQV)および半整数渦(HQV)の構造。(出所: 広島大プレスリリースPDF)
図2.(a)これまで考えられていた中性子星の内部の量子渦の構造。(b)今回、新たに提案された整数渦(IQV)および半整数渦(HQV)の構造。(出所: 広島大プレスリリースPDF)
量子流体は粘着性がゼロなので、永遠に回り続けるという不思議な性質を持っています。

中性子は、二つずつ対を組むことで量子流体になります。
その際、S波対とP波対(※6)と呼ばれる二種類の組み方があり、中性子星の内部の外側(クラスと)ではS波対、内側(コア)ではP波対という二重構造を持ちます。
※6.中性子はフェルミオン(粒子の入れ替えに対して反対称)のため、対を組むことによってボソン(粒子の入れ替えに対して対称)となり、量子流体になることができる。(金属の超電導では、電子が対を組む)この時、“お互い回っていない対(S波対)”と“お互い回っている対(P波対)”の二種類が存在する。今回の研究には直接関係がないが、P波対はトポロジカル超流動・超電導という著しい性質を持っている。
今回、研究チームが着目したのは、“S波対は1本の量子渦(整数渦)を作る”と“P波対は2本の量子渦(半整数渦)を作る”という二つの異なる性質でした。
その結果、S波対の量子渦とP波対の量子渦が複雑に絡み合うことを見つけています。

クラスととコアの違いに着目して、両者がどのように絡まるのか見てみると。

クラストからコアに向かって、S波対の1本の整数渦からP波対の2本の伴整数渦に別れます。
このような構造はブージャムと呼ばれています。
反対側でコアからクラストに向かうと、この2本の伴整数渦が再びくっつくことになります。
でも、多量の量子渦が存在するので、他の2本の伴整数渦の一方とくっつく場合があります。

このため、量子渦は隣同士で絡み合った状態になる訳です。

このようなことから研究チームでは、量子渦は中性子星全体において複雑で巨大なネットワークを形成するという理論仮説を立てています。(図3)
そして、この巨大なネットワークの回転の勢いがコアからクラストへ突如移行することで、中性子星の自転が突然速くなってグリッチが起こると考えました。
図3.整数渦(IQV)と反整数渦(HQV)が作る量子渦ネットワークの模式図。(出所: 広島大プレスリリースPDF)
図3.整数渦(IQV)と反整数渦(HQV)が作る量子渦ネットワークの模式図。(出所: 広島大プレスリリースPDF)
本研究では、実際に量子渦のネットワークの分布について、数値的にシミュレーション計算を実施。
すると、期待されていたスケーリング則を見つけ、その指数としてα≈0.8±0.2という値を得ています。
この値は、天文学の観測データに基づく値であるα≈0.88±0.03に非常に近いものでした。

このように量子渦による巨大ネットワークは、中性子星のグリッチを自然に再現することが示されました。

今回の発見の重要なポイントは、物質や模型のパラメーターの詳細によらず、単純な仮定からスケーリング則およびその指数を理論的に導き出すことができたことです。

本来、電子などのミクロな系のみに現れると思われていたトポロジカルな量子現象が、天体のようなマクロな系にも表れるというのは大変興味深いことです。

全く異なる大きさの二つの世界が、トポロジーを通してみると表裏一体である。
このような考えは、私たちの自然観の新たな基盤になるかもしれません。


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観測史上最も明るいガンマ線バーストの正体は普通の超新星爆発だった! なぜ生成されるはずの重元素が見つからないのか

2024年05月01日 | 宇宙 space
短時間に高エネルギーのガンマ線を放出する、宇宙で最も高エネルギーな天文現象の1つが“ガンマ線バースト”です。

2022年に観測されたガンマ線バースト“GRB 221009A”は、観測史上最も明るいガンマ線バーストとして天文学者の注目を集めました。

このガンマ線バーストについては、どうしてこれほど明るいのかという議論が生じ、中には既存の物理学では説明できない現象が起きているとする説もあります。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて“GRB 221009A”の残光を観測。
その正体が、特徴がない普通の超新星爆発(II型超新星)だったことを突き止めています。

ただ、発生源が普通の現象だったと判明した一方で、新たな謎も生じているんですねー

超新星爆発は鉄よりずっと重い元素を生成すると考えられてきましたが、特徴がない普通の超新星であるはずの“GRB 221009A”では、重い元素が検出されないという予想外な結果が得られています。

その理由は謎… “GRB 221009A”に関する研究はまだまだ続くようです。
この研究は、ノースウェスタン大学のPeter K. Blanchardさんたちの研究チームが進めています。
図1.“GRB 221009A”のイメージ図。(Credit: Aaron M. Geller, Northwestern, CIERA, IT Research Computing & Data Services)
図1.“GRB 221009A”のイメージ図。(Credit: Aaron M. Geller, Northwestern, CIERA, IT Research Computing & Data Services)


宇宙最大規模の爆発

宇宙最大規模の爆発とされるガンマ線バーストは、天体の一点から太陽光度の約1018倍という、極めて高いエネルギーのガンマ線が短時間だけやって来る突発的天体現象の一つです。

0.01秒から数時間程度にわたってガンマ線が突発的に観測される現象で、1960年代の冷戦下に宇宙空間での核実験を監視する衛星によって発見された天体現象でした。

これまでの研究により、ガンマ線の放出時間が2秒未満の“ショートガンマ線バースト”と、2秒以上続く“ロングガンマ線バースト”では、その起源が大きく異なることが分かってきています。

ショートガンマ線バーストは、中性子星やブラックホールなどのコンパクト星同士が合体したときに発生すると考えられている現象。
一方、ロングガンマ線バーストは、非常に質量の大きな恒星の核が重力崩壊することで誕生したブラックホールの活動によって発生すると考えられています。


観測史上最も明るいガンマ線バースト

2022年10月19日に観測された“GRB 221009A”は、2024年4月時点で観測史上最も明るいガンマ線バーストです。

このガンマ線バーストは、あまりにも明るかったのでNASAが運用中の高エネルギーガンマ線天文衛星“フェルミ”では、とらえきれないほどでした。

また、“GRB 221009A”の発生後、ガンマ線バーストとは無関係の観測装置である、宇宙線・太陽風・雷をとらえる検出装置が反応を示すことに…
これは強力なガンマ線が、各検出装置に誤検出を起こすほどの影響を地球大気に与えたためでした。

通常のガンマ線バーストと比べて数十倍も明るかった“GRB 221009A”には、史上最も明るいことを示す“BOAT(Brightest Of All Time)”という愛称が付けられています。

見積もりから分かったのは、このような極端に明るいガンマ線バーストが、地球で観測できるのは1万年に1回程度のこと。
このことから、“GRB 221009A”はとても貴重な観測対象として、天文学者の注目を集めることになります。

ガンマ線バーストの正確な起源は、宇宙物理学における大きな謎の一つです。

有力視されているのは、太陽よりも重い恒星が一生の最期に起こす“超新星爆発”に関連しているという説です。
ただ、仮にガンマ線バーストのエネルギーが、どの方向から見ても同じ強さの場合には、恒星の質量をすべてエネルギーに変換しても足りないんですねー

そこで、考えられているのが、光を絞って明るくする懐中電灯のように、エネルギーの噴出方向を狭い範囲に絞るような現象が起きていること。
また、“GRB 221009A”はあまりにも明るすぎたので、暗黒物質の崩壊のように、現在の物理学の枠組みを超える現象が起きたとする予測もありました。

理論やシミュレーションと比較できるガンマ線バーストはあまり観測されていないので、そのメカニズムはよく分かっていません。
“GRB 221009A”の観測は、これらの説を検証できる貴重な機会なのかもしれません。
図2.ジェミニ天文台で撮影された“GRB 221009A”。(Credit: International Gemini Observatory, NOIRLab, NSF, AURA, B. O’Connor (UMD/GWU) & J. Rastinejad & W Fong(Northwestern))
図2.ジェミニ天文台で撮影された“GRB 221009A”。(Credit: International Gemini Observatory, NOIRLab, NSF, AURA, B. O’Connor (UMD/GWU) & J. Rastinejad & W Fong(Northwestern))


観測史上最も明るいガンマ線バーストの正体は特徴がない普通の超新星爆発だった

今回の研究では、“GRB 221009A”の残光をジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて詳細に観測することで、その正体に迫る研究を進めています。

1万年に一度と言われるほど明るかったガンマ線バーストが、2022年7月に本格的な運用を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測できるタイミングで出現したことは、文字通り幸運な出来事と言えます。

ただ、“GRB 221009A”はあまりにも明るすぎたので、発生直後から観測しても意味のあるデータを得ることはできませんでした。
これは、暗闇の中での明るすぎるヘッドライトが、車体を隠してしまう現象と似ています。

そこで、研究チームでは、“GRB 221009A”の残光が充分に暗くなるタイミングを見計らい、発見から168日後と170日後の2回に分けて観測を行っています。

観測の結果、超新星爆発に関連して見られる酸素、カルシウム、ニッケルなどの元素の存在を示す光(近赤外線の吸収及び放射スペクトル)をとらえることに成功。
その光には、他の超新星爆発と比較して際立った特徴がないことが分かりました。

意外なことに、史上最も明るいガンマ線バースト“GRB 221009A”の正体は、“特徴がない普通の超新星爆発”だったことになります。

この結果から、“GRB 221009A”が特別明るかった理由として、“方向”という重要な要素にあった可能性が考えられます。

ガンマ線バーストが超新星爆発に関連しているとすると、エネルギー放射が狭い範囲に絞りこまれていることが推定されます。
“GRB 221009A”では、そのエネルギーの放射が完璧に地球の方向に向いていたので、極めて明るいガンマ線バーストとして観測された可能性がるという訳です。

また、今回の観測から分かっているのは、超新線爆発を起こした恒星が属する銀河が重い元素が少ないという特徴を持つこと。
“GRB 221009A”が今から約19億年前の宇宙で発生した爆発だったことと統合すると、“GRB 221009A”の元となった恒星は非常に重く、重い元素が少なく、高速で自転している、という特徴があったと推定されます。

この推定は、正しいのでしょうか?
さらに、宇宙全体ではどれくらいの頻度で、この条件が揃うのでしょうか?

このことが解明されることで、“GRB 221009A”のような極端に明るいガンマ線バーストがどの程度珍しいのか、そしてどのようなメカニズムで発生するのかが明らかになるかもしれません。


生成されるはずの重元素が見つからない超新星爆発

一方、今回の観測で判明しているのは、超新星爆発で発生するはずの重い元素が、“GRB 221009A”の残光からはほとんど見つからなかったこと。
“GRB 221009A”が普通の超新星爆発だとする分析結果を考慮すると、これは大きな謎となります。

誕生直後の宇宙には、ほぼ水素とヘリウムしか存在せず、これよりも重い元素は何らかの核反応によって生じたことが分かっています。

水素とヘリウムよりも重い元素のことを天文学では“重元素”と呼びます。
この重元素のうち、鉄までの元素は恒星内部の核融合反応で生成されることが分かっています。
それは、鉄の核融合反応ではエネルギーが放出されず、鉄を生成するようになった恒星は自重を支えきれずに超新星爆発を起こしてしまうからです。
また、鉄よりも重い元素は、超新星爆発などの激しい現象に伴う核反応で生成されると考えられています。

その中でも実態がよく分かっているのは、非常に高密度な天体“中性子星”同士が合体した時です。
でも、中性子星が形作られ、お互いが衝突するほど接近するには、数十億年もの時間がかかってしまいます。

実際には、中性子星が合体するのに十分な条件が整っていないであろう初期の宇宙でも重元素は見つかっています。
なので、重元素を生成する別のルートがあるはずです。

そんな別の生成ルートの有力な候補に超新星爆発がなるはずでした。
ところが、普通の超新星爆発であるはずの“GRB 221009A”の残光に重元素が見つからなかったことで、超新星爆発と重元素を結び付けることに疑問符が付くことになります。

この疑問符を除去する仮説には以下のようなものが考えられています。

1.今回の研究で示された“GRB 221009Aは普通の超新星爆発”という考察は間違いで、実際には何らかの特異な性質を持っている。
2.超新星爆発によって生じる重元素は、長年信じられてきた予測よりもずっと少ない。
3.観測のセッティングにおかしな部分があり、“GRB 221009A”からの重元素のシグナルをとらえることに失敗している。
4.観測のセッティングは正しいものの、観測結果の解釈に誤りがあり、重元素のシグナルを見逃している。

どの説が正しいにせよ、証明するには更なる観測が必要です。

今回の研究は、“GRB 221009A”のように普通の超新星爆発と結び付けられる明るいガンマ線バーストを、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測する動機づけとなるかもしれません。


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