宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

高速電波バーストの謎に迫るカギになる? マグネターの回転速度が上昇する双子のグリッチを発見

2024年03月04日 | 宇宙 space
今回の研究では、銀河系内の強磁場の天体(マグネター)“SGR 1935+2154”をX線で高頻度に観測。
2022年10月14日に発生した高速電波バースト(Fast Radio Burst; FRB)の前後に、星の自転が急速に速くなるグリッチが2回起きたことを突き止めています。

このことは、宇宙遠方で生じる高速電波バーストの発生機構を解明する上で、重要な一歩になる発見になります。

宇宙の遠方から到来する謎の高速電波バーストは、2007年に発見が報告されて以来いくつもの事象が検出されています。
でも、その放射源である天体や、その発生機構は現在まで明らかになっていませんでした。

2020年に銀河系内のマグネターから高速電波バーストがX線のバーストと同時に検出されたことで、マグネターは高速電波バーストを放射する天体の正体として、有力な候補の一つになっていました。
でも、その発生機構は未解明のままなんですねー

そこで本研究では、このマグネターがX線放射の活動性を増した時期(2022年10月10日)に、国際宇宙ステーションのX線望遠鏡“NuSTAR”での高頻度な追跡観測を実施。
その結果、X線バースト放射を多数検出しています。

さらに、モニタリング観測期間中の同月14日に高速電波バーストが発生し、それを時間的に挟むように2度にわたって天体に回転が急激に加わる双子のグリッチを発見。
双子のグリッチの間で自転が急激に減速する現象もとらえています。

このことは、変動する宇宙をスクープした時間軸天文学の成果とも言えます。
この研究は、台湾国立彰化師範大学のChin-Ping-Hu准教授、京都大学 理学研究科の成田拓仁博士課程学生、榎戸輝揚 同准教授(理化学研究所 開拓研究本部 理研白眉研究チームリーダー 兼務)たちの研究チームが進めています。
本研究の成果は、国際学術誌“Nature”に2月15日号に掲載されました。
図1.今回の観測のイメージ図。(出所:京大プレスリリースPDF)
図1.今回の観測のイメージ図。(出所:京大プレスリリースPDF)


高速電波バーストの一部はマグネターが起源

高速電波バースト(※1)は、1ミリ秒以下という非常に短い時間で起こる電波帯(数百メガヘルツから数ギガヘルツ)の突発現象です。
2007年の初報告依頼、オーストラリアのパークス天文台をはじめとして、世界中の電波望遠鏡でいくつも検出されてきました。
※1.高速電波バースト(Fast Radio Burst; FRB)は、1ミリ秒以下という非常に短い時間で起こる電波帯(数百メガヘルツから数ギガヘルツ)で観測される継続時間が約1ミリ秒以下の電波パルス。天の川銀河の外で発生しているものが多い。その起源となる天体の正体や発生のメカニズムは未だ分かっていない。
これまでの観測から分かっているのは、高速電波バーストのほとんどが、私たちの住む天の川銀河の外からやってきていること。
実際に、高速電波バーストを起こした天体が含まれる銀河が特定された例もあります。
でも、高速電波バーストを起こす天体の正体や、その発生機構はまだ明らかになっていませんでした。

そんな中、2020年4月28日に天の川銀河にある中性子星(※2)の一種、宇宙で最も強い磁場を持つマグネター(※3)と呼ばれる天体“SGR 1935+2154”が、X線のバースト現象を頻発。
そのバーストの一つと高速電波バーストが同時に検出されることになります。

この観測から明らかになったのは、少なくとも高速電波バーストの一部が、マグネターが起源となっていること。
でも、その発生機構については観測例が少なく、明らかにすることができませんでした。
※2.中性子星(neutron star)は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体。原子から構成される恒星とは異なり、主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっている。自転に伴う数ミリ秒から数秒程度の特徴的な電磁波パルスを放射する。一般に強い磁場を持つものが多い。

※3.マグネター(磁石星:magnetar)は中性子星の一種で、10秒程度の自転周期を持つ、主にX線で輝く天体。100億テスラ以上の超強磁場を持つと推定されていて、磁気エネルギーを開放することで輝くと考えられている。X線やガンマ線などのバーストを起こすことが知られている。


マグネターが起こすX線バーストそして高速電波バーストを観測

その後、マグネター“SGR 1935+2154”は、前回の高速電波バーストから2年後の2022年10月10日、類似したX線バーストを頻発し始めました。

この現象にいち早く気付いた研究チームが期待したのは、前回と同様に高速電波バーストが発生することでした。

研究チームは、国際宇宙ステーションに搭載されたNASAが運用するX線望遠鏡“NICER(Neutron Star Interior Composition ExploreR)”や、NASAのX線天文衛星“NuSTAR(Nuclear Spectroscopic Telescope Array)”に緊急観測を要請。
同月12日から4日間にわたるモニタリング観測が実施されました。

マグネターが期待していた高速電波バーストを起こしたのは、観測開始から2日後の14日のこと。
残念ながら地球の影になってしまい、高速電波バーストそのものの瞬間にX線の観測は行えていません。
でも、高速電波バーストが発生した前後の2日間にわたる、かつてない高頻度なX線観測データを得ることに成功しています。


X線パルスからマグネターの自転速度の変化を調査

マグネターを含む中性子星は、その表面にホットスポットと呼ばれる高温の領域があり、そこからのX線が自転に伴ってパルス的に放射され、この数ミリ秒から数秒程度のX線パルスを観測することで、星の自転を測定できます。

中性子星の自転は長期にわたって少しずつ遅くなっていきますが、X線バーストを放射する活動期には複雑な時間変化を示すこともあります。
図2.X線の高頻度観測で得られたマグネター“SGR 1935+2154”のX線パルスの自転周波数の変化(上図)と、それぞれの時刻の周波数の時間変化率の絶対値(下図)。上図では上の方が自転が速いことを意味する。青いデータ点は観測値、オレンジの線はモデルを示す。赤の点線は高速電波バーストが起きた時間(図の時刻原点)、紫の点線は2回のグリッチの時刻を示している。(出所:京大プレスリリースPDF)
図2.X線の高頻度観測で得られたマグネター“SGR 1935+2154”のX線パルスの自転周波数の変化(上図)と、それぞれの時刻の周波数の時間変化率の絶対値(下図)。上図では上の方が自転が速いことを意味する。青いデータ点は観測値、オレンジの線はモデルを示す。赤の点線は高速電波バーストが起きた時間(図の時刻原点)、紫の点線は2回のグリッチの時刻を示している。(出所:京大プレスリリースPDF)
本研究では、このX線パルスの到来時間を詳しく解析。
今回の高速電波バーストが起きた前後の時間で、“SGR 1935+2154”の自転がどのように変化しているかを調べています。

その結果、この天体では高速電波バーストが発生した約4時間前と4時間後に、急激に自転が速くなるグリッチ(スピンアップ・グリッチ)(※4)という現象が起きていたことが分かります。
※4.グリッチ(glitch)は、中性子星の放射する電磁波のパルス周期が瞬時に短くなる現象。中性子星の内部と外部の回転速度差が臨界値を超えた時に、瞬時に外層の回転速度が上昇することで生じると考えられている。稀に、回転速度が遅くなるアンチグリッチも観測されている。
このようなグリッチは、これまでにもいくつかの中性子星で観測されてきました。
でも、高速電波バーストに付随して観測されたのは、今回が初めてのこと。
短期間に、ほぼ同じ強度の2度のグリッチを連続して観測できたのも、初めてのことでした。
また、今回の双子のグリッチは、これまでに観測された中で最大級であることも分かりました。

さらに、2度のグリッチの間で、自転が急激に減速する現象もとらえることができました。
減速するということは、何らかの方法でエネルギーを外に排出する必要があります。

研究チームでは、X線バーストのスペクトルも解析し、外に放出された放射エネルギーを計算。
その結果、放射によって失われたエネルギーは10%程度と分かり、荷電粒子を含む星風など、放射エネルギー以外の理由で減速が起きた可能性が示唆lされました。

自転が速くなるグリッチ → 急速な減速 → 2回目のグリッチの後は、ほぼ元の自転速度に戻っていて、高速電波バースト前後の高頻度なX線観測が実現したことで、世界で初めてマグネターの地獄の釜が開くような貴重なタイミングを垣間見ることになりました。

今回の研究により、高速電波バーストが起きる際に、マグネターの自転が短時間で大きく変化していることが示されました。
これにより、マグネターの活動がどのように高速電波バーストを起こすかといった機構の解明に、一歩近づいたことになります。
図3.今回のX線望遠鏡“NICER”とX線天文衛星“NuSTAR”の観測で得られた、マグネター“SGR 1935+2154”のグリッチ間のバースト放射スペクトルと定常放射(バースト以外の放射の)スペクトル。スペクトルはマグネターにおいて典型的な黒体放射成分とべき乗成分でフィットできた。ここでは、バースト放射スペクトルに関しては、“NICER”と“NuSTAR”の観測時期の違いを補正して、“NuSTAR”のスペクトルを実際の約3倍にして表示している。(出所:京大プレスリリースPDF)
図3.今回のX線望遠鏡“NICER”とX線天文衛星“NuSTAR”の観測で得られた、マグネター“SGR 1935+2154”のグリッチ間のバースト放射スペクトルと定常放射(バースト以外の放射の)スペクトル。スペクトルはマグネターにおいて典型的な黒体放射成分とべき乗成分でフィットできた。ここでは、バースト放射スペクトルに関しては、“NICER”と“NuSTAR”の観測時期の違いを補正して、“NuSTAR”のスペクトルを実際の約3倍にして表示している。(出所:京大プレスリリースPDF)

宇宙論的な距離から到来する高速電波バーストは、天文学上の未解明な現象として多くの天文学者が興味を持っています。

高速電波バーストの発生源がすべてマグネターなのか、それとも他の種族の天体も混ざっているのかも未だに良く分かっていません。

今回のような電波とX線を結び付けた多波長観測や、高頻度なマグネター観測などは、今後の高速電波バーストとマグネターの観測の研究を大いに進展させるカギになるはずです。

今回の研究では、X線パルスの周波数の時間変動に着目して、マグネターの回転運動の変化をとらえました。
さらに、観測からはX線の放射強度が数十分から数時間の幅で変化していることが分かっています。

X線放射の長時間での時間変動を高頻度で調べることで、高速電波バーストが起きる際に、マグネターのどこで物理的な変化が起きているかを、解き明かせる可能性があります。
研究チームでは、今後もこのマグネターで起きた高速電波バーストとX線バーストの放射の関係について、より詳細な解析を行っていくそうです。


こちらの記事もどうぞ



最新の画像もっと見る

コメントを投稿