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モバライダー mobarider

原始銀河団からの予想以上に強い赤外線放射は、超大質量ブラックホールや星形成銀河が潜んでいる証拠かも。

2020年03月18日 | 宇宙 space
すばる望遠鏡と5つの赤外線天文衛星の観測データから、約120億光年彼方の原始銀河団に見られる赤外線放射が、予想よりも強いことが分かりました。
このことは何を示しているのでしょうか?
それは、この原始銀河団に激しく星形成を行う銀河や、成長中の超大質量ブラックホールが潜んでいる可能性があること。
今後、原始銀河団に含まれる個々の銀河を分解して検証するそうです。


銀河はどのようにして形作られるのか

宇宙には様々な銀河が存在しています。
その銀河がたくさん集まった領域“銀河団”では大質量楕円銀河が、そして銀河がほとんどない場所では渦巻銀河が多数を占めているなど、銀河の特徴はその周辺の環境によって異なっています。

なので、現在の銀河がどのようにして形作られたのかを解明するには、昔の宇宙における銀河と環境との関係が重要なヒントになります。

この関係を調べるのに必要になるのは、銀河団の祖先とされる原始銀河団の性質の全体像をつかむこと。
それには多くの原始銀河団の観測が重要になってきます。

なかでも、盛んに研究されているのが、宇宙で最も銀河が多く生まれたとされる約100~120億年前の原始銀河団です。

でも、原始銀河団は天球上でまばらにしか存在していません。
そう、見つけるのが非常に難しいので、100億光年を超える遠方の原始銀河団は、ほんのわずかしか見つかっていません。


可視光線による原始銀河団のカタログ作り

それでも、この困難を克服しようとする強力な研究がありました。

それは、すばる望遠鏡に搭載されている広視野主焦点カメラ“Hyper Suprime-Cam(HSC)”を用いた超広域深宇宙探査(HSC-SSP)です。
超広域深宇宙探査の初期に行われた観測からは、約120億年前の宇宙に存在する原始銀河団が探査され、約180領域もの大規模な原始銀河団カタログが作られています。

ただ、これだけでは不十分なんですねー それは“HSC”での観測は可視光線になるからです。
そう、銀河の中で何が起こっているのかを解き明かすのに必要なのは、様々な波長による観測なんですねー


可視光線画像に赤外線観測データを重ねてみる

特に活発な星形成銀河では、星から放たれた光の大部分はチリに吸収されてしまいます。

なので、星形成率を正確に見積もり、チリと温めている天体の正体を明らかにするには、暖められたチリが発する赤外線や電波を幅広い波長域で観測する必要があります。

そこで、国立天文台の研究チームが用いたのは、“HSC”による広域可視光線観測に加え、5つの赤外線天文衛星が過去に観測したデータでした。
これにより原始銀河団が放つ赤外線放射についての研究を進めています。
  データが用いられた5つの赤外線天文衛星は、ヨーロッパ宇宙機関の“プランク”と“ハーシェル”、NASAの“IRAS”と“WISE”、JAXAの“あかり”。

ただ、赤外線天文衛星による過去の観測データには問題もありました。
それぞれの天文衛星では中間赤外線から遠赤外線までの超広域画像が得られていても、遠くの天体を個々に検出するには解像度や感度が低かったからです。

この問題の克服には、“HSC”で見つかっている原始銀河団については、赤外線天文衛星のデータを重ね合わせるという手法が使われています。
この手法により、約120億光年彼方の原始銀河団が放つ平均的な赤外線放射の全体像がとらえることができました。

特に波長30~200μm帯は、これまで普通の遠方銀河でさえ全く様子が分からなかった波長帯だったので、極めて画期的な成果といえます。
画像解析手法の模式図。すばる望遠鏡の“HSC”による観測で原始銀河団を探し、その領域について赤外線天文衛星で得られた画像を重ね合わせることで、赤外線放射の全体像をとらえることに成功している。(提供:国立天文台)
画像解析手法の模式図。すばる望遠鏡の“HSC”による観測で原始銀河団を探し、その領域について赤外線天文衛星で得られた画像を重ね合わせることで、赤外線放射の全体像をとらえることに成功している。(提供:国立天文台)



個々の銀河で何が起こっているのか

今回検出した赤外線放射は予想以上に強いので、“HSC”で見つかっていた星形成銀河だけでは説明がつかないものになりました。

研究チームが赤外線放射の波長成分を詳しく調べてみると、典型的な星形成銀河よりも温かいチリが存在することが明らかになります。

原因としては、成長中の超大質量ブラックホール(活動銀河核)や、若く熱い星形成銀河が原始銀河団に潜んでいて、チリをより高温にしていることが考えられています。
約120億光年彼方の原始銀河団が放つ平均的な赤外線放射の全体像。原始銀河団のすべての銀河による放射強度の総和(赤丸)、“HSC”で検出した銀河1つ当たりの放射強度(黒点・黒点線)、“HSC”の可視光線から予想される原始銀河団からの赤外線放射(灰色曲線)を示している。赤外線天文衛星による観測から求められた放射強度と比較すると、足りない部分(濃い灰色の領域)がある。(提供:国立天文台)
約120億光年彼方の原始銀河団が放つ平均的な赤外線放射の全体像。原始銀河団のすべての銀河による放射強度の総和(赤丸)、“HSC”で検出した銀河1つ当たりの放射強度(黒点・黒点線)、“HSC”の可視光線から予想される原始銀河団からの赤外線放射(灰色曲線)を示している。赤外線天文衛星による観測から求められた放射強度と比較すると、足りない部分(濃い灰色の領域)がある。(提供:国立天文台)

今後、原始銀河団に潜んだ活動性をさらに詳しく調べるには、個々の銀河に分解して検証する必要があります。

そこで期待されるのが、ヨーロッパ宇宙機関とJAXAが開発・検討を進めている次世代の赤外線天文衛星“SPICA”です。
“SPICA”を用いることができれば、個別の銀河で何が起こっているのかを、より詳細に研究することが可能になるんですねー

ただ、“SPICA”は100平方度を超えるような超広域観測に向いていないので、将来行われる“SPICA”の観測データを用いた研究を、今回の研究成果が補うことになるようです。


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