宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

恒星と思っていた天体は、約238億光年彼方にある観測史上最も明るいクエーサーだった! 明るすぎて遠くの天体と認識できず…

2024年03月26日 | 宇宙 space
クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体です。
銀河の初期形態とも考えられていて、100憶光年以上という遠方にあるにもかかわらず明るく輝いて見えます。

これまでに約100万個も発見されているクエーサーですが、極めて明るいものはごく少数にとどまっています。

今回の研究では、“J0529-4351”という天体がクエーサーであること。
その明るさは太陽の約500兆倍、典型的なクエーサーの約200倍もあり、観測史上最も明るいクエーサーであることを突き止めています。

“J0529-4351”は天体カタログの上では、99.98%の確率で天の川銀河にある恒星という誤ったラベル付けをされていました。
このことから、すでに観測されているのに極端に明るいクエーサーだとは気づかれていない天体が、他にも多数存在するのかもしれません。
この研究は、オーストラリア国立大学のChristian Wolfさんたちの研究チームが進めています。
図1.非常に明るいクエーサー“J0529-4351”のイメージ図。(Credit: ESO & M. Kornmesser)
図1.非常に明るいクエーサー“J0529-4351”のイメージ図。(Credit: ESO & M. Kornmesser)


機械学習が観測データ上の天体を分類している

宇宙にある様々な天体の中でもクエーサーは驚異的な存在です。

クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体です。
銀河の初期形態とも考えられていて、遠方にあるにもかかわらず明るく見え、その明るさは太陽の数兆倍、典型的な銀河の数千倍にもなります。

しばしば遠方の宇宙で見つかるクエーサーですが、天文学では遠くの宇宙を観測することは昔の宇宙の姿を観測することになるので、クエーサーは若い頃の宇宙に存在する天体だということになります。
このことが、クエーサーが銀河の初期形態を表しているのではないかと考えられている理由です。

1963年に初めてクエーサーという天体が認識されて以来、天文学者はクエーサーを約100万個も発見しています。
ただ、その大半は一つ一つに望遠鏡を向けて発見したものではありません。

現在の天文学は、夜空の広い領域を観察して得られた膨大な観測データの中から、探している天体を見つけ出す手法が一般的です。
観測データに含まれる天体は文字通り“星の数ほど”あるので、天体の分類は機械学習で自動的にラベル付けされていきます。

この手法は、膨大な天体カタログを整理する上では便利ですが、問題もあるんですねー

ラベル付けの根拠となる機械学習は、分類元となる天体の一般的な性質を元にトレーニングが行われます。
このため、あまりにも極端な性質を示す天体の場合、正しい種類を認識できずに誤ったラベル付けを行ってしまうことがあります。

そのような誤りは全体から見ればごく少数のものです。
でも、極端な性質の天体を見つける上では障害になることがありました。


約122億年前の宇宙に存在するクエーサーの発見

今回の研究で着目しているのは“J0529-43512”と呼ばれる天体です。

この天体が掲載されていたのは、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”(※1)の観測データによって作成された天体カタログ“Gaia DR3”でした。
ただ、そのカタログ上には、“天の川銀河にある恒星である可能性が99.8%”とラベル付けされていました。
※1.“ガイア”は、ヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げ運用する位置天文衛星。可視光線の波長帯で観測を行い、10憶個以上の天の川銀河の恒星の位置と速度を三角測量の原理に基づいて測定する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡。測定精度は10マイクロ秒角(1度の1/60の1/60の1/10マンの角度)であり、これは地球から月面の1円玉を数えられる精度。
でも、“J0529-4351”のスペクトルデータを見た研究チームは、その天体が恒星ではなく強い赤方偏移(※2)を示すクエーサーだと考えました。
論文中で“ガイアのスペクトルに見慣れた天文学者なら、一目でクエーサーであると分かる”と表現されるほど、特徴的であったようです。
※2.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
それを確認するため、研究チームではサイディング・スプリング天文台(オーストラリア・クーナバラブラン)に設置された2.3メートル望遠鏡で観測を実施。
その結果、“J0529-4351”が地球から約238億光年彼方の位置にあり、今から約122億年前(赤方偏移z=3.962)の宇宙に存在するクエーサーということが分かりました。

また、南米チリのパラナル天文台(標高2635メートル)に建設された超大型望遠鏡“VLT”で行われた追加の観測により、クエーサーとしての“J0529-4351”の正確な性質も明らかになります。
図2.クエーサー“J0529-4351”の画像(拡大部分で線が付けられた青白い天体)。当初この天体は天の川銀河にある恒星に分類されていた。(Credit: ESO, Digitized Sky Survey 2 & Dark Energy Survey)
図2.クエーサー“J0529-4351”の画像(拡大部分で線が付けられた青白い天体)。当初この天体は天の川銀河にある恒星に分類されていた。(Credit: ESO, Digitized Sky Survey 2 & Dark Energy Survey)


観測史上最も明るいクエーサー

“J0529-4351”の明るさは2×10の41乗ワット(20正ワット)で、太陽の約500兆倍、天の川銀河の約4万倍、典型的なクエーサーの約200倍も明るいことになります。

そう、これまで知られていた中で最も明るいクエーサーになるんですねー

あまりにも明るすぎるため非常に遠くにある天体と認識できず、天体カタログ“Gaia DR3”への自動ラベル付けが間違ってしまうのも仕方のないことでした。

同じような見逃しは数十年前から続いていて、最も古い記録としては1980年に作成された別の掃天観測記録“SSS”にも映っていたものの、今まで見逃されていました。

この明るさは、“J0529-4351”が持つ超大質量ブラックホールの活動によって、その周りに作られた物質の円盤“降着円盤”(※3)が熱せられることで生じていると考えられています。

“J0529-4351”の降着円盤は直径約7光年もあると考えられていて、知られているものとしては最大の降着円盤になります。

中心部にある超大質量ブラックホールの質量は太陽の約170億倍。
これはブラックホールの質量ランキングで上位に位置するものです。

この明るさを説明するには、1日あたり太陽ほぼ1個分の質量の物質を吸い込んでそのエネルギー源としていることが考えられます。
この物質の吸い込み量(降着率)も、知られているクエーサーの中では最大のものでした。
※3.ブラックホールへ落下する物質は角運動を持つため、降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤をブラックホールの周囲に作る。降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ、この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射し降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測される。


明るいクエーサーはもっとたくさん見つかる?

今回の研究で、“J0529-4351”は観測史上最も明るいクエーサーということが分かりましたが、それも短期間だけかもしれません。

それは、今回の発見を踏まえると、“J0529-4351”の他に異様に明るいため誤ったラベル付けをされたクエーサーが多数眠っている可能性があるからです。

膨大な天体を記録した掃天観測カタログは複数あります。
こうしたカタログに対して、“J0529-4351”のような外れ値を持つ天体を見つける手法で探索すれば、明るいクエーサーがもっとたくさん見つかるかもしれません。

“J0529-4351”は、すでに天体カタログデータにラベル付きで掲載されていて、かつ人の目で見ても異常な性質を持つことから、クエーサーと確定するための研究がスタートしました。

将来、今回の研究が参照される際には、単に特別明るいクエーサーを1個発見しただけではなく、さらに多くの明るいクエーサーを見つけるきっかけとなった、という評価がされるかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ



最新の画像もっと見る

コメントを投稿