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3本の腕でガスを吸い込む三つ子の赤ちゃん星“三重原始星”はどのように誕生したのか?

2023年09月26日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
今回の研究では、3つの原始星からなる星系“IRAS 04239+2436”について、アルマ望遠鏡を用いた高解像度での観測により、ガスの詳細な構造を調べています。

その結果、衝撃波の存在を示す一酸化硫黄分子が発する電波輝線を検出し、その分布が細長くたなびく大きな3つの渦状腕を形作っていることを発見。

さらに、観測から得られたガスの速度情報を数値シミュレーションと比較することにより、3つの渦状腕は3つの原始星にガスを供給する“ストリーマー”の役割も担っていることが分かっています。

これまでストリーマーの起源については未解明でしたが、観測とシミュレーションのタッグによって、ストリーマーの起源を多重星のダイナミックな形成過程から初めて明らかにしたことになります。
この研究は、ソウル国立大学のジョンユアン・リー教授、法政大学の松本倫明教授たちの国際研究チームが進めています。
三重原始星“IRAS 04239+2436”のイメージ図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)
三重原始星“IRAS 04239+2436”のイメージ図。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

多重星はどうやって作られるのか

天の川銀河にある恒星の約半数は、2個以上の星が互いを回り合う“連星系”として生まれることが知られていて、これまでに見つかっている太陽系外惑星でも、2個以上の太陽を持つものはいくつも存在しています。

その中でも、3つ以上の星が互いに回り合う“多重星”として誕生することも少なくありません。
多重星の形成メカニズムを理解することも、星がどのようにして生まれるのかを知る上で大変重要なことになります。

でも、その形成過程は多くの謎に包まれているんですねー

これまで、多重星の形成について、いくつかのシナリオが提案され熱い議論がされてきましたが、残念ながらいまだに収束できていません。

なので、多重星の形成過程を理解するには、アルマ望遠鏡の高解像度・高感度を活かして、複数の原始星が生まれる瞬間を直接観測するのが効果的になります。

さらに、最近の原始星の観測では、原始星に向かってガスが流れている“ストリーマー”と呼ばれる構造がしばしば報告されています。

ストリーマーは、原始星がガスを吸い込んで成長している様子を示す重要な構造なんですが、どのように作られたのかもまだ解明されていません。

多重星の原始星の周りのガスの流れは、複雑な構造をしていると予想されるので、アルマ望遠鏡のような高解像度による詳細な観測は、ストリーマーの起源を解明する強力な研究手段になるはずです。

3つの原始星からなる“三重原始星”をアルマ望遠鏡で観測

今回、研究の対象になったのは、約460光年彼方に位置する“IRAS 04239+2436”。
3つの原始星からなる“三重原始星”です。

研究では、“IRAS 04239+2436”周辺の一酸化硫黄(SO)分子が出す電波を、アルマ望遠鏡を用いて高解像度かつ高感度で観測しています。

一酸化硫黄は、衝撃波がある場所でよく検出されている分子なので、原始星の周りでガスが激しく動き回るところを、とらえることができると考えたわけです。

観測の結果、三重原始星の周囲に一酸化硫黄分子を検出。
一酸化硫黄分子の分布が、長さ400天文単位にも渡る大きな3つの渦状腕(渦のような形をした細長い構造)を形作っているのを見つけています。

さらに、ドップラー効果による電波の周波数の変化から、一酸化硫黄分子を含んだガスが動く速度を導き出すことに成功。
ガスの動きを分析してみると、今回観測された渦状腕の形をした一酸化硫黄ガスは、三重原始星に向かって流れ込むストリーマーだと分かりました。
観測される光の波長ごとの強度分布“スペクトル”に現れる線は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている物質からの光は波長が短く(青く)なり、遠ざかっている物質の光は波長が長く(赤く)なる。この周波数の変化量を測定することで、天体の視線速度を知ることができる。周波数で表されたスペクトル線幅を視線速度に換算したものを“速度幅”という。
三重原始星“IRAS 04239+2436”のガスの分布。(左)アルマ望遠鏡がとらえたガスの分布(一酸化硫黄が放つ電波の強度)、(右)数値シミュレーションで再現されたガスの分布。左のパネルにおけるAとBの青い放射源は、それぞれの原始星を円盤状に取り囲むチリからの電波に対応し、点源Aは解像されていない2個の原始星からなる。右側のパネルでは、3つの原始星の位置を十字で示している。数値シミュレーションでは観測された3つの渦状腕が再現されている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)、 J.-E. Lee et al.)
三重原始星“IRAS 04239+2436”のガスの分布。(左)アルマ望遠鏡がとらえたガスの分布(一酸化硫黄が放つ電波の強度)、(右)数値シミュレーションで再現されたガスの分布。左のパネルにおけるAとBの青い放射源は、それぞれの原始星を円盤状に取り囲むチリからの電波に対応し、点源Aは解像されていない2個の原始星からなる。右側のパネルでは、3つの原始星の位置を十字で示している。数値シミュレーションでは観測された3つの渦状腕が再現されている。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)、 J.-E. Lee et al.)

観測結果とシミュレーションの比較

ガスの動きをさらに詳細に調べるため、研究チームは数値シミュレーションによってガス雲から多重星ができる様子を再現し、観測から得られたガスの速度とシミュレーションの結果を直接比較しています。

この数値シミュレーションに用いられたのが、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイ”および“アテルイII”でした。
“アテルイ”、“アテルイII”は、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが運用する、天文学における数値シミュレーション専用のスーパーコンピュータ。岩手県奥州にある国立天文台水沢キャンパスに設置されていて、平安時代に活躍したこの土地の英雄アテルイにあやかり命名。「勇猛果敢に宇宙の謎に挑んでほしい」という願いが込められている。
数値シミュレーションでは、ガス雲の中で三重原始星が形成され、その周りでかき乱されたガスが渦状腕の形をした衝撃波を作り、渦状腕がストリーマーになって3つの原始星にガスを供給していました。

観測から得られた渦状腕とストリーマーの速度は、数値シミュレーションととてもよく一致。
数値シミュレーションがストリーマーの起源を説明しているようでした。

三重原始星はどのように誕生したか

観測と数値シミュレーションの比較で、この三重原始星がどのように誕生したかにまで迫ることができます。

これまで、多重星の形成には、2つのシナリオが提案されていました。

1つ目は、星の材料になるガス雲が乱流によって分裂し、それによってできた複数のガスの塊がそれぞれ原始星になるという“乱流分裂シナリオ”。

2つ目は、原始星を取り巻くガス円盤が分裂し、新たな原始星がうまれ多重星になる“円盤分裂シナリオ”。

これらに対して今回観測した三重原始星は、その両方を合わせたハイブリッドシナリオで説明できることが分かりました。

ハイブリッドシナリオのシミュレーションでは、乱流分裂シナリオのような乱流状態のガス雲の中で、円盤分裂シナリオのように円盤が分裂して原始星の種が複数個形成。
周囲のガスの乱流のために渦状腕が広く長くたなびくことになるというものです。

観測結果はシミュレーション結果とよく似ていて、ハイブリッドシナリオによる多重星形成の天体を、初めて観測により発見したと言えます。

このように天体の起源とストリーマーの起源を統一的に解明したのは、この天体が初めてのこと。
アルマ望遠鏡による観測とシミュレーションが手を組むことで、多重星形成の新しい姿を見ることができました。
スーパーコンピュータ“アテルイ”による多重星形成のシミュレーション。乱流のあるガス雲の中から原始星が複数誕生し、周囲のガスをかき乱し渦状腕を作りながら成長する様子が計算によって描き出された。(Credit: 松本倫明、武田隆顕、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)
さらに、今回の研究による知見から、多重星の系における惑星形成の難しさについても知ることができるかもしれません。

惑星は原始星の周りにできるガス円盤の中で生まれます。
でも、この三重原始星のように原始星が狭い場所に集まっている場合、原始星による重力の影響が複雑になってしまいます。
さらに、星の周りのガス円盤は小さく、連星が互いの円盤を剥ぎ取るなどがあり、長時間静かな環境で惑星を作ることができないんですねー

そう、今回観測された“IRAS 04239+2436”は惑星の形成には適さない場所だと言えます。

ハイブリッドシナリオによって形成中の多重星が実際に観測されたことは、多重星形成シナリオの論争の終息に多く寄与するはずです。

また、最近注目のストリーマーについても、その存在が観測されただけでなく、それらがどのように作られたのかについても説明できたことは大きな進歩になります。


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