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核融合反応を終えた天体“白色矮星”は冷えていくはず… 重い白色矮星の約6%でしか起こらない加熱プロセスを解明

2024年04月01日 | 宇宙 space
超新星爆発を起こさない比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が、赤色巨星の段階を経て進化した天体が白色矮星です。

赤色巨星に進化した恒星は、周囲の宇宙空間に外層からガスを放出して質量を失っていき、その後に残るコア(中心核)が白色矮星になると考えられています。

標準的な恒星進化論で考えると、太陽は今から約70億年後(誕生から約120億年後)には赤色巨星になり、外層が地球を飲み込むほど膨張した後に少しずつ離れていき、最終的には白色矮星を残すと考えられています。

一般的な白色矮星は直径こそ地球と同程度ですが、質量は太陽の4分の3程度もあるとされる高密度な天体。
誕生当初の白色矮星の表面温度は10万℃を上回ることもありますが、内部で核融合反応は起こらず余熱で輝くのみなので、太陽のように単独の恒星から進化した白色矮星は長い時間をかけて冷えていくことになります。

でも近年では、この説明が当てはまらず、数十億年も冷却が停止していると見られる白色矮星が次々と見つかっているんですねー

白色矮星の熱は年齢を推定する指標となっているので、もし年を取らないプロセスがあるとすると、それは重要なことになります。

今回の研究では、白色矮星内部のモデル化を行っています。
その結果、固化した小さな塊が浮上することで生じる重力エネルギーによって、白色矮星の表面温度が80億年以上も一定に保たれるほどの熱が発生することを突き止めました。

この結果は、白色矮星の年齢を指標とした様々な研究に影響を与えることになりそうです。
この研究は、ウォーリック大学のAntoine Bédardさん、ビクトリア大学のSimon Blouinさん、およびプリンストン高等研究所の程思浩さんたちの研究チームが進めています。
図1.中心部が固化した白色矮星(イメージ図)。形成直後の白色矮星が“液体”の状態で、冷えていくに従い中心部から“固体”になっていくと考えられる。(Credit: Travis Metcalfe & Ruth Bazinet, Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)
図1.中心部が固化した白色矮星(イメージ図)。形成直後の白色矮星が“液体”の状態で、冷えていくに従い中心部から“固体”になっていくと考えられる。(Credit: Travis Metcalfe & Ruth Bazinet, Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)


太陽のような軽い恒星の進化の最終段階

恒星は、中心核で起こる核融合反応により自らエネルギー(外向きの圧力)を生成することで、重力(内向きの圧力)によって潰れるのを回避しています。
太陽のように比較的軽い恒星だと、燃料となる水素ガスが無くなったときに寿命を迎えることになります。

恒星が輝いているのは、核融合反応という水素ガスを燃料にして燃え続けているからです。
でも、水素ガス少なくなると、燃える力がだんだんと小さくなっていきます。

水素原子は核融合反応によってエネルギーを出しますが、この反応でヘリウムというガスの原子に換わっていきます。
このため、核融合反応が進んでいくと中心にヘリウムがたまり続け、恒星はどんどん膨張し赤色巨星という天体となります。

また、膨張する一方で表面温度は下がり続けます。
さらに、時間が進むと膨張し続けた恒星の表面からガスがどんどん剝がれ、周囲をガスが取り巻いている“惑星状星雲”という姿になります。

ガスはやがて宇宙空間に散らばっていき、最後には1センチのサイコロサイズが1トン以上にもなる高密度な中心核を残すことになります。
このような天体が白色矮星です。


核融合反応を終えた天体で起こる加熱プロセス

白色矮星は、その名の通り白く輝いていますが、これは恒星の中心核にあったという名残りで、いわば余熱です。
白色矮星は核融合が起こらない死んだ星なので、余熱が徐々に宇宙空間へと逃げ出し、長い時間をかけて冷えていくことになります。

白色矮星の表面温度と明るさは相対関係にあります。
なので、これまで白色矮星の明るさは形成されてからの年数、つまり白色矮星の年齢を反映していると予測されてきました。

でも、白色矮星についての研究が進むと、そこまで単純ではないことが分かってくるんですねー

白色矮星の観測データが増えるに従い、白色矮星の明るさから推定される年齢と、そのほかの方法(※1)で推定される年齢が、大幅にズレているものが次々と見つかるようになりました。
そのような白色矮星は、質量が大きいグループの約6%を占めています。

また、白色矮星の内部は形成当初は“液体”で、その後“固体”へと冷えて固まると予測されています。
ここでいう液体や固体は比喩表現的ですが(※2)、それでも私たちに身近な物質の液体や固体と同じく、相転移によって熱(潜熱)が生じることが予想されています。

このように、白色矮星はこれまで考えられていたほどには、死んだ星ではないことが分かってきています。
それでも、これまでに解明された加熱プロセスでは、せいぜい冷却する時間を10億年程度遅くすることしかできないはずでした。
なので、数十億年ものズレを説明するには、別の知られていないプロセスが必要となります。
※1.例えば、同じ星団内の恒星の年齢から推定された白色矮星の年齢。星団内に存在する恒星は、ほぼ同時に形成されたとみなすことができるので、このような推定が可能となっている。

※2.白色矮星を構成する物質は、通常の原子と比べて電子軌道が極限まで縮まっている(縮退している)と予想されている。白色矮星内部の状態を表すために固体や液体という言葉を使う時は、縮退した原子が結晶構造を形成している場合は固体、ランダムである場合は液体と表現している。


重力エネルギーが熱へと変換されるプロセス

今回の研究では、白色矮星内部についてのモデルを構築し、謎の解明に取り組んでいます。
研究では、数十億年も安定して続く冷却停止プロセスを探すことになります。

程思さんは、2019年に別のプロセスによる数十億年もの冷却停止プロセスを提案したこともありますが、これは非現実的な条件だとななされていました。(※3)
図2.これまでの白色矮星のモデルでは、内部に固体の大きな塊があると考えられてきた(左側)。一方、今回の研究では、一部の白色矮星では、より小さな固体の塊が生じ、密度差で固体の浮上と液体の沈降が発生することが示されている(右側)。(Credit: Bédard, et al.)
図2.これまでの白色矮星のモデルでは、内部に固体の大きな塊があると考えられてきた(左側)。一方、今回の研究では、一部の白色矮星では、より小さな固体の塊が生じ、密度差で固体の浮上と液体の沈降が発生することが示されている(右側)。(Credit: Bédard, et al.)
研究チームでは、より現実的な説として、白色矮星の内部の固化プロセスをより詳細に検討。
白色矮星は内部から固体化すると考えられていますが、これまで大きな塊が中心部に沈んだまま存在するものと考えられてきました。

でも、研究チームがより詳細にプロセスを検討して分かったのは、これまで考えられていたよりもずっと小さな複数の塊が生じることでした。

この固体は、1粒1粒が小さいうえに、液体に対して密度が低いので、水に対する氷と同じように浮き上がると考えられます。
これにより、相対的に密度が高い液体の部分が沈み込むことになり、重力エネルギーが熱へと変換される訳です。

今回のシミュレーションでは、このプロセスが80億年以上も表面温度を維持するほどの熱を発生させることを示していました。
※3.2019年の研究では、ネオン22が沈降することによる重力エネルギーが熱源だと推定されていました。でも、この説を満たすには重い白色矮星に含まれていると推定される量の5倍も多くのネオン22が必要だった。


一部の白色矮星でしか起こらない加熱プロセス

いずれにしても、冷却停止プロセスは白色矮星のごく一部でしか起こっていません。

では、今回示された固体の浮上による加熱プロセスは、なぜ一部の白色矮星でしか起こらないのでしょうか?

このことはまだ不明です。
ただ、研究チームでは白色矮星の形成過程がカギになっていると考えています。

重い白色矮星は、恒星の中心核から直接生成されるのではなく、恒星または白色矮星が衝突することで生成されると考えられています。
衝突によって白色矮星の内部は激しくかき乱されることになり、この現象によって小さな塊が生じるのかもしれません。

この仮説は、数十億年も冷却が停止しているとみられる白色矮星が、重い白色矮星の中の約6%という少数派であることと一致しています。

白色矮星の年齢の推定は、例えば近くにある恒星の年齢など、様々な指標に使われています。

でも、冷却停止プロセスは、宇宙の年齢である138億年と比べても十分長い80億年以上に渡る現象です。
なので、年齢が推定された白色矮星の中には、実際よりももっと古いものが混ざっている可能性もあります。

今回の研究は、白色矮星の年齢に基づく天文学の研究に大きな影響を与えるかもしれません。


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