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結晶化が始まっている白色矮星“HD 190412 C”はダイアモンドになりつつある? 新たな熱が発生しない“死んだ星”が加熱される理由

2023年08月11日 | 宇宙 space
“白色矮星”は“宇宙最大のタイヤモンド”と例えられることがあります。

ただ、現在の宇宙に存在する白色矮星は、全体がダイヤモンドのように結晶化しているわけではありません。
なので、この例えは厳密に言えば誤りなんですねー

でも、今回の研究で観測したのは、地球から約104光年の彼方に位置する白色矮星“HD 190412 C”で、ダイアモンドの結晶化が始まっている証拠でした。
この研究を進めているのは、サザンクイーンズランド大学のAlexander Vennerさんたちの研究チームです。
白色矮星の結晶化が、直接の観測結果から確かめられたのは、今回が初めてのことでした。

2004年には“BPM 37093(ケンタウルス座V886星)”という白色矮星の約90%が、結晶化していると推定した研究結果が発表されていました。
でも、これは星雲のデータをモデル化した研究であり、間接的な証拠に基づいたもの。
これに対し、“HD 190412 C”を対象にした今回の研究は、白色矮星から放出される光を直接観測して推定したものになります。
内部が結晶化した白色矮星(イメージ図)。白色矮星の保持した熱は宇宙空間へ逃げ、中心部から結晶化していくと考えられる。今回初めて“HD 190412 C”で結晶化の観測的証拠が見つかった。(Credit: Travis Metcalfe & Ruth Bazinet, Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)
内部が結晶化した白色矮星(イメージ図)。白色矮星の保持した熱は宇宙空間へ逃げ、中心部から結晶化していくと考えられる。今回初めて“HD 190412 C”で結晶化の観測的証拠が見つかった。(Credit: Travis Metcalfe & Ruth Bazinet, Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)

熱を放出して冷えていく一方の天体

超新星爆発を起こせない太陽のような軽い恒星が赤色巨星の段階を経て進化した天体、それが白色矮星です。

白色矮星は、外層からガスや塵を放出し硬い芯(コア、中心核)だけが残されたコンパクトな星で、中心部の核融合は停止。
太陽程度の質量が、地球程度の大きさに閉じ込められているので、白色矮星は強大な重力で圧縮されていて、主な成分になる炭素原子と酸素原子は極限まで縮められています。
白色矮星を構成する“元素”の組成は、元の恒星の質量によって変化することになる。もっとも一般的な白色矮星の組成は炭素と酸素。でも、軽い恒星由来の白色矮星は、ほとんどがヘリウムで構成され、逆に重い恒星由来の白色矮星は、ネオンやマグネシウムが多いと言われている。
白色矮星は、恒星の中心核だった頃の余熱のみを保持し、新たな熱が発生しない“死んだ星”なので、宇宙空間に熱を放出して冷えていく一方の天体です。

温度が下がるにしたがって、白色矮星を構成する原子の配置は中心部から外側へと順に、ランダムな状態から整列した状態に変化。
つまり結晶化が発生すると考えられています。

そう、白色矮星が“ダイヤモンド”と表現されるのは、高温高圧の環境下で炭素原子の結晶が現れると考えられるからです。
ただし、白色矮星の環境は超高温・超高圧になるので、内部が本当にダイヤモンドなのか、それとも別の結晶構造が現れるのかは分かっていない。

結晶化が始まっていることを示す証拠

白色矮星が冷え切るには1000兆年もかかると言われています。

私たちの宇宙は、その0.001%程度の時間しか経過していないので、全体が結晶化してダイヤモンドになった白色矮星は、まだ私たちの宇宙には存在しないことになります。

ただ、現在の宇宙にも冷却が始まる初期段階の白色矮星は存在するので、一部で結晶化が始まっていてもおかしくはないんですねー

では、どうすれば白色矮星で結晶化が始まっていることを示す証拠を見つけられるのでしょうか?

今回の研究では、“HD 190412 C”とその周りにある天体の関係性から証拠を見つけようとしています。

“HD 190412 C”は、四重連星“HD 190412”星系を構成する天体の1つであり、残りの3つは全て恒星です。

恒星と白色矮星には、それぞれ独立した年齢の算出方法があり、またいくつかの手法によって年齢差を絞り込むことができます。

白色矮星の年齢は、表面温度を元に“冷め具合”を推定することができます。
ところが、白色矮星の内部で結晶化が起こると、結晶化による熱(潜熱)が放出されて、白色矮星は加熱されることに…
そう、結晶化による熱は表面温度から推定される年齢を大幅にずらし、白色矮星を実際の年齢よりも“若く”見せることになります。

そう、この推定年齢のズレが、結晶化が起きていることを示す具体的な証拠になる訳です。

“HD 190412 C”の中心部は約65%が結晶化している

観測の結果推定されたのは、“HD 190412”星系全体の年齢は約73億年ということ。
一方で、“HD 190412 C”の年齢は、白色矮星になる前の恒星だった頃も含めて、約42億年だと推定されました。

星系全体の年齢に対する31億年という大幅なズレは、“HD 190412 C”が再加熱されたことで実際よりも若く見えていると考えることができます。
これは、内部で結晶化が始まっていることを示す有力な証拠になり、今回の観測結果に基づくと“HD 190412 C”は、中心部の約65%が結晶化していると推定されます。
“HD 190412 C”を生み出した元の恒星はかなり重く、寿命は2億9000万年程度だったと推定されている。
このため、白色矮星になる前の時間は31億年というズレの中では、ほとんど無視できると考えられます。

ただし、星系全体の推定年齢には使用された算出方法によってバラつきがあり、31億年というズレの推定値には±19億年という大きな幅が残っています。

白色矮星の内部について細かく推定するには、“HD 190412”星系の年齢の不確かさを10億年以内にしないといけないので、今回のデータだけでは、白色矮星の内部の様子を具体的に構築することはできませんでした。

また、白色矮星の内部に含まれる微量成分(ネオン22)が、結晶化に伴って分離する効果も考慮する必要があります。
これにより、さらに10億年程度の冷却速度の低下が起こると言われていますが、これについてはもはっきりしたことは分かっていないので、これの影響も注目されています。

地球から約104光年という近い距離にある白色矮星で結晶化の証拠が見つかったということは、他の白色矮星でも同様の現象が発生していると予測されます。

今後、多数の白色矮星を観測していけば、白色矮星の内部で起こる現象について、さらに具体的なことが分かるはずですね。


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