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はるか彼方“オールトの雲”からやって来る長周期彗星の軌道分布には偏りがある

2020年10月06日 | 太陽系・小惑星
200年以上の公転周期を持つ長周期彗星は、あらゆる方向から満遍なくやってくるのではないようです。
今回、国立天文台が発表したのは、長周期彗星の軌道の向きが特定の2つの面に集中していること。
解析的手法を用いた研究で予測され、さらに数値計算と彗星カタログによっても確認したそうです。

太陽系を球殻状に包む雲

太陽系は、無数の小天体が球殻状に広がっている“オールトの雲”と呼ばれる想像上の天体群に包まれていると考えられています。

想像上とされているのは、現時点で直接“オールトの雲”に属する天体を観測していないから。
海王星の外側の軌道、冥王星などを含む太陽系外縁天体が含まれるエッジワース・カイパーベルトとはまた別の天体になります。

カイパーベルトは太陽からおよそ30~50天文単位の距離に、およそ黄道面に沿って“第2の小惑星帯”とも言うべきリング状に存在しています。
1天文単位は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当し、太陽~海王星間の距離は約30天文単位。
黄道とは地球から見た太陽の天球上の通り道。
それに対して“オールトの雲”が存在しているのは、1万天文単位から10万天文単位(約1.5光年)…
もはや、恒星間空間ともいえるような光年単位の遠距離にまで広がっていると考えられているんですねー

太陽圏を脱出したといわれている探査機“ボイジャー1号”ですら、実はまだ150天文単位を過ぎたところを飛行しています。

“オールトの雲”から来た長周期彗星

“オールトの雲”は“彗星の巣”や“彗星の故郷”などと言われ、原始惑星系円盤の残りであり、惑星になり損ねた(取り込まれ損ねた)氷やメタンなどの小天体からなると考えられています。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。
そう、太陽系創成期の記録をとどめたタイムカプセル的な小天体で構成されているのが“オールトの雲”というわけです。

10万天文単位ほどまで来ると、太陽の重力と近傍の恒星、および天の川銀河の重力などが釣り合うようになります。
なので、わずかな重力バランスの変動や、他天体との衝突などで小天体の軌道が乱されると、場合によっては太陽に向かって落下していくことになります。

そして、地球上なら地質学的ともいえるような長い時間の果てに、太陽近傍まで落下してきて、ときには長い尾を引いて壮大な天体ショーを見せてくれることもあります。

“オールトの雲”がリング上ではなく球殻状に存在すると考えられているのは、そこの出身である長周期彗星が様々な“軌道傾斜角”を持っているからです。
“軌道傾斜角”とは、黄道面に対して天体の軌道が傾いている角度のことをいう。

太陽系の惑星はみな太陽の赤道面(黄道面)におおよそ沿って公転しています。

ただ、小天体、中でも太陽の重力の影響が弱まるカイパーベルト近辺から先は、冥王星のように斜めに傾いている物も多くあるんですねー

“オールトの雲”を構成する無数の小天体たちが原始惑星系円盤から誕生したのであれば、46億年前の太陽系創成期には黄道面に沿って公転していたはずです。

でも、木星や土星などの巨大惑星や、他の恒星、天の川銀河などからの影響を受けて、徐々に軌道が乱されたとすれば、球殻状に太陽系を包むようになったのも理解できます。

長周期彗星の“軌道傾斜角”の分布

これまでの研究では、約46億年に及ぶ軌道進化の過程により、初期の軌道情報は完全に失われてしまうので、長周期彗星の“軌道傾斜角”の分布には偏りがないとされてきました。

でも、長周期彗星が空間的に一様に分布しているとは考えにくいんですねー

その理由は、“オールトの雲”を構成する小天体たちも、最初は黄道面にほぼ沿って公転していたはずであること。
もう一つは、天の川銀河や他の恒星などからの重力が46億年もの間、常に完全に均等に影響していたとは考えにくいことです。

そこで、今回の研究で着目したのは、長周期彗星の“軌道傾斜角”ではなく、やって来る向き。
彗星の描く軌道のうち、太陽から最も遠ざかる遠日点の方向でした。

遠日点の方向が同じなら、長周期彗星の場合は“軌道傾斜角”の違いは大きな意味を持ちません。

それは、長周期彗星の遠日点はカイパーベルトよりも遠方のものも多く、軌道全体を俯瞰すればほぼ同じ形状になってしまうから。
何しろ長周期彗星は、数百年の周期は短い方で、次に太陽近傍に戻って来るのに数万年というようなものもあります。
軌道傾斜角(i)が30度から90度までの異なる長周期彗星の軌道。黒丸は太陽を表し、メモリは天文単位(au)。(左)太陽近傍を拡大したもの。遠日点方向が同じでも、軌道傾斜角により軌道が大きう異なるのが分かる。(右)長周期彗星の軌道の俯瞰図。遠日点はカイパーベルトよりも遥か先にあり、もはや楕円軌道に見えない。このスケールになると軌道傾斜角の違いは意味をなさず、遠日点方向が同じ長周期彗星は、ほぼ同じ軌道に見える。(Credit: 国立天文台)
軌道傾斜角(i)が30度から90度までの異なる長周期彗星の軌道。黒丸は太陽を表し、メモリは天文単位(au)。(左)太陽近傍を拡大したもの。遠日点方向が同じでも、軌道傾斜角により軌道が大きう異なるのが分かる。(右)長周期彗星の軌道の俯瞰図。遠日点はカイパーベルトよりも遥か先にあり、もはや楕円軌道に見えない。このスケールになると軌道傾斜角の違いは意味をなさず、遠日点方向が同じ長周期彗星は、ほぼ同じ軌道に見える。(Credit: 国立天文台)

長周期彗星の遠日点方向は2種類ある

軌道進化の解析を実施して分かってきたのは、遠日点方向の緯度と経度が変化する周期の比に、特殊な関係が成り立つこと。
その特殊な関係とは、緯度が1振幅すると経度は約半周(180度)動く、緯度は変化するが経度はほとんど変化しないの2パターンでした。

個々の長周期彗星がどちらのパターンであるかを決めるのは、46億年前の初期の遠日点方向になります。

また、彗星が惑星のある領域に再び戻ってくるまでの時間は、緯度の変動周期と等しくなるようです。

このような特殊な関係が成り立つことから、初期に黄道面にいた超周期彗星が“オールトの雲”を経て再び惑星領域に戻ってくるときの遠日点方向は2種類あるとすることができます。

今回の研究で導かれたのは、初期値である黄道面か、銀河面に対して黄道面を反転させたもう一つの仮想的な面(研究グループでは空黄道面と呼んでいる)のどちらかであること。
ちなみに黄道面は銀河面に対して約60度傾いていて、空黄道面は銀河面を挟んで反対側に約60度傾いています。
黄色のリングが黄道面、水色のリングが空黄道面を表した概念図。“オールトの雲”からやって来る長周期彗星の軌道の向きは、黄道面もしくは空黄道面の2つであることが多い。また2つの面は、天の川銀河の銀河面に対して互いに正反対の向きに約60度傾いている。(Credit: 国立天文台)
黄色のリングが黄道面、水色のリングが空黄道面を表した概念図。“オールトの雲”からやって来る長周期彗星の軌道の向きは、黄道面もしくは空黄道面の2つであることが多い。また2つの面は、天の川銀河の銀河面に対して互いに正反対の向きに約60度傾いている。(Credit: 国立天文台)
遠日点方向は、惑星領域へ奇数回目に戻ってくるときは空黄道面に、偶数回目に戻ってくるときは黄道面になります。

仮に長周期彗星の軌道が満遍なく分布しているのであれば、遠日点方向の偏りはないと予想されています。
そのことから、もしこの2つの面、特に空黄道面への集中を確認することができれば、“オールトの雲”からやってきた長周期彗星はかつては黄道面にあったとすることができます。

そこで、研究グループが調べたのは、これまでに観測された長周期彗星の遠日点の分布。
NASA/JPLのカタログから、長周期彗星の軌道軸の銀河系座標における緯度と経度の分布を作成しています。
長周期彗星の遠日点方向の緯度と経度の正弦分布。赤線が黄道面、青線が空黄道面で表されている。プロットされた天体は近日点距離が1天文単位以上かつ軌道長半径が1000天文単位以上または離心率が1以上の小天体。離心率は軌道の形を表し、0が真円、0より大きく1未満は楕円になる。そして1と等しいときには放物線、1以上になると双曲線を描く。つまり、1以上の天体は二度と太陽の元に戻ってこないことになる。また、紫のプロットは人類が初めて確認した恒星間天体“オウムアムア”で、オレンジは2番目に確認された“ボリソフ”。データ元はNASA/JPL。(Credit: 国立天文台)
長周期彗星の遠日点方向の緯度と経度の正弦分布。赤線が黄道面、青線が空黄道面で表されている。プロットされた天体は近日点距離が1天文単位以上かつ軌道長半径が1000天文単位以上または離心率が1以上の小天体。離心率は軌道の形を表し、0が真円、0より大きく1未満は楕円になる。そして1と等しいときには放物線、1以上になると双曲線を描く。つまり、1以上の天体は二度と太陽の元に戻ってこないことになる。また、紫のプロットは人類が初めて確認した恒星間天体“オウムアムア”で、オレンジは2番目に確認された“ボリソフ”。データ元はNASA/JPL。(Credit: 国立天文台)
黄道面と空黄道面への集中をより定量的に評価するため、研究グループは銀河面からの傾きを表す角度εを導入。
ε=0が銀河面、ε=60度が黄道面、ε=-60度が空黄道面を表し、長周期彗星のεの分布を表したのが下のグラフです。

このグラフから分かるのは、黄道面と空黄道面付近が多いこと。
これにより、46億年前の太陽系創成期に、多くの長周期彗星は黄道面にあったということが判明します。

今回の研究成果は、長周期彗星のような太陽系の小天体の観測的研究を飛躍させる可能性があります。

長周期彗星は地球にかなり接近してからでないと発見するのが難しいので、観測期間が短くなってしまうことがよくあります。

でも、今回の成果により、長周期彗星がやってくる方向をある程度絞り込める可能性があるとしたら。
長周期彗星をまだ遠方にいる段階で発見できる確率を上げられ、観測期間を稼げるようになるはずです。
基準面から図った遠日点方向の経度(ε)の分布。ε=-60度が空黄道面に対応する。長周期彗星の遠日点方向の経度は、黄道面と空黄道面に多いことが分かる。(Credit: 国立天文台)
基準面から図った遠日点方向の経度(ε)の分布。ε=-60度が空黄道面に対応する。長周期彗星の遠日点方向の経度は、黄道面と空黄道面に多いことが分かる。(Credit: 国立天文台)


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