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“ブラックホールコロナ”からX線の輝きが消えたのは破壊された恒星が原因?

2020年07月26日 | ブラックホール
超大質量ブラックホールを取り巻く“ブラックホールコロナ”が放つX線が、短時間で劇的に変化する様子がとらえられました。

もちろん、ブラックホールを直接観測することはできません。
でも、その周辺にある“降着円盤”や“ブラックホールコロナ”を構成する超高温のプラズマ粒子からは、強いX線が放射されています。
このX線を国際宇宙ステーションや天文衛星による観測網を用いて、現象の全容をつかむことに成功しています。
どうやら、超大質量ブラックホールに接近して破壊された恒星の残骸が原因のようです。


銀河の中心に存在する超大質量ブラックホール

私たちが属する天の川銀河をはじめとして、ほぼすべての銀河の中心には、太陽質量の数百万~数十億倍もの超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。

その周りにはブラックホールに落ち込む物質によって、ブラックホールを取り巻く“降着円盤”が形成されていて、この円盤のさらに外側には高温のプラズマでできた“ブラックホールコロナ”が存在しています。
ブラックホールによって集められたガスやチリは、降着円盤を形成しブラックホールに落ち込んでいく。一方、降着円盤内のガスの摩擦熱によって電離してプラズマ状態になると、電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットとして噴射する。

ブラックホールそのものを見ることはできません。

ただ、その周囲にある“降着円盤”や“ブラックホールコロナ”を構成する超高温のプラズマ粒子からは、強いX線が放射されているんですねー
そのX線をとらえることで、間接的にブラックホールに関する情報を得ることはできます。


“ブラックホールコロナ”からX線の輝きが消えた理由

2年前のこと、チリ・ディエゴ・ポルタレス大学の研究チームは、りゅう座の方向約3億光年彼方に位置する銀河“1ES 1927+654”の“ブラックホールコロナ”をX線で観測。
X線の強度が40日ほどの間に急激に弱くなり、元の1万分の1ほどまで暗くなる現象をとらえていました。
“1ES 1927+654”は活動銀河核を持つ銀河(セイファート1型)。銀河の形態は渦巻銀河または不規則銀河で極端に明るい中心核を持つ。中心核の活動性は中心に存在する大質量ブラックホールによるものと考えられている。

さらに、その約100日後にはX線は暗くなる前の20倍も明るくなることに…
こうした変化は“降着円盤”のあるブラックホールでは見られないので、当初はデータのエラーだと思われました。

その後、分かってきたのは、この現象がデータのエラーではなく事実だということ。
前例のないことなので、研究チームはどう解釈すればいいのか全く分からない状態になります。

ブラックホールが物質を取り込む過程で“ブラックホールコロナ”がX線で輝くので、“1ES 1927+654”からの輝きが消えたということは物質の供給が止まったことを意味します。

そこで、研究チームが考えたのは、迷い込んだ恒星がブラックホールに接近し過ぎて引き裂かれたこと(潮汐破壊)が、この現象の原因になっているということ。
恒星の残骸が高速で“降着円盤”に突入し、ガスを一時的に散らしたようです。

実際、X線が消失する数か月前、可視光線の波長で“降着円盤”が著しく明るくなる様子を地上の天文台が観測。
この増光は、星の残骸が最初に円盤に衝突したことで引き起こされた可能性があり、研究チームの考えと合致していました。
“ブラックホールコロナ”が消える前後を描いたイラスト。(左)ブラックホールを取り囲む“降着円盤”に向かって、恒星の残骸が光の筋となって落ち込んでいる。青白い光を放つ球が“ブラックホールコロナ”。(右)“降着円盤”のガスが散らされて物質の供給が途絶え、“ブラックホールコロナ”が消えた様子。(Credit: NASA/JPL Caltech)
“ブラックホールコロナ”が消える前後を描いたイラスト。(左)ブラックホールを取り囲む“降着円盤”に向かって、恒星の残骸が光の筋となって落ち込んでいる。青白い光を放つ球が“ブラックホールコロナ”。(右)“降着円盤”のガスが散らされて物質の供給が途絶え、“ブラックホールコロナ”が消えた様子。(Credit: NASA/JPL Caltech)


国際宇宙ステーションや複数の天文衛星による観測

“1ES 1927+654”で起こった劇的な変化は異例なことでした。
ただ、この現象に対して徹底的な観測網が敷かれていたことも特筆すべきことなんですねー

まず、可視光線での増光が観測された際に、研究チームが行ったことがあります。
それは、国際宇宙ステーションに設置されているX線望遠鏡“NICER”によるモニタリング観測の依頼でした。
その後“NICER”による“1ES 1927+654”の観測は、15か月以上にわたって計265回実施されています。

さらに、X線での追加観測に複数の天文衛星が加わることになります。
加わったのは、NASAのガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト(旧称スウィフト)”やNASAのX線天文衛星“NuSTAR”、ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星“XMMニュートン”。
“ニール・ゲーレルス・スウィフト”での観測は紫外線でも行われています。

とくに、“ブラックホールコロナ”の輝きが消えた際、“NICER”と“ニール・ゲーレルス・スウィフト”が低エネルギーのX線を観測し続けたこと。
これにより、現象の全容をつかむことに成功しています。

観測結果の注目ポイントの一つに、減光のペースが一定ではなかったことがあります。
“NICER”が検出した低エネルギーのX線は、日ごとに劇的に変わり、たった8時間で100倍もの範囲で明るさが変化したこともありました。

他の“ブラックホールコロナ”でも、極端なときには100倍明るくなったり暗くなったりすることはあります。
でも、変化にははるかに長い時間がかかるんですねー

これほどまでに劇的な変化が数か月間も続いたのは異例なこと。
恒星が迷い込んだことによる増光という仮説は妥当なもののようですが、この現象の分析には時間がかかりそうです。

今回観測されたような極端な変化は、天文学者たちが考えていたよりもブラックホールの“降着円盤”ではありふれた現象なのかもしれません。

このブラックホールが変化前の状態に戻るのか、それとも根本的に変化してしまったのか?
今後も観測は続くようなので、解明されるのが楽しみですね。


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