宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測が示唆 表面に液体の水が存在する可能性のある居住可能な氷の系外惑星

2024年07月11日 | 系外惑星
くじら座の方向約48光年彼方に位置する“LHS 11140”は、太陽の約5分の1の質量を持つ赤色矮星です。
この赤色矮星“LHS 1140”のハビタブルゾーン内を公転しているのが、“LHS 1140 b”という興味深い系外惑星です。

この惑星は、その大きさから、当初はミニネプチューン、つまり水素を主成分とする厚い大気の層を持つガス惑星だと考えられていました。
でも、近年の観測により、“LHS 1140 b”はミニネプチューンではなく、岩石や水に富むスーパーアースの可能性が高まってきたんですねー

そして、2023年12月に行われたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測により、“LHS 1140 b”の質量と半径がより正確に測定され、その組成に関する重要な情報が得られました。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測から示唆されたのは、太陽系外惑星“LHS 1140 b”が、表面に液体の水が存在する可能性のある、居住可能な氷の世界である可能性でした。
地球から約48光年離れた“LHS 1140 b”は、生命存在の可能性を探る上で、非常に興味深い研究対象となるようです。
この研究は、モントリオール大学の博士課程に在籍するCharles Cadieuxさんが率いる天文学者のチームが進めています。
本研究の成果は、アメリカの天体物理学専門誌“The Astrophysical Journal Letter”に掲載が受領されました。
図1.系外惑星“LHS 1140 b”は、木星の衛星エウロパのように完全に氷に覆われた世界(左)かもしれないし、液体の海と曇った大気を持つ世界(中央)かもしれない。“LHS 1140 b”は地球の1.7倍の大きさ(右)で、太陽系外での液体の水の探査において有望視されている。(Credit: B. Gougeon/Université de Montréal)
図1.系外惑星“LHS 1140 b”は、木星の衛星エウロパのように完全に氷に覆われた世界(左)かもしれないし、液体の海と曇った大気を持つ世界(中央)かもしれない。“LHS 1140 b”は地球の1.7倍の大きさ(右)で、太陽系外での液体の水の探査において有望視されている。(Credit: B. Gougeon/Université de Montréal)


ハビタブルゾーンを公転するスーパーアース

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測から、太陽系外惑星“LHS 1140 b”が表面に液体の水が存在し、居住可能な氷の世界である可能性が示唆れました。
このため、くじら座の方向約48光年彼方に位置する“LHS 1140 b”は、生命存在の可能性を探るうえで、非常に興味深い研究対象と言えます。

“LHS 1140 b”は、太陽の5分の1程度の大きさの赤色矮星“LHS 1140”のハビタブルゾーン内を公転するスーパーアース(地球より大きな岩石惑星)です。

表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星(M型矮星)と呼び、実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星です。
太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがあります。

ハビタブルゾーンとは、恒星からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域。
この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられています。
太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたります。


大気や水が存在する兆候

当初、“LHS 1140 b”はミニネプチューン、つまり水素を主成分とする厚い大気の層を持つガス惑星だと考えられていました。
でも、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡や赤外線天文衛星“スピッツァー”、ハッブル宇宙望遠鏡、トランジット惑星探査衛星“TESS”など、複数の宇宙望遠鏡による詳細な観測データから、“LHS 1140 b”はミニネプチューンではなく、岩石または水に富むスーパーアースであることが明らかになります。

2023年12月に実施されたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測では、“LHS 1140 b”の重要な情報が得られています。
この観測データと、過去のハッブル宇宙望遠鏡、“スピッツァー”、“TESS”による観測データを組み合わせた結果、“LHS 1140 b”は地球の大気と同様に、窒素を豊富に含む大気を保持している可能性が示唆されました。

“LHS 1140 b”の分析結果からは、この惑星が岩石惑星としては予想よりも密度が低く、その質量の10%から20%が水で構成されている可能性も示唆されています。

さらに、“LHS 1140 b”の大気組成を決定するため、透過分光観測も実施されました。

地球から見て系外惑星“LHS 1140 b”が、主星“LHS 1140”の手前を通過(トランジット)している時に、系外惑星の大気を通過してきた主星のスペクトル“透過スペクトル”を調べています。

個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるので、透過スペクトルには大気に含まれる元素に対応した波長で光の強度が弱まる箇所“吸収線”が現れることになります。

この“透過スペクトル”と“主星から直接届いた光のスペクトル”を比較することで吸収線を調べることができ、その波長から元素の種類を直接特定する訳です。

分析の結果からは、窒素が主成分である可能性も示唆されていて、これは“LHS 1140 b”が地球に似た大気を保持し、表面に液体の水が維持されている可能性を支持するものでした。


表面を覆う氷の下に存在する液体の海

現在のモデルによると、“LHS 1140 b”が地球に似た大気を持っている場合、惑星の表面は氷で覆われ、その下に液体の海が存在する可能性があります。

“LHS 1140 b”の自転と公転の周期は同期しているので、この海は常に恒星に面している領域がある“サブステラーポイント(恒星が天体の真上に位置する点)”に位置すると考えられています。
その直径は約4000キロと推定され、これは大西洋の表面積の約半分に相当します。
さらに、この海の表面温度は20℃という温暖な環境である可能性もあります。


さらなる観測への期待

“LHS 1140 b”は、ハビタブルゾーンに位置し、大気と液体の水の存在の可能性があることから、今後の居住可能性の研究にとって非常に有望な候補と言えます。

“LHS 1140 b”の大気について、窒素が豊富に含まれているかどうかを確認し、他のガスの有無を調べるには、さらなるジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測が必要となります。

特に、“LHS 1140 b”の二次大気の多様性を詳細に調査し、恒星の活動による影響を適切に評価するには、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線撮像・スリットレス分光器“NIRISS”/SOSSモードと近赤外線分光装置“NIRSpec”/G395の両方による広範囲な波長域をカバーする観測が不可欠となります。

これらの観測を通して、“LHS 1140 b”は地球を超えた生命の存在を解明するための重要な手掛かりを提供してくれる可能性があります。


こちらの記事もどうぞ