表面が厚い氷で覆われる木星の第2衛星エウロパでは、潮汐加熱によって内部に広大な海が存在すると考えられ、生命が存在する可能性がる天体として注目されています。
今回の研究では、エウロパの表面“多重リング盆地”と呼ばれる地形に着目。
国立天文台が運用する計算サーバを用いて天体衝突シミュレーションを行うことで、多重リング盆地の形成過程を調べ、エウロパの氷殻の厚さを導き出しています。
計算の結果、“硬い層”と“もろい層”からなる少なくとも約20キロの厚さの氷殻があると考えると、多重リング盆地の地形をよく説明できることが明らかになりました。
氷殻の厚さはエウロパでの生命居住可能性を議論する上で重要な情報となるので、今後の進展が期待されます。
エウロパ表面を覆う氷の殻
エウロパは木星の衛星の一つで、その表面が氷で覆われた氷殻となっています。
氷殻の下には、液体の水でできた地下海があると考えられていて、そこに生命が存在する可能性が高いと注目されています。
ただ、この海での生命居住の可能性を考える上で、以下のことを理解する必要があります。
・氷殻表面の物質と地下海の物質とが、どのように循環しているのか。
・彗星のような突発的な外部由来物質が、氷殻を通して地下海に供給される可能性があるのか。
これらについて、重要なカギとなるのが氷殻の厚さになります。
でも、氷殻の厚さは直接計測できないんですねー
なので、クレーターなどの観測から得られる情報を用いて、間接的に求めた氷殻の厚さについて議論が続いています。
多重リング盆地を形成する氷殻の構造
これまでは、エウロパの表面にある小さなクレーターなどから、氷殻の厚さが見積もられていました。
でも、氷殻が薄い場合と、厚い氷殻が“硬い層”と“もろい層”で構成されている場合とを、区別することができないという問題点がありました。
これに対して、今回の研究で着目したのは、これまでの探査機で見つかった“多重リング盆地”と呼ばれる同心円状の構造を示す大きなクレーターでした。
この多重リング盆地の形成は氷殻の構造に強い影響を受けるので、その形成過程を解明することで氷殻の厚さに制限を付けられると考えた訳です。
研究チームでは、この多重リング盆地を形成する氷殻の構造を明らかにするため、国立天文台が運用する“計算サーバ”と、数値衝突計算コード“iSALE”(※1)を用いた天体衝突シミュレーションを実施。
当初の見積もりでは、1度のシミュレーションにかかるのは1か月ほど。
でも、計算サーバなどの計算機を利用することで、現実的な時間内に100通り以上の計算を試行することが可能となりました。
その結果分かったのは、多重リング盆地の形成には“硬い層(リソスフェア)”と“もろい層(アセノスフェア)”の2層からなる、少なくとも厚さが20キロの厚い氷殻が必要だということ。
さらに、厚さが20キロ以上の氷殻の場合は、エウロパ表面に存在する2つの多重リング盆地の観測結果とよく一致する結果を示しました。
一方、薄い氷殻を想定したシミュレーションでは、たとえ“もろい層”があったとしても、多重リング盆地の観測結果を再現することができませんでした。
多重リング盆地に着目したことにより、今回の研究では氷の厚さと構造の情報を得ることができました。
ただ、氷の厚さの下限値を決めることはできましたが、上限値は決められていません。
探査機による観測、特にNASAが2024年10月の打ち上げを目指して準備を進めている探査ミッション“エウロパ・クリッパー(Europa Clipper)”は、このことを解決できる可能性があります。
多重リング盆地を観測する際、今回の研究で得られた厚い氷を念頭に置くと、氷の厚さだけでなく、地下海の深さの情報も得られるかもしれません。
そうすることで、エウロパでの生命居住の可能性を、より明確にできるのかもしれませんね。
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今回の研究では、エウロパの表面“多重リング盆地”と呼ばれる地形に着目。
国立天文台が運用する計算サーバを用いて天体衝突シミュレーションを行うことで、多重リング盆地の形成過程を調べ、エウロパの氷殻の厚さを導き出しています。
計算の結果、“硬い層”と“もろい層”からなる少なくとも約20キロの厚さの氷殻があると考えると、多重リング盆地の地形をよく説明できることが明らかになりました。
氷殻の厚さはエウロパでの生命居住可能性を議論する上で重要な情報となるので、今後の進展が期待されます。
この研究は、アメリカ・パデュー大学の脇田茂研究員たちの研究チームが進めています。
本研究の成果は、Wakita et al. “Multiring basin formation constrains Europa’s ice shell thickness”として、2024年3月20日付でScience Advancesに形成されました。
本研究の成果は、Wakita et al. “Multiring basin formation constrains Europa’s ice shell thickness”として、2024年3月20日付でScience Advancesに形成されました。
図1.エウロパで起こった多重リング盆地を形成する天体衝突(イメージ図)。(Credit: Brandon Johnson generated with the assistance of AI.) |
エウロパ表面を覆う氷の殻
エウロパは木星の衛星の一つで、その表面が氷で覆われた氷殻となっています。
氷殻の下には、液体の水でできた地下海があると考えられていて、そこに生命が存在する可能性が高いと注目されています。
ただ、この海での生命居住の可能性を考える上で、以下のことを理解する必要があります。
・氷殻表面の物質と地下海の物質とが、どのように循環しているのか。
・彗星のような突発的な外部由来物質が、氷殻を通して地下海に供給される可能性があるのか。
これらについて、重要なカギとなるのが氷殻の厚さになります。
でも、氷殻の厚さは直接計測できないんですねー
なので、クレーターなどの観測から得られる情報を用いて、間接的に求めた氷殻の厚さについて議論が続いています。
多重リング盆地を形成する氷殻の構造
これまでは、エウロパの表面にある小さなクレーターなどから、氷殻の厚さが見積もられていました。
でも、氷殻が薄い場合と、厚い氷殻が“硬い層”と“もろい層”で構成されている場合とを、区別することができないという問題点がありました。
これに対して、今回の研究で着目したのは、これまでの探査機で見つかった“多重リング盆地”と呼ばれる同心円状の構造を示す大きなクレーターでした。
この多重リング盆地の形成は氷殻の構造に強い影響を受けるので、その形成過程を解明することで氷殻の厚さに制限を付けられると考えた訳です。
図2.木星探査機“ガリレオ”によって観測されたエウロパの多重リング盆地“Tyre.”(Credit: NASA/JPL/ASU) |
※1.ヨーロッパ・アメリカ・ロシアのグループが開発した複数の物質をとらえる数値衝突計算コード。天体衝突の研究などに用いられている。https://isale-code.github.io/
図3.計算サーバは、国立天文台シミュレーションプロジェクトが運用する共同利用計算機の一つ。小規模ながらも長い計算時間を必要とするシミュレーションや、大型スーパーコンピュータで行うシミュレーションの準備段階の計算などに用いられている。2024年3月時点のシステム規模は106ノード、総コア数2160。(Credit: 国立天文台) |
でも、計算サーバなどの計算機を利用することで、現実的な時間内に100通り以上の計算を試行することが可能となりました。
その結果分かったのは、多重リング盆地の形成には“硬い層(リソスフェア)”と“もろい層(アセノスフェア)”の2層からなる、少なくとも厚さが20キロの厚い氷殻が必要だということ。
さらに、厚さが20キロ以上の氷殻の場合は、エウロパ表面に存在する2つの多重リング盆地の観測結果とよく一致する結果を示しました。
一方、薄い氷殻を想定したシミュレーションでは、たとえ“もろい層”があったとしても、多重リング盆地の観測結果を再現することができませんでした。
エウロパ上の多重リング盆地の形成の衝突シミュレーション。カラーマップは衝突による変形度合いを、白点線は氷殻と地下海の境界線を示している。右上にはシミュレーションの一部(図3中央の黒枠部分)を拡大して示している。400秒以降に拡大図で見られるV字型の構造(黒破線)は、観測と一致するリング構造の形成を表している。(Credit: Shigeru Wakita) |
図4(Credit: Shigeru Wakita) |
ただ、氷の厚さの下限値を決めることはできましたが、上限値は決められていません。
探査機による観測、特にNASAが2024年10月の打ち上げを目指して準備を進めている探査ミッション“エウロパ・クリッパー(Europa Clipper)”は、このことを解決できる可能性があります。
多重リング盆地を観測する際、今回の研究で得られた厚い氷を念頭に置くと、氷の厚さだけでなく、地下海の深さの情報も得られるかもしれません。
そうすることで、エウロパでの生命居住の可能性を、より明確にできるのかもしれませんね。
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