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初期宇宙の観測だけじゃない! 太陽系内でも強みを発揮するジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が木星の衛星ガニメデとイオの謎を解明

2023年10月02日 | 木星の探査
高い赤外線感度と高性能な分光器を持つジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、遠方の深宇宙だけでなく、太陽系内の天体を観測する機能も有しています。

今回、木星の4大衛星であるガリレオ衛星のうち、ガニメデとイオの観測および分析結果が、それぞれの研究チームから発表され、それぞれの天体にまつわる謎が解明されたようです。
木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)は、ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれている。衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができた。
可視光で撮影された木星の衛星ガニメデ(左)とイオ(右)。(Credit: NASA, JPL, USGS)
可視光で撮影された木星の衛星ガニメデ(左)とイオ(右)。(Credit: NASA, JPL, USGS)

木星の衛星表面で発生する放射線分解というプロセス

木星は強い磁場を持っていて、宇宙空間に存在する荷電粒子(電気を帯びた粒子)をとらえて加速させています。

これらの粒子は時々木星の衛星たちに衝突し、表面にある物質を分解する“放射線分解”というプロセスが発生しているんですねー

この現象は、地質活動があまり活発でない天体表面で発生する主要な化学反応の1つになっています。

木星を周回する衛星たちは、表面が水の氷で覆われているので、放射線分解では水分子(H2O)が分解されて、酸素(O2)、オゾン(O3)、そして過酸化水素(H2O2)が生じることが分かっています。

でも、これまでの観測では過酸化水素が見つかっていない衛星もあります。

その衛星がガニメデでした。

過酸化水素が見つかっていない衛星

直径5268キロのガニメデは、木星に限らず太陽系で最も大きな衛星。
太陽系最小の惑星になる水星(直径4880キロ)よりも大きいほどです。

これほどの大きさがあるガニメデは中心部が金属に富んでいて、そこから磁場が発生していることが観測で判明している唯一の衛星でもあります。

磁場は荷電粒子の進路を曲げるので、表面の氷に衝突する荷電粒子の数が大幅に少なくなり、結果的に放射線分解が抑制されると考えられています。

例外は磁場が弱い両極域で、そこだけは荷電粒子が到達しやすくなると考えられています。
同じことは地球でも起こっていて、荷電粒子と大気分子との衝突で起こるオーロラの発生が、極域に限定される理由にもなっています。

放射線分解というプロセスは十分に理解されているとは言えず、ガニメデ表面に過酸化水素が存在しない理由は、これまで判明していませんでした。

もし、ガニメデの高緯度地域に限って過酸化水素が見つかれば、磁場によって低緯度地域での発生が抑えられたことになります。
そう、過酸化水素の存在を示すシグナルが弱すぎて、見つけることができなかったと説明することがるわけです。

ガニメデの過酸化水素が極致に限られることを解明

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によるガニメデの観測データから過酸化水素の分析を実施しています。
この研究は、コーネル大学のSamantha K. Trumboさんたちの研究チームが進めています。
分析ではガニメデで初めて過酸化水素を発見。
さらに、過酸化水素は公転方向と同じ側の半球(先行半球、leading hemisphere)の両極地域に多く、低緯度地域ではほとんど存在しないことも明らかになりました。
ガニメデ表面の過酸化水素の分布図。先行半球(左)の両極地域に偏っていて、ガニメデの磁場が低緯度地域への荷電粒子の衝突数を減らしているという予測と一致する。(Credit: Samantha K. Trumbo, et.al.)
ガニメデ表面の過酸化水素の分布図。先行半球(左)の両極地域に偏っていて、ガニメデの磁場が低緯度地域への荷電粒子の衝突数を減らしているという予測と一致する。(Credit: Samantha K. Trumbo, et.al.)
これは、磁場の影響によって荷電粒子の衝突による氷の分解が両極地域に集中するという、事前の予測と一致する結果。
興味深い傾向として、同じく氷の分解物として生じる酸素は両極地域には少なく、低緯度地域に多いことが観測データから判明しています。

一見すると酸素と過酸化水素の分布は、矛盾しているように見えます。
でも、研究チームでは次の理由で矛盾はしていないと考えています。

酸素は氷とは結合しにくく、保持されるには気泡のような物理的な囲いが必要だと考えられます。
放射線分解は気泡そのものを破壊するほどの激しいプロセスなので、両極地域では発生する酸素の量よりも気泡の破壊によって逃げてしまう酸素の量の方が多いことになります。

逆に、低緯度地域では荷電粒子が届きにくいので放射線分解が起こりにくいものの、気泡も破壊されにくいので、結果的に酸素が保持されると考えることができます。

これに対し、過酸化水素は氷と結合しやすく、このような物理的な囲いは必要ないので、単純に発生量が分布に反映されているわけです。
過酸化水素の分布は、ガニメデが保持する磁場と荷電粒子との相互作用を、よく反映した結果なんですね。

地球以外では高温の活火山があることが知られている唯一の天体

木星を巡るガリレオ衛星の中で最も内側の軌道を公転しているのがイオです。
太陽系の衛星の中では4番目に大きく、半径は1800キロ強と地球の3分の1にもなります。

イオには、太陽系全体で見ても特異な性質があります。

それは、イオが木星や他のガリレオ衛星から潮汐力を受け、内部が加熱されて高温のマグマを放出していることです。
衛星の軌道が円形でないとき、惑星から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
イオは太陽系の衛星の中では、最も火山活動が活発なことが有名で、その表面に確認されている火山は400以上。
そこからは硫黄を含むガスが放出されているようです。

イオは、地球以外では高温の活火山があることが知られている唯一の天体なんですねー

イオの一酸化硫黄と火山噴火の関連を証明

イオの火山から噴出する火山ガスの主成分は二酸化硫黄(SO2)ですが、少ない成分として一酸化硫黄(SO)も放出しています。

特に、一酸化硫黄分子が火山の熱で約1200℃まで加熱されると、エネルギーが高い励起状態になります。

励起状態は不安定なので、直ぐに光の形でエネルギーを放出することに。
ただ、このような光は、通常は他の大気分子との衝突で抑えられてしまうので、本来なら放出されることはありません。

でも、イオには薄い大気しか存在しないんですねー
なので、励起した一酸化硫黄が数秒後に光を放出することを妨げるような衝突は発生しにくい状態といえます。

また、一酸化硫黄は大きな火山だけでなく、チリをほとんど放出せずガスのみを放出するので観測が難しい“ステルス火山(stealth volcano)”からも放出されていると考えられます。

でも、一酸化硫黄分子から光が放たれる現象や、ステルス火山から一酸化硫黄が放出されているいう事実を観測で証明することは困難でした。

イオの大気組成の観測は非常に難しく、一酸化硫黄のような微量成分となればなおさら困難になります。
なので、一酸化硫黄の観測はイオが木星の影に入っている時だけ可能でした。

それは、イオが木星の影に入って太陽光が届かなくなると表面温度が低下し、二酸化硫黄が凍結して大気から消え、相対的に一酸化硫黄の量が増えることになるからです。

これに加えて、イオの見た目の位置が太陽から十分離れていて、1時間というかなり長時間の観測が可能な時には、ノイズになる大気の揺らぎや木星からのシグナルを補正する必要もあります。

これまで、そのような観測機器を備えていたのはハワイにあるケック天文台の“ケック望遠鏡”だけで、理想的な観測条件が整うことはめったにありませんでした。

この研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によるイオの観測データを元に、一酸化硫黄と火山活動の関連性を分析しています。
この研究は、カリフォルニア大学バークレー校のImke de Paterさんたちの研究チームが進めています。
観測当時、イオで噴火をしていたのは“カネヘキリ溶岩流(Kanehekili Fluctus)”と“ロキ火口(Loki Patera)”でした。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡でとらえたイオの一酸化硫黄の分布図。噴火しているカネヘキリ溶岩流(Kanehekili Fluctus)の付近で最も濃度が高いことが分かる一方で、それ以外の地域にも多少濃度の高い部分があることも分かる。(Credit: Imke de Pater, et.al.)
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡でとらえたイオの一酸化硫黄の分布図。噴火しているカネヘキリ溶岩流(Kanehekili Fluctus)の付近で最も濃度が高いことが分かる一方で、それ以外の地域にも多少濃度の高い部分があることも分かる。(Credit: Imke de Pater, et.al.)
観測データを分析した結果、カネヘキリ溶岩流については、励起した一酸化硫黄から放出される1.707μmの赤外線をとらえることに成功。
また、これより弱いものの、一酸化硫黄からの放射は他の地域でも観測されました。

この結果は、励起した一酸化硫黄が見つけやすい火山の噴火に関連しているだけでなく、見つけることが難しいステルス火山からも放出されていることを示しています。

これらの観測結果は、この少し前におこなれたケック望遠鏡による観測結果とも矛盾していませんでした。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の能力の高さを証明する観測結果

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。
ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として2021年12月25日に打ち上げられ、地球から見て太陽とは反対側150万キロの位置にある太陽―地球間のラグランジュ点の1つの投入され、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されています。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線望遠鏡として優れているだけでなく、見た目の移動速度が速い太陽系内の天体を追跡して詳細な観測が行えることも強みにしていて、今回の研究結果はその能力の高さを示す好例になりました。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いたガニメデやイオの追加観測は、今後も行われる予定です。
さらに、他の惑星や衛星の観測も予定されているので、太陽系の天体に存在する多くの謎が明らかになることが期待されますね。


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