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うみへび座銀河団で謎の電波放射を発見! 銀河団が持つ巨大な重力エネルギーはどのように変換されているのか

2024年04月11日 | 銀河・銀河団
近傍銀河団の中に、これまで見つかっていなかった電波放射(※1)が見つかりました。
※1.電波放射(シンクロトロン放射)は、光速に近い速度の荷電粒子(主に電子)が、磁力線の周りを円運動しながら進む時に放出される電磁波のこと。
この発見は、低周波の電波観測の必要性とX線を放射する高温プラズマとの比較の重要性を明確にするとともに、銀河団の進化を解明する新たな道筋をつける成果になるようです。
この研究は、名古屋大学素粒子宇宙起源研究所の中澤知洋准教授、理学研究科の大宮悠希博士、後期課程学生及び、国立天文台水沢VLBI観測所の蔵原昂平特任研究員をはじめとする研究チームが進めています。
この研究成果は、Kurahara et al. “Discovery of Diffuse Radio Source in Abell 1060”として、2024年4月出版の“日本天文学欧文研究報告(PASJ)”にレター論文として掲載されました。
図1.うみへび座銀河団“Abell 1060”。背景カラーが、uGMRT(upgraded rewave Radio Telescope)で観測された電波強度分布を示し、灰色のコントアはヨーロッパ宇宙機関(ESA)のX線天文衛星“XMMニュートン”によるX線の表面輝度分布を示している。オオコウモリは銀河団中心に隣接する形で、銀河団中心に対して南東に位置している。50kpcは約16万光年。(Credit: Kurahara et al.)
図1.うみへび座銀河団“Abell 1060”。背景カラーが、uGMRT(upgraded rewave Radio Telescope)で観測された電波強度分布を示し、灰色のコントアはヨーロッパ宇宙機関(ESA)のX線天文衛星“XMMニュートン”によるX線の表面輝度分布を示している。オオコウモリは銀河団中心に隣接する形で、銀河団中心に対して南東に位置している。50kpcは約16万光年。(Credit: Kurahara et al.)


銀河団同心の衝突

銀河団は数千個の銀河集まり形成される宇宙で最大の質量をもつ天体で、その重力エネルギーは膨大なものになります。

銀河団には、X線を放射する数億度の高温プラズマや磁場、光速に近い速さの電子(宇宙線)があり、これらは銀河団が過去の衝突で受け取った重力エネルギーが変換されることで生成されたと考えられています。

でも実際には、どのようにエネルギーの変換が行われるのかは、いまだ十分には解明されていませんでした。

銀河団同心の衝突は、それぞれが持つ膨大な重力エネルギーを衝突により解放すると考えられ、銀河団の進化や高エネルギーな宇宙線の起源を解明する上で重要な研究対象となっています。

“うみへび座銀河団(Abell 1060)”(※2)は、北天で最も地球に近い銀河団で、過去数十億年の間に衝突や合体があったことが先行研究から示唆されていました。
一方、衝突合体に起因した高エネルギーの宇宙線やX線で見られる特異な形状が見つかっていないことが、大きな謎になっていました。
※2.うみへび座の方向に位置する銀河団。地球から約1.5億光年離れた“うみへび座・ケンタウルス座超銀河団”の一部で、157個の明るい銀河を含む。銀河団の全長は約1000万光年。


銀河団に見つかった電波放射

今回の研究では、2010年12月に観測されたGMRT(Giant Metrewave Radio Telescope)(※3)のデータアーカイブの解析中に、これまで報告されたことがない広がった電波放射を“うみへび座銀河団”の中に発見しています。
この発見は、蔵原研究員たちがデータ解析の手法を工夫して、高い電波観測感度を実現したおかげでした。
※3.巨大メートル波電波望遠鏡“Giant Metrewave Radio Telescope(GMRT)/upgraded GMRT(uGMRT)”は、インドに建設されたメートル波を観測できる電波干渉計。30台のアンテナを使って50MHz~1.5GHzの帯域を観測できる。観測を開始は1996年。インド国立電波天体物理センター(NCRA)が運用している。銀河、パルサー、超新星など様々な天体が観測可能。
研究チームでは、この電波放射の存在を確かなものとするため、MWA(Murchison Widefield Array)(※4)による観測データアーカイブを精査。
これにより、より低い周波数でも、同じ領域に電波放射があることを確認しました。
※4.“マーチソン広視野アレイ(MWA)”は、低周波帯域(800MHz~300MHz)を観測可能な西オーストラリアのマーチソン電波天文台に設置された電波望遠鏡。2007年に建設を開始し、2013年からフェーズ1運用、2017年にアップグレードしたのち、2018年からフェーズ2運用を開始している。遠方の宇宙から発せられた赤方偏移した中性水素21センチ線を観測することで、宇宙再電離期を探査することを目的としている。
一方、可視光の観測データなどからは、明確に対応する天体を見つけられず…

このことから考えられるのは、これまでに確認されたことがない新しい電波放射だということ。
この電波放射は、画像上の形状が似ていることから“オオコウモリ(Flying Fox)”と名付けられています。
図2.うみへび座銀河団“Abell 1060”中に見つかったオオコウモリ。背景カラーは図1と同じくuGMRTで観測された電波強度分布を示し、オオコウモリの頭が南西を向き、両翼を広げた先が銀河団中心の“NGC3311”と、銀河団南東の“NGC3312”に隣接しているように見える。(Credit: Kurahara et al.)
図2.うみへび座銀河団“Abell 1060”中に見つかったオオコウモリ。背景カラーは図1と同じくuGMRTで観測された電波強度分布を示し、オオコウモリの頭が南西を向き、両翼を広げた先が銀河団中心の“NGC3311”と、銀河団南東の“NGC3312”に隣接しているように見える。(Credit: Kurahara et al.)
さらに研究チームでは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のX線天文衛星“XMMニュートン”(※5)の観測データを解析。
その結果、この領域に目立ったX線の大きな構造は確認できなかったものの、重元素存在比がやや高いことを発見しています。
※5.“XMMニュートン”はヨーロッパ宇宙機関が1999年12月に打ち上げたX線天文衛星。
これは、銀河団の中心に位置する銀河付近から、重元素の多い高温ガスが“オオコウモリ”とともに湧き上がってきた可能性を示唆するものでした。
銀河団の高温ガスが動いていることを示唆するもので、昨年打ち上げられたJAXAのX線天文衛星“XRISMI”(※6)による、超精密な分光観測による検証が期待されます。
※6.“XRISM(X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission)”は、NASAやヨーロッパ宇宙機関の協力のもと2018年に開始され、2023年9月打ち上げ・2024年1月運用を開始した、JAXAの7番目のX線天文衛星計画。星や銀河、そしてその間を吹き渡る高温ガス“プラズマ”に含まれる元素やその速さを図ることで、星や銀河、銀河の集団が作る大規模構造の成り立ちを、これまでにない詳しさで明らかにする。“XRISM”に搭載されるのは、広い視野を持つX線撮像器と極超低温に冷やされたX線分光器。これらを使って、プラズマに含まれる元素やプラズマの速さを、画期的な精度で測定する。
図3.星座・うみへび座とその方向に位置する“うみへび座銀河団(Abll 1060)”。今回発見されたオオコウモリは、うみへび座銀河団中に発見され、天球面上で南西に飛び立とうとしている。(Credit: Mizusawa Portal Site, National Astronomical Observatory of Japan.)
図3.星座・うみへび座とその方向に位置する“うみへび座銀河団(Abll 1060)”。今回発見されたオオコウモリは、うみへび座銀河団中に発見され、天球面上で南西に飛び立とうとしている。(Credit: Mizusawa Portal Site, National Astronomical Observatory of Japan.)
今回の研究成果の一つとして、これまでの代表的な電波観測(~1.4GHz程度)に比べて、より低い周波数(338MHz)の観測データからの発見があります。
このことは、次世代の超大型電波望遠鏡“スクエア・キロメートル・アレイ(SKA : Square Kilometer Array)”など、低い周波数の電波観測に最新の解析手法を用いることで、新たな研究成果がもたらされることを示唆しています。

また、同様の電波放射をより多くの銀河団で発見し、X線観測データと比較するという今回と同じ手法を用いることで、銀河団の進化プロセスや宇宙線の加速メカニズムの理解が深まり、銀河団が持つ巨大な重力エネルギーがどのように変換されているのかの解明につながると考えられます。


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