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キロノバと同時発生するガンマ線バーストは、史上最長の“宇宙のものさし”になれるのかも?

2020年11月26日 | 宇宙 space
新星の約1000倍の明るさで突発的に光る天体現象“キロノバ”と同時発生する“ガンマ線バースト”が、人類史上最長の“宇宙のものさし”、つまり宇宙の距離を測る“標準光源”として有効なようです。
この“宇宙のものさし”は、遠方宇宙のより正確な観測はもちろん、宇宙そのものの進化を理解する上で重要な役割を果たしてくれるのかもしれません。

標準光源を用いた距離の計測

宇宙では、遠方の天体になるほど正確な距離を測ることが難しくなります。

天の川銀河に属していても地球から離れた天体になると、地球の公転を利用した三角測量ができなくなり、距離に幅が出てしまうことに…
ましてや、他の銀河になると、さらに計測は難しくなるのは言うまでもありません。

では、そうした遠方の銀河までの距離は、どうやって測っているのでしょうか?

現在の天文学では、白色矮星が起こす爆発現象“Ia型超新星”など、標準光源と呼ばれるいくつかの種類の天体(天体現象)を利用して距離が見積もられています。

その仕組みは、標準光源の天体は絶対高度(真の明るさ)が分かっていて、また宇宙のどこであってもほぼ同じ明るさで輝くことから、遠方であればあるほど暗いということが成り立つことにあります。

つまり、見かけの明るさが真の明るさよりもどれだけ暗いかによって、距離の計算が可能というわけです。

ガンマ線バーストを標準光源として利用する

“Ia型超新星”を標準光源に用いても観測できる距離には限界があります。

それは、およそ110億光年が最遠とされ、そこからさらに先になると、地上や宇宙にある現在の望遠鏡の感度では“Ia型超新星”を標準光源として利用できなくなってしまいます。
110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。

そこで、今回の研究ではガンマ線バーストに注目。
ガンマ線バーストは、突然大量のガンマ線が放出される、宇宙で最も明るい天体現象の一つになります。

そのエネルギーは非常に強力で、ガンマ線バーストによる数秒の輝きだけで、太陽が一生の間に放出するのと同等のエネルギーが放出されることが分かっています。

このガンマ線バーストの大きなポイントは、110億光年以上先の“Ia型超新星”が標準光源として利用できない超遠方でも観測されていること。

つまり、ガンマ線バーストを新たな標準光源として利用できれば、宇宙を測定する“最長のものさし”を手に入れることになるんですねー
110億光年よりも先のより初期の宇宙までの正確な距離が測れるようになり、宇宙の進化を理解するのにも大きく役立つはずです。

観測が容易でないガンマ線バースト

ガンマ線バーストを標準光源として利用するには問題もあります。

ガンマ線バーストは1967年に初めて観測された現象。
現在では、NASAの“ニール・ゲーレルス・スウィフト”のようなガンマ線バースト観測衛星まで打ち上げて研究が進められています。
でも、多くの謎が残されたままになっています。
NASAのガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト(旧称スウィフト)”は、ガンマ線バースト現象の解明を目的として、2004年に打ち上げられた天文衛星。バースト現象を検出するための検出器やX線での撮像や分光観測を行える装置などを搭載している。

ガンマ線バーストを標準光源として利用するには問題もあるんですねー

ガンマ線バーストには、継続時間が10秒程度の長時間型と、1秒程度の短時間型あります。
長時間型は非常に大きな恒星の爆発で、短時間型は中性子星などの二つのコンパクトな天体の合体とする仮説があり、まだ結論は出ていません。
その他にもブラックホールや高速回転する強磁場中性子星など、様々な説がある。

謎が多く残っているのは、この現象が突発的かつ短時間に起き、ほぼ単発のため、観測が容易でないことが大きな理由になっています。

そして、謎多きガンマ線バーストに関連すると考えられているのが、これもまた突発天体現象であるキロノバです。

こちらは、可視光や赤外線で観測される突発天体現象で、新星の約1000倍の明るさに達することからキロノバと呼ばれています。

キロノバは中性子星のような超高密度天体同士が合体した後の爆発により発生し、その際には短時間ガンマ線バーストが発生すると考えられています。

実際にキロノバが観測されたのは2017年8月17日のこと。
連星中性子星合体に伴う重力波と短時間ガンマ線バースト、そしてキロノバがほぼ同時に検出され、そこからガンマ線バーストとキロノバを関連付けた研究が本格化しています。

ガンマ線バーストでは、ガンマ線の放出(即時放出)が消えた後に、X線の光が残る(残光放出)場合があります。

この特徴は、すべてのガンマ線バーストに共通しているわけではありません。
でも、ガンマ線バーストを複数のグループに分類した場合、いずれかのグループに普遍的な特徴であれば、条件を満たしたガンマ線バーストの一部を標準光源へと導くカギになる可能性がありそうです。

キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バースト

2016年、“ニール・ゲーレルス・スウィフト”で観測された183個のガンマ線バーストが解析されます。

この研究で行われたのは、“X線残光プラトーフェーズの継続時間”、“X線残光プラトーフェーズ終了時のX線光度”、“即時放出中におけるガンマ線光度”を3軸に取った3次元物理空間に、ガンマ線バーストの物理量をプロットすること。
その結果、明らかになったのはデータが一つの平面に集まるという法則でした。

この平面は“ガンマ線バーストの基本平面”と命名され、この法則を用いると絶対光度を求められることから、ガンマ線バーストを標準光源として利用できる可能性が大きく高まることになります。
ガンマ線とX線の違いは、原子核内部が起源のものをガンマ線、そうでないものをX線と呼んでいる。どちらもエネルギーが高く、波長の短い電磁波のこと。エネルギーが同じで起源が分からない場合は、区別を付けることができない。

研究では、“ニール・ゲーレルス・スウィフト”で観測された372個のデータを新たに活用。
ガンマ線バーストのサンプル数を増やしています。

そして実施されたのは、ガンマ線バーストの特定のグループが、基本平面からどの程度ズレているのかの詳細な解析。
すると、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストは、短時間ガンマ線バーストの基本平面からのズレが小さく、かつ基本平面の下側に分布することが判明します。

その一方で、キロノバを伴わない短時間ガンマ線バーストはズレが大きく、基本平面の上下に分布することも分かります。

キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストのズレは、キロノバを伴わない短時間ガンマ線バーストに比べて29%も小さく抑えられていたようです。
3次元物理空間における短時間ガンマ線バーストの分布。X線残光プラトーフェーズの継続時間(T*x)、X線残光プラトーフェーズ終了時のX線光度(Lx)、即時放出中におけるガンマ線光度(Lpeak)を3軸に取った3次元物理空間のグラフ。ガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト”によって観測された、“キロノバ”と同時発生する短時間ガンマ線バースト(8イベント)が黄色で、“キロノバ”を伴わない短時間ガンマ線バースト(35イベント)が赤色でプロットされている。“キロノバ”と同時発生する短時間ガンマ線バーストは、短時間ガンマ線バースト基本平面(灰色)からのズレが小さく、かつ全てが基本平面の下側にあることが見て取れる。(Credit: RIKEN)
3次元物理空間における短時間ガンマ線バーストの分布。X線残光プラトーフェーズの継続時間(T*x)、X線残光プラトーフェーズ終了時のX線光度(Lx)、即時放出中におけるガンマ線光度(Lpeak)を3軸に取った3次元物理空間のグラフ。ガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト”によって観測された、“キロノバ”と同時発生する短時間ガンマ線バースト(8イベント)が黄色で、“キロノバ”を伴わない短時間ガンマ線バースト(35イベント)が赤色でプロットされている。“キロノバ”と同時発生する短時間ガンマ線バーストは、短時間ガンマ線バースト基本平面(灰色)からのズレが小さく、かつ全てが基本平面の下側にあることが見て取れる。(Credit: RIKEN)
さらに確認されたのは、さまざまなガンマ線バーストのグループの中で、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストのグループは、基本平面からのズレが最も小さいこと。

これらの結果が示していたのは、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストが標準光源として優れた性質を持つことでした。

ガンマ線バーストの宇宙論的進化(同現象が示す物理量が宇宙年齢とともに規則的に変化している可能性)やサンプル選択の偏りを考慮した場合でも、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストは、短時間ガンマ線バーストの基本平面からのズレが非常に小さいことも解明されました。

この補正が小さいことからも、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストは標準光源として非常に良い特性を備えているといえます。
補正後の短時間ガンマ線バースト基本平面からのズレを表すヒストグラム。ガンマ線バーストの宇宙論的進化やサンプルの選択バイアスを考慮した上で、“キロノバ”と同時発生するガンマ線バースト(左)及び“キロノバ”を伴わない短時間ガンマ線バースト(右)のイベント数、それぞれの短時間ガンマ線バースト基本平面からの距離が示されている。“キロノバ”と同時発生するガンマ線の方が、短時間ガンマ線バースト基本平面からのズレが小さいことが分かる。(Credit: RIKEN)
補正後の短時間ガンマ線バースト基本平面からのズレを表すヒストグラム。ガンマ線バーストの宇宙論的進化やサンプルの選択バイアスを考慮した上で、“キロノバ”と同時発生するガンマ線バースト(左)及び“キロノバ”を伴わない短時間ガンマ線バースト(右)のイベント数、それぞれの短時間ガンマ線バースト基本平面からの距離が示されている。“キロノバ”と同時発生するガンマ線の方が、短時間ガンマ線バースト基本平面からのズレが小さいことが分かる。(Credit: RIKEN)
キロノバと同時発生するガンマ線バーストを距離指標に使用することの大きな利点は、この現象の他のグループと比較して、物理的メカニズムをより明確に理解できる点です。

2017年8月17日の連星中性子星合体では、重力波とガンマ線の他にも、可視光、赤外線、電波など、マルチメッセンジャーで同時に観測されていました。
マルチメッセンジャーとは、電磁波や重力波、ニュートリノ、宇宙線などを協調して観測すること。それぞれが異なる発生メカニズムを持っているので、これらの観測結果を統合することで発生減の正体に迫ることができる。

この観測により明らかになったのは、2017年8月17日の連星中性子星合体が、まさに二つの中性子星が合体して起こった現象であり、その結果として短時間ガンマ線バーストとキロノバが引き起こされたこと。
さらに詳細な理論研究や追加観測により、キロノバと同時発生するガンマ線バーストの物理的メカニズムも明らかになるはずです。

今回の研究成果が示しているのは、ガンマ線バーストという宇宙の距離を測定する人類史上最長の“ものさし”が実現できそうなこと。
この“ものさし”は、遠方宇宙のより正確な観測はもちろん、宇宙そのものの進化を理解する上で重要な役割を果たしてくれるはずです。

そして、ガンマ線バーストを用いた宇宙論が開拓されれば…
この現象を用いて、ダークエネルギーやダークマターに関するエネルギー密度の推定もできるのかもしれませんね。


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