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宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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衛星エウロパ表面の黄色い模様の正体は、地下の海からやって来た塩なのかも

2019年06月25日 | 木星の探査
表面が3キロに及ぶ氷で覆われている木星の第2衛星エウロパ。
このエウロパは木星の潮汐力を受けることで、揺れ動かされ摩擦で熱が生じ、星の内部が熱くなっているんですねー

この熱により地殻下では氷が解け液体の水が存在していて、そこには生命が存在するかもしれないと考えられています。

今回明らかになったのは、このエウロパの表面に見られる黄色い模様が、海水の塩分の主成分で食塩としても利用されている塩化ナトリウムであること。

地下にあると考えられている海から噴出した物質でできているようです。


表面で検出された硫酸マグネシウムは地下にある海からやって来た

1979年に木星に接近通過したNASAの惑星探査機“ボイジャー”や、1995年から7年間にわたって木星の周回観測を行った探査機“ガリレオ”のデータから、木星の衛星エウロパの氷の地殻の下には塩分を含んだ液体の水の層“地下海”が存在すると考えられています。
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1997年に“ガリレオ”が撮影したエウロパ。
紫・青・赤外線の3波長で撮影された画像から合成されている。
左は自然な色調を示したもので、右は微妙な色の違いを強調したもの。
左半球の黄色っぽい領域が“タラ領域”。
右半球に見られる褐色の領域は、水和塩や成分不明の赤い物質に覆われている。
青みがかった白い部分は、ほとんどが水の氷からなっている。
こうした推測は、赤外線の分光観測データから導かれたものでした。

“ガリレオ”は赤外線分光計でエウロパ表面の分光観測を行い、水の氷と硫酸マグネシウム(入浴剤で使われるエプソムソルトの主成分)と思われる物質のスペクトルを検出。

エウロパの氷の地殻は地質学的に若く、過去の地質活動の痕跡がたくさん残っているので、この塩類は地下海に由来するのではないかと考えられてきました。


可視光線分光観測で分かってきたこと

これまでの惑星や衛星の分光観測では、興味深いスペクトルはすべて赤外線の波長域にあると考えられてきました。
それは、研究者が探す分子の大半は赤外線を放射するからです。

ただ、可視光線のスペクトルについては、エウロパの表面を高い精度で観測した例は過去に無く、“ガリレオ”にも可視光線の分光計は搭載されていないので、観測は近赤外線分光計だけで行われています。

今回の研究で用いられているのはアメリカ・ハワイのケック望遠鏡。
より高い波長分解能でエウロパの可視光線分光観測を行ってみると、硫酸マグネシウムだと思われていた物質は別のものである可能性が出てきます。

“ガリレオ”の観測で検出されたと思われていた硫酸塩の吸収線が、予想された波長域に全く見つからなかったんですねー

ここで研究チームが考えたのが塩化ナトリウムの可能性。
でも、塩化ナトリウムの吸収線は赤外線の波長域にはほとんど存在していませんでした。


エウロパ表面の黄色い模様の正体は放射線を受けた塩化ナトリウム

一方、NASAジェット推進研究所で行われたのは、エウロパに似た条件の下で海の塩に放射線を照射する実験でした。
塩化ナトリウムに放射線を当てるとわずかに黄色味を帯びた色に変わり、可視光線の分光分析で検出できるようになることを発見しています。

これは、放射線によって結晶に格子欠陥ができて色を帯びるもので、色の悪い宝石に放射線を当てて人工的に色付けする処理などでもこの現象が応用されています。
  木星の衛星エウロパ、表面の筋模様は塩でできている?
    

そして、この黄色い色はエウロパ表面の“タラ領域”と呼ばれる地域の色によく似ていました。

そこで研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡を使ってエウロパの可視光線での分光観測を実施。
すると、450nmの波長(紫~青)にはっきりとした吸収線を同定することが出来ました。

この波長は放射線を受けた塩化ナトリウムのスペクトルに正確に一致。
これによって、“タラ領域”の黄色い色は放射線を受けた塩化ナトリウムによるものであることが確認されます。

20年以上も前から、ハッブル宇宙望遠鏡を使えばこうした分析はできたはず…
でも、誰もエウロパを調べようとは思わなかったんですねー

今回の発見は、この塩化ナトリウムが地下海からもたらされたものだと保証するものではありません。
単に氷とは違う物質が、エウロパの氷地殻に積もっているという証拠にしかなりません。

でも、研究チームが考えているのは、エウロパを地球惑星化学の面から再評価する必要があるということ。

硫酸マグネシウムであれば、単純に地下海の海底の岩石から海水中に溶けだしたものと考えられます。
でも、塩化ナトリウムがあるということは、地下海の海底で熱水活動が活発であることを示しているのかもしれません。

つまり、エウロパはこれまで考えられていたよりも、ずっと地質学的に興味深い天体なのかもしれません。


こちらの記事もどうぞ
  いまだ解明されていないエウロパの熱的地質活動ってなに? アルマ望遠鏡から得られた熱放射マップから分かること
    

太陽系で最多記録! なんと木星には衛星が79個もあった

2018年09月02日 | 木星の探査
太陽系の巨大ガス惑星“木星”に新しい衛星が10個も発見されたんですねー

興味深いのが、新たに見つかった衛星のうち1つが公転する軌道。

この衛星は、木星の自転の向きと反対方向に公転する逆行衛星群の軌道付近を順行しているので、いずれ衝突してしまう可能性があるそうですよ。


探していたのは太陽系第9惑星だった

木星に10個の衛星を発見したのは、カーネギー科学財団の研究チームでした。
  研究所のリリースでは「12個の新衛生」となっているが、
  小惑星センターでは10個のみが新天体としている(おそらく2個は再発見)。
  いずれにせよ、79個という総数は同じ。


これで木星が持っている衛星の総数はなんと79個、太陽系の惑星の中で最多になるんですねー

もともと研究チームが探していたのは、冥王星よりも遥か遠くを公転するといわれている太陽系第9惑星“惑星X”。
  太陽系に9番目の惑星はある? 探査範囲が絞り込まれたそうです。
    

南米チリのセロ・トロロ汎米天文台のブランコ望遠鏡などによる観測中に、たまたま観測エリアに木星が入ってきたことで衛星を発見。

その後に行われたチリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡や、ハワイのすばる望遠鏡・ジェミニ望遠鏡などによる追加の観測を経て軌道が計算され、これら10個の新天体が確かに木星の周りを公転する衛星であることが確認されます。
  直径は1~3キロほどあるそうで、木星の衛星だと確認するのに1年もの時間がかかったそうです。


衛星は惑星が作られてしばらくしてから作られた

新しい10個の衛星のうち7個は、木星から約2000万キロ以上も離れたところを約1.5~2年の周期で公転していて、いずれも、木星の自転の向きと反対方向に公転する逆行衛星でした。

これまで知られている衛星も含めて、これら逆行衛星は、かつて複数の大きな天体だったものが小惑星や彗星と衝突して形成されたものと考えらえています。

残る3個のうち2個は、木星の自転と同じ向きに公転する順行衛星で、木星の近くを1年以内で公転。
この付近に軌道を持つ衛星群は、すべて軌道の距離や傾斜角が似ているので、大きな天体が崩壊した破片が衛星になったものと考えられています。

最後に残ったのが“S/2016 J 2”と符号がつけられた衛星。
直径が1キロ以下で、これまでに見つかっている木星の衛星中では最小とみられています。
ただ、何といっても奇妙なのはその軌道なんですねー
○○○
ラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡による衛星“S/2016 J 2”。
背景の星に対して動いていることが分かる。
“S/2016 J 2”は、前述の7個の衛星と同じような距離を、木星の自転と同じ方向に約1.5年周期で公転しています。

つなり、逆行衛星が多数存在している領域を、他の衛星とは逆に順行しているんですねー

なので、この風変わりな軌道を持つ衛星と逆行衛星は正面衝突してしまう可能性も…
そもそも、この小さい衛星自身が、過去の正面衝突で残った最後の残骸なのかもしれません。
○○○
木星の衛星の軌道。内側から順に(紫)ガリレオ衛星、(青)内部群に属する順行衛星、
(赤)外部逆行群に属する衛星、(緑)逆行衛星群の軌道を横切る軌道を持つ順行衛星。
木星が誕生した頃にこれらの小衛星も作られたと考えると、生まれたばかりの惑星の周りに残っていたガスや塵の影響で、小衛星は木星に引きずり込まれてしまったはずです。

これらの衛星が残っているということは、実際には木星が落ち着いた後に衛星が作られたことになります。

そう、今回の発見が意味しているのは、太陽系の中で惑星が形成され、その後に惑星の周りに衛星が形成されたこと。
そして、衛星同士の衝突が惑星形成のかなり後に発生したことです。

この後、衛星の破片がどうなったのかというと、多くは木星本体もしくは、他の大きな衛星に飲み込まれたそうですよ。


こちらの記事もどうぞ
  影の中でも発光する木星の衛星の謎
    

“ジュノー”の軌道周期短縮はなし。理由は探査機の状態と軌道変更のリスク

2017年03月17日 | 木星の探査
53日周期の軌道で木星を周回しているNASAの探査機“ジュノー”。

計画では、現在の軌道を14日周期に短縮するはずだったんですが、
再検討の結果、53日周期の軌道に留まり続けることが決まりました。

探査機に何かあったのでしょうか?


“ジュノー”の状態

木星誕生の謎を解明するために2011年8月5日に打ち上げられた“ジュノー”は、
昨年の7月4日に木星に到達し、2月上旬までに木星を4周して観測を行っていました。
  ミッション開始! 探査機“ジュノー”が木星を初めて接近観測
    

最接近時には木星の雲頂から4100キロまで高度を下げ、雲を見透かしてオーロラを観測し、
木星の起源や構造、大気、磁気圏に迫ろうとしています。
2月2日に“ジュノー”が撮影した木星の南極。上層雲や多数の渦巻く嵐がくっきりと見えている。(雲頂からの距離は10万1000キロ)

当初の飛行計画では、“ジュノー”は53日周期の軌道で木星をもう2周してから、
残るミッション期間では軌道周期を14日に短縮することになっていたんですねー

でも、“ジュノー”の状態や軌道変更のリスクなどを考慮した結果、
計画を取りやめて53日周期の軌道に留まり続けることに決定しました。
  “ジュノー”はこれまでに、セーフモードに入ることや、
  バルブのトラブルにより予定軌道に入れないことがあった。



追加のボーナスミッション

ただ軌道変更は行われませんが、
木星への最接近距離は53日周期でも14日周期でも同じなので、
最接近時に得られるデータに違いがでるわけではありません。

また、長周期の軌道では木星から大きく離れる期間があるので、
そのときには遠く広がった木星の磁気圏を観測するチャンスにもなります。

これは当初の計画にはなかった探査上のボーナスになるんですねー

すでに追加ミッションも予定されていて、
木星の磁気圏尾部や磁気圏界面、磁気境界領域などを理解し、
磁気圏と太陽風とが、どのような相互作用を起こしているのか?
を理解することにつながるので、非常に重要な成果が期待できそうです。


探査機の寿命を長くする

さらに長い周回軌道のもう1つの利点は、
“ジュノー”が強力な放射帯の中を飛行する時間が短く済むことです。

放射線は探査機の寿命を短くする主な要因になるので、
これは大きなメリットになります。

現在、“ジュノー”は木星から4100キロ上空を周回していて、
探査を終える2018年7月までに木星を12周する予定。
木星周辺のNASAの探査機“ジュノー”(イメージ図)

その間は科学的な探査以外にも、
天文ファンからの投票によって撮影対象が決められるカメラ
“ジュノーカム”の稼動も予定されているそうですよ。


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  木星の両極には巨大オーロラや嵐がいっぱい! 初の接近観測で分かったこと。
    

木星の両極には巨大オーロラや嵐がいっぱい! 初の接近観測で分かったこと。

2016年09月18日 | 木星の探査
先日、木星探査機“ジュノー”が初の木星フライバイを実施し、
その時にとらえた画像が公開されました。

この画像には縞や帯がなく多数の嵐が渦巻く北極や、
赤外線で見た南極の巨大オーロラなど、興味深い様子が映し出されていたんですねー


見たことない木星の表情

8月27日にNASAの木星探査機“ジュノー”は、
第1回の木星フライバイ(接近通過)を実施しました。

その際、雲頂から4200キロまで接近して観測を行っているのですが、
取得されたデータを分析してみると、いくつか興味深い発見があったんですねー

木星の北極は、これまで私たちが見てきたものや推測とも異なるもので、
色は木星のどの場所よりも青みがかっていて、多くの嵐が見られました。

一方で見慣れた縞や帯はなく、とても木星の画像と思えるものでは無かったんですねー
雲頂から7万8000キロの距離から搭載カメラ“JunoCam”がとらえた木星の北極

観測に用いられたのは“JunoCam”をはじめ8つの観測機器。

そのうちオーロラ分布図作成のための赤外線観測装置“JIRAM”は、
南北の極域で注目すべき画像をとらえていました。

“JIRAM”は赤外線による初の木星クローズアップ画像をとらえていて、
南北両極の画像からは、これまでに見たことのない高温領域の存在が明らかになります。

また、初めて観測された木星の南極のオーロラ画像では、
明るく構造のしっかりしたその姿に驚かされたんですねー

詳しい画像の分析でオーロラの形態やダイナミックスなど…
今後さまざまなことが明らかになるんでしょうね。
“JIRAM”が赤外線でとらえた木星南極のオーロラ

さらに興味深いのが、電波・プラズマ波実験装置“Waves”が記録した電波放射でした。

木星の電波放射は1950年代から知られていましたが、
これほど近くで得たデータが分析されたことはありませんでした。

“Waves”は木星の北極を取り囲む巨大なオーロラを引き起こす、
エネルギーを帯びた粒子からの放射を検出。

その放射は太陽系で最強で、今は粒子にエネルギーを与えている電子が、
どこからやってくるのかを調べているそうですよ。


こちらの記事もどうぞ ⇒ ミッション開始! 探査機“ジュノー”が木星を初めて接近観測


ミッション開始! 探査機“ジュノー”が木星を初めて接近観測

2016年09月04日 | 木星の探査
今年の7月に木星周回軌道に入ったNASAの探査機“ジュノー”が、
8月27日に第1回目の木星フライバイ(接近観測)を実施したんですねー

これまでのどの探査機よりも木星に接近した“ジュノー”ですが、
観測機器は全て正常に稼動していたそうですよ。


木星への接近観測

“ジュノー”が木星の周回軌道に投入されたのは7月5日。
  探査機“ジュノー”が送ってきた木星周回軌道からの初画像

2018年2月末までのミッション期間中に、
30回以上の木星への接近観測が行われる予定なんですねー
8月27日に“ジュノー”がとらえた木星
(70万3000キロの距離から)

その第1回目が日本時間の8月27日22時44分に実施され、
“ジュノー”は時速20万8000キロで木星の表面から4200キロまで接近。

搭載されている8つの観測機器とカメラは初めてスイッチが入れられ、本格的に木星探査ミッションが開始したことになります。

初めての接近観測で得られた全データの送信には数日かかるのですが、すでに興味をそそられる初期データは送られてきているようです。

まず、“ジュノー”の搭載カメラ“JunoCam”がとらえた可視光線カメラ画像が、2~3週間以内に公開されることになります。

その中には、最高の解像度でとらえられた木星の大気と、
初めて観測された木星の南北の極の画像も含まれているはずです。


巨大ガス惑星を解明

木星誕生の謎を解明するために2011年8月5日に打ち上げられた“ジュノー”は、
5年かけて木星付近に到着し、2016年7月5日に木星の周回軌道に入っていました。

“ジュノー”が行うのは、木星のガス層を探索してその組成や磁場などを観測すること。

そして科学たちが目指すのは、木星に吹く強風の原因や、
巨大なガス惑星として知られる木星全体が、ガスで構成されているのか、
それとも中心核が存在するのかといった謎の解明です。

さらに、木星上で数千年にわたって吹き荒れている巨大な渦“大赤班”についても、
解明が期待されています。

過去にどの探査機も投入されたことのない軌道…
“ジュノー”は木星の両極を周回するこの軌道上から、
巨大ガス惑星を近い位置から観測し、木星の新た姿を見せてくれることになります。


こちらの記事もどうぞ ⇒ 探査機“ジュノー” 木星周回軌道への投入に成功!