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40年間の観測から見つけた! 木星の気温は規則正しい変動をしていた

2022年12月23日 | 木星の探査
今回の研究では、NASAの宇宙探査機と地上望遠鏡の観測データを用い、木星の対流圏上層部の温度を、今までで一番長い期間追跡調査を行っています。

その結果、分かってきたのは、木星の気温が四季とは関係なしに一定の間隔で変動することでした。

木星の対流圏は、木星のトレードマークともいえる色とりどりな縞模様の雲が形成されるなど、様々な気象現象が起こっている大気の低層部です。

なので、この結果は太陽系最大の惑星である木星の天気を左右する要因をより深く理解し、究極的には天気を予報できるようになるための大きな一歩といえます。

今回の研究では、すばる望遠鏡の中間赤外観測装置“COMICS”が14年に渡る観測データを提供しています。
図1.木星の赤外線画像。左側の2枚は、それぞれ2016年2月と3月に超大型望遠鏡“VLT”で撮られた波長8.6ミクロンと10.7ミクロンの画像を合成したもの。色は雲の状態と温度を反映している。暗くなっている領域は寒く曇っていて、明るい領域は暖かく雲がない。右側の1枚は、すばる望遠鏡の中間赤外観測装置“COMICS”で2019年に撮影した波長18ミクロンの画像。(Credit: ESO / L.N. Fletcher, NAOJ)
図1.木星の赤外線画像。左側の2枚は、それぞれ2016年2月と3月に超大型望遠鏡“VLT”で撮られた波長8.6ミクロンと10.7ミクロンの画像を合成したもの。色は雲の状態と温度を反映している。暗くなっている領域は寒く曇っていて、明るい領域は暖かく雲がない。右側の1枚は、すばる望遠鏡の中間赤外観測装置“COMICS”で2019年に撮影した波長18ミクロンの画像。(Credit: ESO / L.N. Fletcher, NAOJ)

木星の対流圏と温度分布

木星と地球の対流圏には多くの共通点があります。
その一つは雲が形成され、嵐が発生する大気層であることです。

この気象活動を理解するには、風、気圧、温度、湿度など、様々な特性を調べる必要があります。

1970年代のNASAの木星探査機“パイオニア10号”と“パイオニア11号”のミッション以降、木星の明るくて白い帯“ゾーン”は、一般に温度が低い場所であることが分かっています。

一方、茶色や赤色の帯“ベルト”は比較的暖かな場所になります。

ただ、それらの帯の温度が長期的にどう変化するかを理解するには、今まで十分なデータが揃っていなかったんですねー

一定間隔で温かくなったり寒くなったりする木星の気温

そこで、今回の研究では、大気の温かい領域(対流圏上層部)からの赤外線の輝きをとらえた画像を分析。
木星の色とりどりな雲の上の温度を直接測定することで、この状況を打開しています。
研究を進めているのは、国立天文台ハワイ観測所やNASAのジェット推進研究所“JPL”、イギリスのレスター大学などの惑星科学者らによる国際チームです。
分析に用いた画像は、木星が太陽を12年で周回するのを3周分、一定間隔で撮影したもの。
その結果、分かってきたのは、木星の気温は季節やその他の周期とは関係なく、一定間隔で温かくなったり寒くなったりしていることでした。

地球の自転軸が太陽に対し23.5度も傾いているの対し、木星の自転軸の傾きは3度ほど。
自転軸の傾きが少なく四季は変化に乏しいのに、気温がこれほど規則正しく変動するとは予想外なことでした。

また、この研究は何千キロメートルも離れた地点の気温の変化の間に、不思議な関係性があることも明らかにしました。

それは、北半球側の複数の地点で気温が上昇すると、南半球側の同じ緯度の地点で気温が低下するというもの。
そして、この現象は規則的なパターンで反転し、繰り返されていました。

このような現象は地球でも見られるものに似ています。
ある地域の天気や気候のパターンが、他の場所の天気に大きな影響を与えることがあり、変動パターンが大気中の遥かな距離を超えてテレコネクトしている(遠隔相関がある)ように見える現象です。

今回明らかになったのは、木星大気中にこのようなサイクルが存在するという事実。
次の課題は、この周期的で一見同期したような変化の原因を探ることになります。

何がこれらのパターンを生みだしているのでしょうか?
また、なぜ特定の時間スケールで発生するのでしょうか?

この仕組みを理解するには、雲の層の上下両方を探索する必要があるそうです。

数十年にわたる観測

この研究が始められたのは1978年のこと。

研究の期間中は継続的に年数回、3つの地上大型望遠鏡(すばる望遠鏡、IRTF、VLT)で観測時間を獲得するための提案書が書き続けられました。

最初の20年間は、研究者が交代しながらハワイなどの現地で、全体像を描くのに必要な温度情報を得るための観測を行っています。
2000年代初頭には、一部の観測を遠隔で行うことができるようになっている。
その後に待っていたのが、複数の望遠鏡や観測装置からの何年にもわたるデータを組み合わせ、パターンを探すという大変な作業でした。

すばる望遠鏡では、2020年に引退した中間赤外観測装置“COMICS”が用いられ、2005年5月~2019年5月までの間に20回以上の観測が行われています。

木星大気の研究者らは、今回の結果が木星の天気の詳細な理解に貢献し、さらにはその予測にまで発展することを期待しています。

さらに、この研究は、木星だけでなく、太陽系と太陽系外のすべての巨大惑星の気候モデルへの重要な制限となり得ます。

温度変化とその周期を長期にわたって測定し、木星大気内でそれらの原因と結果を結びつけることが出来れば、完全な木星天気予報を実現するための一歩となります。

そして、いつか今回のような研究を他の巨大惑星にも拡張し、同様のパターンが見られるかどうかの検証へと続いていくはずです。


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木星の高層大気が異常な高温になる原因はオーロラだった

2021年08月21日 | 木星の探査
木星の高層大気が異常な高温になっている謎の現象。
原因が高緯度領域で発生するオーロラだったことが明らかになりました。

木星周辺の宇宙空間にある荷電粒子が、木星の磁場にとらえられたときに木星にオーロラが発生します。

粒子は磁力線に沿って惑星の極域大気に振り込み、大気中の原子や分子と衝突すると光という形でエネルギーを開放。
地球では、このことにより極域の夜空を彩るオーロラが作られます。

木星では、火山活動が活発な衛星イオから噴出するガスが木星周囲の宇宙空間に荷電粒子を豊富に供給していて、太陽系最強の木星オーロラとそれによる極域大気の過熱を生み出しているようです。

長年にわたり木星のオーロラは、木星大気の異常高温を引き起こす熱源候補として注目されてきましたが、これまでの観測では結論を出すことができませんでした。

さて、今回の研究では木星大気の高温状態をどう説明しているのでしょうか。

なぜ木星の高層大気は高温なのか

地球と太陽の距離の5倍以上(約7.8億キロ)も離れている木星。
その距離から降り注ぐ太陽光の量は地球の約1/25ほどしかありません。

この日射で暖められる木星の高層大気の温度を理論的に計算してみると、平均でおよそ摂氏-70度(絶対温度で約200K)という答えになります。

でも、実際の木星高層大気の温度はこの計算値とは大きく異なっているんですねー
観測からは摂氏420度(約700K)もあることが分かっています。

では、なぜこれほど木星の高層大気は高温なのでしょうか?
これは50年来の謎であり研究者の間では“エネルギー危機(energe crisis)”とも呼ばれている。

高層大気の温度分布を高解像度でマッピング

今回の研究を進めたのはJAXA宇宙科学研究所のチーム。
観測には、ハワイ島マウナケアにあるケックII望遠鏡に搭載された近赤外線分光器“NIRSPEC”を用いています。

研究チームは2016年4月と2017年1月の夜に木星を5時間ずつ観測。
すると、木星の大気に含まれるH3+イオン(水素原子が3個が結びついた陽イオン)が放つ赤外線の輝線を、木星の全緯度にわたって検出します。

H3+イオンは木星の高層大気(電離層)に多く存在するイオンで、この輝線の強さを測定すると高層大気の温度が分かります。
木星の可視光線画像に、今回得られた赤外線スペクトルの輝度を重ねて描いたイラスト。赤からオレンジ、黄、白に向かうほど温度が高いことを表している。極域のオーロラが発生する領域が最も高温で、その熱エネルギーが風によって赤道へと運ばれ、木星全体の大気を暖めている。
木星の可視光線画像に、今回得られた赤外線スペクトルの輝度を重ねて描いたイラスト。赤からオレンジ、黄、白に向かうほど温度が高いことを表している。極域のオーロラが発生する領域が最も高温で、その熱エネルギーが風によって赤道へと運ばれ、木星全体の大気を暖めている。(Credit: J. O'Donoghue(JAXA) /Hubble/NASA/ESA/A. Simon/J. Schmidt)
これまで、木星の高層大気の温度分布は非常に解像度の粗いデータしか得られていませんでした。

これでは木星全体でどのように温度が変化しているのかを理解することは難しく、異常高温を引き起こす熱源が何であるかの手掛かりを得ることができませんでした。

これを改善するため、今回の研究では以下の二段階のアプローチがとられています。

まず、ケックII望遠鏡の高性能を利用して木星の表面温度の計測点数を増やしました。
次に、計測値の不確定性が5%以下の場合にのみ、その値を最終的な木星マップに反映することとしています。

このアプローチにより研究チームが作成したのは、異なる空間分解能をもつ5つのマップでした。

最も高い分解能のものは、木星表面の緯度2度×経度2度の領域での平均気温からなるマップ。
そこから解像度を下げて、経度4度×緯度4度、6度×6度、8度×8度、10度×10度の領域での平均気温マップも作成しています。

さらに、最高分解能で作成したマップの計測結果の不確定性が高い場合には、より低い分解能での不確定性の低い値を代わりに採用。
これにより、可能な限り高い空間分解能を追求しつつ不確定性の排除も行い、分析に最適なマップを作成しています。

データを注意深く抽出してマッピング、分析するのに何年もかかったそうです。
最終的に出来上がったのは、1万を超える個別のデータポイントからなる温度マップでした。

オーロラが上層大気を加熱している

この温度マップから明らかになったのは、木星の高層大気はオーロラが発生する高緯度領域が最も高温で、そこから赤道に向かって温度が低くなることでした。

このことが示唆しいるのは、高緯度の領域で加熱された大気が惑星風によって低い緯度へと運ばれているということ。
そう、木星の上層大気を高温にしている大元のエネルギー源はオーロラということになるんですねー

オーロラが上層大気を加熱しているのではないかという説は、これまでの研究にもありました。

でも、これまでの木星大気の温度モデルによると、高緯度地域から赤道に向かう風は木星の速い自転の影響で西へと曲げられてしまい、木星大気全体を温めることはできないとされています。

今回の観測では、木星の全球温度モデルの精度が向上したおかげで、このような惑星風の折れ曲がりは実際には起こっていないことが分かりました。

研究チームでは、オーロラが増光したときに高温領域が低緯度へと伸びていき、木星大気の過熱が強まる様子もとらえています。

すでに、日本の惑星分光観測衛星“ひさき”の観測によって、太陽風が強まると木星の磁場が圧縮されてオーロラが増光することは分かっていました。
今回のケック望遠鏡による観測で、それが大気の過熱につながることも判明したことになります。

オーロラが惑星の大気を加熱しているという証拠は、木星以外の巨大ガス惑星でも得られています。
(参照:太陽光による加熱は少ないはず… なぜ土星の上層大気は高温なのか?) 

今回の発見は、木星の“エネルギー危機”を解決する有力な手掛かりになりそうです。
ただ、一方で惑星風の発生の仕方は様々な条件で変わるので、実際にオーロラが巨大ガス惑星の大気を加熱する詳細なメカニズムは、惑星ごとに異なっているのかもしれません。
今回の研究成果の紹介動画。可視光で観測された木星が表示された後、木星高層大気での赤外線の輝き(オーロラ)の様子がイメージ図で重ねられている。高層大気の温度は、高温から低温へ、白から黄、オレンジ、赤と表現されている。オーロラ領域は最も高温の領域で、風によって熱がオーロラ領域からどのように運ばれ木星高層大気全体の加熱につながっているかを表している。最後は、実際のデータに基づき、温度スケール入りで観測した全球での高層大気温度分布が示されている。(Credit: J. O'Donoghue(JAXA) /Hubble/NASA/ESA/A. Simon/J. Schmidt)



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衛星エウロパは表面の化合物と木星の放射線により発光しているかもしれない

2020年11月22日 | 木星の探査
表面が3キロに及ぶ氷で覆われている木星の第2衛星エウロパ。
どうやら闇の中で光を放っているようです。
光が放たれるのは、エウロパ表面の氷が木星の強力な磁場から絶え間なく放射線を浴びていることが、原因として考えられています。
氷に含まれる化合物により光の色は変わるので、この光を調べればエウロパ表面の組成が分かり、地下の海を知る手掛かりにもなるようです。
木星の衛星エウロパは、分厚い氷の殻に覆われていて、その下にある巨大な海には生命が存在する可能性がある。(Credit: NASA/JPL-CALTECH/SETI INSTITUTE)
木星の衛星エウロパは、分厚い氷の殻に覆われていて、その下にある巨大な海には生命が存在する可能性がある。(Credit: NASA/JPL-CALTECH/SETI INSTITUTE)

衛星エウロパには地下に海があり生命が存在している?

エウロパは、月と同じように太陽に向いた面が明るく輝き、反対の面は暗闇に覆われています。

でも、今回の実験で分かってきたのは、エウロパの裏側が緑色や青みを帯びた白色の光を放っている可能性があること。
原因として考えられるのは、エウロパ表面の氷が、木星の強力な磁場から絶え間なく放射線を浴びていることでした。

研究ではエウロパ表面にあると考えられている、いくつかの化合物を含んだ氷を使って実験を実施。
すると、物質の構成によって放たれる光の色が影響を受けていることも発見しています。

つまり、このことは将来の探査でエウロパ表面の光を調べることができれば、エウロパ表面の複雑な化学的性質を解明できることを意味しているんですねー
この先数年以内に2つの探査機が地球を旅立ちエウロパを間近に観測することが予定されている。一つはNASAの探査機“エウロパ・クリッパー”、もう一つはヨーロッパ宇宙機関の木星氷衛星探査計画“JUICE”。

また、エウロパは木星の潮汐力を受けることで、揺れ動かされ摩擦で熱が生じ星の内部が熱を持っているようです。
この熱により地殻下では氷が解け液体の水が存在していて、そこには生命が存在するかもしれないと考えられています。
衛星の軌道が円形でないとき、惑星から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。

さらに、エウロパの表面に見られる黄色い模様が、海水の塩分の主成分で食塩としても利用されている塩化ナトリウムが放射線を受けたものであることも分かっています。

そう、この塩化ナトリウムは、地下にあると考えられている海から噴出したものと考えられているんですねー
なので、エウロパ表面の組成を調べることは、氷地殻の下に存在すると考えられている海の組成について、手掛かりが得られるチャンスにもなります。

氷に含まれる化合物により光の色や強さは変わる

純水の氷が放射線にさらされると光を放つことは、1950年代から知られていました。

高エネルギーの電子線(放射線)が氷の分子に衝突すると、いったん励起した分子が光のかたちでエネルギーを放出するからです。
励起とは、原子や分子が外部からエネルギーを与えられ、元のエネルギーの低い安定した状態からエネルギーの高い状態に移ること。

今回の研究では、南極の氷の中に見られるこのかすかな光の瞬きを利用。
地球に降り注いでいると考えられているエキゾチック粒子を探しています。

でも、地球の分厚い大気と磁気圏が宇宙から日ってくる放射線の多くを遮断してしまうので、そうした分子の輝きは非常にわずかしか起きることはありません。

地球とは対照的に、エウロパはほとんど大気を持っていません。
さらに、木星の猛烈かつ巨大な磁場から放たれる放射線の大渦に見舞われているんですねー

その量はすさまじく、もし人間がそこに無防備で立っていたら、10分から20分で死んでしまうほどのもの。
この放射線はエウロパの氷地殻の性質に、どのように影響を及ぼしているのでしょうか?。

将来、もしエウロパに宇宙船を着陸させるなら、放射線の影響を理解することは非常に重要なことになります。

今回、研究チームが作ったのは、氷の塊に電子線を浴びせて、何が起こるかを追跡できる装置“ICE-HEART(エウロパ高エネルギー電子・放射線環境試験のための氷室)”でした。

実験で注意を引いたのは、電子線を純粋の氷のブロックに照射したとき、氷が輝きを放ったこと。
次に、対象を塩化ナトリウムを含んだ氷に換えると、今度は非常にかすかにしか光りませんでした。

そこで研究チームが行ったのは、過去の数々の研究でエウロパの表面に存在することが示唆されてきた化合物を使った実験。
すると、光を消してしまうほどの炭酸ナトリウムなどに対して、硫酸マグネシウムなどは光を増大させていました。

他に変化していたのは光を構成する色の強さでした。
例えば、緑色の光を抑える塩化ナトリウムや、赤色を増加させる硫酸ナトリウムです。

これら実験の結果が示唆しているのは、異なる化合物の存在が、エウロパの表面から発せられる輝きに影響を及ぼすということ。
この結果は、エウロパを違った視点から見るきっかけになるはずです。

探査機がエウロパの光をとらえるか

研究チームの計算によると、放射線によって生じるエウロパの氷の輝きは、探査機“エウロパ・クリッパー”のカメラで十分にとらえられそうです。
“エウロパ・クリッパー”は、NASAが2020年代に打ち上げを計画している探査機。探査の目的は、液体の水、化学物質、十分なエネルギー源の調査。これらの生命に必要な3つの要素がエウロパに存在するかどうかを決定する予定。

本当にエウロパが自ら光を発していた場合、それをカメラで撮影できれば、非常に多くのことを学ぶことができるはずです。
さらに、こうした手法は、ガニメデなど、木星の他の衛星の研究にとっても有用なものになります。
ただカメラは、いま製造途中のようですよ。

氷地殻にどんな化合物が含まれているかを解明することは、その下にあるとかんがえられる海の化学的性質を推測するヒントにもなります。

エウロパ表面に広がる滑らかな氷と、表面から噴出しているとみられる間欠泉の存在は、その下にある液体が地質学的な時間スケールで上方に向かって染み出していることを示唆しています。
氷地殻の方も、ゆっくりと地下の海に沈みこんでいる可能性がある。

つまり、表面の組成を理解することは、深い海の中に果たして生命がいるのか、いるとすればどのように存在しているのかを解明する重要な手掛かりに成り得るはずです。

エウロパについては、まだ本当にたくさんのことを知る必要があります。

ただ、1990年代の木星探査機“ガリレオ”のミッション以降、エウロパの詳しい調査は行われておらず、この氷の世界について詳しく知るのは簡単なことではありません。

でも、近い将来には“エウロパ・クリッパー”や“JUICE”によって多くの手掛かりがもたらされるかもしれません。

今回の研究結果は、その可能性をさらに高めるものになるはず。
現地に探査機を送る前に多くのことを知っていれば、より多くの科学的成果が得られると思いませんか?


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主成分の半分を火山活動が供給している? アルマ望遠鏡による観測で分かった衛星イオの大気

2020年10月30日 | 木星の探査
太陽系の衛星の中では、最も火山活動が活発なことで有名な木星の衛星イオ。
今回、米国立電波天文台が発表したのは、イオの火山活動がその薄い大気に与える影響でした。
アルマ望遠鏡を用いて直接調べることに成功したそうです。

太陽系の衛星の中では最も火山活動が活発な天体

木星を巡るガリレオ衛星の中で最も内側の軌道を公転しているのがイオです。
太陽系の衛星の中では4番目に大きく、半径1800キロ強と地球の3分の1にもなります。
木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)は、ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれている。衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができた。

また、太陽系の衛星の中では最も火山活動が活発なことで有名で、その表面に確認されている火山は400以上。
そこからは硫黄を含むガスが放出されています。

そのガスが凍り付いて地表に降り注ぐことで、イオの表面は黄色やオレンジ、赤といった暖色系の彩の模様で覆われているんですねー

そうした際立った特徴を持つイオには、地球の約10億分の1という、ほんのかすかな大気が存在しています。

イオの大気の30~50%は火山から直接供給されている

これまでの研究から分かっているのは、イオの大気が火山活動に由来する二酸化硫黄が主成分であること。

では、その二酸化硫黄は直接火山から噴き出したものなのでしょうか?
それとも、一度地表に降り積もって凍り付いた二酸化硫黄が、太陽光で温められて昇華して大気に混じったものなのでしょうか?
この答えは、まだ分かっていませんでした。

このことを見分けるため、今回の研究ではアルマ望遠鏡を用いてイオが木星の影に入るときと出るときの観測を実施。
イオからすると、日食になる直前と直後のタイミングになります。

イオが木星の影の中に入っているときは、太陽光が当たらないので低温になります。
すると、二酸化硫黄はイオ表面に氷となって降り積もることになります。

この期間、大気に含まれるのは火山から直接供給された二酸化硫黄だけになります。
これを観測することで、大気成分が火山活動により、直接的な影響をどの程度受けているかが分かるはずです。

アルマ望遠鏡の高解像度と感度を用いて観測した結果、イオの火山から吹きあがる二酸化硫黄と一酸化硫黄のガスをとらえるとらえることに初めて成功。
この観測結果から見積もられたのは、イオの大気の30%から50%は火山から直接供給されているということでした。

さらに、アルマ望遠鏡での観測では、火山から噴出する第3のガス“塩化カリウム”を検出。
塩化カリウムは、二酸化硫黄や一酸化硫黄が検出されない場所で検出されているので、地域によって地下のマグマの組成が異なっているのかもしれません。
アルマ望遠鏡が電波で観測したイオの二酸化硫黄の広がり(黄色)。イオの表面画像は惑星探査機“ボイジャー1号”と木星探査機“ガリレオ”で撮影されたもの。土星探査機“カッシーニ”が撮影した木星の画像を背景に合成している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), I. de Pater et al.; NRAO/AUI NSF, S. Dagnello; NASA/JPL/Space Science Institute)
アルマ望遠鏡が電波で観測したイオの二酸化硫黄の広がり(黄色)。イオの表面画像は惑星探査機“ボイジャー1号”と木星探査機“ガリレオ”で撮影されたもの。土星探査機“カッシーニ”が撮影した木星の画像を背景に合成している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), I. de Pater et al.; NRAO/AUI NSF, S. Dagnello; NASA/JPL/Space Science Institute)

天体そのものが変形させられて熱を持つ現象

木星の巨大な重力による潮汐力が、イオの火山のエネルギー源になっています。

木星を周回するイオの軌道が完全な円形ではないことや、イオが潮汐ロックによって常に同じ面を木星に向けていることで、イオは木星に接近すると決まって同一面方向に引っ張られることになります。
潮汐ロックとは、主星からの潮汐力の影響で自転周期と公転周期が一致し、常に主星に対して同じ面を向け続けている状態。主星の近くを公転している場合など、受ける潮汐力が大きい場合に比較的よくみられる現象。月が地球に同じ面を向けているのも同じ現象。

これにより、木星から遠いときはほぼ球体のイオも、接近するに従って赤道方向に引っ張られ、極端にいえば卵のような形になるんですねー
そして、木星から遠ざかると、また球体に戻っていきます。

これを繰り返すことで発生した摩擦熱によりイオは熱せられているわけです。
このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱といいます。
木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。

また、木星による潮汐加熱に加え、すぐ周囲をエウロパやガニメデなど、太陽系屈指の大型の衛星が公転しているので、これらの影響も受けることになります。

こうしてイオは変形させられて加熱されることで、火山活動が活発に起きていると考えられています。
潮汐加熱やイオの内部については、大気と火山活動を調べることで分析可能なようです。

今回の研究で解明に至っていないものに、イオの下層大気の温度があります。
今後、アルマ望遠鏡による観測で目指すのは、この下層大気の測定になります。

ただ、イオの下層大気の温度を測定するには、より高い解像度が必要になってきます。

高い解像度を実現するのに必要になるのは長時間の観測です。
でも、長時間になるとイオが数十度も自転してしまうんですねー
なので、それを補正するためのソフトウェアも必要になります。

すでに研究チームでは、アルマ望遠鏡と超大型干渉電波望遠鏡群“VLA”を駆使して、木星本体の観測において、この仕組みを実現しています。
なので、イオの下層大気の温度測定も見通しは明るいようですよ。
カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群“VLA”は、アメリカ国立電波天文台が持つ電波望遠鏡の一つでニューメキシコ州ある。宇宙からの微弱な電波をとらえるための施設。


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木星では、大気に含まれるアンモニアや水が衝突して雷を発生、アンモニアの“ひょう”が降っているかもしれない

2020年08月11日 | 木星の探査
木星と言えば、比較的小さい望遠鏡でも確認できる大赤班はあまりにも有名。
地球が2~3個すっぽり収まってしまうほど大規模な大気現象で、1665年に発見されて以来、今もその存在は健在です。
大赤班のような長期間にわたる気象現象は地球では全く考えられないものですが、さらに興味深い木星の大気現象に関する発表がありました。
木星の高高度では、“アンモニア水”と“水の氷の粒”が衝突して雷が発生し、アンモニア水を核にした“ひょう”が降っているようです。


雷は“アンモニア水の水滴”と“水の氷の粒”が衝突して発生している

地球のおよそ10倍の直径を持つ巨大ガス惑星の木星。

今回、NASAジェット推進研究所のグループが発表したのは、木星の高高度で観測された雷が、アンモニアや水を含む雲に由来することを示した研究成果でした。

木星の雷については、1979年に惑星探査機“ボイジャー”が観測して以来、地球と同じように水がその発生に関わっていると考えられていました。

これまで、雷が発生している嵐が位置していると見られていたのは、木星の雲頂から45~65キロの深さ(気温は水が氷る0度前後)。
でも、NASAの木星探査機“ジュノー”による接近観測では、これよりもずっと高い高度で発生する小さな雷もとらえられています。
今回の研究で用いられているのは、2011年8月5日に打ち上げられたNASAの木星探査機“ジュノー”による観測データ。天王星や海王星など、他の巨大ガス惑星における気象現象の考察にも役立つものとして注目されている。
木星の高高度の雲の中で発生した小さな雷(オレンジ色)のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Gerald Eichstädt)
木星の高高度の雲の中で発生した小さな雷(オレンジ色)のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Gerald Eichstädt)
研究グループでは“ジュノー”の観測データを分析。
すると、この高高度の雷には水だけでなくアンモニアが関わっている可能性が示されます。

研究グループが考えているのは以下の通り。
強い上昇気流によって水の雲から25キロ以上高いところまで吹き上げられた水の氷の粒が、水の融点を下げるアンモニアの作用によって溶けることで、アンモニアや水を含んだ雲を形成。
この雲から落下したアンモニア水の水滴が水の氷の粒と衝突することで、雲が帯電し高高度で雷が発生する。

アンモニアの雲は地球には存在しないので、驚きの気象現象ですよね。


アンモニア水が核となって成長した“ひょう(雹)”が降っているかも

また、アンモニア水は高高度における雷だけでなく、アンモニアの循環にも関わっていると見られています。

コートダジュール大学の研究グループが発表したのは、木星ではアンモニア水のシャーベット状の氷“スラッシュ”を核として成長した“ひょう”が降っているという研究成果でした。

地球で“ひょう”が成長するのと同じように、アンモニア水の“スラッシュ”が気流に乗って雲の中を上下に移動するうちに、表面がだんだんと水の氷に覆われていくことに。

上昇気流で支えきれない重さにまで成長した“ひょう”は、木星の深部へ向けて落下。
やがて、表面を覆う水の氷とアンモニア水の核が溶けて蒸発することで、水とアンモニアが木星大気の深部へもたらされると考えられています。

真冬の車に下りる霜は、フロントガラスにホコリが付いていない状態では気になるほどではありません。 
でも、洗車を怠っていると、フロントガラスがホコリだらけになり、そのホコリを核にして霜がどんどん成長していきます。
水が氷るときの核として、ホコリが大きな役割を果たしたわけです。

このような、霜が成長するきっかけになるのが異質核生成という現象です。

ちなみに、異質核生成現象は都会の大気汚染環境において、ゲリラ豪雨の原因にもなっています。

都会とそうでない地域では、大気中に含まれるチリの密度に大きな違いがあります。
都会ではチリの密度が高いので、異質核生成による雨粒の成長頻度が極めて高く、その比率はチリがほとんどない地域と比べて1000倍以上にもなるそうです。

地球と木星では、降り注ぐものこそ違いますが、宇宙における異質核生成は共通のメカニズムでどこの星においても存在し、それぞれの星の環境に応じた気象現象の原因になっているようですよ。
木星の高高度で発生する稲妻。(Credit: NASA Visualization, feat. Music by Vangelis)


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