goo blog サービス終了のお知らせ 

宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

受け取る太陽光は地球と比べて900分の1程度… 太陽系で最も外側を公転する海王星だけど雲の量は太陽の活動周期と関係している

2023年10月08日 | 天王星・海王星の観測
冥王星が準惑星に分類されてから、太陽系で最も外側を約165年の周期で公転している惑星が“海王星”です。

海王星は、ガス惑星と呼ばれる木星や土星、天王星と同様に、水素とヘリウムを主成分とする大気を持っています。
海王星は、惑星の分類としては木星、土星、天王星と共にガス惑星(木星型惑星)に含まれ、その中でも氷惑星(天王星型惑星)に分類される。
その最果ての惑星“海王星”の雲の量の変化が、太陽活動の11年周期と関係しているらしいことが明らかになったそうです。
一連の画像に写っているのはハッブル宇宙望遠鏡が撮影した海王星。雲の量が増減しているのが分かる。(Credit: NASA, ESA, Erandi Chavez (UC Berkeley), Imke de Pater (UC Berkeley))
一連の画像に写っているのはハッブル宇宙望遠鏡が撮影した海王星。雲の量が増減しているのが分かる。(Credit: NASA, ESA, Erandi Chavez (UC Berkeley), Imke de Pater (UC Berkeley))

太陽活動の極大期の2年後に海王星の雲が増加

海王星は太陽から45億キロの距離にあるんですねー
これは太陽から地球間の距離の約30倍に相当し、海王星が受け取る太陽光は地球と比べて900分の1程度しかありません。
にもかかわらず、太陽活動と海王星の雲の量は関係しているようです。

今回の研究では、2002年~2022年にハワイのケック天文台で撮影された画像や、ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータ、また2018年~2019年に得られたカリフォルニアのリック天文台のデータを分析。
そこで研究チームが気付いたのは、海王星の中緯度に見られる雲が2019年以降に薄くなっていることでした。
この研究は、カリフォルニア大学バークレー校のImke de Paterさんたちの研究チームが進めています。
上部の画像は海王星の雲の量を示したハッブル宇宙望遠鏡の画像。下部のグラフは太陽の紫外線レベルをプロットしたもの。(Credit: NASA, ESA, LASP, Erandi Chavez (UC Berkeley), Imke de Pater (UC Berkeley))
上部の画像は海王星の雲の量を示したハッブル宇宙望遠鏡の画像。下部のグラフは太陽の紫外線レベルをプロットしたもの。(Credit: NASA, ESA, LASP, Erandi Chavez (UC Berkeley), Imke de Pater (UC Berkeley))
太陽活動は11年周期で極大期と極小期を繰り返しています。
活動が活発になると、太陽からより強い紫外線が放射され、各惑星に降り注ぎます。

今回、研究チームが発見したのは、極大期から2年後に海王星に出現する雲の数が増加していること。
さらに、海王星の雲の数と明るさの間に正の相関関係があることにも気付いています。

この発見は、太陽の紫外線が十分に強い場合、光化学反応を引き起こして海王星の雲を生成する可能性があるとする理論を支持するものでした。

今回、研究チームが明らかにしたのは、29年間分… 太陽の活動周期のおよそ2.5周期分の海王星の雲の量と太陽活動の関係。
その間、海王星の反射率は2002年に高くなり、2007年に低くなっていきます。
2015年に再び明るくなるのですが、2020年には観測史上最低レベルにまで暗くなり、雲のほとんどが消え去ってしまいました。

太陽によって引き起こされる海王星の明るさの変化は、雲の増減と同期しているようにも見えます。

でも、太陽活動のピークと海王星の雲量の増加には2年間のタイムラグがあるんですねー

これは、海王星の高層大気で起こる光化学反応により雲が形成されるまでに、時間がかかるためだと見られています。

ただ、結論を出すためには、更なる研究が必要になるそうです。

これは、海王星の深層から上昇してくる大気は雲の量に影響しますが、光化学反応によって生成された雲とは関係していないので、太陽周期との相関の研究が複雑になる可能性があるからです。

研究チームでは、引き続き海王星の雲の活動を追跡していくそうです。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による海王星の観測と同時期に得られたケック望遠鏡の画像では、より多くの雲が見られています。
最新の画像では、特に北半球や高い高度で、より多くの雲が見られるようですよ。
この画像は2002年8月から2023年6月までの間にケック望遠鏡で観測された海王星。赤外線カメラNIRC2を使い1.63μmの波長で撮影されたもの。2019年以降、雲がほとんど存在していないように見える。(Credit: Imke de Pater, Erandi Chavez, Erin Redwing (UC Berkeley), and the Keck Observatory.)
この画像は2002年8月から2023年6月までの間にケック望遠鏡で観測された海王星。赤外線カメラNIRC2を使い1.63μmの波長で撮影されたもの。2019年以降、雲がほとんど存在していないように見える。(Credit: Imke de Pater, Erandi Chavez, Erin Redwing (UC Berkeley), and the Keck Observatory.)


こちらの記事もどうぞ


潮汐力による過熱は期待できないけど、天王星の4つの氷衛星にも内部に海が存在する?

2023年06月23日 | 天王星・海王星の観測
太陽系で2番目に遠い軌道を約84年の周期で公転している惑星が天王星です。

天王星は、太陽系の惑星の中では木星、土星に次いで3番目に大きく、木星、土星、海王星に次いで4番目に重い天体。
ガス惑星と呼ばれる木星や土星、海王星と同様に、水素とヘリウムを主成分とする大気を持っていて、惑星の分類としては木星、土星、海王星と共にガス惑星(木星型惑星)に含まれ、その中でも氷惑星(天王星型惑星)に分類されています。

今回の研究で指摘しているのは、天王星の4つの氷衛星“アリエル”、“ウンブリエル”、“チタニア”、“オベロン”の地下に海がある可能性です。

土星の衛星エンケラドスをはじめ、木星の衛星エウロパや海王星の衛星トリトンなどでも、潮汐加熱によって氷衛星の内部に広大な海が存在する可能性が指摘されています。

これらの衛星は外殻から間欠泉“プルーム”が噴出するなど活動が盛んで、衛星の表面は地質学的に短いタイムスケールで更新されていると考えられています。

ただ、過去の研究で明らかになっていたのは、天王星の4つの衛星には潮汐力がほとんど働かないこと…

それでは、地下海が維持されているとしたら何が内部を温めているのでしょうか?

どうやら、放射性物質の崩壊による加熱や不凍剤の役割を果たすアンモニア、断熱性のある多孔質の岩石が関わっているようです。

氷を主成分にする天王星の5大衛星

現在、天王星には27個の衛星が見つかっています。

なかでもサイズが大きな“ミランダ”、“アリエル”、“ウンブリエル”、“チタニア”、“オベロン”は、天王星の5大衛星として知られているんですねー
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した天王星とその衛星。最も大きな5つの衛星であるミランダ、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンのほか、6番目に大きな衛星のパックも映っている。(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI)
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した天王星とその衛星。最も大きな5つの衛星であるミランダ、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンのほか、6番目に大きな衛星のパックも映っている。(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI)
これらの衛星は氷を主成分とすることから氷衛星と呼ばれていて、条件次第では地下に液体の水が豊富な層、すなわち地下海が存在する可能性があります。

特に大きいチタニアとオベロンについては、海水に不凍剤(0℃を下回る温度でも水の凍結を防ぐ物質)の役割を果たすアンモニアが融け込んでいれば、現在も地下海が維持されているのではないかとする予測もありました。

さらに、ごく最近の火山活動の痕跡と思われるデータが得られたアリエルは興味深い観測対象といえます。

でも、近年になって分かってきたのは、そのような海水は物質として不安定であり、少なくとも不凍剤の存在だけでは地下海を維持できないことでした。

一方で、近年の惑星探査機の活躍により、これまでの予想よりもはるかに多くの天体が地下海を持つ可能性が浮かび上がってきています。

活発にプルームを噴出させている土星の衛星エンケラドスをはじめ、小惑星帯の準惑星ケレス、冥王星および衛星カロンがその一例になります。
エンケラドスの南極付近には間欠泉があり、水のプルーム(水柱)が時々宇宙空間へと放出されている。
これらはどれも近年に接近探査が行われた氷を主成分にする天体であり、天王星の5大衛星はこれらの天体とほぼ同じ大きさを持っています。

他の氷天体のデータを元に地下海の有無を検討

今回の研究では、これまでに行われた氷を主成分にする天体の探査データを元に、天王星の5大衛星における地下海の有無について検討を行っています。
この研究を進めているのは、ジェット推進研究所(JPL)のJulie Castillo-Rogezさんの研究チームです。
検討されたデータは、1986年にフライバイ探査を行ったNASAの惑星探査機“ボイジャー2号”で取得されたものしかなく、5大衛星については表面の約40%分のデータしかありませんでした。

観測データは限られていましたが、それでも他の天体のデータと照らし合わせることで、内部構造を推定したり、特に重要な天体内部の熱の動きを詳細に検討することができます。

分析の結果、5大衛星の表面付近の岩石は多孔質であり、内部の熱を保持する断熱性が高いことが判明。
また、衛星の誕生直後の数百年間は寿命の短い放射性物質の崩壊で熱が発生し、その余熱が内部の氷を融かす主要な熱源になることも判明しました。

潮汐力に加熱は期待できない

一方で、他の氷天体で考慮される潮汐力は、5大衛星ではほとんど存在しないことも明らかになります。
潮汐力は、重力によって起こる二次的効果の一種。天体の各部分に働く重力と天体の重心に働く重力とに差があるため起こる。
5大衛星に潮汐力がほとんど働かないことは過去の研究でも示されていたことでした。
今回の研究で分かったのは、潮汐力が生じたのは衛星が誕生した直後の軌道が不安定だった時期のみだということ。

潮汐力が働く天体では摩擦熱が生じ、内部を温める潮汐加熱と呼ばれる現象が起きることがあります。
衛星の軌道が円形でないとき、惑星から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。
でも、天王星の5大衛星では、潮汐力の影響が最も大きかったミランダやアリエルにおいてさえ、内部の過熱は放射性物質の崩壊熱よりもずっと小さいことが判明しています。

さらに、潮汐力が強すぎると表面の岩石の多孔質性が失われてしまい、余熱を保持する断熱性能がが失われてしまう負の効果も判明しました。

4つの衛星には現在でも地下海が維持されている

これらを考慮して分かってきたのは、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンはサイズが十分大きいので、現在でも地下海が維持されている可能性をがあること。
一方、5大衛星の中で最も小さく、内部の熱が失われる速度が速いミランダの地下海は、誕生から10億年後までに凍り付いた可能性があることが分かりました。

4つの衛星に地下海が存在する場合、アンモニアに加えて塩化物が不凍剤として機能することで、地下海の平均水温は-5℃から-30℃であると推定されています。

地下海の推定される規模は、チタニアとオベロンでは深さが50キロ以下、アリエルとウンブリエルでは深さ25キロ以下になります。
今回の研究で推定された5大衛星の内部構造。アリエルとウンブリエルには深さ25キロ以下、チタニアとオベロンには深さ50キロ以下の海が地下に存在することが推定された。一方、ミランダの地下海は完全に凍結していると推定されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
今回の研究で推定された5大衛星の内部構造。アリエルとウンブリエルには深さ25キロ以下、チタニアとオベロンには深さ50キロ以下の海が地下に存在することが推定された。一方、ミランダの地下海は完全に凍結していると推定されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
その他の成果としては、ミランダには明確な核が存在しないこと、アリエルとウンブリエルには水を含んだ岩石の核、チタニアとオベロンは外側に水を含んだ岩石があり内側に乾いた岩石でできた核があると推定されました。
さらに、どの天体にも金属が主体の核は存在しないようです。

ただ、本当に地下海が凍結せずに現在まで残っているのかは、まだはっきりと分かっていません。

チタニアとオベロンにおける深さ50キロという地下海の規模は最大限の見積もりなんですが、氷天体の地下海としてはかなり小さい規模になります。

また、今回のモデル計算では、液体の水で構成された海ではなく、液体の水が隙間を満たした岩石の形で存続している可能性も指摘されています。

地下海の有無や、存在する場合どのような状態なのかは、各衛星の磁場を測定することで分かるかもしれません。

ただ、海水に含まれるアンモニアや塩化物が多い場合、海水による磁場はほとんど発生しなくなるので、観測による証明が困難になる可能性もあります。

NASAとアメリカ国立科学財団(NSF)は、10年ごとに“惑星科学10か年計画(Planetary Science Decadal Survey)”と呼ばれる計画書を出版していて、その時点での惑星科学における謎や課題、それらを解決するために推奨される探査や観測計画を取り上げています。

2023年はちょうど3冊目の計画が開始される時期。
その計画書の中で最優先課題として取り上げられているのが、天王星の周回探査計画なんですねー

計画にはもちろん5大衛星の観測も含まれているので、天王星の探査ミッションなどを通して、将来的には5大衛星の地下海の有無について、もっと多くのことが分かるようになるはずですよ。


こちらの記事もどうぞ


地上の大型望遠鏡を用いることで可能になる! 遠方の海王星に見つかったのは赤道上に分布するシアン化水素の帯でした。

2020年11月10日 | 天王星・海王星の観測
東京大学情報基盤センターの研究グループは、太陽系で最も遠くにある惑星“海王星”をアルマ望遠鏡で観測し、その大気に含まれている有毒ガスの一種“シアン化水素”を検出しました。

シアン化水素が成層圏に存在することは、すでに過去の観測から知られていたこと。
でも、今回の観測で明らかになったのは、シアン化水素が赤道上の成層圏に帯状に分布していることでした。
考えられるのは、シアン化水素の濃度が高いところに向かって大気の流れがあること。
なので、海王星の南半球では、南緯60度付近で上昇し、赤道と南極で下降する大気の流れ(循環)が存在するようです。

今回の研究で示されたのは、太陽系最遠の惑星でも、最先端の地上望遠鏡と解析技術を組み合わせ、大気に微量に含まれる成分を詳細に観測することで、その大気循環の解明が可能であること。

また、探査機とは異なり、地上望遠鏡だと継続的な観測が可能になります。
今後、研究グループが行うのは、同様の観測手法を他の惑星にも広げるとともに、観測を継続的に行うことで短期的および長期的な変化をとらえること。
この活動により、太陽活動や惑星の季節と連動した大気活動のメカニズムを明らかにしていくようです。
(左)ボイジャー2号が1989年に撮影した海王星。活発な大気の運動に伴う複雑な雲などの構造が観察できる。(Credit: NASA/JPL)(右)今回の研究で得られた海王星にあるシアン化水素の分布。赤道上で濃度が高く、南緯60度を中心にして低いことがはっきりと示されている。(Credit: 東京大学、All rights reserved.)
(左)ボイジャー2号が1989年に撮影した海王星。活発な大気の運動に伴う複雑な雲などの構造が観察できる。(Credit: NASA/JPL)
(右)今回の研究で得られた海王星にあるシアン化水素の分布。赤道上で濃度が高く、南緯60度を中心にして低いことがはっきりと示されている。(Credit: 東京大学、All rights reserved.)

なぜ成層圏上部にシアン化水素が存在しているのか

冥王星が準惑星に分類されてから、太陽系で最も外側を約165年の周期で公転している惑星が海王星です。
海王星は、ガス惑星と呼ばれる木星や土星、天王星と同様に、水素とヘリウムを主成分とする大気を持っています。
海王星は、惑星の分類としては木星、土星、天王星と共にガス惑星(木星型惑星)に含まれ、その中でも氷惑星(天王星型惑星)に分類される。

でも、海王星は他のガス惑星と異なり、成層圏上部にシアン化水素というガスが多く存在していることが分かっています。
シアン化水素の化学式はHCN。気体では青酸とも呼ばれ、猛毒であり強い呼吸障害を引き起こす。電波天文学では頻繁に観測が行われる分子で、惑星の大気においては木星で検出されている。

ただ、低高度にある対流圏と、その上にある成層圏に挟まれた領域“対流圏界面”付近の気温はマイナス200度と非常に低いので、ほとんどのガスは気体から液体に変化してしまいます。

なので、シアン化水素のような凝結しやすいガスは、成層圏に上昇することができないんですねー

なぜ、成層圏上部にシアン化水素が偏在しているのでしょうか?
その仕組みは太陽系天文学上の大きな謎になっていました。

アルマ望遠鏡を用いたシアン化水素の観測

今回の研究を進めたのは東京大学情報基盤センターのグループ。
アルマ望遠鏡を用いて、海王星の成層圏におけるガス状のシアン化水素の分布を詳細に観測することに成功しています。

観測の結果、明らかになったのは、シアン化水素の濃度は赤道付近で“約1.7ppb”と最も高く、南緯60度付近で“約1.2ppb”と最も低くなっていることでした。
1ppbは、大気分子10億個に対してシアン化水素分子が1個存在する。

ガス惑星の大気中において、このように微量分子に濃淡が生じることは珍しくないそうです。

ガス惑星は地表が無いので(あってもはるか下方のため)、風が地表の凹凸の影響を受けず、吹き続けることができます。
地球では考えられないような暴風が吹きすさんでいて、海王星では太陽系一の時速2000キロ強という風速が観測されたこともあります。
こうした大気循環により、シアン化水素が成層圏上部に存在するメカニズムの一端を担っているのかもしれません。

海王星までの距離は平均して地球~太陽間の約30倍もあり、光の速度でも4時間以上かかってしまいます。
非常に遠くに存在しているので、これまでの観測ではシアン化水素の分布を知ることはできませんでした。
今回の観測は、このシアン化水素の濃度が海王星上で緯度により異なっていることを、世界で初めて明らかにしたものになります。

観測に用いられたアルマ望遠鏡は、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設された電波望遠鏡です。

高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡としてミリ波・サブミリ波を観測することができます。
これにより、波長の短い電波(波長1ミリ前後)において、これまでにない高い感度と分解能(視力)を実現します。

アルマ望遠鏡の高い性能をフルに活用することで、見かけの直径で木星の1/20ほどと、地球からは小さくしか見えない海王星上の分子ガスの分布を明らかにすることを可能にしています。

シアン化水素の分布を実現するメカニズム

大気中の微量分子は、大気の大きな流れ(大循環)の影響を受けて、惑星上で非一様な空間分布になる事があります。
では、観測で明らかになったシアン化水素の分布は、どのようなメカニズムで実現されたのでしょうか?

このメカニズムを考える上で研究グループが参考にしたのは、地球の成層圏で同じように非一様に存在する分子“オゾン”の分布と大気の流れでした。

地球の成層圏オゾンは、高緯度でより多いという特徴を持ちます。
これは、オゾンが生成される成層圏では、低緯度から高緯度へと向かう大気の流れがあるからです。

そこで研究グループが考えたのは、オゾンと同じように海王星のシアン化水素の濃淡にも、成層圏の大気の流れが繁栄されているということでした。

そのメカニズムは、以下のように考えられます。
シアン化水素が最も少なかった中緯度付近で上昇流が生じ、シアン化水素の元になる窒素分子が成層圏に運ばれる。
運ばれた窒素分子は、成層圏での化学反応によりシアン化水素を生成しながら、赤道と南極に運ばれていく。

このように、巨大な大気の流れ“大気大循環”が海王星に存在し、これにより成層圏のシアン化水素が形成されているという可能性が、今回の研究で強く示されたことになります。

シアン化水素は対流圏から成層圏へと上昇するのではなく、成層圏で作られていたことになります。

惑星大気の運動や化学の研究へ

今回の研究成果は、地上大型望遠鏡を用いることで、海王星のような遠方の惑星に含まれる微量な分子ガスであっても、詳細な観測が可能になることでした。

この成果をさらに発展させ、シアン化水素以外の多様な分子の分布を観測することで、大気の運動や化学について新たな知見を得ることが可能になるずです。
同様の観測は他の天体でも可能なので、今後観測対象を広げていくようです。

さらに、地上からの観測には大きなメリットがあります。
それは、探査機と異なり地上からの観測は継続的に行うことが可能なことです。

なので、短期的および長期的な変化をとらえ、太陽活動や惑星の季節と連動した大気活動のメカニズムを明らかにしていくことも可能なはずですよ。


こちらの記事もどうぞ


なぜ天王星の衛星は質量がとても小さく、遠く離れた軌道を回っているのか?

2020年04月30日 | 天王星・海王星の観測
天王星の衛星は総質量が天王星に比べてとても小さく、遠く離れた位置で天王星と同じく大きく傾いた軌道を回っています。
こうした特徴は、地球のような岩石惑星とも木星のようなガス惑星とも異なっているんですねー
ひょっとすると、氷惑星である天王星ならではの衛星形成モデルが存在しているのかもしれません。


とても小さい衛星の総質量

天王星は太陽系7番目の惑星で、あまりに遠いので太陽を一周するのに84年もかかるんですねー

不思議なのは、天王星の自転軸の傾きがほぼ横倒しになっていること。
太陽系の惑星の多くは、太陽の周りを回る軌道面に対しておおむね直立して自転していますが、天王星は直立方向から98度も傾いています。

そして、天王星の主要な衛星5つも天王星の自転に沿って横倒しの軌道を回っています。
  主要な衛星はアリエル、ウンブリエル、タイタニア、オベロン、ミランダの5つ。
天王星の自転軸(黄色)の傾きは軌道面に対して横倒しになっていて、衛星の軌道も同じく横倒しになっている。(Credit: 京都大学)
天王星の自転軸(黄色)の傾きは軌道面に対して横倒しになっていて、衛星の軌道も同じく横倒しになっている。(Credit: 京都大学)
もともと天王星は、他の惑星のように直立した自転で誕生しました。
でも、約40億年前に地球の1~3倍の質量の天体が衝突して自転が傾いたという説が有力です。

その際に飛び散った破片が集まって衛星になったのだとすると、衛星の軌道面も横倒しになっていることが説明できます。

ただ、衛星すべてを合わせた質量は天王星の0.01%…
それに対して、理論上だと衝突の破片から誕生した衛星の質量は、惑星の1%程度になるはずです。
巨大衝突で生まれたことが有力視される地球の月は、この質量比に当てはまっているんですねー


離れた位置にある衛星

また、衝突の破片が集積するのは惑星のすぐそばのはずです。

もともと地球に近い位置にあった月は、45億年に及ぶ地球との重力相互作用で、だんだん遠ざかったと考えられています。

ただ、天王星の衛星はどれも軽すぎて重力相互作用は働きません。
それでも、天王星最大級の衛星は天王星半径の15~25倍という離れた位置にあります。

衛星が誕生するシナリオとして考えられるのは、巨大衝突説の他に円盤説があります。
これは、誕生直後の惑星が周囲のガスを取り込む際に円盤を形成し、その中から衛星が生まれるというものです。

これなら衛星の総質量は惑星の0.01%になり、この説で誕生したと考えられる木星のガリレオ衛星は条件に当てはまっています。

でも、天王星は最初から横倒しで誕生したわけではないはずです。
そう、衛星の軌道も横倒しになっていることは円盤説では説明できないんですねー
太陽系7番目の惑星“天王星”。(Credit: Lawrence Sromovsky、University of Wisconsin-Madison/W.M. Keck Observatory/NASA)
太陽系7番目の惑星“天王星”。(Credit: Lawrence Sromovsky、University of Wisconsin-Madison/W.M. Keck Observatory/NASA)


地球型惑星とも木星型惑星とも異なる衛星形成

天王星は氷を主成分とする惑星であり、地球のような岩石惑星とも木星のようなガス惑星とも異なっています。

そのため、巨大衝突では固体の破片が飛び散るのではなく、水が完全に蒸発して水蒸気の円盤が形成されるはず。
この点に注目した東京工業大学の研究チームが行ったのは、この水蒸気円盤から衛星が形成される過程のコンピュータシミュレーションでした。

衝突により天王星の質量の1%が蒸発して円盤になったとすると、そのままでは水蒸気に熱がこもって固まることができません。
水蒸気の99%が天王星に再吸収され、残りの円盤が天王星半径の10倍以上に広がったときにようやく氷が凝縮できるそうです。

1%の1%、つまり0.01%という数字は天王星の衛星の総質量と一致し、衛星の軌道が天王星から離れていることもこれで説明できます。
天王星の衛星の質量と軌道半径について、実際の値とシミュレーション結果とを比較したグラフ。(Credit: 京都大学)
天王星の衛星の質量と軌道半径について、実際の値とシミュレーション結果とを比較したグラフ。(Credit: 京都大学)
この天体の衝突で衛星が生まれるというシナリオは、一見すると地球の月が形成された過程と似ています。

でも、岩石を主成分とする地球では、飛び散った破片はすぐに凝縮してしまいます。
なので、どのような巨大衝突が起こるのかが月の作られ方を左右することになります。

一方、天王星のような氷天体で衛星が誕生するときに重要なのは、最初の衝突だけではないんですねー
円盤が冷えたり広がったりする過程も重要だということが、今回の研究結果から示されました。

このように、地球型惑星とも木星型惑星とも全く異なる衛星形成の理論モデルは、天王星と同じような氷惑星に一般的に適用できる標準モデルになりえるそうです。

太陽系の海王星だけでなく、地球の数倍の質量をもち岩石や氷からなると予想される“スーパーアース”に分類される太陽系外の惑星についても、同様の推論が成り立つようですよ。


こちらの記事もどうぞ
  天王星の自転軸はどうやって横倒しになったのだろう? シミュレーションから分かった天体衝突のシナリオ
    

どうやって作られたのか? 天王星の細い環は小さなチリが見当たらない少し変わった存在

2019年07月19日 | 天王星・海王星の観測
アルマ望遠鏡と超大型望遠鏡VLTを用いた観測から、天王星の環の詳しい性質が明らかになってきました。

最も幅が広いε(イプシロン)環はゴルフボールより大きい粒子で構成されていて、どのようにして環が作られたのか、興味をかきたてられる観測結果になっているようです。


太陽系で3番目の大きさを持つ天王星には13本も環がある

現在、おひつじ座の位置に6等級の明るさで見えている天王星。
双眼鏡で見えるほど明るく、太陽系の惑星の中で木星、土星に次いで3番目の大きさを誇っているんですねー

天王星の環が初めて発見されたのは1977年と比較的最近のこと。
1978年までに9つの環が確認され、1986年には“ボイジャー2号”の写真から2つの環が見つかります。
さらに、2003年から2005年にハッブル宇宙望遠鏡の写真から見つかったのは、外側にある2つの環。
これまでに計13本の環の存在が確認されているんですねー

環の特徴として挙げられるのは、可視光線の反射率が極めて低く木炭のように暗いことや、幅は土星の環と比べると非常に狭く、最も幅の広いε環でも20キロから100キロほどしかないこと。

1986年にNASAの“ボイジャー2号”が行った探査では、主な環にチリサイズの粒子が無いらしいことが分かったぐらい… 温度など詳しい測定は行われませんでした。
○○○
2017年12月にアルマ望遠鏡で撮影された天王星とその環。
天王星の大気に見える黒い部分には電波を吸収する硫化水素が広がっている。


他の惑星の環とは異なる性質を持っている天王星のε環

今回、天王星の環について観測を行ったのは2つの研究チームです。
アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校のチームはアルマ望遠鏡を用いた電波観測、英・レスター大学のチームはヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTでの赤外線観測を行っています。

観測の結果、天王星の環の温度が液体窒素の沸点と同じマイナス196度であることが初めて確認されました。

さらに、明らかになったのは、最も明るく密度の高いε環が他の惑星の環とは異なる性質を持っていて、ゴルフボールサイズかそれより大きい岩で構成されていることでした。
○○○
アルマ望遠鏡と超大型望遠鏡VLTによって異なる波長で観測された天王星の環。
天王星自体は環よりも明るいので隠されている。
土星の環の幅は数百キロから数万キロにも及んでいて、主成分が氷なので明るく見えています。
また、土星の環を構成する粒子のサイズは様々で、最も内側のD環にはマイクロメートルサイズの小さな粒子があり、一方で他の環では数十メートルのものもあるようです。

他に環を持つ惑星を見てみると、木星の環は主にマイクロメートルサイズの小さなチリで、海王星の環も大部分がチリで構成されています。

そう、天王星のε環は小さなチリが見当たらない少し変わった存在なんですねー

何かが小さなチリを一掃しているのか? あるいはチリ同士がくっついてしまっているのか?
残念ながら理由はまだ分かっていません。

天王星の環は比較的若く、6億歳を超えないと考えられています。
今回の観測は、すべての環が同じ源から来たのか、それぞれの環で異なるのかなど、環の構成を理解するための最初のステップと言えます。

天王星の環の由来として考えられているのは、かつて天王星の周りにあった衛星の衝突によってできた砕けた破片です。
衝突後、衛星は無数の破片に分かれ、最も安定している軌道に密集して公転していると考えられています。

他にも、かつて重力によってとらえられた小惑星や、45億年前の惑星形成時から残った破片ではないかという考え方もあります。

今後、様々な観測によって天王星の環のより詳しい様子が明らかになるといいですね。


こちらの記事もどうぞ
  土星の自転周期は? 環はいつ作られたの? 探査機“カッシーニ”の最終ミッションから分かってきたこと