3月11日 読売新聞「編集手帳」
宮城県名取市で雅人ちゃんという名の生後8か月の男の子が行方不明になった。
いまだ見つかっていない。
東日本大震災の日の朝、
竹沢守雅さん、
さおりさんの夫婦は、
雅人ちゃんを閖上(ゆりあげ)地区にあるさおりさんの実家に預けた。
そこを津波が襲った。
しばらくして雅人ちゃんが最後の時を過ごした場所は海抜を高くするかさ上げエリアに指定されたが、
夫婦は土地の提供を迷った。
子供が土の下に眠っているかもしれないし、
人々にただ踏まれていく場所になってもつらい。
先週夕刊(東京版)に載った記事に、
復興というものに被災者がどう向き合ってきたかを考えさせられた。
あの壮絶な自然災害から、
きょうで9年を迎えた。
希望に向かって進むことは、
故人を思いながら葛藤や迷いを抱えて歩く日々に違いない。
竹沢さん夫婦は悩んだすえ土地の一部を花壇にすることで市と合意したという。
雅人ちゃんが生きた証しにしたいと、
小さな花壇を夫婦で手入れすることに決めた。
「ヒマワリを植えたい」とさおりさん。
新しく生まれ変わった市街地の一角にこの夏、
太陽を向いて立つ花が凜々しく咲くのだろう。