植物園「 槐松亭 」

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印泥を究める その1(印泥ブランド)

2021年05月06日 | 篆刻
書道で、作品を作るときの最後の仕上げが落款を入れることです。署名や書いた年月日、場所などを細字で書き込み、普通一顆から三顆印 を押印して出来上がり。その決め手の一つが印泥です。印泥は、朱肉・印肉と混同されますが、朱肉とは全く別物、書画の押印専用のものと区別すべきでしょう。

 朱肉は繊維物(もぐさ・和紙等)・顔料(銀朱、無機・有機顔料)・油・松脂・蝋などを原材料に作られます。一方印泥は、朱砂 ・辰砂=硫化第二水銀 と艾(もぐさ)、油(ひまし油)が主原料になりますが、大昔からその他の成分や配合は秘中の秘、門外不出で公開されないのが習わしであります。

 ネットなどで印泥を検索すると、よく見かけるのは「八寶」であります。元祖は漳(しょう)州 の麗華斎 という人が製造し、「珍珠(真珠)、瑪瑙、珊瑚、麝香、梅片、金箔、琥珀、猴」 などを配合したと言います。先日入手した一得閣の八宝印泥は「紅宝石、紅珊瑚、珍珠、金箔、朱砂、麝香、冰片、百年以上貯蔵したヒマシ油」 が入っているそうで、ジャコウの上品な香りがいいです。

 印泥メーカーはほとんどが中国で、日本では「大観」「日光印」あたりしかありません。おそらく市場占有率は99%以上でしょう。中国は現在は「西泠印社 」がもっとも有名で、上海西泠印社、石泉印泥 、漳州八宝印泥などもよく見かけます。国営化された時代では、北京製墨廠 、国営上海印泥庁製などがあり、かなり古いものですが、品質はあまりよろしくないようです。このブログで紹介した伝統あるトップブランド「栄寶斎」の印泥は見たこともありませんが、本物ならば大変貴重で高価なものなのです。

高級品と言えばもう一つ「式熊印泥」があります。石泉印泥泥廠職長だった李女子が完成させたもので、この印泥のすばらしさを杭州西泠印社トップの「高式熊」さんが認め「式熊印泥」と名付けたそうです。この上の品質のものが高式熊印泥と呼ばれ、ワタシも欲しいのです。
 上等の印泥を求めていくつか集めましたが、いずれも数千円で大したものはありません。今年から篆刻を夢中でやっていて、しょっちゅう試しに印を押すので、練習期間は、基本面倒な印泥は使わず、シャチハタ朱肉であります。コレクションというほどのものはありませんが、箱や印合(印泥の容器)がちょっと素敵なものもあり、単にハンコを押すだけの実用品とも言い切れません。
これが「北京一得閣」のもの、ふたを開けると香りがいいのでお気に入りです。

漳州八宝印泥。ヤフオクでも沢山出回っております。印泥は安いものから光明、美麗、 箭鏃(せんぞく)と色合いや品質で序列があり、値段もかなり差があります。この八宝印泥は、その上に位置付けされた「上品・精品・珍品」ときます。さらに「貢品、一級貢品、特級貢品」などと上げ底、誇大気味の等級が設定されています。

こちらがポピュラーな「西泠印社」の印泥。真ん中の印合は時代物で、なかなか凝ったデザイン、手書きのように見えます。しつこいようですが、大した価値はないと思います。

 ちなみに、ほとんどの印合の底には「乾隆年製」「景徳鎮」「made in china」などが印字されていますが、この手のものはどれも偽物、乾隆年製というのは、一種のロゴと思っていいのです。1700年代乾隆帝の時代に作られたものではありません。景徳鎮は、かつて陶磁器では超有名な一大産地でありましたが、そんなところで手作りで焼かれた銘品の訳はありません。どこかの工場で大量生産されている似ても似つかぬ焼き物(または人工化合物)であります。

 印泥の良しあしは、その経年年数にはあまり関係なく、作られた時の品質と保存状態にのみ依存します。もともとどんな環境にも変質しないことを主眼に置いているので熟成とか経年相当の深みとは無縁なのです。ヤフオクで入手した印泥は、一切使ってない(薄紙が張ったまま、あるいは金箔がのったまま)ものから、べたべた・からからになったものまで千差万別です。ヤフオクで沢山集めたので普及品なら未使用品は、人に差し上げます。あるものをいろいろ試しに押してみて、良さそうなものを使えばいいのです。

実際に押したもの。印泥は5種で、品質のいいもの(一得閣、漳州八宝印泥特級貢品など)を使って押したものです。明るい朱色が書を引き立てます。

 右上の端の印(不老長生と彫られています)の印泥は、先日入手した印泥4個の中に入っていたもので、これほど黄色い朱はとても珍しいのです。中の説明書きや裏蓋の印から「魯庵印泥」というものでした。ネットで調べてもほとんど情報がありませんが、説明書き(漢字のみ)読むと、西泠印社の名人で印泥大師 と称された張魯庵さんが、1940年頃に独立して特殊な顔料を使った印泥を開発したのです。書道家、篆刻家 としても一流だったようです。上蓋の絵はちょっと見かけない可愛い絵柄であります。ちと臭い、変なにおいがしますが、ひょっとするとなかなか希少価値がある珍品かもしれません。



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