植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

もうこれは本物だ 徐三庚さんの篆刻印

2022年02月13日 | 篆刻
 どうしても欲しかった清朝末期の篆刻家「徐三庚 」さんの印を、先日、ヤフオクで落札いたしました。約2百年前に生まれ、その先駆者たる鄧石如 さんに学んで、装飾的技法に優れた朱文の印を数多く作ったと言います。有名な趙之謙 などと同時代で、書画や篆刻が最も充実し、その後に文化大革命に象徴される中国の芸術文化が一気に崩壊する前の、爛熟した光緒年代の代表的な文人だったのです。

 ワタシが書道を学ぶうちに、篆書体に辿り着き呉昌碩・ 趙之謙・呉熙載 さんなどの篆書の臨書を続けておりました。さらに作品作りに欠かせない落款印を自刻する段階に突入して初めて徐三庚さんの篆刻に触れたのです。柔らかな陽刻を彫れば比肩する人が少ない名人で、「こんな印を彫れるようになりたい」と心酔しております。

 そこで、彼の印譜をもとに摸刻を続けるうち、その実物を見てみたいと言う欲求が増してきました。この時代の著名な篆刻印は、今では枯渇した古材で良質な芙蓉石や寿山石・青田石が用いられており、その文化的歴史的価値が加わるために非常に高価なものなのです。以前から何度か見かけた徐さんの印は「田黄石」に刻まれたものが多く軽く2・30万円はするので手が出ませんでした。

 今回落札できたのは、徐三庚さんの名前が説明文に記載されていなかったことと、田黄石でなかったことが幸いしたようです。正直5万円までなら頑張ろうと思ったものが、その6割ほどの価格で落札出来ました。

 それが一昨日届いたのです。唯一最大の関心は「本物」かどうか、その一点にあります。これを、素人鑑定しその価値を見定めようと思います。
 印箱もなく無造作に梱包用の「プチプチ」に包まれただけの印でありました。3.1×3.1×6.0のサイズは、実用印としては大きいものです。(通常は2センチ内外)。印材の価格はその大きさ(重量)に比例します。といっても1㎏を越えるような石は印材と言えず、置物扱いで価値は別になります。
 希少で人気が高い石(田黄・鶏血・芙蓉石)などは、もともと岩盤から切り出した大きな塊では無いので、大きさによって値段が高くなるのです。

 さて、その石の材質・種類であります。非常に肌理が細かく自然なツヤがあります。上部は半透明な乳白色の生地で、下に行くとえんじ色・黄・茶が美しく流れる模様です。これは「芙蓉石」系で、花芙蓉とか黄芙蓉に分類される種類であろうと思います。

紐(飾りの彫刻)は典型的な「獅子」であります。流通品の安い紐は、ドリルを使って流れ作業で削る粗悪なものです。こちらの紐は、小さな鑿で丁寧に細工され、造形が美しく気品があります。紐専門の名工が手彫りで作ったものでありましょう。

 次に側款です。これが真贋の決め手にもなります。彫られた字は「上虞(じょうぐ )徐三庚製」の6文字であります。徐さんは浙江省上虞の人で、金罍山民・井罍山民などの号に加えて「上虞」を好んで用いています
 下は印譜にある徐さんの側款の拓本であります。

 肝心の印面は白文で、6文字「万里之行始于足下」です。「遊印」というジャンルになります。「万里の行足下より始める」、万里の旅程でも足元の一歩から始まるという意味であります。千里というのがオリジナルで、老子の『道徳経』64章にあります。 そしてその前の行が「九層之臺 起於累土」九層の楼台も、もとは礎から土籠(もっこ)の盛り土から造り出されるという意味ですが、なんと!ウチの母屋の玄関の書に書かれている字句なのです。わが書道の師匠「藤原先生」に5年前に依頼して作って貰った書作品です。

 偶然とはいえ、その因縁を感じざるを得ないのです。そして、白文に施された彫りは、均質に磨かれた印面に、鋭利なメスがスッと入ったような鮮やかな切り口でした。これは、熟練の篆刻家さんに共通いたします。硬さとち密さがある良材に、よく研がれた印刀で、一刀で直角に近く刃先を入れる腕がすべて揃わないとこうはなりません。(未熟なワタシにはまだその域には到達しえませんが)
 また、印面自体は元は正方形ですが、篆刻では自然な丸みをつけるのが常道で、そのために4隅に近い部分を丸く削って落とすのです。その緩やかなカーブを印の下部全体でつぼめるように柔らかな曲面に仕上げているのです。これほど丁寧な細工は、滅多に見かけません。

 結論から言えば、どれをとっても一流の趣であり、限りなく本物に近い逸品であるということです。古い印章の印箱はほとんどが後付けなので、落款入りの木箱でもなければ真贋の証拠にはなりません。大事に扱われてきたものと見え、目立った欠けや傷もなく、手のひらに載せたその心地よさは、投下したお金以上の価値がありました。真正の徐さんの彫った印で間違いない、と快哉を叫ぶ、そんな気分であります。



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