相変わらず篆刻用の石を集めて喜んでおります。
蒐集家によっては、石にもランク付けというか、等級で呼び名が変わるようです。
順番に安いもの普及品から、駄石→並石→良石(良材)→佳石などと呼び、そこから上になると「優材」「珍石」とかになり、更に中国三寶という「田黄・鶏血石・芙蓉石」などの高級石・希少石になると「貴石、銘石・逸品・珠玉」などの賛辞に満ちた呼び方に代わります。
その三寶であっても、実際は見た目が美しくない質の低い安物から、宮廷に献上されたような宝石並みの値段のものまで、ピンキリであります。
ワタシはこのところ(数日間)、これぞと思った印材に狙いをつけ入札を繰り返しておりましたが、ほぼ全敗であります。優材以上の銘石を見分ける位には目が肥えてきた半面、財布の中身は痩せる一方なので、落札額の半分以下の値段しか入れられません。指をくわえて高値更新されるのを見ているよりないのです。
20数回にわたって入札しましたが落札できたのはわずか1件1200円という「正体不明」の半透明の印材であります。それは、印面に彫が無く、赤みがかった茶黄色の凍石で、ひょっとしたら寿山石系芙蓉石に近いものかもしれないと思ったからです。まぁ期待できませんが。
そこで、過去一か月以内くらいに落札出来た印の中で興味深い石を数点紹介しましょう。なおその最大の収穫であった鶏血石については既に本ブログで掲載済みなので、ご参考まで。
まず、この小さな石、某銀行頭取が実際に使用していたと思われる「姓名印2種」です。
この人は典型的な世襲・同族経営の銀行の元頭取で、美術館を建てて芸術分野で功績があった半面、貴族趣味の(同族経営で有りがちな公私混同)保養所・別荘を建てたことで知られています。犬小屋だけで、100万円かかったとか(笑)。
そんな人が使っていた印ならば「由来があって、非常に高価な貴石レベル」であろうと読んだのです。これにはワタシも腹をくくって大枚はたいたのです。
この石は、二つとも明らかにこの元頭取以外の人向けに彫ったと思われる「側款」がありました。右の石には「梅藤先生」あてに彫っていて、疋正銭と読める作款があります。高さも低く「ちびた」印象があって、何度か彫りがあったものを再利用したように見えます。側款も「藐厂 (庵の略字)」と彫られ、江戸後期の書人「西村藐庵 」先生かもしれません。また、これ以外に明らかに時代や彫が違う側款「液仙」とか「児曹〇」などの文字が刻まれています。わずか18㎜角の印の側面のうち3面に多くの文字が彫られています。大変貴重な石印材であること、多くの方の手に渡っていて、時代が何百年かにまたがっていた由緒ある古印である ことが窺えるのです。
改めて現物の石を見た時、「田黄石」の3種「田黄・田白・田黒」の中でも、極めて稀で少産と言われる田白ではなかろうか、と思うのです。田黄特有の透明感がある琥珀色の部分はわずかで、微透明乳白色の石は温潤で高雅な雰囲気があります。みずみずしい大根の切り口に似るという意味で付けられた「蘿蔔紋(らふくもん)」らしきものも見えるのです。
本音を言うなら、もし、この印が思っているような数百年も前の「田白」を用いた古印で、名人の手による篆刻が施されていたとしたら、文化財や歴史的な価値もありましょう。そんな印面を潰して自分の名前を彫る、などという行為は、篆刻の世界の端っこに居るワタシごときでも、大変残念で不見識に思えます。そうでない駄石であるならば、いやしくも、銀行のトップに君臨する人が、わざわざ使いまわしの安物の石を彫り直す、などというセコイ真似はしないと思いますね。
このブログで何度か紹介しているように本物の「田黄石」は簡単に入手できない、1万円やそこらの投資では偽物・類似品をつかまされるのが関の山なのでありますが。
実際ワタシは、本物の田黄石・田白など確証をもって見たことも手に取ったこともありません。しかしながら、さまざまな外観・状況証拠を見る限り、また、贅の限りを尽くしたはずの頭取の自用印ですから、お金に糸目はつけず超高価で貴重な印を専門家に彫って貰ったとしても、なんの不思議は無いのであります。これが田白ならば、尊敬する山内秀夫先生の「石印材」によれば「艾葉緑・燈光凍・田黄凍」などと並ぶ最高級品に位置する名石中の銘石であります。
次に紹介したいのは、入手した「5本まとめて」落札額15,510円の印です。
この中でひときわ目を引いた印がこれでありました。「福州寿山石章」の箱に収められた「二龍戯珠」と添え書きのついた未刻印です。
一目でキュンとなる美しい石であります。芙蓉石など「寿山山系」で産出される半透明の凍石で、様々な色が混在するのを「巧色」と表現しますが、その通りの紋様であります。朱色・乳白色・飴色などの模様を巧みに獅子紐として配している優れた名工による逸材と見ました。産地は恐らく寿山に近い「高山」で、「高山巧色凍」とほぼ断定いたします。こんなすごい石が、まとめてなんぼの石に紛れていることは奇跡(貴石)といって差し支えないのではないか、と思うのであります。
まだ、他にも数点残っておりますが、惜しみつつ続きはまた明日といたしましょう。乞うご期待
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