まもなくお盆であります。この時期はテレビでも怪談物の映画や怪談噺の落語が増え、お化けのシーズンになりました。原爆で散った多くの命もこの時期です。昨日はマイガーデンの脇に「高砂百合」が咲いていました。ワタシにとっては身内が亡くなった日に咲いたことが幾度もある不吉な花であります。
篆刻用の石印材集めも、ひと段落しております。気に入った良材は高値で落札され1万円程度の上限のワタシには手が届きません。
たまたま、先日ちょっと手の込んだ薄意がある自然石形の半透明の石が3,412円という破格の安値で落札できました。勿論最も人気のある田黄石とは異なるでしょうが、いいものに見えたのです。通常これだけの大きさで一定の時代が入っている田黄ならば4,5万円はいたします。
色合いがくすんでいること、凹凸が多いこと、中に白い斑紋や雑質が若干含まれていることから1級品とは見えなかったのでしょう。しかし、ワタシは、出品者さんから3週間前に似通った田黄石もどきの石2個を11,825円で落札し、値段以上の品物であると確信して大層気に入ったのでした。
今回の石も、高山石や杜陵坑あたりの水坑の産かとは思われますが、なかなかどうして、いい石でした。それまでの所有者に愛玩され大事にされていた形跡があるのです。小さく作款もあります。若干の傷を修復し磨いて手入れしたら相当な価値に化けると思いますね。
さて作品用・公募展用の印材は、最低でも5cm、場合によっては7㎝以上の石を用います。通常の2㎝程度の石だと小さすぎて目立ちませんし、審査員の人はだいたいが高齢なので、小さい石は最初から選外扱いにするのです(嘘です笑)
売るほどある石印材の大多数は小型の石なのです。それで、作品用の大型印は、数回に分けて中古品(刻字があるもの)をヤフオクで落札しました。通常、未刻印なら2千円前後の定価で売られているものを、平均4~500円で入手して、機械でガーーッと彫ったところを潰して使っております。何の使い道もない中古品、彫った大きな印材が磨り潰して新品同様に化けるのです。
公募展を意識した試作品の印は昨日で、12個になりました。生まれてこの方、篆刻印を何かに出品したことが無い初体験なので、やみくもに数を彫ることを心がけているのです。
もし、毎年様々な公募展に出せば全国的な作品展だけで5,6回あります。20個も彫っていれば、入選するかは置いといて、バンバン出品できるのですから無駄にはなりません。気に入らなければ潰してまた彫るだけの事です。
出品するにもまったくフリーで「個人持ち込み」扱いのものは、審査上は最も劣後することが分かってきました。①全国レベルの公募展の入選歴がある ②大きな団体に属していて大家の先生の弟子である ③少なくともなんらかの紹介者がいて団体持ち込みにする、といった前提が無ければ、入選はおぼつきません。書道に関しては、昔から相応の紹介料やら指導料、礼金などのお金が必要になるのよ、というのはわが書道の師匠藤原先生のお言葉でありました。今回先生に作品を応募することを相談したところ、ぜひ挑戦して、という励ましと同時に、ワタシには力もなくて、知っている篆刻の先生もいないのでごめんなさい、と謝ってこられたのです。中央、審査に携わる人にコネクションがあって相応の「工作費」を用意しないと期待する結果は得られない、というのですね。
書道・篆刻に限らず、芸術や習い事に関する公募展にはそうしたことが常識である、というのはなんとなく存じておりました。ワタシの場合は、金を払ってでもなにがなんでも入選したいという気持ちもありません。箔をつける必要もなく、篆刻を収入にしたいという希望や必要もないのです。
ただ、何かにチャレンジする・自分の技術や領域を広げる・真剣勝負をしてワンランク上の印を彫れるようになる、といった目的や効果が期待できるので、それなりの授業料は惜しむまいということなのです。
幸いにして、以前からネット(チャット)を通じてお互いに印に関しての情報のやり取りを続けていた本物の篆刻家先生(日展作家)Sさんが、アシストしましょう、とお申し出頂きました。全くの素人で出品に関して不明のワタシに助け舟を出してくれたのです。絵にかいたような渡りに船、であります。急遽、独学独習であったワタシは、かの先生が主催する教室に客人扱いながら参加することにいたしました。そうすれば、ワタシの印についてもその先生が気になる部分をチェックしたり、意義のあるアドバイスを貰うことができます。ワタシの歳の半分くらいの若い先生ですが、そんなことは気にもなりませんね。
現在時点で出品候補はだいぶ絞られてきました。
下の印、左は「多数文字の印に良作が多いです」という評価で、候補入り、ワタシの印には白文(文字の線を彫り下げるので字が白くなる)は少ないのです。右の印は別の先生に「好きです」と褒められました。
これはごく最近の作で、まだ試作品の域を出ません。いささか工夫が足りないというところで、審査員の目に留まるものとは言えませんね。
で、こちらがS先生に一番いい評価を頂いた印で一辺75mmの大型印であります。尊敬し数多の摸刻を繰り返した「徐三庚 」先生の作風を意識した作品です。徐先生は1800年代後半に活躍した篆刻家で、装飾的かつ柔和な細い朱の線を出すことが特徴です。
選んだ文字は、中国の19世紀中ごろの篆書の名人「李伏雨」先生の小篆の書を参考にして「煙開蘭葉香風暖」の7言句ですが、全体を縦長に統一したかったので7文字目の暖は割愛いたしました。大きな石を使っているので、線を細くしようと思えばいくらでも細くできます。しかし、朱と白の部分のバランスが崩れてもいけないし、細い文字は迫力やインパクトにも欠けるので、その兼ね合いが難しいのです。
勿論まだ完成しておりません。S先生が添削するかアドバイスするかで、補刻せねばなりません。しかし、うまくすればプロの篆刻家さんの作に近い印に化けるかもしれませんね。ともあれそれが済めば、印自体は完成になります。今度は数種類あるお気に入りの半紙のどれかに、一番発色と紙への写りがいい最高級「印泥」を使って押捺します。出来れば、彫った文字や「癸卯孟秋」という年月と自分の雅号などを落款のように墨書し、更に自分の印を捺すといった様々な演出も必要なようなのです。それから裏打ちし、最後は額装か表装をして出来上がりです。
作品を出品するまでに、先生方など関係者の方に差し上げる指導料などに加えて、手間とお金はずいぶんかかるようであります。