植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、メダカと野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

斉白石さんの次は呉昌碩 (笑) たかが1万円されど・・・

2022年09月23日 | 篆刻
これで4話目、わずか1万円でヤフオクで入手した斉白石先生の印章と表記された印の真贋を調べる話です。ヤフオクで公開された時に、その写真と説明文には「斉白石」の名前は有りませんでした。目を皿のようにして拡大した側款の写真の文字に「白石」「趙之謙(琛)」の字を読み取って、何気なく入札したら単独で落札出来たものです。オークションで血眼になって出物を探す骨董商や好事家さんが、それに気づいたとしても「ふん、そんなもんがヤフオクなんかに簡単に出品されるかい」と無視したに相違ありません。

この拙文が、もしそういう人の目に触れたとしたら、馬鹿だねと呆れ「これだから素人は困る」と一笑に付されてしまうか、というのも織り込み済みであります。

しかし、おかげで、ワタシはここ2週間、ある意味高揚感を楽しみ、様々な角度からこの謎の珍しい品を眺め調べ、時には他の専門家さんの意見を聞くことが出来たのであります。石拓も実践しノウハウを蓄えました。しかし、言うまでもなく、これが本物であったらどんなに凄い事か、それを想像するとワクワクしているのです。

きれいなお姉さんがいるお店で一杯飲むのも1万円、パチンコで暇つぶしに30分で溶かすのも1万円。それに比べたら何倍も楽しさが持続し、恐らく「偽物」であったと結論づけしたとしても、お金を損したとは毫も思わないはずなのです。トゥームレイダーや「ナショナルトレジャー」などの謎解き映画のごとく、古文書などを頼りにお宝に隠された秘密を調べていくという宝探しと同様「至福」の喜びなのです。

さて、そこで「DKS」作戦であります。
原点に戻るとこの印を出品した人は同時に2点の骨董品を出していました。一つは「 昌碩 」さんの銘が入った石彫りの「筆洗い」、もう一つが同じく「昌碩書 」の側款のある黄色く輝く丸石の篆刻印でありました。

前者は、たしか当初8万円の最低落札価格で出ていました。印材(やや赤みを帯びた材質で皮あり)の中央をくりぬいて筆洗いにしたものです。側面には「騰蛇」(中国の伝説中に出てくる飛行能力を持った蛇)と彫られております。印の方は、反対側には,樹下、石橋の上で語らう二人の老人という図柄の薄意を施しています。田黄石に似てはいますが、明らかに違います。作り物然としていてちゃちでありました。これが当初2万円であったのですが、当然、「紛い物」・粗雑な贋作ならば、誰もそんな値段を払うはずもなく入札なしでした。それが翌週、なんとそれぞれ最低1万円まで値下げして出品されました。

これはもう、出品者が、どういう由来の物かも調べず本来の価値を見定めることよりも、早く処分しようという魂胆であります。(あるいは粗悪品と知っていたか)。言い換えれば、入手した値段がその程度の安物であったと考えられるのです。(だからこの方が長年収蔵していた可能性はゼロであります)

ワタシは、すでに1万円の投資で入手した印が、少なくとも専門家を迷わせるほどよくできた印であることを知る唯一の人間であります。その真贋を見定めることは置いといて、同時出品の3品が多分同じところから買い取った、あるいは似たような怪しげなルートで入手したと踏んだのであります。だとすれば、これらも、もしかすると贋作グループによる品である可能性が高いミステリアスな品だろうと言う想像であります。また、この斉先生の名が付いた石の真贋を読み解くヒントになりうるのではないかと考えたのです。

これが人呼んで「【D】毒【K】食わば【S】皿まで」作戦であります。
ワタシの読み通り、二つの品がそれぞれ1万円で落札出来ました。前回の石が最低でも1万円以上の価値があり、もしかしたら1千万円級の文物である可能性を秘めたものです。これが贋作(毒)であっても、皿(今回の2品)も、同様の価値や由来のある偽物ならば、「入手しても良かろう、騙されついでじゃ」、というのがワタシの兵法であります。既に、十分元をとったという実感があり、2万円は捨てても惜しくないと考えたのです。

そうして、昨日現物が届きました。
はたしてやはり田黄石のような印は、似ても似つかぬ「人造石」でありました。型に溶かし込んだ最低の粗悪な人造石ではなく、一応表面に薄意を彫って艶出しの塗料を塗っています。下手ながら印面に文字も刻まれているので、一応本物ぽく見せようとしています(笑)。が、真っ赤なまがい物の人工石でありました。1万円で真の田黄石は絶対に入手できない、という鉄則通りで、予想したことでもあります。

残念ながらこうした物は、本当に扱いに困るのです。捨てるのも悔しいし、彫り直すのは、印材石でないので面白くない。かといってヤフオクに再出品するわけにもいきません。飾るには安っぽいのです。

もう一つの「筆洗い」は自然石で間違いありません。
石質は、問題の斉白石さん作かもしれない印の表面に似て、皮が残されています。中の石はかなり透明感があり、灰色に赤茶色の筋が流れておりますが、さすがに一個数万円もするような高級な銘石では無いでしょう。
8㎝×4㎝×2㎝(高さ)の小さな石の側面に「騰蛇」と彫られ「石友属 昌碩」の文字が見えますが、これもなんだか怪しいものであります。白文で彫られたその文字は朱と緑のグラデーションの着彩が施されていて、決して悪くないもので「がらくた」とは言えない印象のものでした。

桐の友箱は、確りと出来ていて「呉昌碩 寿山石 筆洗」と墨書されています。書体自体は「篆書体」なので、全くの素人が書いたものでは無いでしょうが、この箱も後付けかもしれません。くるんでいたのが変哲もない黄色い布袋、実はこれがこの品の正体を表していると思います。

呉昌碩は印泥などのメッカである学術機関「西冷印社」の初代社長であります。浙江省の郊外にある風光明媚な場所で湖や森に囲まれて、観光スポットの一つでもあるようです。そこでは印泥・印材の製造、篆刻関連商品も販売しています。
ワタシは、そこで売られている土産物や篆刻道具の中に陳列され販売されていて、買った時に、この黄色い布袋にくるまれていたのではないかとにらんでいます。こうした呉昌碩さんの名前を使った品は多く、ワタシの印泥コレクションにもあるのです。

これです。
残念ながら印泥は空なのですが、こんなものでもヤフオクで1万円で落札しました。昌碩さんが木彫りをしたとはだれも思いませんが、これと同様の箱で、ヤフオクで見かけたのは白磁らしい印泥が入って8万円くらいでしたか。

現地に行けば、ショップで今でもこんな木箱に入った印泥が売られていると思います。といったことから、おそらく今回の「筆洗い」は「珍品」ではありますが、割合い最近の品で、1万円前後で販売されていたお土産、書道具とするのが妥当かも知れません。

さて、ここ1週間、長々と入手した斉先生の印章らしき品について述べてきましたが、はい!結論が出ました。次回は、最終章であります。
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