飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

杉本彩「官能小説家R」徳間書店

2009-05-08 | Weblog
いきなり過激な文章の引用から始めたい。

“私は席を立ち、及川を背にドアに向かおうとしました。その時、私のお尻をいやらしい目つきで凝視する及川の表情を、偶然壁に掛けられた鏡の中に見たのです。大抵は気づくことのない後ろ姿への視線にはどきりとさせられ、いっそう及川のいやらしさを感じました。もちろん及川は見られていることなど気づきません。再び私のお尻に全神経が集中して、私はゆったりと腰をゆらしながらドアに向かって歩きました。及川の視線から解放されるまで、私のお尻や足の緊張が解けることはありませんでした。社長室を出た私は、嫌気感どころか、見られることへの興奮を初めて微かに感じている自分に気づいたのです。それは、これから始まる何かの、前戯のようにさえ思えました。”(※杉本彩著「官能小説家R」徳間書店より引用)

女優の杉本彩が書いた小説は、それこそ著者についてその名前程度しか見えない作家が書いたものよりも、杉本彩の場合は、かつてはセクシー系のグラビアタレントとして、今ではテレビではダンスの番組であったり、映画では挑発的な脱ぎっぷりとメディアへの露出が多い分その活動を知ることができることや彼女のビジュアル的な美しさため、小説におけるひとつひとつの文章の持つエロティシズム性がより強化されているように感じるのは、ボクだけであろうか?ここに引用したのは、過激さの上からすればほんの入り口にすぎない。杉本彩の小説は、既存のメディアによって作られたイメージが言葉を浸食し、さらに猥雑に増幅させる暴力性、テロリズムを持っているといえないか。

その暴力性、テロリズムは、いつ出版されたのか覚えていないが、小説新潮がスペシャル版を出した時あり(タイトルは「エロティックス」、杉本彩の責任編集とある)、そこに彼女の小説と自身による朗読CDがついており、その収録された作品においてさらに破壊性を持つに至った。このCDにはこんなコピーが印刷されている“女優がここまでの猥語を口にしたことがあったろうか”。音として流れてくる彼女の声の響きは、そこまでするのかといった猥雑な言葉が紡ぎ出されてくるのである。映像は視覚から、小説は文字から、朗読は聴覚から、まさにイメージが増幅されていく仕掛けによって脳髄に電気が流れていく・・・。



ところで先週書いた杉本の「インテリジェント・セックス」(祥伝社新書)には、以下のようなことが書かれてあった。“昔私が書いた『官能小説家R』という小説があるのですが、ストーリーとは別の〝いかに挿入までを焦らすか〟という裏のテーマのある小説でした。”彼女はその本の中で「精神的エロティシズムの充足感」というものを訴えている。だからかこんなこともその本では提案も提案している。“わたしには、もし交際が深まったら、こんなことをしたいという妄想があります。コートの下にランジェリーだけを纏って彼のいるホテルに訪ねる。コートを脱ぐと、ランジェリー姿。それも小悪魔的な黒のエレガントなもの。そして、たっぷりと淫蕩に楽しむ・・・。セックスはファンタジーなのです。ホテルの密室ではそういう非日常的なエロスに耽るのもいいと思いませんか。”

まさにエロスの女神と化している杉本彩であるが、古い雑誌を整理していたら廃刊になってしまった月刊「プレイボーイ」誌を見つけ、そのなかに彼女のインタビュー記事があった。そこでは以下のようなことを発言していた。”やっぱり、勇気というか、覚悟はいりましたね。こういう映画に出演したら、あるいはこういう小説を発表したら、日本の社会がどんなふうに反応するかっていうのはわかってたつもりでしたから。たぶん自分の恋愛の仕方も変わってくるだろうし、近寄ってくいる人たちの種類も変わってくるかもしれない。当然、いろんな誤解を受ける可能性もある。それははっきり、覚悟していました。”“わたしってオンナの皮を被ったオトコなんですよ、あと、人生の快楽とか面白さって、ある程度何かしらのものを犠牲にしないといけないところってあると思いますし”彼女は人生を正直に正面から楽しもうとしているのである。イメージとしてのエロティックな部分は、ひとつの切り口にすぎない。ボクはそこに体と精神を張って生きる彼女の真摯な姿勢を感じるのだ。



そういえばストリップ・ダンサーで仙葉由季という女性がいる。彼女の芸にも体と精神を張ったものを感じ、以前このブログで応援したことがあった。杉本彩も同じように世間の風評に対して体と精神を張っているのだ。いずれの二人も若さという点においては、年齢的からくる美というものを通り過ごしてしまっている女性である。しかし彼女らの共通点は、さらに自身に磨きをかけることによって、若い時以上に魅力を放ち続けていることだ。ボクはそうした女性たちを素直に応援したい気持ちにかられる。体と精神を研ぎ澄ますのは簡単ではないからと思うから・・・。(しかし、一方ではただのスケベおやじとも言えるのだが)

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