■製作年:2012年
■監督:キム・ギドク
■主演:イ・ジョンジン、チョ・ミンス、他
2012年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した韓国のキム・ギドク監督の「嘆きのピエタ」を見ました。私にとっては、はじめて見る監督の作品(国際的に評価の高い監督のようです)ですが、これが簡単には語ることが難しい、ずしっと重くのしかかってくるヘビーな映画でした。骨太なある意味で映画だからこそ表現し得るような秀作で、今年になって映画館のシートに座り、ラストのスタッフなどが名を連ねるエンドロールが一番短く感じた作品でした(大概、エンドロールが長くて早く席を立ちたくなるのですが)。それは最後の道路を走っていく車が血の徴を付けていく映像がやはり印象的で、この映画におけるある精神、あるスタイルのようなものを表現していたからではないかと思います。映画的に見てとてもそれは効果的であったし、キム・ギドク監督の才能を感じずにはいられませんでした。
映画は、暴力的に借金の取り立てをする男ガントの元に、彼の母親と名乗る女ミソンが出現するところからはじまります。ガントは幼い時に母親に捨てられ孤独に生きてきたアウトロー。取り立ての行為は情け容赦なく、暴力的にして残酷です。最初は、母と名乗る女性の出現で戸惑うガントも、だんだんとその女に心を許していきます。はじめて知った母子の愛情。しかし、映画はそれで終わらずとんでもない展開を用意しており、ミソンこそはガントに追い詰められて死んだ男の母親だったのです。母性愛を利用した復讐劇。
タイトのピエタとは十字架から降ろされたイエス・キリストを胸に抱く聖母マリア像のことで、ギドク監督はミケランジェロの絵からこの映画の着想を得たそうだ。冷酷無比な取り立てを稼業とするガンドの前に現れた母親を名乗る女性。心を許すガンドから再び復讐のため姿をけすミソン。母親という存在が心の中で大きく支配してきたガントは動揺し、必死で探すことになる。ここで女は男の精神を破壊すべく命をかけて息子の無念に報いようとするが、一瞬、ガンドへの同情と理解を示す。ピエタとは先に書いたようにキリストとマリアの像とのことなのですが、復讐は一転して救済でもあったかのような二重、三重の意味を持たせています。それは愛憎という言葉があるように、裏と表、光と陰の二律背反構造の母性という普遍的なもの。韓国は急成長を実現し、日本を追い抜かんとする勢いで、先進国の仲間入りを果たしている。その近代化が進んだ闇のような貧しい世界があること、そんなこともこの映画では描いており、まさに人間の情念を正面から捉え向き合い、浄化さえ感じさせる滅多にお目にかかれない骨太な作品と言えました。私が今年見た映画の中ではベストの1本と言えます。
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