飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

僕は知らない寺山修司NO.49⇒「書を捨てよ町へ出よう」(1971年)①

2007-06-10 | 寺山修司
「書を捨てよ町へ出よう」(1971年)

映画は暗闇から始まる。そこに突然、佐々木英明が東北弁なまりで挑発的に画面に向かって語り始める。(あの有名なシーンというか)



“何しているんだよ?

映画館の暗闇で、そうやって腰かけて待ってたって何もはじまらないよ。スクリーンの中は空っぽなんだ。ここに集まっているたちも、あんたたちと同じように待ちくたびれている。「何かおもしいことないか」。

そっちとこっちが違うのはそっちは場内禁煙だけどこっちは自由なんだよ、ね。(とうまそうに一服すって)ま、映画館の暗闇の中でカッコよく堕落しようと思ったら、そんなに行儀よく坐ってたってダメ。隣の席にソーッと手をのばしてみてごらん。手を握る。膝をなでてみる。スカートの中から、うまくいったらパンティの中まで、だ。失敗したって誰もあんたの名前を知らない。誰も俺の名前をしらない。まだ、新聞の見出しに一度も名前がでたことがないし、名もなく貧しく汚いし。・・・・・・

高倉健が大暴れした映画のあとで、まるで自分が二、三人斬ったような顔で、肩をいからせて映画館を出て行ったおまえ、そうおまえよ。(指して)あの時おまえに何が起こったんだ?え、何が?・・・・・・

誰も俺の名前を知らない、または失敗つづきの人生の、養老院の壁に、入れなかった大学の教室の黒板に、公衆便所の壁に、街中のいたるところに、俺は書きなぐる、自分のアリバイ、さあ、覚えてくれよ、一度しか言わない。

俺の名前は
俺の名前は
俺の名前は”




そして映画の終わり、刑事に連行され「ちくしょー」と叫ぶ佐々木英明。しかし唐突に場面はかわり出演者とともに佐々木が真ん中に立ち、撮影が終わったので灯りをつけてとしゃべり以下のような台詞が続く。


“映画はここまで。

あとはおれがしゃべる番です。(見まわして)考えてみると、映画はクラ闇の中でしかいきられないのかな。電気がつけば消えてしまうんだから。・・・・・・

そのおれが、カチンコの音が鳴るとしゃべり出す。他人のことばで、他人の書いた台詞を。カメラが回りだすと、おれは斉藤さんを「お父さん」と呼ぶ。くりかえしているうちに、実感がわきかけてくる。斉藤さんがお父さんにかわりかけると、カット!という声がかかる。次は103シーンです。はい、こっち向いて!じゃ、本番いきます!そしてまたうそがはじまる。だが、うそは1カットごとに中断され、そのすきまから、さむい二月のおれ自身の無一文の顔がのぞく。スクリーンの中のおれの家には、帰ることなんか出来ないのだ。

ポランスキーも、大島渚も、アントニオーニもウォーホールも、電気がつけば消えてしまう世界だ。まっぴるまの町に、ビルの壁に、映画がうつせるか!・・・・・・

だが、映画はきらいだ!さいなら、一時間半しか生きられないスクリーン。

さいなら映画。
さいなら、さいなら、さいなら、さいなら、
さいならーッ!”



映画は出演者らや寺山修司の顔を映し出す。カメラがグルグルと回りながら彼らを映しているそしてエンドロールもなく映画は終わる。


佐々木英明の映画を観る行為に対して挑発的台詞で始まり、映画のシステムの弱点をつくような同じく挑発的言葉で終わる。映画を使って映画を否定するような印象も受ける。しかし、東北なまりの「さいなら」という言葉の響きには嫌いも好きのうちという逆説的感情もあるようにも思える。そこには矛盾をはらんだ人生そのものを投影しているかのようだし、やりきれなさも顔を出す。

始まりと終わりに佐々木が登場し映画について語るのは、自分の尾を噛んでいるメビウスの環と化したウロボロスの蛇のように円環構造をなしていないか。エンドロールもカメラが回転し円環運動をしているし、サッカーボールを蹴る時はカメラがグルグル回る。そういえば映画を上映する時もフィルムも円環運動をしている。

その円環運動の中で佐々木が演じる『私』は、映画システムの否定など全く関係なく、上映が続く限り自分探しの旅をし続けるのだ。やりきれない気持ちを町にぶつけながら。

映画は昼と夜、光と闇、ホントとウソがぎこちなく内包されている。物語は破綻?作者の矛盾?それも大いにけっこう。起きなかったことも歴史のうちと寺山は言っている。それにもまして映画そのものが虚構=ウソ、虚構が現実を侵犯し始めるのだ。


この映画、寺山の仕掛けた罠によって結果として稀にみるエネルギーが充溢しているのは確か。素直にそう思う。観るものによって好き嫌いはあろう。判断としての良し悪しは別としてここまでエネルギーを発散している映画はそうはない。


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