
シェイクスピアの「十二夜」を読みました。この物語は複雑な男女関係の綾があり、それが骨子というか物語の幹となっています。劇的な構造であるといえばそうなのですが、やや変態チックという見方もできるような、複雑な構造になっています。
まずヴァイオラという女性が男装してシザーリオと名乗り、オーシーノという公爵に仕えることになります。なぜならヴィオラはオーシーノを密かに恋をしているのです。しかし当のオーシーノ公爵はオリヴィアという女性にお熱である。恋の伝達人としてオーシーノ公爵はシザーリオ(=ヴァイオラ)をオリヴィアの元に派遣するのですが、オリヴィアは男装のシザーリオ(=ヴァイオラ)に恋をしてしまいます。ここでの関係は
オーシーノ → オリヴィア
↑ ↓
ヴァイオラ=シザーリオ
という恋愛関係になっていて、ヴァイオラ自体はまるで故・夏目雅子が三蔵法師を演じたような女性にして男性という設定(両性具有のような)であり、もっと言うとシェイクスピアが生きていた当時は女性の役は男性が演じていたということなので、男性の役者が男装する女性を演じるというトランス・ジェンダーな構造になっているのです。おまけに、このヴァイオラという女性にはセバスチャンという双子の兄弟(男性)がいて、さらに複雑な構造になっているのです。このヴァイオラにうりふたつのセバスチャンという兄の登場により、上の恋愛関係は、片思いの三角関係の形成からエンディング近くに一気に
オーシーノ ⇔ ヴァイオラ
オリヴィア ⇔ セバスチャン
という両想いの構造へと変化することになり、めでたし、めでたし…という終わり方をします。私は角川文庫の三神勲・訳のもので読んだのですが、演出家の平田オリザ氏が解説を書いていて「十二夜」は上演される機会が少ない、その最大の理由はキャスティングにあると指摘してます。つまり上記のような人間関係のため
・美人で、聡明で(聡明そうに見えて)、しかも男装に向いていて(?)、演技力のある女優がいること。
・その女優に似ている男優がいること。
この条件を満たすことは意外と難しいのだと。確かにそう思えますね。だから劇団を運営する平田オリザ氏にとってシェイクスピアの「十二夜」の上演は、大きな野望を抱かせる作品なのだそうだ。男の子と女の子に生まれた双子の役者いてこの「十二夜」を演じたら、感性がこんがらがり倒錯的な眩暈に襲われるかもしれませんね。なぜなら、さらに複雑な面があってオリヴィアの男装したヴァイオラへの愛は限りなく同性愛のにおいがしなくもないし、オーシーノのヴァイオラへの態度やアントーニオのセバスチャンへの態度もどこかそれに通じるものがあるように感じるから…。
![]() |
新訳 十二夜 (角川文庫) |
河合 祥一郎 | |
角川書店(角川グループパブリッシング) |
![]() |
シェイクスピア全集 (6) 十二夜 (ちくま文庫) |
William Shakcpeare,松岡 和子 | |
筑摩書房 |
![]() |
十二夜 (岩波文庫) |
SHAKESPEARE,小津 次郎 | |
岩波書店 |
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます