Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

MOVIE: THE AUDITION 試写会編

2008-09-15 | メト Live in HD
昨シーズンのライブ・イン・HD(ライブ・ビューイング)の『連隊の娘』の上映中、
我慢強く、インターミッション間もトイレに立たず、スクリーンをずっと見ておられた方には、
(ちなみに私はいつもそうです。何ものも見落としてはいけない!と、、。)
きっと、”おや?”と思われたはずの、『The Audition ジ・オーディション』という映画の短い予告編。
こちらの記事のコメント欄にも、”あれはなんですか?”というご質問を頂いていましたが、
いよいよこの映画が完成いたしました!
一般公開は来春を予定しているそうですが、今日は、アメリカ自然史博物館の中にある
カウフマン・シアターという劇場で、プレビューが行われました。

以前に、ナショナル・カウンシル・グランド・ファイナルズの記事をあげたことがありますので、
そちらも参考いただきたいのですが、
このメト版スター誕生!ともいうべきオーディションの、2007年に行われたもの
(上の記事は2008年のものですので、2007年ということで、一つ前の回ということになります)の、
セミファイナルの勝者が決定する時点から、ファイナリストを決定するグランド・ファイナルズの
コンサートまでの一週間をおさめたドキュメンタリー映画が、この『The Audition』なのです。

一言で申しますと、このドキュメンタリー、素晴らしい仕上がりです。
予告編では、ほとんど内容を伺いしれるような映像が出なかったので、
私は、お互いを蹴落とそうと激しくしのぎをけずる歌手の卵たちの涙と根性の物語、、みたいな
作風になっているのではないか、と危惧していたのですが、
監督をつとめたスーザン・フロムケの感性と着眼点の良さか、
温かさとユーモアとメトのスタッフや歌手たちへの愛情に溢れ、
それでいて、オペラの世界の微妙な、または複雑な部分への目配りも忘れず、
そして、観客をだれさせず、かといって、ジェットコースター映画のような
せわしない感じもしない非常に適切なテンポ感を持った作品となっていました。
これは、一瞬スクリーンに出たお名前を失念してしまったのですが、
編集を担当した方の力も大きいかもしれません。
ちなみにスーザン・フロムケは、カラヤンやホロウィッツについてのドキュメンタリーの
監督の経験もあり、ゲルプ支配人との知己も長く、メトがらみのプロジェクトも
これまでにいくつかプロデューサーとして参加しています。

登場するこの2007年のセミファイナリストたちが、これまた映画化にはこれ以上望めないほど
面白い顔ぶれとコンビネーションなのも幸運でした。
厳しい実力と精進の世界で、極限のプレッシャーと闘いながらも、
ユーモアの心を忘れずこの”オーディション”に体当たりする彼ら一人一人の姿に、
一緒に笑い、どきどきし、そしてほろっとくる、、、これは、そんな映画です。

プレビューでの客席からの評判も上々でしたので、ぜひ、アメリカ国内のみならず、
海外での上映も希望する次第。
日本については、ライブ・イン・HD(ライブ・ビューイング)と同じネットワークにのせられないなら、
NHKあたりに権利を買い取っていただき、TV上映するなり、
一人でも多くの方に見ていただかなくてはならない!それくらいの佳作です。

吉報!! 日本での上映が決定している旨の情報を頂きました。コメント欄をご覧ください。


** これ以降、激しく映画の内容に言及いたします。読み進められる方は、その点、ご了承ください。 **

映画はフィラデルフィアにあるAVA(アカデミー・オブ・ボーカル・アーツ)という、
全米髄一の音楽学校で、セミファイナルの準備に燃える、若干22歳のテノール、
マイケル・ファビアーノの姿で始まります。
この最初のたった数分で、声楽の先生とのやり取りと彼へのインタビューから、
彼が、猛烈に野心的かつ努力家だけれども、いや、それゆえというべきか、
少し”難しい”部分ももった人間であることがわかり、
このあたりは監督と編集者の腕が冴え渡っています。
アメリカでは、”リアリティー・ショー”というジャンルがいまだテレビでも人気です。
これは、極めて簡単にいうと、筋書きなどがない状態に出演者を置いて、
現実世界での彼らの反応や行動を映像におさめる番組形態ですが、
そういう意味でいうと、この映画はまさにリアリティー・ショーなわけで、
そして、リアリティー・ショーを盛り上げるのに欠かせないと考えられているのは、
性格がきわめて悪かったり、ネガティブな意味で強烈な性格であったり、
物事の波をやたら荒立てる、などのキャラクターを備えた、”クセモノ”キャラ。
この映画で、まさにその役を与えられているのがこのファビアーノといえるでしょう。
ただし、フロムケの鮮やかなのは、彼を全くの憎むべき人物としては描いておらず、
彼の行動に、どこか微笑ましいところ、また、我々観客にも理解できなくはない部分もあることを、
きちんと描いているところです。
もちろん、それには彼にきちんとそれなりの実力がある、という事実がベースにあることも見逃せませんが。

さて、そんなファビアーノを含む11人がセミファイナルで勝ち残ります。
彼らを前に、メトの観客の平均年齢が60歳代と極めて高いことを嘆き、
オペラをもっと若者に近づけるためには、君たちが頑張らねばならない!と叱咤激励するゲルプ支配人。
高齢者の方にはちょっぴり失礼ともとれる発言も混じっていて、
今日のプレビューも60歳あたりの人が多そうだけど、そんなこと口走って、
しかも映像にまで納められて、大丈夫、、?と心配になったのは私だけではあるまい。

さて、この時点から、本選まではたったの一週間。
この一週間のあいだに、彼らには、メトのボイス・トレーナーやブレス・テクニシャンによる歌唱のアドヴァイスや、
本選で歌うアリアの選出に関するアドヴァイスに始まり、
マルコ・アルミリアート(メトの公演にも何度も登場している指揮者)との、
ピアノ伴奏、そしてオケとのリハーサル、などが行われます。

特に、ブレス・テクニシャンによる指導のシーンは圧巻。
『リゴレット』から”慕わしき名は"を歌うキーラ・ダフィは、背も小さく、
しかも、一般の基準で言っても痩せている方。
(デッセイのような体型を思い出していただければよいか。)
一生懸命声を振り絞り、”十分にブレスできてますか?”と先生に尋ねる彼女に、
”十分すぎるわね。”と言って、手を体の前に持ち上げて、
ブレスのイメージを作りながら、先生が一緒に歌わせると、
一瞬にして、それまでのいっぱいいっぱいな感じのする発声から、
まろやかでより自然な美しい歌声を伴った歌唱にみるみる変わっていく様子は、
まるで魔法のようで、本人も他の参加者たちもびっくり。
正しい指導というものがどれほど歌手にとって大切か、ということがわかります。
オーディションそのものもさることながら、この一週間、メトのスタッフから受ける
アドヴァイスやレッスンやリハーサルこそ、
彼らにとってはかけがえのない経験になっているのでは?と思います。
そして、一週間を通して、メトのスタッフの側にも、彼らへの愛情と思い入れが
育っていく様子もわかります。

ライアン・スミスはセミファイナリストの中で唯一の黒人のテノールですが、
ナショナル・カウンシルに参加するまでは、自分にどれだけの実力があるのか、
よくわからない状態だったといいます。
しかし、レッスンを受けるうち、どんどんドラマティックに表現できる能力をしめしはじめ、
スタッフからも感嘆の声が出るまでに。
これらの経験が、”自分がこの世界でやっていける”という強い自信につながった、
と、彼はインタビューで語っています。

さて、いよいよマルコ・アルミリアートの指揮で、ピアノ伴奏での練習が始まります。
マルコがこれまた指揮台にいるときのニコニコ顔どおり、とっても”いい人”してるのです!
細かに参加者たちの意見やリクエストを聞き、それに合わせようとするマルコ。
例えば、『ノルマ』から”清き女神”を歌うアンジェラ・ミードから、
歌合せ後に、”もうほんの少しだけ、テンポをゆっくりにしてもらえるでしょうか?”というリクエストが。
そして、本選からの映像では、きっちりと彼女のリクエストどおりに、テンポがゆっくりになっていました。
彼女のこの『ノルマ』のアリアは、まだこの映画の撮影当時、
本格的なキャリアがスタートしていなかったとは思えないほどに、完成度が高く、
このアリアに限って言えば、今主要歌劇場で舞台をふんでいる人でも、
ここまで歌える人は少ないのではないか?と思えるほどです。
彼女はやや体重があるのですが、インタビューの中で、
”今のオペラ界には、体重のある人間に問題を感じる人がいるでしょ?
(歌だけでなく、見た目など全てのファクターを含めた)パッケージが大事だと言って。
でも、私から言わせてもらえれば、それはどうなんでしょうね?
歌えない人が舞台に立つというのは、、。”と語っていましたが、
その言葉には悔しさがにじみでていました。
彼女の場合、この言葉が嫌味にならないのは、歌と声が本当に素晴らしいから。
『ノルマ』にはなぜだか特別な思い入れがある、と言い、その言葉を裏付ける実力の持ち主です。

さて、特別な思い入れ、といえば、この映画の中でも、
最もプレビューの観客に愛された登場人物の一人、アレック・シュレーダーを忘れてはなりません。



上の写真でも垣間見れるでしょうか?ちょっぴりアシュトン・クッチャーと
昔のレオナルド・ディカプリオを足して二で割ったような甘いルックスで、
かつ、一本頭のどこかのネジが緩んでいるのかもしれない、、と心配させるほどに
ゆるーいキャラクターがなんともいい味を出しています。
その彼が、マルコを前に、いきなり、”本選では、(『連隊の娘』の)メザミを歌いたい”と言い出すのです。
それも、今まで一度もオーディションやコンクールなどで歌ったことがなく、
ほとんどきちんとした練習もしてこなかったのに!たった一週間しか時間がないのに!
その場で固まるヴォイス・トレーナーとマルコ。
”なんでかな?このアリアを聴いたときから、絶対にこれをいつか歌ってみたい、と思った。”
そんな賭けは危険すぎる、、とトレーナーやマルコが匂わせても、
”絶対に歌いたい。”と異様な執念を見せる彼。
結局、”もちろん、君が歌いたいもの、何でも歌っていいんだけどね。”と折れるマルコたち、、。

後に挿入されるインタビューでは、
”9個のハイC全部がうまく決まるなんて思ってないよ。7~8個決まれば、やった!って感じかなあ。
特に最後のハイCさえ上手くいけば、最初の方にあったあまり上手く行かなかったハイCは
オーディエンスも忘れてくれるんじゃないかな。。。だといいな。”と、
普通なら、ふざけるな!!とオペラヘッドに袋叩きに合いそうなコメントなのですが、
彼の個性と、あまりに無邪気な語りぶりもあって、全く憎めなく、むしろ笑いを誘う始末。
ものすごくひどい歌が飛び出すのでは?と観ているこちらもどきどきなのですが、
マルコとピアノで音合わせをするシーンでは、
”公の場で歌ったことがない”と本人が宣言するだけに、
リズムはうやむやなところがあるし、ディクションもかなり悪い。
しかし、声そのものは決して悪くなく、伸びから言って、もしかしたらハイC,
きちんと出るかも、、、という予感が。
しかし、ここは編集の妙で、まだ彼のハイCは聞かせてくれないのです。

彼を魅力的に見せているのは、ファビアーノのように、野心的で、どうしたらファイナリストになれるか、
ということに固執しているタイプとは、全く違う次元でこのナショナル・カウンシルに
取り組んでいるところ。
自分の昔からの夢であるメザミを観客の前で歌う、という夢を、こんな大きな舞台で
歌うという賭けに出るなんて、クレージーだけど、すごい度胸じゃないですか!
そう、彼が嫌味に見えないのは、言っていることは滅茶苦茶だけれど、
実はその奥には、メザミのような高難度のアリアを、ほとんど準備期間なしに、
メトのオケをバックに、マルコの指揮で、メトで、メトの常連たちを前に歌う、という、
普通の歌手を目指す人間なら誰でも怖くなって尻込みしてしまうような果敢なチャレンジに、
何の恐れもなく飛び込んで行っている、という事実があるからなのです。

やがて、初めてのメト・オケとのリハーサル。場所はメトのリハーサル室。
オケを前にすると、みんな負けじ、と、大声を張り上げてしまいがちになる、ということで、
スタッフから、今日大事なのはマルコとの調整なので、
声は張り上げなくてもいいですよ、という注意が。

いよいよ、ネジの吹っ飛んだ美青年、アレックの番。
メザミのハイCを次々と決めて行く彼に、他の参加者は眉毛を吊り上げて驚く。
最後のハイCが少し潰れてますが、これだけ歌えたら、決しておかしな思い付きでは
済ませない位置に彼はつけてきました。
多分、他の参加者もそれは感じているはずです。
悔しそうに、しかし真剣にそれを見つめる、クセモノキャラの男、ファビアーノ。
リハーサルで、彼自身なかなかの歌を聴かせていたファビアーノですが、
リハーサル後のインタビューで、
”個人的にはハイCがそんなに特別なものとは思えない。
いいテノールにハイCが必要かといえば、そうとは限っていない。”
と、確かにそれはそうなのだが、負け惜しみとも、また、なんとかアレックの
評価を引き摺り下ろそうという姑息な手にも見えてしまう言葉を吐くという、
クセモノキャラとしての仕事をきっちりこなしてくれてます。
そういえば、”こういったオーディションでは、必ずポリティックスがつきもの”と、
これまた爆弾発言をかましてましたっけ。
常に一言多い、というクセモノキャラの典型パターンを行ってます。

とうとう本選当日。午前中に実際にオペラハウスで、オケとともにランスルーが行われます。
初めて、メトの舞台で歌う参加者たちは緊張の面持ち。
このような大きなオペラハウスで、オケと一緒に歌った経験がない参加者も少なくなく、
”オケの演奏が、マエストロの指揮棒のタイミングと合ってない”
(そんなわけない、、オケのメンバー全員がそのタイミングで演奏しているのだから!)、
”ピアノ伴奏と違って、自分の声が全く聴こえない。”とパニックする参加者も。
オペラハウス独特の音の反響の仕方に戸惑うばかり、なのでした。
”マエストロにあわせようとつとめた方がいいんでしょうか?”と泣きが入っている参加者に、
”マルコとオケがあなたに合わせる方が、あなたが彼らに合わせるよりずっと容易なのよ。
彼らはプロよ。信じなさい。”と、勇気付けるスタッフ。
彼らの最後のリハーサル後のパニックぶりに、実際にメトの舞台に立って歌う、
ということがどれほど大きなプレッシャーであるか、ということが伝わってきます。
組合の規定が厳しいオケは一時間半ごとに休憩をとらなければいけない、ということで、
クセモノ男ファビアーノがアリアを歌っている真っ最中であるにもかかわらず、
いきなりオケのマネージャーが飛び出して、顔色一つかえず、”はい、オケ、休憩です。”
の一言に、ファビアーノを舞台に放置して、わらわらと立ち上がり始めるオケのメンバー達。
”まじかよ?アリア途中だぞ!!”という表情で立ちすくむファビアーノがキュートです。
世の中には、一生懸命と野心だけでは動かないこともあるのです、ファビアーノ君!!

いよいよ本選。メトの常連たちの温かい拍手の中、スタート。
セミファイナルやレッスンではなかなかの歌を聞かせていたのに、
プレッシャーに潰れて実力が出せない参加者もいました。

その中で、黒人のテノール、ライアン・スミスは、まるで一世一代の歌、というような
気合の入ったドラマティックな歌唱を披露。
あまりの会心の出来に、舞台袖からじっと見守っていたボイス・トレーナーが、
感極まって舞台裏で彼に抱きつく場面も。
このたった一週間とはいえ、自分が育てた歌手なのだ、という自負と愛情が、
私達をもほろりとさせます。
それにしても、こんな才能が、少し前までは歌をやめようか、とすら思っていたとは、、。
(彼はその後、シカゴ・リリックなどで歌っているようです。)

”ここに至るまでの準備も大変だったけど、この舞台で、プレッシャーをハンドルし、
心理的なコントロールをきちんとする、ということはそれに負けず大変。
だって、一瞬でもフォーカスを失ったらそれでおしまいなんですもの。”
と語っていた、アンバー・L・ワグナーは、『タンホイザー』からの歌を。
ワーグナーものを歌えて、ボリュームと美しさを兼ね備えた声を持っているので、
将来が大いに楽しみです。

ミードの『ノルマ』は、本選でも素晴らしい出来。
こんなにすごい歌を聞かせているのに、審査員のディスカッションのシーンでは、
”あの見た目(もうちょっと言い方は婉曲でしたが)に、このレパートリーで、
歌う場があるかどうか、、”とのたまった男性審査員がいて、
まさに、彼女自身が悔しさを噴出させていたタイプの意見が出たのは、
いかにも皮肉です。
しかし、このような場で、そんな意見を吐く審査員がいること自体、私にはかなり驚きでした。
ナショナル・カウンシルこそは、見た目にだまされない、真に優れた歌手を発掘してほしいのに。
(たまたま両方が備わっている場合は問題ありませんが、まずは歌ありき、でしょう。)
しかし、22歳にも関わらず、頭髪が薄く、背も決して高くないファビアーノのような
タイプも、実はキャリア的には厳しいのかも知れず、
太目の女性だけではなく、同じ問題は男性にだって存在するのかもしれません。
(ちなみに、最近目にしたファビアーノの写真では、明らかに髪が増えていました。
野心的な彼はさすがに、きちんと打てる手は打っているようです。)
そして、これも参考までですが、ミードは2007年シーズン、
ソンドラ・ラドヴァノフスキーの代役として、
エルヴィーラ役で『エルナーニ』の舞台でメト・デビューを果たし、評判を博しました。

本選の審査員が意外と数が少ないのも驚きだったのですが、メトのスタッフ数名と、
サンフランシスコ・オペラやヒューストン・オペラからのスタッフも一名ずつ入っていました。
しかし、どの人も、オペラヘッドの常で、かなり頑固。
しかも、たいてい正反対の意見を言い出す人がいて、全然意見がまとまらない。
これで人数が多いと、しっちゃかめっちゃかになってしまうので、これで丁度いいのかもしれません。

一方、”今日は朝起きたときからすっごく気分がいいよ。”とまたしてもいい感じで
ネジのゆるみぶりを発揮しているシュレーダー。
本番前でかなりナーバスになっているみんなをよそに、むしゃむしゃりんごを
丸かじりしている姿もすごいです。
本番では、舞台上のぎこちない動きといい、相変わらずリズムが微妙な最初のフレーズといい、
ひやひやしますが、なんと9個全部ハイCを決めて本人も大興奮。
そして、なんだろう、これは?
歌の上手い参加者は他にもたくさんいますが、彼のどうしてもこの歌を歌いたい!
という熱狂がオーディエンスに伝染するのか、
彼の歌への大らかなスタンスにオーディエンスが反応するのか、、。
俗にイット・ファクターと呼ばれるものが彼にはあるのです。
観客を引き付ける歌以外の”何か(イット)”が。
そう、歌が上手ければいい、という簡単なものでも、オペラはない。
だからこそ、こういった場で勝者を選ぶということは大変な作業です。
興奮状態で控え室に戻ったシュレーダーに、”よかったよ”と声をかけるファビアーノ。
それはポリティックスでも社交辞令でもなく、心から出た言葉のように私には聴こえました。
何気に、ファビアーノも、いいところあるじゃない、、。
しかし、本当に心を掴む歌というのはそういうものかもしれません。
何もかも忘れて、つい”すごい”、”よかった”という言葉を人から引き出てしまうような歌。

この映画を観て、さらにメトを愛する理由が増えたと思いました。
愛情に溢れたスタッフに、歌手たちのいろいろな歌への思いが交錯するのを
ずっと見つめ続けてきた場としてのオペラハウス。

このすべてを巧みにとらえているのが、この映画の素晴らしさの一番の理由かもしれません。

(最初の写真は2007年ナショナル・カウンシル・グランド・ファイナルズの受賞者たち。
左からライアン・スミス、アレック・シュレーダー、アンバー・L・ワグナー、
アンジェラ・ミード、マイケル・ファビアーノ、ジェイミー・バートン。)


"The Audition"
Directed by Susan Froemke
Starring 2007 National Grand Council Finalists

Jamie Barton, mezzo-soprano
Michael Fabiano, tenor
Angela Meade, soprano
Alek Shrader, tenor
Ryan Smith, tenor
Amber L. Wagner
Kiera Duffy, soprano
Dísella Làrusdóttir, soprano
Ryan McKinny, baritone
Nicholas Pallesen, baritone
Matthew Plenk, tenor

Previewed at Kaufmann Theater, American Museum of Natural History

*** 映画 The Audition ~メトロポリタン歌劇場への扉 Movie The Audition ***