サン電子傘下のイスラエル社技術を活用か
FBI、iPhoneロック解除 アップルは対策強化
日本経済新聞 朝刊 2016/3/30 3:30
【シリコンバレー=兼松雄一郎】米政府は28日、米連邦捜査局(FBI)が米アップルに頼らずテロ事件容疑者のスマートフォン(スマホ)「iPhone」のロック解除に成功したと発表した。“鉄壁”のはずのセキュリティーを破ったのは機種変更の際、旧端末から新端末にデータを移す技術を応用したものだった可能性が浮上している。アップルは今秋に投入するiPhoneなどの新製品でセキュリティーをさらに強化する方針だ。
セキュリティーを破ったのは、日本の電子機器メーカー、サン電子のイスラエル子会社、セレブライトの技術と米メディアなどは報じている。携帯電話からのデータ抽出で高い技術力を持ち、米国では高いシェアがあるという。サン電子が2007年に買収した。
サン電子の広報担当者は「個別の案件についてはコメントを控える」としているが、ジャスダック市場に上場している同社株は29日、制限値幅の上限(ストップ高水準)となる前日比130円(14%)高の1038円まで上昇。この日のジャスダック市場の売買代金ランキングで首位だった。
セレブライトは、セキュリティーのかかったスマホからデータを抽出する機器を「UFED(ユーフェド)」の商品名で提供している。スマホとケーブルでつなぐことでセキュリティーを解除しデータを抽出する。
データ抽出の方法は「企業秘密だ」(サン電子)と話すが、情報セキュリティーを手がけるネットエージェントの杉浦隆幸会長は「旧機種データを抽出し、新機種に転送する技術を応用しているのだろう」と分析する。
iPhoneの旧型基本ソフト(OS)はセキュリティー解除が比較的容易だったという。最新OSでは解除が難しくなっているというが、なんらかの方法で突破した可能性がある。
イスラエルはシリコンバレーに次ぐ起業の聖地とされるが、徴兵制があるため、軍事技術に精通している起業家が多いのが特徴だ。兵役で軍とビジネス界を行き来することで、セキュリティー関連の技術が磨かれる。
UFEDは世界100カ国以上で販売されており、サン電子は「悪用されないよう、販売先は法執行機関や軍に限っている」と言う。
メンツをつぶされた格好のアップル。著名な暗号技術者を社外からスカウトし、28日には「製品のセキュリティーを強化し続ける」との声明を出した。新製品投入が予定される今秋にも、新技術が搭載される見通しだ。