The collection of MARIBAR 

マリバール 文集・ギャラリー

4 母

2005-06-15 02:15:44 | 小説 フィフティーン
 玲子は玄関のドアを開けた。家には誰もいない。玲子は靴を脱いで、キッチンに行った。冷蔵庫のフリーザーを開けると、アイスクリームが2つ入っていた。そのうちの1つを取り出してリビングルームのソファに、座った。アイスクリームの袋を破いてゴミ箱に袋を捨てた。テレビのスイッチをオンにした。ソファに横になってアイスクリームを食べた。

 そして駅前のデパートの袋を取って中身を出した。ちょっと変わったデザインのスーツ。襟ぐりが大きく開いていて、スカートは、横からと前からそれぞれ全く違うシルエットになる。黒だからゴールドのアクセサリーをすれば、今年流行の装いになる。玲子は全身が映る鏡の前であててみた。やはり着てみないと分からない。玲子その場で着替えた。
「うん。成功」
しかし修二はニュートラだからこの格好では合わない。
「やーだ!何考えてんだろ。考えらんないよ!」

 玄関の方で物音がした。パタパタパタ。スリッパの音。母親だ。玲子の母親は働いている。父親はいることはいるが、単身赴任で福岡の方にいるので、あまり会うことがない。母親はやはり寂しいらしいが、玲子の方は、父親が家にいた頃からうっとうしい存在だと思っていたので、寂しいとは思っていない。

「玲子、あんたの靴の脱ぎ方は汚いねえ。もっときれいに、そろえて脱ぎなさい。とても女だけの家には思えないわよ。」
玲子は黙っていた。この母親はいつも帰ってくれば「ただいま」より先に玲子に小言をいう。

「あら、あんたその服どうしたの?」
「買ったんだよ。セールやってて安かったから。69だよ 」
「へえー。69には見えないけどね」
当たり前だ。実際その服は10,000円以上する。
「あんた、昨日は幸っちゃんのところに泊まったんでしょう」
「そうだよ」

 母親は着替えて夕食の支度を始めた。2人でテレビを見ながら食事をした。
「勉強はちゃんとしてるの?」
「うん、してるよ。もう一生懸命になっちゃってる」
「高校はどこに行きたいの?お母さんとしては、なるべくなら公立に行ってほしいけど」
「うん。自分で決めるよ」
「先生の言うことも少しはきかなくちゃいけないけど、先生の言うとおりにする必要はないんだよ。先生っていうのはその人の実力より1段も2段も低い高校を受けさせるそうだから」
「知ってるよ。このところちょっぴり真剣になって考えているからさ」
「あとねぇ、私立で単願推薦とかいうのもあるらしいんだよ」
「あー、受かったら絶対その学校に入るってやつでしょう。よっぽどへましなかったら入れるってやつ」
「それもいいなぁって思うけど」
「うーんまぁ、いろいろ考えるから」
「あんたは将来何になりたいの?」
「芸能界にデビューしたい」
「真面目に考えなさい」
「でも本当に芸能関係の仕事がしたいんだよね」
「そうなの。だったらやっぱりちゃんと高校を出て、それからそれなりの専門学校に行く、とかするべきよね」
「そうだね」
最近は食事どきの話題はいつもこんなところだ。玲子は母親のことは嫌いでもない。玲子のことを信用しているし、玲子の触れないでほしいところに首を突っ込むことはしない人だからだ。

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